第19話 聞きたい事が沢山一杯

 この世界で二日生活をしたわけですが、まぁ分からない事だらけ。我が家の外見が木造なのに中が生前世界のソレ、みたいなのはもう『そういうもの』と考えている。記憶によって作られた世界と言われても、正直よく分からんのである。


 そういった事を除外しても、気になっている事が幾つかあるのだ。


「ではこれより、エンティ先輩を問い詰めたいと思います」

「なんで私が詰められなきゃならないのよ、普通に質問しろ」

「ノリが悪いですねぇ」


 もっと気軽にノッてきてくれても良いじゃない。格好はエロハッチャけてるのに中身は真面目ちゃんだなぁ、先輩は。


「まずは~」

「お水、どうぞ」

「あ、ありがとうございます。って何者!?」


 スッと差し出される木のコップ。

 私に気取られずに接近するとは、なんという達人だ!

 ……武術とかやった事無いから気配とか分からないけどね、私。


「何者って、店長に決まってるでしょうが」

「お水ありがとうございます~」

「いえいえ~」


 腰の低い店主、その身長は二メートル五十センチメートル、でっけぇ。白の半袖シャツとデニムの短パンから伸びる手足が筋骨隆々ムキムキであるのと逆に、お胸はめっちゃ豊かでスタイル良し。可愛らしいフリフリエプロンと実にアンバランスだ。


 ウェーブがかった長い赤髪は腰あたりまで伸びていて、両側頭部からは牛のような白い角が生えている。タレ目で茶色瞳に宿る光は優しい。見た目と違って怖くない、むしろ柔和な印象を受ける人だ。


「アラダさん、昨日の今日で席取ってくれてありがとうございます」

「あ~らぁ、良いのよ、そんなこと気にしないでぇ。あんまり賑わってないもの~」


 エンティ先輩の感謝の言葉に対して店長、アラダさんは間延びした口調で答えつつ、口元に手をやってもう一方の手をヒラヒラさせる。あ、おばちゃんがやりそうな仕草。若く見える外見から年齢が推測しにくかったけど、五十代とかかな?


「あ、そうだ。あの焼かれてるのってなんですか?」


 私が指すのは、串刺しになって丸ごと焼かれている六本脚の生物。店の前にも目立つように剥製が置かれていた事から、アラダさんが生きていた世界の生き物だろうとは思うけども。


「羊よぉ~、とーっても美味しいの!」

「よっしゃ、当たった!私、名探偵!」

「いきなり騒ぐな!」


 ふふふ、やはり私は天災……じゃなかった天才!


「うふふ、なんだか面白い子ねぇ」

「お褒めいただき感謝です~。あ、問註所もんちゅうじょ智法ちほと申しますです、チホとお呼びくださいませマセ~」

「これから御贔屓に、ね。チホちゃん!」


 パチンとウインクしてアラダさんはカウンターへと戻っていった。


「で、聞きたい事ってなに?」

「は?何言ってるんです、先輩?」

「いや、アンタが質問あるって言ったんでしょうが!」

「そういえば、そうだった」


 アラダさんのインパクトですっかり忘れていた。


「まず一つ目~。ここ転生裁判所って補佐官以外もいます?ってかいますよね、アラダさんとかキッチンカーのおじさんとか」

「ええ勿論。私達みたいな補佐官は転生裁判に関わる事をしてる、そんな私達を支えるのが裁判所職員よ。店を開いていたり、娯楽を提供していたり、まあ色々ね」


 やっぱりか。まー、そうじゃないと維持できないよね、世界。死んだとはいえ人間は人間、自分の記憶から色々出せるとしても限界がある。新しい刺激を欲しがるのは当然だし、そもそも多次元宇宙ごった煮なんだから楽しみたいと思うのが人の佐賀九州地方北西部、県庁所在地は佐賀市、唐津・伊万里・有田の陶磁器が有名で旧国名は肥前国だよ!……おっと間違えた、さがだ。


「じゃ二つ目。支局長は兎も角として、先輩、ドラクルさんを様付けしてましたよね。あれ、な~んで?」

「他人に物を聞く態度じゃないわね……」


 えー?小首をかしげて可愛らしく質問、間違った行動じゃないと思うんだけどなー。まあ、中身三十半ばの私がするべき態度か、と言われると閉口するしかないのですがね、はっはっは。場を和ませ、話を進めやすくするのも必要な事なのであるっ。


「まあいいわ。私達は一般の補佐官、仕事は書類作ったりってトコね。で、ドラクル様は上級補佐官なの」

「ほほぅ上級。エライ人……いやえらドラゴン?」

「なによソレ。というかディアード様も上級補佐官よ」

「むむっ、じゃあ偉イケメンか……」

「だから、なにそれ」


 的確な表現だと思ったんだが、エンティ先輩には理解できなかったか。いずれ私のセンスに追いつけるように先輩を調きょ……訓練してあげなくては。円滑なコミュニケーションは組織の潤滑剤だからね!


