おいおいマジかよ ケイト
「…さあということで、改めて…名前は?」
「メイ!」
「年齢は?」
「5!」
「住所は?」
「ない!」
「保護者は?」
「ない!」
「特技あります?」
「…年齢操作…?」
ガクが半笑いで項目を埋めていく。もう仕事も終わり、夜ご飯も済ませ、僕はキッチンで、いつもより多い食器たちを洗っていた。コウは上で荷物整理中だ。
メイをここに置いておくためには、書類で本部に連絡しておかねばならない。だからそのための紙を書いているのだが…。なにせメイは不明な点が多すぎる。これ通過するかな…。
外はパラパラと雨が降っていて、まだ寝るには早い。と言っても10時半過ぎだけど。メイはうとうとするのかと思いきや、全く平気だった。
「あ、そういえばコウが得た情報聞いてねえ。」
「コウに貸したペン返してもらうの忘れてた。」
「コウに…なんもない!」
みんなしてゾロゾロと上の階に向かう。ドアは閉じていて、なにか声が聞こえていた。目を合わせ、みんなでドアに耳をくっつける。やっぱりコウの声だ。
『うん。まあ、うまくやってるよ。そっちは?…へえ。よかったじゃん。』
「…電話中かな…。」
「仲良さそうだぞ…。」
『あーうん。まあね。いい先輩もいるし、面白いやつもいるし、ちょっと手はかかるけどまあ素直なやつもいるよ。』
「メイ…素直だって…!」
「面白いか…。」
かなり仲良さそうに話している。たまにコウが笑うたびに反応してしまう。コウってあんなふうに笑うんだ…。相手はどうやら後輩のようだ。
するとコウが、準備しなきゃだからスピーカーにすると言い出す。マジでこのボロビルに感謝してしまう。声がうっすらと聞こえてきた。
『スピーカーって言われるとなんか緊張しない?』
『なんでだよ。』
「おい…女だぞ…!男じゃねぇ…!」
鈴の転がるような、だいぶかわいい声が聞こえる。ガクが『いいご身分だ』とつぶやいた。しかもお互い呼び捨て。びっくりするなぁ…。
『…で、コウ。いい女の子には会ったの?』
『会ってねーよ。』
『ほんと〜?浮気は許さないからね!』
『はいはい。モナだけですよー。』
「「「っ……………!!??」」」
みんなで息を飲む。はい!?え!?浮気!?モナだけ!?はぁ!?
メイも少し驚いている。僕とガクも酷く驚く。コウって彼女いたの…!?いやそんなイメージ全くない。うん。マジでない。
『また会いたいなぁ。』
『こうして電話してるでしょ。一昨日もしたけど。』
『リアルだよリアル!』
『あーね?』
『…次会った時は負けないからねっ。』
『なんで戦う前提なんだよ。まあ全力でねじ伏せますけど?』
「…仲悪い?」
「カップルって戦うものなの?」
『じゃあ、おやすみー。明日も頑張ろうね〜。』
『うん。おやすみ。』
そこで会話は途切れた。いや、気になる点が多い…。
みんなで黙って立ち上がり、コウの部屋のドアをメイが思いっきり開けた。
「ん?どうした?」
「…お前…いいご身分だなぁ…。」
「だなぁ!」
「だなぁ…?」
「は?」
ガクがコウの肩に後ろから手を置き、メイは届かなくて僕に抱えられながら手を置く。コウは僕に目線を送った。こっちはみないでくれ。
「…あ。まさかさっきの話、全部聞こえてた?」
「ああ。この『一見すると普通そうだけど実はボロいビル』をなめてもらっちゃ困る。」
「めっちゃ聞こえてた!なんだっけ。ヒナ?」
「モナね。」
「モナの声も聞こえた!」
それからみんなで質問だの尋問だの拷問だの言ってリビングに戻る。コウはなんとも言えない顔をしていた。
テーブルに麦茶のコップを4つ。なぜか重い空気が流れている。
「コウって彼女いるのー?」
「…まあ。」
「いくつなんだよ。」
「…今16。9月になれば17。」
「うわっこいつやっぱ年下だ!年下が好みなんだ。」
「ちげえよ。ただそいつが年下だっただけで…。」
「写真とかないの?」
「…あるけど…。動画でもいい?」
そう言ってコウが見せてくれたのは1分くらいの動画だった。そこで全員固まってしまう。え…?アイドル…?
映っていたのは、水色のワンピースにキラキラと輝く髪飾りをつけたアイドルだった。歌って踊って、ファンサまでしている。なんならセンター。っていうかこのグループ、西地域でめっちゃ人気のとこじゃなかった…?
「お前、年下のアイドルが好みなのかよ!」
「いや、これはたまたまセンターが怪我で出れなくて、代役として出ただけであって…。あ。本来はこっちこっち。」
そうして見せたのは…。おっとゴリゴリの戦闘中映像だった。大きな『なにか』に向かって、さっきまでアイドルしてた子が蹴りを入れている。重心は軽め。動きが速く、手数が多い。うわ、踵落とし強すぎ…。そうして『なにか』は倒れ、モナという女の子がこちらに走ってくる。かなりの美人だ。髪は肩につくくらいで、瞳が薄緑色をしている。
「おい…なまらめんこいぞ…こいつ…。」
「なんで訛った?」
「コウってこーゆーのがタイプなんだねー。」
「いやまあ…別に…?」
気まずそうな顔をして下を見るコウ。すぐにフードをかぶって顔を隠してしまった。
「うわ思春期が照れてるぞ!」
「僕こんな反応できないな〜。」
「お前は精神年齢40くらいだから。」
「人間って面白いねー。」
「お前は人生何周目だよ。」
とりあえず、コウの彼女さんはだいぶヤバいことは伝わった。結局、その日はそんなことを語り明かして床に着いた。
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