第7話 あの世のマイハウス
「いやはや、先程は失礼ィ」
ドラクルさんは豪快に笑いながら頭を掻く。私達はそんな彼の背に乗り、ディケ像の前を飛んでいた。うひゃーっ、龍の背に乗って飛んでるぞ、わたしぃ~!下の闇が、めーっちゃ怖いけど!落ちたらどこまで行くか分からない、絶対に落ちてなるものかっ!
「歩きではこいつの案内に時間が掛かる、お前が来て丁度良かったとも言えるな」
「なんとなんと!その言葉、僥倖で御座いますぞォ!」
「おわっ、おち、おち、落ち……っ!」
「チホさん、お手を」
ドラクルさんの突然の身じろぎ。彼にとっては大した動きじゃないんだろうけど、小さき
しかしまあ、この塔は本当に底が見えない。それどころか蓋も見えない。いやそもそも、あるんだろうか、床と天井。
「あるぞ」
「え?」
「床と天井」
「そうなの!?見えないのに!」
「当然だ。数十光年先だからな」
「はぇ?」
なーに訳の分からない事を言っているんだ、このおチビちゃんは。建物の尺度で出す単位じゃ無いでしょ、光年って。それは宇宙を表す単位なんですよ?
「不敬な点は流しておいてやる。ここは全次元宇宙と繋がる場所、即ち世界の結合点の一つだ。当然それに比した容量を持っている、というわけだ」
「はー、全くもって分かんないです」
「こいつは……」
だってぇ、規模が大きすぎるんだもーん。なんとなーくは分からなくも無いけど、実感が湧かないというか、簡単に言えば意味が分からない!言葉として頭には入ってくるけど理解できないのだ。
「はっはっは、愉快なお嬢さんですなァ!」
「そうですね。近年補佐官になられた方の中では特徴的な部類だと思います」
むむむ~?ホメられてるか~?ちょっと馬鹿にされてなぁい?
まあいっか。
「この裁判所の中を案内って言ってましたけどー、何処へ向かってるんです~?」
「まずはチホさんのお住まいからですね」
「おお、家あるんだ!」
「ここを何だと思っているんだ、お前は」
いや、あの世だからその辺に漂ってろ、とか言われるかと思ったんだよね~。
しばしのドラゴンライドを楽しんでいると、眼下に大きな円が見えてきた。橋の途中に作られている円形の土地、直径は……十キロメートルはある。一つの町くらいかな?
生前の町と比べると当然ながら異質。立ち並ぶ建物の外見は木製で三角屋根の、飛び出す絵本とか異世界ファンタジーとかにありそうなもの。屋根や壁は赤色と黒色、深い焦げ茶色が殆どで全体的にシックな印象を受けますな~。
「あれだ」
ピッとディケは木槌を指し棒にして下を指す。
いやその、距離が有り過ぎるのと似た建物ばかりでごみごみしているせいで分かんないっす。建物の上に建物が載ってたりして、もう何が何やら。私の新しいマイハウスは
「仕方ない、光らせてやろう」
ディケがそう言うと一軒の建物が光った。というかクリスマスの電飾みたいにエレクトリカルなぺっかぺか。このロリババア、とってもお茶目。
「お前の調子に合わせてやったんだ、感謝しろ」
「うおっ、私の身体も光ってる!?」
ふん、と鼻で笑う神様。ついでに私の身体も七色に輝かせるとは、なんと迷惑な!薄暗い裁判所の塔の中、滅茶苦茶光ってる私や眼下のマイハウスは目立ちに目立ってる。
うおーい、皆~。新人が来ましたよー!歓迎してクダサーイ!
「それではァ、降下致しますぞォ」
ドラクルさんはちゃんと次の動きを言ってから動いてくれる。さっき私が落ちそうになったから気遣ってくれている、ありがたや。
ゆったりと、グライダーがそうするみたいに滑空していく。家の真ん前の少し広めの道を滑走路にして彼と私達は着地した。
「おおー、ここが私の新居か~」
ディアードさんに補助されながら龍の背から降りた私。新しき我が家は木造二階建て、薄赤色の三角屋根が特徴的な建物だった。西洋の絵本とかにある魔女の家とかそんな感じの外見だ。
「どうぞ、お入りください」
執事の様にディアードさんが、私に扉を開けるように促す。扉も当然木製、ドアノブは金色で捻るタイプの奴。ちょっと古い建物とかでよく見るアレだね。
……ん?こういうファンタジーな建物のドアノブって、こんな奴か?
ぎい、と木が軋む音と共に扉を開ける。引いて開けた入口に、にゅっと首を差し込んで中を覗いてみた。
「おおお?」
綺麗なフローリングに白い壁、システムキッチンがあって、大型テレビに何かお洒落なガラステーブル。ウォシュレット付きトイレに広い寝室、間取りは1LDK。カメラ付きインターフォンも設置されてる、これで不意の来客があっても安心だね。
じゃなくて!
「なんか、近代的!?めっちゃ日本の、結構高そうな部屋!」
そう、そうなのだ。
建物の外見はどう見てもファンタジー。なのにその中は私が良く知る、住宅カタログとかに載ってそうな現代日本の内装と設備。すっごい広い、家賃三十万とかの高級マンションの一室みたいだ。外見と中の広さ、違くない?
「どうだ、気に入ったか」
「いやまあ、気に入るというか馴染み深いというか……」
あの世でドラゴンの背に乗って光年単位の巨大な塔の中を飛ぶ。実に、幻想isファンタジー。なのに急に現実、日本に引き戻された。いやまあパイプ椅子とか折り畳み長机とかあったから、その片鱗はあったけども。
「この場所、世界は記憶によって形作られているのです。チホさんが考え覚えているお住まいがこの姿だった、という事です」
「考えて、覚えている……ああ、なるほど」
暇つぶしに見ていた住宅情報のウェブサイト。高級物件とかも面白がってオンライン内見とかしてた。絶対に住む事は出来ないのは当然理解してたけど、一日だけ住んでみたいなー、とか死ぬ前日に考えていた記憶がある。それが再現されたのか。
「これは、ラッキーという奴か!」
運がいい。もし死ぬ直前に犬小屋を見ていたら、ここはワンちゃんハウスになっていた可能性もあるという事だ。マイラックは天を貫いているぜー、うおー。
取り敢えず冷静に中を確認。
ベッドはふかふか、これは……名前は一切憶えていない高級な奴だ!死ぬ直前に長々と自慢話をしてくれた上司、ありがとう。お話めっちゃつまらない、って死ぬ前に教えてあげて良かった、恩返ししてくれた!
食器類はティーセットとかコーヒーのドリップポットとかある。ああなるほど、これは死ぬちょっと前に職場のボスだったお
百円均一のお皿とかって結構丈夫で良いですよね、って同意したのになんでか怒ってたな。しかし、ここにある食器がこんなに高級感が溢れてるのは何故なんだろう……?
良いねぇ、この部屋。私は満足だ。
あの世での生活は、中々に快適に過ごせそうである。
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