「で、偉ドラさんたちは何をしてるんです?」

「略すな。組織を跨ぐような問題の解決とか、直接的にディケ様を補佐するのが主な役割ってところかしら」

「ああなるほど、じゃあディアードさんがディケの着替えとか手伝ってるんだ」

「いやそんな事は……してないと言い切れないわね」


 物臭ものぐさ全開なディケなら「服なんぞいらん、脱ぎ着が面倒だ」とか言いそう。それなのに昨日見た服装はそこそこ整っていた、となれば身辺のお世話をする人がいるはずだ。私が知る中でその役目を担いそうなのは、執事ぜんとしたディアードさんだけである。


 ドラクルさんは塔の中を飛び回ってるみたいだし、彼の仕事は前者だろうね。


「ディケは気だる~い感じですもんねー。何でもかんでも面倒臭さがりそう~」

「あー、まあそうね。それには賛同するわ」

がつんっ

「「痛ッ!?」」


 私と先輩の後頭部に衝撃と痛みが発生し、二人して頭を押さえて机に突っ伏し痛みに耐える。そんな私達をあざ笑うように、こつんと音を立てて二つの小さな木槌が床に転がった。ぐぬぬ、見える範囲にいなくても私達の会話を認識できるとは。


 おのれ覗き幼女め、千里眼を無意味な事に使いやがっ、あ、嘘です私達の声を聞いて要望を汲み取るためにされてるんですよねーああ何と素晴らしき裁判長、我らのディケ様神様仏様~。


 ……どこか遠くで誰かが、呆れから生じた溜め息を吐いた気がする。


「アンタのせいで巻き添えくったじゃない、くぅぅ……」

「なんですか、エンティ先輩も賛同したくせに~」


 意見に賛成した時点で運命共同体、責任を私に押し付けて罪から逃れようなんて許さないぞー。


「あ、質問三つ目があるんですけど」

「この状態で何も気にせずに聞いてくるなんて、引っ叩いてやりたくなる……」

「わぁっ、暴力はんたーいっ!」


 平手を振りかぶるエンティ先輩。これはマズい、プリティな私の顔を守らなければっ、手で防御!


「はぁ。で、何が聞きたいのよ」


 振り上げた手を下ろして、素晴らしく呆れた顔で彼女は私を見る。

 どーせ、馬鹿な事を聞いてくるんだろう、とか思ってるんでしょっ。だがしかーし、次もまた真面目な質問なのだー。残念だったな!


「エンティ先輩は、どうして補佐官になる事転生しない事を選んだんですか?」

「っ」


 それまで面倒臭さそうにしていた先輩の顔色が変わった。


「そ、そういうアンタはなんでなのよ」

「あー、なんとなく自分にも出来そうかなー、と思いまして」

「か、軽いわね、自分の魂の行先を選択するってのに」

「フットワークの軽さが私の取りの一つなのでっ」


 私の解答に面食らったようで、エンティ先輩は明らかに動揺している。

 むむー?自分が活躍出来そうな場所を見付けたら飛び込む、そんなに変な事かな?色々なチャンスは大抵一度きり、短い人生ならやってみないと。後悔は後からしか出来ないんだし、やらずに悔いるよりもやって悔いるのが我が人生だったのだ。


 色んな人から、チホちゃんは前のめりに倒れて死にそう、って言われる程に素晴らしい気質なのだ。みんなも私を見習うといぞ~!


「で、なんで?」

「そ、それは……」

「なんでなんで、なぁんでぇ~?」

「首を傾げながら接近してくるな!気持ち悪い!」

「ぬなっ」


 なんと失礼なっ!人の悪口を直接その人に言っちゃいけません、って習わなかったのか!陰で言ってもダメだけどな!


 抵抗しようとしていた先輩は私の眼力に圧されたようで、遂に口を割る。


「ああもうっ!転生しろって言われたからよ!!」

「………………ハァ?」


 ナンジャそりゃ。

 いま私は、顔文字の『ぽかーん( ゚д゚)』そのままの顔をしている事だろう。


「意味が分からないのですが」

「ぐ、まあそうよね……」

「より丁寧に、詳細に、詳しく、正しく、明瞭に説明を求めます」

「めっちゃ詰めてくるわね」

「最初に言ったじゃないですか、問い詰めるって」

「こういう事か、おのれ」


 すっごい悔しそうに先輩は歯ぎしりする、所謂『ぐぬぬ』といった表情だ。もはやどうにもならないと観念したのか、彼女は一つ溜息を吐いてから白状する。


「私、強く命令されると何が何でも反発したくなるのよ。生きてた頃も上級の悪魔から人間を滅ぼせって言われたのに反抗して、人間の味方をしたくらいにね」

「……幼児がなる、何でもかんでも嫌って言うイヤイヤ期ですか」

「私を二歳児みたいに言うな!」

「だってそうだろうがッ」

「ぐぐっ、反論したいのに……ッ」


 めっちゃ悔しそう。


「くっ。ま、まあ、そんな形で、転生しろってディケ様に言われた時に反発したのよ。今にして思えば、おっそろしい事をしたと思うわ、我ながら」

「私の事を軽いと言っておきながら」

「わ、悪かったわよ」


 ちょっとだけ申し訳なさそうにしながら、先輩は髪を弄る。


「……ん、あれ?」


 私は気付く、とある事に。


「先輩、自分の事を大悪魔って言ってましたよね?上司いるんですか?上級の悪魔からの命令って事は、先輩は下きゅ」

「言うなッ!」

「むぎゅる」


 顔を真っ赤にして私の口を塞ぐ。

 なーるほど、吹かしていたのか。可愛いなぁ、この先輩。


 はっ!これが二次元にしか存在しないという伝説のツンデレ……!?

 今の所、デレを見て無いけど、そんな気がするっ。ツンデレ適性SSS+くらいある気がするっ。これは伸ばさねば、成長させねば、支局長たちにコッソリ相談しよう!


「ごめーん、ちょっと遅くなっちゃったー」


 そんな事をしていると、ようやく支局長たちがやって来た。


 さあ、宴だ!

 主役はぁ……この私ィッ!ひゃっはーっ!

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