Episode19 - F2
「これが私の紫煙外装……御札型です」
「何ともまぁ……私が見た中じゃ3個目に攻撃性能があるのか不安になる見た目だねぇ」
「あら、他に2つもあるんですね……」
1つは言うまでもなく、メウラの操る人形型。
あれは初見でどう見たって攻撃用には見えないし、何なら自律行動するなんて分からない。
そして2つ目は、この間のPvPイベントで戦った時の黒外套だ。
アレ以外に紫煙外装らしきものが無かったし、何なら外套から攻撃のようなものが飛んできた記憶も無い為、まず間違いなく攻撃性能はないだろう。
「さて、私の紫煙外装には通常駆動状態で既に3つほど能力があります」
「……多くない?」
「その分STの消費も多いんですよ。……まず1つ」
音桜が上へと向けて黒い御札を構える。
幾ら周りが畑等であったとしても、流石に水平に何か撃つのは憚られたのだろう。
御札から紫煙が漏れ出ると共に、彼女がそれを空中へと投げると……そのまま御札は炎の球となって飛んでいく。
……思った以上にしっかり攻撃性のある能力が出てきたなぁ。
所謂、魔術がある世界ならばファイアーボールと言われる類の能力。
だが、それだけではない。
彼女は次々に、氷の塊や雷、水の渦など、攻撃に転用できるであろう様々な能力を見せてくれている。
「凄いな。これが1つ目?それとも全部?」
「1つ目です。ここまで見せたものが全て1つ目の能力の延長となりますね」
「……これだけでもPvP関係に出たら結構な不意打ちとか、情報になるわけだけど……大丈夫?」
「私、PvPは基本的には出ませんので。大型イベントで紅白戦のようになったら別ですが」
「成程ねぇ」
基本、対人をしないからこその情報の大盤振る舞い。
有難いが、何故彼女がここまでしてくれるのかは……分からない。
話の流れで見せてもらっているものの、何が彼女の琴線に触れたのか見定めなければならないだろう。
「さて、次……と言いたい所ですが」
「はいはい」
「何故、私が能力を見せているのか……と考えておいででしょう」
「……あー、うん。聞いて良いヤツ?話の流れで見せてもらってるけど、本当にコレ、見ても良いのかなぁとは思ってたよ」
まさかの本人からの言及だ。
有難く乗らせてもらう事にしよう。
「あんまり過程を話すのは得意ではないので、結論から言いますと……私、友達がいないんですよ」
「……は?」
何やら、予想していなかった答えが降ってきた為、頭の中が一瞬真っ白になってしまう。
友達がいない、という事はつまり……友達が居ないという事だろうか?
……待とう待とう。一旦彼女の話を聞くべきだ、これは。
「えぇーっと……うん、友達ね」
「はい、居ないんです。依頼してくれたのもレラさんが初めてで……談笑しながら喫茶店でお話して……これってもう、友達ですよね?」
彼女の目が見れない。
何故だろうか、これまでこのゲーム内では様々な敵と戦ってきた。
それこそ『切裂者』や『人斬者』なんかから感じた殺気や威圧感と言ったものにも、少しずつではあるが慣れてきたと思う。
しかしながら、それらよりも遥かに強い圧を目の前の音桜から感じていた。
安心すべきかどうかは分からないが、幸いながらこのゲームでは紫煙駆動都市内ではプレイヤーはプレイヤーを害する事は出来ない。
何処かの初期スポーン以外が全てPvPエリアとかいうゲームとは違うのだ。
……考えろ、私!ここで回答ミスったら多分、色んな意味で終わる……!
何故だろうか、別に危険はないはずだというのに『切裂者の指輪』の効果まで発動し始めている。
「……ぁは、うん。そうだね、友達ぃ……だねぇ……」
「そうですよねっ!」
両手を掴んで上下にぶんぶん振られてしまう。
彼女の表情は今日一日話した中で最も明るいと言っても過言ではないだろう。
「――だからこそ!友達の友達が攻略を手伝ってほしい、というのであれば私も同行しようかと思いまして!」
「……ん、待って。それは願ってもないな。凄く有難い」
話の流れが真面目な方向に戻ってきた為、思考力が一気に戻ってくる。
私とメウラに足りないものは、防衛能力だ。
私の場合、現在は紫煙外装の強化等も相まって、以前とは比べ物にならないくらいには火力は伸びているものの……それも、投擲という行動を挟んでいる為、普通の前衛等と比べるとワンテンポほど遅い。
メウラもメウラで、紫煙外装に素材を消費させ姿を変えるまで自衛手段が自分の身体1つのみと、中々に脆い後衛だ。
そこに、今見ただけでも攻撃のレパートリーが豊富な音桜が入ってくれるとなれば……合間合間のフォローが入るだけで、私達が好きなように動けるようになるだろう。
「ただ、一応私だけの意見じゃアレだから、本人にも聞いてみるよ」
「はい、友達の為なら……私幾らでも待てますので!」
「あは、期待しないで待っててねぇ」
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