Episode6 - C1


「んー……ここらで一旦帰ろう」


結論から言えば、私はダンジョンから帰還する事にした。

テーブルと正面から戦闘を行ってはいないが、あの様子ならば紫煙駆動を上手く扱える環境ならば負けはしないだろう。

それに新しくラーニングしたスキルの存在もある。

色々な要素を確かめるのにダンジョン内という場所は少しばかり不向きだ。


ダンジョン内から外へと戻る方法は大きく分けて2つだ。

死ぬか、生きて突破するか。

と言っても、階層ごとにセーフティエリアから帰還する事も可能なようで。

私はそちらの方法を使い、エデンへと帰還した。


「まずはマイスペースかな」


私の持っているスキルは現状2つ。

【煙草製作】と、先程の戦闘で生えた【投擲】だ。

後者はあからさまに戦闘用スキルであり、基本的に使うのはダンジョン内となるだろう。

しかしながら前者は今のところ手掛かりというか……製法自体も分からない。

そもそもエデンの生産区ですら煙草屋はあっても、生産している風な店はパッと見発見する事が出来なかったのだ。それを考えると、少しばかり特殊な方法が必要なのでは?と考えてしまうのも仕方がないだろう。


とりあえずマイスペースへと移動する為に、近くに設置されていた周囲と明らかに合っていない近未来的な風貌のコンソールにアクセスする。

このコンソールからマイスペースに移動したり、他にもプレイヤー用のサービス……課金などを行える。

まぁ使う事は稀だろうが。



--マイスペース


「わぁ何もない。白い正方形の部屋だ」


転送された先は、本当に何もない白い部屋だった。

床も、壁紙も白く、凡そ3畳程度の広さだろうか。

別にここで暮らすわけではないからこれくらいの大きさで十分だ。


「ふぅん、色々カスタマイズも出来るわけね。……うわ、部屋の大きさ変えるのに滅茶苦茶お金要るじゃん」


所謂ハウジング要素なのだろう。申し訳ない事に、私は別段そういった事に興味がない。

壁紙変更や必要な物を設置程度は行うだろうが……それでも基本的にはノータッチにはなるだろう。

……あ、生産用の設備もハウジングメニューから買える。煙草用は……?


「あ、あったあった。……でもコレ本当に生産設備か?」


発見したのは、『煙草用クラフト設備(初級)』というもの。

名前だけ見れば他の生産系コンテンツの設備と遜色はない。

しかしながら、プレビュー画面で表示された設備は、


「どう見てもすり鉢と棒。あとは紙巻くようのローラー……どういう事だろう」


煙草と言えば、凄く簡単に言えばタバコの葉を刻んだり巻いたりして作る物だ。

他にも水たばこなど色々な種類が存在するが……今はとりあえず良いだろう。


「一旦買って試してみるかな、スキル自体は持ってるし。お金は……少し足りないか。ランタンのドロップ売ってこよう」


疑問はそのままに、私は一旦お金を作る為に生産区へと向かった。

その道中、数枚の煙草用の紙と薬草が売っていたので買っておく。

実際現実で手巻き煙草を作るのであれば、フィルターなんかも買わないといけないのだろうが……まぁ、足りなかったらそれらしいものをまた買いにくればいい。


再度マイスペースへと戻り、『煙草用クラフト設備(初級)』を購入してから部屋のど真ん中に設置してみる。

すると、プレビュー画面で見た通りのものが私の目の前へと出現した。


……これで本当に出来るのか……?

不安になりつつ、すりこぎ棒へと手を伸ばす。すると、だ。


【煙草製作を開始します】

【加工するアイテムを選択してください】


「おっと。始まった感じかな……ていうか本当にコレで作るんだ」


目の前に出現した半透明のウィンドウを見て、少しだけ頬が緩む。

すり鉢、そしてすりこぎ棒を手に持ち、アイテムを選択しようとして手を止める。

何やら予想していなかった物が選択できるようなのだ。


「……え、ガラスでも作れるのコレ」


あまり煙草を嗜まない私でも分かる。

ガラスを熱して吸う煙草は現実には存在しない……はずだ。

というか人体に影響があるというレベルを遥かに超えているだろう。


……いや、でもゲームだから?ゲームだから作れるとかいうそんな理由?

色々な作品でたまに存在する『ゲームだから許されるだろ』的な要素なのだろうか。

私の目がおかしくないのであれば、他にも骨の破片や本までもが素材として指定出来るようだが。


「ええいままよ!見つけてしまったものは仕方ない!ガラスで行こうガラスで!」


【割れたガラスが選択されました】

【煙草製作チュートリアルを開始します】


すり鉢の中に割れているガラスが投入され、何やらゲーム的なチュートリアルが開始された。

まずはしっかりと粉状になるまですりこぎ棒を使って砕くらしい。


「中々ッ!力が、必要だねぇ!」


普段ガラスを粉状にするようなアグレッシブな事をしていない為、力の掛け方が全く分からないものの。

そこはゲームなのだろう。数十回ほどゴリゴリと擦っていると、見た目は粉のようになっていってくれた。


「次は……ローラーに粉になった素材を流し込む、と」


続いて、指示通りにすり鉢内のガラスの粉末を、ローラーの溝部分へと流し込む。

その瞬間、


「わ、フィルターが出てきた」


何もない空間から出現したフィルターに少し驚きながらも、粉と同じように溝部分へとセットして、ローラーを閉じる。

そのまま何回か回した後に、再度開く。

……コレ、チュートリアルがあるから出来てるけど、リアルで出来る人凄いな。

そんな事を考えつつ、私は次の指示を確認する。


「えぇっと、紙を入れて巻く……これで良いのかな」


買っておいた紙を1枚取り出し、ローラーへと差し込んでから再度巻いていく。

するすると巻き込んでいかれる紙をみつつ、最後に少しだけ紙の端を残して止めた。

最後に、紙の端に水分を……今回は特に用意していなかったため唾液で濡らしてから一気に巻き込んで、


「おっし、完成!」

【煙草を製作しました:『硝子の煙草』×1】


早速インベントリに追加された煙草の詳細を開いてみる。すると、だ。


――――――――――

『硝子の煙草』

品質:D

効果:防御力上昇効果(10s)

   ST回復(小)

説明:硝子を使った手巻き煙草

   紫煙技術による特殊な加工がされており、人体への影響は喫煙以外のものが生じる事はない

――――――――――


「紫煙技術……?」


何やら知らない単語だ。そんな物を使った覚えも、工程もなかったように思えるが……とここまで考え、私の視界の隅に存在しているSTゲージが少しだけ消費されているのに気が付いた。

基本的には使われないゲージ。それが消費されているとしたら、


「成程、STゲージを消費して作るのね。煙草を作るのに煙草の煙が必要って中々凄いけど」


普通のゲームならばMPなどを使う場面で、基本的にはSTを消費される。

煙草製作にもそれが必要だった、という事だろう。


「でも1本しか出来ないのは……まぁ手巻きだし仕方ないか。素材はあるし20本くらいは作っておこうかな」


幸いにしてランタンの素材は多い。足りなくなるとしたら紙の方だろうが……それも少し素材を売れば買い足すくらいのお金は作れるはずだ。

そうして私は、少しばかりの時間を掛けて『硝子の煙草』を量産していった。

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