Episode20 - D1
--【霧燃ゆる夜塔】1層
「じゃ、先頭は私。真ん中に音桜ちゃん、殿はメウラくんで良いね?」
「はい」
「了解、俺のは使わなくて良いんだな?」
「良いよ。使うのは2層入ってからで。基本的に音桜ちゃんも最低限で」
結論から言えば、メウラは快諾し私達は3人パーティでダンジョンへと挑む事になった。
無論、私は合流する前に音桜の紫煙外装の残る2つの能力を見せてもらっているし、何ならメウラにも口頭ではあるが共有させてもらっている。
最低限、パーティを組む上で必須となる情報は事前に知っておかねば、戦闘中の立ち位置などを決められないからだ。
「では、まず最初に――『凪』」
音桜が紫煙外装を取り出し、セーフティエリア内へと放り捨てるように手放した。
瞬間、黒い御札は独りでに私達3人の周囲を旋回するように飛び始め……緑色の光を放つ。
それと同時、私の視界の隅には足のアイコンが出現した。
「おー、聞いちゃいたがバフも掛けられるんだな」
「通常駆動なので、効果量も時間も短いですけどね。行きましょう」
これが音桜の紫煙外装の2つ目の能力である、バフの付与だ。
決められた文言と共に、一定範囲内に居る者に対して決められたバフを付与する……一見すればそれだけで十二分に強い能力。
しかしながら、そのバフの効果時間はおよそ3分と短く、効果量もそこまで多くはない。
歩きが早歩きになる程度であり、気にしなければそこまで気にするレベルではない……のだが。
ここに私の昇華煙が乗ると十二分に強さが発揮される。
相手に接近する速度も、離れる速度も速くなる。
それに加え、相手との接近戦での足運びなども速くなるのだから……その恩恵は計り知れないだろう。
私は2人に目配せした後、セーフティエリアの扉を開け放つ。
霧が内部へと流れ込んでくるものの、ここの問題点はそこではない。
既に私の視界には、セーフティエリアから出たばかりだと言うのに、そこが危険域であると示す赤い警告文が表示されているのだ。
コレが示すのはただ一つの事実。
「うん、もうミストサシェがこっちを知覚してるみたいだ。手早くいくよ」
周囲の紫煙を操り、セーフティエリアから薄らと見えている塔へと向けて空中に道を作り出す。
ミストサシェと交戦しても良いが、出来るのであればこっちの方が速いし確実なのだから。
「……改めて見ると中々ファンタジーしてるよな、お前も」
「あは、ゲームなんだからファンタジーしないとね」
メウラの言葉に笑って答えつつ、私は出来た道を先導していく。
2人も私に続く様に着いてきている為、はぐれてしまう事はないだろう。
……1層の1番辛い所は、襲ってくるミストサシェじゃなくて、この濃い霧だしね。
こういうダンジョンでのパーティプレイで重要となるのは、戦闘中の連携でも、コミュニケーション能力でもない。
如何に
複数であるという利点が活きなくなるのを防ぐ事自体が1番重要で、敵からすればそれを如何に崩すかが重要となる。
「大体これくらい上がれば十分かな」
高さにして、凡そ標準な建物の2階程度。
紫煙の道については、メウラが進むにつれて霧散させていっている為、ミストサシェが上がってくる事はないから一種の安全地帯だ。
問題はこの道を維持する為の紫煙が足りるか、という所ではあるが……それについても問題はない。
なんせ、此処にはプレイヤーが3人もいるのだ。
煙草を使う頻度も、量も現実とは桁違いなのだから無くなる事はないだろう。
「凄いですね……こういうのを雲海とか言うんでしょうか」
「霧だし、霧海とか言うんじゃないか?いやまぁ、俺もここまで雲海みたいになってる霧は見た事ねぇから詳しい事は知らねぇけどよ」
駆け足で進みつつ、たまに下の濃霧を見てみると。
何やら私達に似た姿をした何者かが彷徨い歩いているのを見つける事が出来た。
間違いなくミストサシェの能力によって実体化したモノらであり、濃霧の中を進んでいたらアレらと戦っていたのだろう。
……あっぶねぇー、上進んで良かった。
私にとっては問題ない相手。しかしながら、私の後ろに居る2人にとっては違うだろう。
「ほら、見てみ。下の奴ら」
「……うげ、前みたいに進んでたらアレと戦ってたのかよ。同士討ちとか怖いな」
「それだけじゃありませんよ、メウラさん」
音桜がバフを掛け直しながらも、下のミストサシェの危険性に対して言及する。
それは、
「アレ、多分襲い掛かってくる個体とそうじゃない個体が居ます。あんな濃霧の中でそんな事されてみてくださいよ」
「終わりだな。パーティメンバーかどうか確認する術がないとその時点で詰み、もしくは個人行動開始ってわけだ」
「そうだねぇ。私達がそうなったらあの塔に向かって、戦闘はしないで走るとかくらいしか対策がないかな?私は1人でこうやって上に昇るから、私が下に居たら確定で偽物って分かるしね」
紛れ込み。
ミストサシェの実体生成能力が優秀であるが故に出来る、攻撃せずにこちらを崩しかねない攻性手段。
1層に居るとは言え弱いわけではない。
というか、私的にはこのダンジョンの道中で一番警戒すべきものだと思っている程度には面倒臭い相手だろう。
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