第23話 救いの神と出会った、マジ感謝
あえなく私とピエリス支局長は人の道を踏み外し、誰とも知らぬ場所で野垂れ死にを待つばかりの身となってしまった……。あ、普通に迷子になっただけです、ご安心くださいませ。
「うーん、困った」
とはいえ、結構厄介な状況、いつの間にか周囲からは人の気配が無くなっている。完全に路地の奥深くへと入り込んでしまったようで、どっちに大きな道が有るかも分からない。
そして一番厄介なのは『空が無い事』だ。
空には太陽に月、そして星がある。地球にあってそれらは東から西に流れていく。地表に降り注ぐ光は影を作り、光源の在り処を教えてくれる。星は星座を成して天球を彩り、極北には不動の星が輝く。
でもそれらが無いと、途端に方角が分からなくなってしまうのだ。こっちへ来て初めて分かった、人間は感覚的に自然を理解して生きていたんだな、と。ランドマークになる山とかビルがあればその限りじゃないけど、ここってそんな物無いからねぇ。
「ピエリス支局長はこの辺りに来た事は……?」
「有るような、無いような……。わたし、すっごく道に迷いやすくて」
「方向音痴ってやつですか~」
えー、我々の旗色がさらに悪くなりました。
そもそもこの世界の事を碌に知らない奴と、熟知しているけど迷う人のコンビでした、私たち。え、絶望的状況では?
「なんか、もっと細い道に入ってませんか?」
「あ、あれぇ?こっちから来たと思ったのにぃ」
二人で相談しながら進んでいるけど、どっちもヘッポコなのでどうにもならない。右往左往しているせいで最早どっちに何があるかも分からないし、何処から来て何処へ行こうとしているかも不明な状態である。
道があるんだから、誰か通ってくれ!そして私達を助けろ!
いや、助けて、お願い~。
「お二人とも、このような所で何をされているのですか?」
背後から男性に声を掛けられた。
「あぁっ、ディアードさん!」
「ディアードくん、助かったよ~」
そこにいたのは我らが良く知る紳士、
「そういう事でしたか。では私について来て下さい、広い道までご案内します」
事の次第を説明……といっても単純に迷子になって彷徨っていた事を話すだけだけど。そんなお馬鹿な顛末を、ディアードさんは笑う事なく聞いてくれた。私が逆の立場だったら噴き出す自信あるよ、凄いね。
ものの数分で、私達は大通りまで戻ってくる事に成功した。
「ありがとうございます~」
「ありがと~」
「いえ、お力になれた様で何よりです」
ディアードさんは功を誇る事も無く、私達に優しく微笑んだ。エンティ先輩なら勝ち誇った顔をしながら「一生恩に着なさい」とか言いそうなのに実に謙虚だ。かーっ、心もイケメンだねぇ。
ん?風評被害?何を言っているか分からないなぁ……。
「ところでディアードくんこそ、なんであんな所に?」
「路地にある店舗に届け物をしまして。お二人の後姿をお見掛けして追っていたのです、入っていった路地の奥に何もない事は存じておりましたから」
「親切の達人すぎる!」
私達の姿を見かけたからと言って追う必要など無いし、路地に何もないと知っているとしてもそれを教える義務もない。面倒なら無視しても良いのに、わざわざ追いかけてきてくれるなんて親切にもほどがある。良い人だねぇ。
「そういや支局長、ディアードさんの事は『くん』呼びなんですね」
ふと生じた素朴な疑問。
ディアードさんは確か三百七十三……じゃないわ、三百二十三だ。ディケが一回間違えたせいで記憶がブレてる、おのれ……まあいいや。先日会った時に彼は魔族だという事、そして魔族の寿命も
かたやピエリス支局長は
何をどうしても支局長はディアードさんよりも年下になる。私ごときをさん付けするピエリス支局長の性格も考えれば、ディアードさんの事も同様に呼ぶはずだ。
それなのにくん付け。
なにやらやんごとなき理由がありそうだ、と私はピンと来たのだよ、諸君!
「そうだよ、なんていうか『くん!』って感じがしてね~。深い理由は無いよ」
…………。
いや~、やっぱりそうか~。そんな都合よく理由なんて無いよねぇ、私が思った通りだ、うんうん。他人の印象なんて色々だもの、そういう事もあるさ。
ん?なんだね皆、そんな顔をして。
私が変な事を言っている、だって?
おっかしいなぁ~?
「此処では年齢に何の価値もありません、百歳二百歳どころか千を超えている方もそこら中にいらっしゃいますからね。呼称は感覚で問題ないのです」
おっと、思考を読んだかのような解答だ。ディアードさんにはディケみたいな能力は無いけど、他人の観察が上手い。私がそう考えている事を見透かして、わざわざ年齢に価値無しの前文を追加してくれたみたいだ。
「お二人はこの後はどうされるのですか?」
「流石に歩き疲れたので帰ります……」
「わたしも~」
私もピエリス支局長もちょっとげんなり。散歩だけなら兎も角、迷って迷って迷いまくったのが中々のダメージである。ゆったりお風呂に入って、ふかふかベッドにダイブしたい気持ちで一杯だぁ。
「あ、そうだ。支局長、もし良かったらウチに来ませんか?
「良いの!?じゃあ、お邪魔するねっ」
「ディアードさんも是非。お礼もしたいですし~」
「ですが、女性の御宅にお邪魔するのは」
「あ、私は全く何も思わんのでお気になさらず」
「はは、そうですか。ではお言葉に甘えさせて頂きます。」
遠慮するディアードさんも私の促しで首を縦に振った。
生前、私の家には色んな人が来ていた。男女問わず、友人と呼べる人間は多分全員一度は来ているはず。中には数日……いや一ヶ月くらい泊っていった図太い奴もいたなぁ。
だから私は自宅に誰かを招き入れる事に一切の抵抗が無いのだ。
誰でもウェルカムようこそ我が居城!
ゆっくりしていってね!!!
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