Episode5 - D3
ガシャンガシャンと、ガラスを砕く音が街に響く。
それと共に灯りが消え、街には冷たい闇が広がっていく。
「暗い……けどまぁ、コレが安全策だからね。仕方ない」
割れたガラスを踏み砕きながら、私は手元に紫煙外装を呼び寄せた。
至る所に存在していたランタンは、今やこの街の限られた部分しか照らす事が出来ていない。
当然、私の所為だ。
手斧を投げ、時には敵性モブから逃げ回るついでに割り砕き。
この街で私が安全に行動できる範囲を広げていって、早1時間。
小手調べのはずが、少しばかり本気で攻略を始めてしまっていた。
「ま、素材は結構手に入ってるから良いけどね。レベルも上がってるし」
火の点いた煙草を咥えつつ、近くにあったベンチへと腰掛ける。
暗闇の中に白い煙が昇っていくのを目で追いながら、これからどうするべきかを考えていた。
というのも、だ。
結局の所、今の所私がこのダンジョンで倒せているのはランタンのみなのだ。
テーブル、そして本棚と戦おうと思っても、基本的に近くに居るランタンによって影を生み出され邪魔される。
多勢に無勢、例え私がどんなに多対個に慣れていようが延々援軍が追加されるような環境で戦いたくはない。
「探すか、暗闇の中で」
結論、そうなるだろう。
結局私が自由に動けるのは現状暗闇の中のみ。ならばその空間で戦うしかない。
……先に出会った方と戦って、その後一旦帰ろう。
願わくば、テーブルも本棚も、ランタンのように御しやすければ良いと。
そんな事を考えながら、私は立ち上がり歩き出した。
勿論、口には煙草を咥えたままで。
……見つけた……けど。アレ本当にモブか?
暗闇の中探す事数分。私は煉瓦造りの住宅の中に本棚を発見した。
発見した……のだが。
「……リビングのど真ん中に立ってる本棚って、かなりシュールだねぇ……」
まるで自分が主役かのように、リビングのど真ん中、絨毯の中央に鎮座する本棚を玄関側から視界に捉えつつ手斧を呼び出した。
相手との力量差は分からない。だがそれを確かめるのも小手調べの範疇だろう。
極端に相性が悪いというのならば、次回以降の探索では手を出さなければいいのだから。
……確か、少し前に襲ってきた時は本を飛ばしてきたんだっけ。
まだランタンが影を生み出していると知らなかった頃、室内に居た本棚から大量の本が飛んできた事があった。
だが、それだけだ。
それ以外の情報は何もなく、ただ所々に人骨らしき物が装飾として使われているくらいしか分からない。
「……仕掛けるか」
右手に手斧を、そして左手に1本の煙草を持ちながら私は本棚へ構える。
ならば。
ならば、使うべきだろう、使ってみるべきだろう。私だけの
「紫煙外装、
私の声に呼応するかのように、手の中の手斧が蒸気を……否。紫煙を周囲へと吐き出し始める。
柄から、刃の隙間から、あらゆる隙間から紫煙を吐き出しつつ。
その紫煙は霧散する事なく、徐々にある形を象っていく。
人の腕程の長さの柄、巨大な片刃。
煙で出来たソレは、私の左脇に1本出現した。
紫煙外装、その本領を発揮する紫煙駆動。
「『等級分、手斧を複製』……手斧って大きさじゃないなぁこれ」
少しだけ笑ってしまうくらいには巨大なソレは、私の手の中の手斧と動きがある程度リンクしているらしく。
少し手斧を動かすと、それに追従するように動くのが確認できた。
自分で考えて動かさなくて良いというのは便利だ。
「さ、やろう。STも勿体無いし」
視界の隅の白いゲージは、今も徐々に減っていっているのが目に見えている。
消費量が多かった場合に備えて煙草を用意していたが……これならば吸いながら攻撃しなくとも済みそうだ。
「せぇーっの!」
投げる。
全身をバネのように使い、しっかりと力が手斧に伝わるようにして放つ。
それと共に、紫煙の斧達が手斧に続くように本棚へと向かって勢い良く飛んでいく。
瞬間、住居の中に強烈な衝撃が走った。
当然だろう。
普通の手斧1つを投げただけならばまだ良い。しかしながら、その後に巨大な斧を投げたのだ。
それもしっかりと身体全身を使った全力で。
結果として、私の身体は住居内の壁へと打ち付けられ少なくないダメージを喰らい。
リビングの方はと言えば……元々あった家具がどれかも分からない程度にはぐちゃぐちゃになってしまっているのが目に取れた。
そんな破壊の中心地に居た本棚はと言えば……うっすらと光の粒子が立ち昇っているのが見える事から、倒せたのだろう。
【ブックルを討伐しました】
【ドロップ:骨の破片×1、本×1】
【スキルを発現しました:【投擲】】
「……室内じゃ使えないな、コレ」
手斧を呼び戻すと、それと共に私の脇には紫煙の斧が再構成されていく。
1回で終わる類のモノではなく、STを消費し続けられるだけ続く紫煙駆動。
紫煙外装の等級が火力に直結するのであろうこれは、下手に狭い室内で使えば自爆する可能性も高い。
使い処には気を付けねばならないだろう。
気になるログも流れた所だ。
ゆっくりと確認できる場所に身を移した方がいい。
そう考え、私はこのダンジョンで最初に降り立った木造の部屋……セーフティエリアを目指し始めた。
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