ハッとパッと メイ

「いないなぁ〜。」


 そうつぶやきながら、メイはトコトコしていた。ベンチの下にいるのかな?あの木がいっぱいあるところの中かな?カベの上とか?…カベの上ならとどかない。おっきくならないと。

 グッとツノに力をこめる。するとメイはおっきくなる。


「…やっぱいないか。」


 キツくなったために靴を持って、裸足で静かな住宅街を歩く。今はいくつなのだろう。15歳くらい?

 ネコは狭いところが好きらしい。でもこのあたりで狭いとこなんてありすぎて困るくらいだ。

 …ふと、見知らぬ場所へ来てしまったことを自覚する。ここどこ?


ニャー


 鳴き声!どこから?こっち…?

 消えていってしまう鳴き声を追い続けた。すると鳴き声は茂みの中から聞こえてくる。ワサワサと掻き分けてみると…いた!白猫だ。足を怪我している。

 そっと抱えて、まずはケイトたちに報告…あ。どこか分からないんだった。怪我してるのに、なにも持っていないから見るだけしかできない。


「…どうしよっか。」


 ネコに聞いても、なにも答えない。ただ綺麗な瞳を私に向けていた。


「…コウー。」


 考える前に、体が動く。

 名前を呼びながら走った。なるべく歩幅を稼ぎたくて、まだ15歳のまま。


「ケイトー。」


 段々と疲れてくる。けど走った。


「ガクー。」


 結構長い間走ったため、体力が一気にすり減った。年齢操作しながらのランニングは、かなりきつい。まるで足を引きずられながら走っているような気分だ。


「…どうしよう。どうしようね、ミーコ。」

「ニャー。」


 適当にミーコと名前をつけて、ミーコを抱えながら歩く。

 息が切れてきた。お腹が空いてきた。

 カベに持たれて座り込む。今だけは、元の姿でいたい。


「…ミーコ。いたい?だいじょうぶ?」


 やっぱり、なにもしゃべらない。つかれたなぁ。でも、ミーコ届けてあげないと…。そんなときに、だれかの声が聞こえた。


『さあメイ。楽しい楽しい実験の時間だよ。』


 …聞きたくなかったな。


『大丈夫。怖くないよー。』


 疲れるのはヤダ。だって、イヤな声が聞こえてきちゃうから。


『メイ。おいで。』


 あいつがメイを呼んでる。頭がキンキンしだす。


「っ…!うぅ……っ。」


 ミーコがかなしそうに見てる。メイ、つかれちゃった。そのとき、誰かがメイの前に立った。


「お嬢ちゃん、大丈夫かい?」


 背が高い、大人の男の人。でも、からだは水のよう。


「…お嬢ちゃん…人間と会ったのかい?いい匂いがするね…。あ、大丈夫。嬢ちゃんは食わないよ…。嬢ちゃん『は』ね。」


 分かんない。けど本能が、『暴走してる』と言ってる。胸がドクドクする。ミーコもメイにくっついている。


『メイ。これは素晴らしいことなんだ。私たちの暮らしをより良く・自由にしている。だから言ってごらん。人間は食い物だ。』


 また誰かがいう。メイもなんでか答えちゃう。


「…人間は…食べ物…。」

『我々は人間を支配するべきである。』

「我々が…支配…。」

『人間は悪者で、冷酷無慈悲なんだ。だからメイは、人間を信じちゃいけないよ?』

「人間は…悪者…冷たい…信じちゃいけない…。」

「…良くわかってるじゃないか。嬢ちゃん。僕と一緒に行こう?」


 手を出された。ついにぎろうとする。

 水は大きくなって、かたまりのようになる。風船みたいにふくれあがって、あっという間に、まわりにある家とおなじ身長になった。


「…人間…は…食い物…。…じゃない。」

「ん?」

「違う!人間は食い物じゃない!メイ食べたくない!」


 ミーコもそれに合わせてシャーと怒る。

 ちがう。ちがうと言いたい。人間は食い物じゃない。冷たくもない。悪者でもない。だって、だってあいつらが…そうだったから。

 がんばって伝える。目をぎゅっとつむって。もう鳴き止んだミーコをしっかりと抱いて。


「チョコ買ってくれたし、怒らずに優しくしてくれたし、ごはんくれたの…!」

「いやお前は犬かよ。」

「まあまあ。」

「おっ!ネコ捕まえてんじゃんこいつ!」


 その声に、ハッとする。

 コウがそいつをねじ伏せていた。ケイトが隣に立っていた。ガクがそれを見て笑っていた。


「…メイ、捕まえたっ!」


 ミーコを高々とかかげて、そう言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る