タマゴが割れた コウ&ケイト

 ひょいと乗り越え、まず武装集団の1人に思いっきり右ストレート。パンッと音が響いて、先輩もひとり打つ。先輩も俺も、殺さない。ただ気絶させるだけ。

 そいつを足場に跳んでメイの方へ距離を詰める。


「く、来るなぁ!」


 思いつきで取り出したようなスタンガンも、あっという間に俺に吹き飛ばされる。そのまま鳩尾にガッツリと俺の拳が入った。


「…コウ?」

「…チョコ。まだ渡してなかっただろ。ガク、パス!」


 メイの首根っこを掴んでガクの方に投げる。


「扱い雑すぎだろ!」

「え?別にいいでしょっ…!はい4人目。」


 先輩は?戦いながら探すと、先輩の周りには敵がバタバタと倒れていた。

 速く正確なエイム、無駄のない動き。おまけに、ノールックで後ろのやつの肩をかすめる始末だ。さすが中央3番。レベル高いんだろうな〜。っていうか真顔すぎてちょっと怖い。


♢♢♢


 うわっ敵いっぱい!怖いよ〜!コウ…も、めっちゃ倒してるしいいとこ見せないと…!

 チラリとコウを見ると、マジで素手だった。武器とか使わないのかなって思ってたけど、ほんとに素手でやってる…。

 重心や動き方は軽いのに、パンチやキックがやたらと重い。あれをくらった敵たちが可哀想に見えてくる。うわ頭突き…慣れてるんだろうな〜。

 …とかなんとか考えているうちに、あっとういう間に敵は殲滅されていた。


「…お疲れ様です。」

「そっちもお疲れ〜。」


 いやめっちゃ怖いことになってる!ぜんぶ返り血なんだけど浴びすぎて、大変なことになっている。あのミルクティーに血が混ざり、顔にもベトッとついてしまっている。あーもう薄いグローブの方は見ないほうがいい。赤黒くなってるから。


「…血、苦手ですか?」

「いやそういうわけじゃないんだけど…。」

「俺、基本的に毎回コレなんで、そこんとこよろしくお願いします。」

「あ…うん…。」

「…行きましょっか。」


 ゴシゴシと服で顔の血を拭うコウを横目に、ガクたちを探しに行く。

 さすが東2番。やっぱり実力派。慣れてるんだろうなぁ。


「…これ使っていいよ。」


 ハンカチを渡す。一応今は同い年。数ヶ月後には俺の方が年上になるけれど。先輩として、やっていけるのかな…。


「…あざっす。」


 でも、せめてコウと同じラインに立てるように。追い越されないように。頑張っていきたい。それに…。


「…コウって結構チビだよね。」

「は?」


 身長ではすでに勝ってるし。俺が177だから、コウは168くらい…?

 コウは少しムッとして、ポケットに手を突っ込む。


「…うるせーよ…。」

「あれ?敬語はどこ行ったのかな?」

「今のはいいだろ別に。」

「一応先輩なんだけど。」

「…さーせん。」

「わかればよろしい。」

「いやどんなキャラだよ。」


 あ、そういえば昼食食べてなかったなと思い出す。もう13時を過ぎている。帰ったら食べよ〜。


「コウー!」


 ん?と後ろを振り返ると、メイが走ってきていた。後ろからガクも手を振っている。

 パタパタと走って、途中でズベッと転んでしまう。でも構わず走る。コウにしっかりと掴まった。


「…おかえり。」

「…お前…熱くね?離れろ。」

「そんなこと言うならチョコあげない!ケイトとガクはあげるー。」


 板チョコの縦1列分を半分に。そしてガクと僕に手渡した。


「安い給料だぜ。」

「しょうがないでしょ。」

「コウは?いる?いらない?」

「どちらでも。」

「…じゃあ可哀想だからあげる。」

「どうも。」


 やっぱりコウの部分はちょっと多くて、縦一列分とちょっとだった。

 そこでガクが、メイをこれからどうするのか尋ねた。確かに、もうメイを奪ってきちゃったし、謎の組織のやつらは殲滅しちゃったし…。


「メイはどうしたい?」


 歩きながら問う。僕とコウは普通のスピードで。ガクはゆっくりと。メイは早歩き状態だ。


「…生きていたい。」


 たったひと言。なのにその言葉から、無数の意味を感じ取ってしまう。たったの5歳が望んだことは、生きることだった。やわらかな風がメイのすごく長い髪をゆらす。


「…じゃあもうひとつ布団用意しねーとな。」

「それ先輩が言おうとしてたやつ。」

「まあまあ。ということで…よろしくね。」


 コクリと頷いて、前を向き直る。見た目も歩幅も性格も、全く違う僕らだけど、こうやって4人で歩んで行けたらいいなと思う。


「…あ。買ったタマゴ割れてるぞ!」

「コウが運ぶの下手だからー。」

「お前が連れてかれるからだろ。」

「つぎ気をつけてね〜。」

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