第12話 こんにちは、私はチホです
私は自己紹介はしたけど支局員からの自己紹介はされていない。よくよく考えれば、この流れは非常識じゃなぁい?そもそもあの世に、私の世界の職場作法と同じ常識があるのかは知らんけど。
「はいっ」
「なんだ」
「発言を許可して頂きたくっ」
「今更なぜ許可を取る。先程まで無駄無意味に喋り散らかしていただろうが」
「辛辣ッ!」
よし、許可は取れた。
「皆さんの紹介をお願いします!今の所、エンティ先輩がサキュバスじゃなくて大悪魔だって事しか知りません!」
「あらあら、そうでした。ごめんなさい」
「いいえっ、むしろありがとうございます!」
「え?」
「フィオーレさんを混乱させるなっ」
エンティ先輩が背後から、丸めた紙束で私の頭をポコンと叩く。
痛いなぁ、なにも殴らなくてもいいじゃ~ん。
そんな私達の事を見て、あらあらお姉さんはクスクスと笑った。
「改めまして、自己紹介ね。私はフィオーレ、エンティちゃんの十五歳年上よ。うふふ、ちょっと恥ずかしいわ~」
フィオーレさんは照れて身体をくねらせる。
エロを凝集して具現化したらこうなる、という姿がそこにあった。エンティ先輩の比じゃない。エッチの暴力だ、エロスの奔流だ、エロ瀑布だ。エンティ先輩を先にエロと言ったが訂正する。大悪魔は小娘に過ぎぬ、力の差は歴然である。
ディケがディアードさんの年齢を間違えた時に「五十歳程度は
え、同年齢?
エンティ先輩を見る。突然振り向かれた事でビクッと身体を跳ねさせる可愛らしくもある彼女と、
「な、なに、その信じられない物を見るような顔は」
「いえ、エンティ先輩とフィオーレさんがほぼ同じ年齢だという事実に驚きまして」
「どーいう意味よっ!」
「えーっと、それは」
「やっぱり待って、言わないで。なんだか私が落ち込む未来が見える気がする」
手を私に向けて広げ、言葉を続ける事を制止した。
「こちらでの経験はフィオーレさんの方がエンティさんよりも二十年以上長いので、ほぼ同年齢ですが彼女の方が先輩となります」
「はい、分かってました!」
「なんでよっっっ!!!」
「一目で分かるだろうがッ」
「ぐっ、反論したいけど出来ない……ッ!」
ギリリとエンティ先輩が
まあそれはそれとして、
相手が何を思うかは別にどうでもいいんだけど、悪印象が私の仕事の進行を阻害するというのは非合理的かつ理不尽なのだ。
その例に出せるのは、生前の職場にいた頭髪偽装が非常に巧みな上司さん。私の配属初日からしばらく出張しておきながら「上司である俺に挨拶が無い、
初日にいてさえくれれば、率先して挨拶致しましたわよ。貴方の
「他の方ともお話したいのですがー」
「ああ、ごめんなさい、ちょっと立て込んでる子が多くて。挨拶はまた今度で良いかしら……?」
「あ、そういう事なら大丈夫です」
仕事に忙殺されている時に邪魔されるのはキツイもの。ならば次の機会に繰り越ししても、何らの問題も発生しない。むしろ一気に全員覚えなきゃいけない状況よりは、少しずつ顔合わせした方がちゃんと顔と名前が一致するというものだ。
これはかえってラッキーだ。なんでもかんでもそう考えるようにすると人生万事ハッピーに過ごせるのでオススメ。チホちゃんライフハック、活用してねっ。
「じゃあ、今日はこれで終わり……?」
首を傾げる。
その時、パタパタと廊下を走ってくる音が聞こえてきた。
「ドラクルさん!さっき挨拶出来なくてごめんなさ~い、急いでてぇ」
「いえいえ、ピエリス殿。気にしてなどおりませんとも」
部屋の外で待っている黒龍と女児が会話しているヴォイスがする。
なにやら随分と仲が良さそう、ちょっと気になる。気になったら見にいこう、そうしよう。入口からにゅっと首を外に出して、龍と話をしている人物をルッキング。
小っちゃい子がいた。ディケよりも小さい、ってことは身長は百三十センチメートルを下回ってる。くしゃくしゃっとした鳥の巣みたいな白髪で、くりっとしたお目めは灰色ですな。
