Episode18 - F1
「じゃあとりあえず、このまま狼モチーフで考えますね」
「うん。よろしく」
細かい修正点等を話し合った後、私のガスマスクのデザインはある程度完成した。
元のイヌ科のマズルのようなデザインは変えず、それを機械的に、生物感を無くした物へと変えたのだ。
後は、これをどう適用するのか、という所なのだが。
「それなら、組み立てを行う方に渡せばやってくれると思いますよ」
「成程?じゃあ組み立てもデザインデータ受け取ってからの方が良いか」
「そうなります。……組み立て担当の方は、今?」
「うん、ダンジョン攻略中。ソロで攻略できそうになかったら私に連絡を……ってジャストタイミング」
そう話していると、丁度話題に出たメウラからフレンド間での通話が掛かってきた。
攻略完了か、それとも手伝いに駆り出されるか……恐らくは後者だろう。
「少し失礼」
私は席を立ち、店の外へと出てその通話に出る。
すると、向こうからは疲れ切った男の声が聞こえてきた。
『ぁー……うん。お前がトラウマになるのも分かるわアレ』
「あは、どうだったの?その様子だと……」
『まぁ負けたな。紫煙外装ごとザックリいかれて終わりだ終わり。お前アレによく勝ったな』
「色々と増えた札もあるからね。オーケィ、じゃあ当初の予定通りに合流するよ。中央区で待ってればいいよね?」
『よろしく頼む』
やはりというか、何と言うか。
私のように
あの話し方的に、ほぼ一方的に斬り刻まれて終わったのだろう。
……『切裂者』かぁ。今だと……【狼煙】とか、そこら辺を使えば何とか対処、出来るのかなぁ……?
増えた札、変わった札、消えた札。
私の使える手札にも、あの時から変わったモノが幾つかある。
「んー……まぁ戻るか」
店の中へと戻ると、心配そうにこちらを見つめている音桜の姿があり。
私は彼女に対して、気にしないで良いと声を掛けながら再び席へと座った。
「大丈夫なのですか?」
「うん。どうしようもないっていうか、まぁ基本的に皆が通る道だから」
『切裂者』に関しては、やはり皆が皆通る道だったようで。
攻略後に開放された、今まで見えていなかったボス攻略後雑談という掲示板を見てみると、ヘイトの向き様が尋常ではなかったのを覚えている。
一度クリアしていてもその怨嗟は変わらないようで……何度も攻略手伝いと称して狩りに行っているプレイヤーも居るらしい。
……一方的に斬り刻まれて、はい終了じゃあねぇ……。
あのボスだけは、一段階ほど上のボスのデータをそのまま持ってきたんじゃないか?とも言われているほどだ。
「成程……ちなみにどこのダンジョンかっていうのは……」
「あー……んー、言って良いのかな。まぁダメだったら弾かれるか。【霧燃ゆる夜塔】だよ」
「えっ」
ダンジョン名を告げた瞬間、彼女の表情が変わる。
不安そうだったそれから、何か驚いたような、拍子抜けしたような表情へと。
「どうしたの?」
「えぇっと、その。……私、そこをもうクリアしてまして」
「おぉ、凄い。あそこ結構大変だったでしょうに」
「いえ、それがその……」
視線を様々な方向へと巡らせた後、決心したかのように息を呑んでから彼女は言った。
「私、無傷で勝ってしまったんですよね……その、ボスに」
「……はい?」
聞き間違いだろうか。
今、彼女はあの『切裂者』に対して無傷で勝った、とそう言ったのだろうか。
プレイヤーは見かけに因らない実力を持っている事は分かっていた。
それこそ、私なんかがその手の油断を誘う意味でも赤ずきんのような姿をしているのもあるからだ。単純に趣味もあるが。
だからこそ、目の前にいる巫女服の彼女が前回のPvPイベントで日の目を浴びていない強者だったとしても、驚かないし別にそれは良い。
だが、無傷というのは……中々に信じがたい話だった。
「……マジ?」
「マジです。……店の中じゃ使えないので、アレだったらお見せしましょうか。私の紫煙外装」
「あー……うん、お願いして良い?依頼分にその分上乗せしておくから」
音桜と共に外へと出て。
私達はそのまま生産区の外周部……人が少なく、それでいて周りには畑程度しかない場所へと移動した。
ここならば、何が起きても大丈夫ではあるだろうし、居るのも農業ガチ勢のプレイヤー、もしくはNPCのみ。
メウラには一応、少し遅れそうだとメッセージは送っておくものの……そもそも彼はデスペナルティ中だろうし、問題はないだろう。
「では、お見せしますね」
音桜は、虚空から1枚の黒い札のようなものを出現させた。
どう見ても武器には見えないそれは、黒という点を除けば今の彼女の恰好に合っているものだ。
……アレが紫煙外装?攻撃向けには見えないけど……。
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