第24話 よく来たね、もてなしてやるっ

 というわけで三人揃って私の家へ。

 いやー、今日は大冒険だったなぁ、楽しかったぜっ。


「おじゃましまーす」

「お邪魔致します」

「ウェルカムようこそ~」


 玄関を潜った二人を歓迎する私。すかさずスリッパを二セット取り出して、二人の足元へスッと差し出した。ピエリス支局長には白いもこもこスリッパ、ディアードさんにはシックな色味の奴だ。


「……?」


 ピエリス支局長は首を傾げる。


「……?」


 私も首を傾げる。


「ピエリスさん、履物を変えるのだと思いますよ」

「あ、そういう事か!」


 言われて支局長は編み上げサンダルを脱ぎ始めた。


「ピエリス支局長の世界、というか家に上がる時に履物脱ぐ文化の世界出身者はいないんですか?」

「わたしは知らない文化だったよ~」

「かなり少数派ですね。私の世界でも家に入る際に靴を脱ぐ事はしていませんでした」

「我が国の文化は異世界的に見ても少数派だったのか……」


 何度目かのカルチャーギャップ&ワールドギャップ発見。

 でもよくよく考えてみれば当然と言えば当然か。魔物にぶっ壊される可能性があるなら建築物は簡易になるだろうから汚れはあんまり気にしない可能性があるし、生活に便利な魔法があるならそれも排除できるかもしれないしね。


「ま、そんな事はおいておいて、どうぞどうぞリビングへ~」


 二人を案内するは独り身には随分と広い十五畳のリビング。入って左半分にはシステムキッチンと食卓が、右には一人掛けソファーが二脚と大きめソファーが一脚、そしてガラステーブルと大型テレビが設置されてる。客人を座らせるのは勿論ソファである。


 テレビと向き合うデカソファーにピエリス支局長を座らせた。ちょこんと掛ける彼女の姿は、まるで人形さんである。そうなるのを意図して座らせたのだ、そうじゃ無きゃ困るってもんさ!


「じゃ、お茶淹れてきますね~」


 二人をその場に残して、私はキッチンへ。

 大型のドリップポットに水を入れ、最新式IHクッキングヒーターの上へ。ペポペポと火力を設定して過熱を開始する。湯が沸くまでの時間で茶葉を用意し、あと自分用に珈琲豆を挽く。


 パパパッと湯を注いで、抽出した液体をカップへ……こう言うと科学実験みたいだな。ま、そんな感じで三人分の飲み物が完成した。


 お茶請けも必要だなー。よし、美味しかった記憶のあるお高いクッキーが良いだろう。長方形の缶に詰められてる、ちょっと上品っぽい奴だぞ。何模様と言えばいいか分からないけど金色基調にもやもや模様の缶だ、モ○ゾフの。


 三枚の小皿に平等にクッキーを載せて、飲み物と共に支局長とディアードさんの下へと舞い戻った。


「はい、どうぞ~」


 オフィス勤め時代の必殺技、流れるようなお茶出しを見るがいいッ!

 生前はこういうの色々言われてたけど、どんな事でも習熟すれば立派な技能スキル。誰でも出来る、の前には『技能を持った者ならば』が付いているのだ!


 というわけで私はお茶出しスキルLVが高いのじゃ。飲食店のお仕事でも使えるよ、この技。職務に従事する全ての人よ、胸を張れ~。


「ありがとー」

「ありがとうございます」


 ふっ、我が技が完璧に決まったな……!

 まー、ただ普通にお茶出しただけなんですけどね~。だって自宅で顔見知りの来客に全力全開フルパワーお茶出しをする必要なんて無いから。さっき言ってた技能はどうしたって?時と場合によって使い分けるのが正しい運用方法なのだよ、諸君。


「わっ、高そうなカップにクッキー……。お家もとっても綺麗だし、もしかしてチホさん、生前は貴族様だったり?」

「いやいやいや、単なる小市民ですって。確かにティーセットとかは高そうなものですし、この部屋は生きてる頃には住めなかったような場所ですけど。一応は誰でも手に入る範囲の物ですよ、買った後に破産する可能性は知らんですが」

「ほへー、世界の違いってやっぱり面白いねぇ」


 感心しつつピエリス支局長はクッキーを齧って、カップに注がれた紅茶を啜る。わっ、美味しい、と小さく声を上げてくれた。やったぜ、イエイ。


「ふむ。チホさん、お茶の淹れ方が素晴らしいですね」

「そうでしょうそうでしょう。生前に結構凝ってたんですよね~、お茶と珈琲」


 専門店に買いに行く位にはハマってたよ、こういうの。最高級な物ばかりで揃えたなら目ン玉飛び出る金額になるけど、程々のものでも十分楽しめる。そして『何か特殊な事してるみたいでカッコいい』という、自己満足的優越感が味わえるのだ!


 あい、私は貧乏舌なので繊細な味の違いなんぞ分からんぴょいです。ごめん。


「ん?チホさんが飲んでるの、お茶じゃない?なにそれ?」

「あ、珈琲って飲み物で……知りませんか?」

「私も知りませんね、どういったものなのでしょうか」


 おっと意外、ディアードさんも知らなかったか。よくよく考えてみれば地球でも赤道周辺の一部でしか栽培出来ない植物だし、別の世界に存在しないとか発見されてないとかもあり得る話かもね。


「支局長、ちょっと飲んでみます?」

「じゃ、お言葉に甘えます」


 私からカップを受け取り、彼女は黒い液体をほんの少し口に含んだ。


「にぎゃっ」


 そして当然の反応が返ってきた。

 まぁ、そりゃそうですわな。


「ナニコレ!?炭を煮出した汁!?」


 素早く机にカップを置いた支局長は、とんでもない事を口走る。


「珈琲愛好家と珈琲農家に謝って下さい、しきょくちょー」


 私含め、珈琲が無いと生きられない人間は沢山いる。日本人の場合、味を楽しむよりも眠気覚ましにがぶ飲みしてる人も多そうだけど。利尿作用あるぞ、水分補給には向かないから、ちゃんと別で水飲めよ。こら、エナジードリンクとかで代用するんじゃない、死ぬぞ。いや冗談じゃなくマジで。


「これは中々に苦みが強い、ですが良い風味と香ばしさがあります。好む方がいらっしゃるのも納得出来ますね」


 スプーンで掬ったひと口分の珈琲をテイスティングしたディアードさんは、少しだけ顔を顰めながらも公平な評価を出す。好みじゃないのは明らかだけど、それでも誠実に良い所を見つけ出す姿勢、まさに紳士ですなぁ。


 こっちには珈琲を好んでくれる人はいるのかな?エンティ先輩は間違いなく支局長と同じ反応をするから試す必要は無いとして、フィオーレさんは飲み慣れてそうな気がする。産業革命後の世界なら、もしかしたらコーヒーノキが発見されてるかもしれないしね。


 あ、雑学を一つ教えて進ぜよう。

 コーヒーはコーヒーノキから採れる。いや冗談とかじゃないって、調べてみろって。疑ったそこの人、私が正しかったら謝罪してね。……しろよ?


  お茶会はまだ続くぞ。

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