黒基調でスカート部分が赤のノースリーブワンピースを着て、その上からフード付き白ローブを羽織っている。スカートが膝までの長さだから足元も見える、焦げ茶色の編み上げサンダルを履いているね。
ドラクルさんと話をしている彼女の表情は朗らか。どこぞの尊大系ロリな御方にも見習ってほしい位の、純粋カワイイな子である。
「おおっ、知らない人がいる~」
両手の手提げ袋に荷物満載の状態で、彼女は私の方へと向かってくる。ああ、そんなに両手を振ると……。
「うあっ」
軽量も軽量なちっちゃい身体。二つの手提げ袋の重さがそのバランスを崩させ、足がもつれた事でその場でクルンとターンを一回。とてて、とたたらを踏んで、前のめりに倒れ行く。
咄嗟に自らを守ろうと手を動かすが二つの
ずでーんっ
「べみゅっ!」
顔面から床へと突撃した。それはもう、見事な程のダイブだった。
……って違う違う、そうじゃない。今するべきは観察を続行する事ではない。
「大丈夫ですか」
「ううぅ、痛い……」
頑張れ、負けるな、痛みなんかにっ。そんな私の応援のおかげか、ちょっと涙目になりながらも彼女は立ち上がる。
「うー……だ、大丈夫ですぅ」
少女は床とごっつんこした額を擦る。あれまぁ、ちょっと赤くなっているぞ。
「おかえりなさい」
「ただいまぁ」
いつの間にかフィオーレさんが後ろに立っていた。優しく声を掛ける彼女に、にぱぁと笑って少女は答える。一瞬で実に微笑ましく感じるホンワカ空間が出来上がった。
……親子かな?
「あ、いま!わたしのことを、フィオーレの子供だと思ったな~っ」
「な、何故バレた!?」
ば、馬鹿なッ!私は表情を変えていない、この少女……出来るッ!
「うふふ。ピエリスちゃん、いつも色んな人に言われてるものね~」
「誠にイカンですっ!わたしは、しきょくちょー、なのにっ!」
腰に手を付けて少女、ピエリスは胸を張った。
……ん?いま、何て言った?
「ええと、聞き間違いだったらゴメンナサイしますけど……いま、支局長って言いました?」
「言った!わたしがここ、第六支局でイチバン偉い人なのですっ!」
「な、な、なんとっ!これからよろしくお願い致しますぅぅぅ!」
神を崇めるかのように、私はその場に平伏した。
「えと、その。そんなに畏まらなくてもいいよ……?」
「あ、さいですか。じゃあこれからよろしくっす、しきょくちょー」
「切り替え早っ」
要らないってんなら捨ててもイイよね、丁寧さ。日本のあらゆる事は丁寧すぎる、必要ない時ならばそんなモンはゴミ箱にポイーする位でちょうど良い。しかしまあ、無礼はいかんぞよ?相手を見て対応を変えなければならぬのだ。
だから私は見極めた。
ピエリスしきょくちょーは
「おいお前、私の事をそうやって認識していたのか。良い度胸だな」
これまた、いつの間にか私の背後に立つ者が。しかし先程のフィオーレさんとは異なり、凄まじい威圧感が私を圧し潰そうとする。
「はっ、しまった!やべえ!」
振り返ったそこには、腕を組んで仁王立ちするディケの姿。小っちゃいのに大きい、矛盾の塊みたいな存在感だ。脳内を読めるというのは、なんと厄介な力か!いわゆるチート能力だ!私にも何か寄越せ、チビ神様!
「よし、その望みに応じて、何かくれてやろうではないか」
「え、本当ですか~。脳内で願ってみるものだなぁ」
うんうん、要望の自己主張は重要だよね。
……なんて素直に考えると思うかッ!
「脱兎ッ!!!」
私は駆け出した。
すこーん
痛ぇっ!主に後頭部がっ!!!
「ディケ様、片づけをお願いします」
「……ちっ、面倒な」
背後からの追撃を受けて床に倒れる私、その側に転がる物。
ディアードさんに
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