第27話 人生は不平等、でも悔いは残さずに
うーん、ざる蕎麦が旨い。荒れた胸の中をスルンと抜けていって気持ちぃですなぁ~。意外と日本食もあるんだよ、ここ。厳密には日本っぽいだけで違う世界の国の食べ物で、作ってるのも八本脚の赤蛸だったけど。人型じゃないよ、人間サイズのタコさ。一応あのヒト?も人間換算らしい、基準はどうなってるんだ……?
お昼休みは癒しの時間、誰かの人生の毒に
「うぐぅ……」
「どーしたんですか、エンティ先輩」
今は私よりも先輩の方が重傷だがなっ。
「クッソ重たい人生纏めたからキッツいのよ……うはぁ」
「ちなみにどんな?」
「生まれた時から奴隷の犬獣人の女性。何とは言わないけど、一桁からポンポン産まされて二十過ぎで捨てられた。その後に山賊に捕まってグッチャグチャにされた上で二十五でまたポイ。ズタボロ状態で歩いてたら魔物に目を付けられて攫われて、今度は別のモノをポコポコ産まされて最期はパクリ」
「うへぇ。ご飯がマズくなるじゃないですか、どうしてくれるんですか先輩」
「アンタが聞いてきたんでしょうが」
単に凄惨な人生と言うだけなら、多次元宇宙の中では『よくある事』である。精神的にクルのはこの場合、ほぼ間違いなく正の転生にはならない、という点だ。
自分の意思で誰かに善い行いを一切していないので善行にポイントが入らない。悪行ポイントも無いのでプラスマイナスゼロ、その場合はディケの判断による所となるのだが……。よくある事に裁判長はいちいち温情を与えない。能動的な善行をしていない、という一点を見て悪行に一ポイントを加算するだろう。
「「はぁ」」
辟易した顔となった私達はため息を吐く。
あの世の裁判とは無情なものなのだ、一人一人に温情を掛けていてはキリがない。裁判である以上は一定の基準があって、それを動かしてしまっては平等も何も無くなってしまうので仕方がないのである。この辺りは生前の裁判所と同じ感覚だ。
まあ全く同じ人生があっても、ディケの胸三寸で結果は変わっちゃうんだけどね~。立法権と司法権が合一している上に
裁判所とは名ばかりの独裁主義、あの世には正義なんて存在しないのだ。
なんて事を面と向かって言ったりしたら、ディケにぶん殴られそうなのでやめておく。神様が独善的なのは世の常、
生前の私は比較的現実主義というか冷めてる部分があったので、神様の懐に無限の容量があるなんて思って無かった。地球八十億の人間と無限に近い生物の全てを救える力があったら、私なら好き勝手に生活する事を選択するよ。
だからディケの立ち居振る舞いには、ある程度納得している面があったり。
でも私をボコボコにするのには納得なんてしないがなッ!
そしてこれからも態度は変えんぞ!
我が意思は不動であり、不屈なのだーーーーっ!
あ、なんか誰かに溜め息吐かれた気がする。
ふっ、私の強固なる意思に恐れをなしたか……勝利!
「溜め息吐いてると、ご飯がマズイですねぇ」
「ホント、同意するわ」
私の言葉にエンティ先輩は素直に同意する、素直に。
素直に!
天変地異が起きるぞー!
「先輩、ここって雨とか雪とか降ります?」
「なによ、突然。降るわけ無いでしょ、一応は建物の中よ、ココ」
「ふーむ、となると先輩のせいで何が降って来るのか気になりますね~」
「は?私のせいって何?」
「意地っ張りで無駄に反発する先輩が、素直に私に同意するから……。ああ塔内の皆様、どうかご無事でありますように」
「ぶっ飛ばすわよ、アンタ」
眉間に皺を寄せて、エンティ先輩は私を睨む。
へへーん、怖くなんかないもんね~。ツンデレ悪魔っ子、少なくとも外見は私より年下だ。そんなのに鋭い目つきで見られたとしても、ニマニマするだけにしかならないのである!
あ、魔法で攻撃されたら危険か、防御する術がないっ。
対策のために一応確認しなければ。
「先輩、魔法って使えます?」
「話がコロッコロ変わるわねぇ」
「滑らかに回る車輪の如き会話スキルが私の持ち味の一つなので!」
「強引過ぎて
むむむっ、中々の返しっ。まさか先輩は私に匹敵する話術の使い手か……!?
「で、どうなんです?」
「使えるわよ、当たり前でしょ」
「おお、どんな魔法ですかっ」
「そっ、それはその、まあ色々よ、色々」
小声で先輩は何かを喋った。顔を背けて口ごもったせいで、よく聞こえない。
「ん?なんて言いました?」
「てっ、敵を纏めて吹き飛ばす超魔法を使えるわっ」
「おお、凄い!さすが大悪魔!口だけじゃ無かったんですね~、意外~」
「ちょ、どういう意味よ!」
「言葉通りの意味です!」
「自信満々に失礼な事を言うなッ!」
顔を真っ赤にして憤慨するエンティ先輩。
あれー?ホメてるのに何でわたし怒られてるんだ~?
あ、分かった、照れ隠しだ!ツンデレのツン七割&デレ三割の黄金比!これまた流石の大悪魔、くぅッ強い。
「申し訳ございません……」
「ちょ、いきなり殊勝な態度になるな、気持ち悪い」
「酷いっ、敗北を認めて謝罪してるのにっ」
「何に対する負け!?」
心底嫌そうな顔をして先輩は私を見た。その表情には『コイツが何言ってるのか理解できない』という恐怖がちょっぴり入ってる感じがする。心外だ、私は誰に対しても分かりやすく伝える事を信条としているというのに。
「まあ良いわ、午後はちゃんと仕事しないさいよ?」
「午前中、ちゃんと仕事してましたって」
「昼ご飯の事を腕組んで考えてた奴が何を言うか……」
「仕事とは、人生の余暇を得るために行うモノなのです。なので仕事中に将来の癒しを考える事に何の問題も無いのです。分かりますか?理解できますか?そうでしょう?そうですよね?」
「ちょ、近い近い。近寄って来るな、顔を近付けるなっ」
「ご理解頂けましたでしょうか、エンティ先輩?」
「分かった、分かったから。離れなさい、鬱陶しい」
先輩は私の方に両手を置き、グッと押し返す。
仕事のために仕事をするなど冗談では無い。職務に従事する以上は誰しもがプロ、その精神で動く私はお仕事に手は抜かないけど、それはそれとして人生は楽しまなければ損である。
死した今だからこそ言える、自分が自分として
故に
死ぬ寸前で後悔するような生き方をするな。
私の様になるんだぞ、私は悔いなく生きたからなッ!
忍者のタマゴたちも言ってたじゃないか『やりたいこと やったもん勝ち』と。
……え?言っていたのは別の人?光るゲンジボタルだって?
細かい事はどうでもいいのさ!
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