ここはヤバさのデパート コウ

 あ、やっぱり。俺が見たのは間違いじゃなかった。

 東2番時代、俺は人間オークションで仕事をしたことがあった。

 人間オークションはその名の通り、人間のオークション。一般的な商品に加えて、人間も出品されるオークションだ。最近、『なにか』の間で流行っているらしい。調べた感じ、中央地域には少なく、東地域に多いみたいだけど。

 人間をかけて戦って、勝利して、美味しくいただく。反吐が出るような娯楽だ。

 俺が見たのは数ヶ月前。人間オークションの会場に、ガクとそっくりなやつがいた。雰囲気は今と違って悠々としていて、言葉遣いも丁寧だが、明らかに似ていた。関わっているのなら、食べたかもしれない。

 だってほら、ガクは動揺している。


「…俺はそんなの関わってねぇよ。食べてもない。」

「じゃあ俺が見たのはなんだったんだよ。」

「な、なにを見たの?」

「こいつにそっくりなやつが、人間オークションの開催者だったことがあるんですよ。その時は大変で捕まえられなかったけど…。」

「違う!俺は東2番に行ってねえ。いつの話なんだ?」

「…数ヶ月前。」

「じゃあその時はここにいた!そうだろケイト。」

「…うん。僕とケイトは数年前からずっとここだよ。」

「…そうですか…。」


 先輩は嘘をつくタイプではない。なら本当にあれはガクではなかったのかもしれない。でも確実に俺は見た。顔のパーツは口のみの、背の高い『なにか』を。


「…ガクって、ここに来るまではなにしてたの?聞いたことなかったよね〜…。」

「…聞きたいか?」


 ガクの声が低くなる。まるで開いてはいけない扉を開こうとしているようだ。なにがあるのか分からない、魔境への扉。

 先輩の引きつった笑みが消える。突き放すような空気に、少しメイが羨ましくなる。もう空になったアイスのカップが、もう冷たくなくなっていた。


「…メイ。起きてるならちゃんと座れ。」

「…なんでバレた?」

「なんとなく。」


 メイ、お前だけ逃げんなよ。いつから起きていたのだろう。メイはこの重い空気に合わせて、騒ぎ立てない。

 ガクが言いづらそうに、蜜柑アイスのあったアイスの棒をパタパタさせる。さっきまでホワイトボードの前に立っていた先輩も、椅子に座った。


「…まあ、軽く聞いてくれ。」


 薄く笑って、ガクが語り始めた。


 やっぱりこの職業はめんどくさいと思う。こんな感じで重めの過去を持ったやつが多いんだ。俺含めて。

 何かの薬を買い続ける先輩と、明らかに研究所とのいざこざがあったメイと、今まさにヤバくなりそうなガク。

 あれ〜…意外にこの支部ヤバいやつ揃ってる?

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