ガキだな コウ

「…結局飲まれなかったじゃん。」

「いいんだよ。心が大事なんだよ。」

「…じゃあひとくち…。」


 先輩が気を使ったのか、こくんと飲む。そして…思いっきりむせ始めた。

 え?俺なんか入れた?


「なんて言うの?えーと、ユニークな味…?」


 超しどろもどろの感想。続いてガクもひとくち。

 そしてコーヒーを吹いた。


「まっず!!」

「おいもう少しオブラートに…!」

「……。」


 俺も客に出す予定だった物を飲む。


「え…まずい。」


 なんだろう。濁った味。泥水の味。見た目も少し変な気もする。

 どこでミスった?ちゃんと言われた通りにやったんだけどな…。


「…きゃははっ。」


 あいつの笑い声が聞こえる。振り向くと、笑いを堪えきれないように手で口を押さえていた。


「お前な…。」

「引っかかったそっちがわるい!メイわるくなーい!」

「…メイっていうんだね。ガクメモった?」

「あったりめぇよ。」

「っ……!もうなんも言わない!」


 頬をぷくーっと膨らませ、腕を組んで仁王立ちするメイ。マジでガキじゃん…。


「…じゃあそこのガキ2人はちょっと買い出し頼めるか?」

「はぁ?俺ガキじゃねえし。」

「俺とってはガキなんだよ。メイもコウも。」


 先輩がスラスラとメモを書き、ついでに耳打ちする。『メイの情報を集めてきて』ということ。なるほどね。これも仕事の一貫ってわけだ。初仕事。しくじるわけにはいかない。


「…じゃあ…ってお前、なんでそんな顔してんだよ。」


 顔を少し青くして、どこかをぼーっと見つめている。少し息が荒い。

 行きたくなくなった?どこか体調が悪い?


「…やだ…!行かない…!」


 服をぎゅっと握ってそう言い放つ。絶対に、なにか理由がある。


「なんでだよ。」

「だってあいつにバレたら…!あ…なんでもない。」

「…誰か知らないけど、なんかあったら絶対守るから。俺の名前は…」

「コウ。さっき聞いた。」

「よし。じゃあ行くぞ。あ、お前の靴も買わないとな。裸足じゃん。」

「よっ。コウにいちゃーん。」

「黙れ。」

「…それじゃあ、気をつけて。」

「はい。行ってきます。」


 靴を買えるまでは背負うことになり、背中になにやら体温の高いものがへばりついているような感覚だった。

 メイはずっと俺の背中に顔を埋めている。

 ちなみにさっきの守る発言。あれはフェイクだ。だってこちらの不利益になることは極力控えなければならない。謎だらけのやつを守れるかってんだ。


 この街に来て先輩に会うまでには休暇期間があり、そのうちに地図は頭に入れておいた。確か靴屋はこっちだったはず…。


「…なあ。『あいつ』ってそんな怖いのか?」

「…言いたくない。」

「…今いくつ?ちなみに俺は18。先月誕生日だったんだ。」

「メイは…5さい…らしい。」

「1番好きな食べ物は?」

「…ない。みんな好き。」

「あ、俺と同じだー。俺も全部なんとなく好きだからそう言われると悩むんだよな。」

「…コウの髪、綺麗な色…。」

「だろ?これ父さん譲りなんだよ。メイのも真っ白でいいんじゃない?」

「…ありがと。」


 うわー髪の色なんて綺麗だと思ったことなかったなー。これ綺麗な色だったんだ…。

 靴屋に着き、メイのスニーカーを用意してもらう。本人が何色でもいいと言ったので、黒色のシンプルなデザインだ。

 靴を履いたあとも、2人並んで手をつなぐ。メイからすれば、心細いから。俺からすれば、いつ暴走しても対処できるから。

 隣で歩くメイの生死を、常に俺は握っていた。こうやって余裕を見せられないのもガキだって言われるのかな〜…。

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