掃除します? ガク

 ハハッ。ケイトのやつビビってんな〜。

 見た目からも音からもわかる。

 俺は『なにか』で、人間の感情が読めていた。でも使うたびにカロリーを消費するので、食べ物が近くにあるとき以外は使わない。


(えぇ!?髪の色明るすぎない!?染めたのかな。え!?ピアス空いてない?片方の耳に2つも!こっちめっちゃ見てくる。怖いんだけど…逃げたい…!)


 コレがケイトの声。一応新しい後輩のも読んでおく。


(…俺から話したほうがいいのかな。っていうか背が高いな…。)


 …あ。全然安全そうなやつだ。ケイトは日和ってるし、後輩は訳分からんこと考えてるし、俺から話したほうがいいのかぁ…?


「…お前、Zirconの?」

「あ、はい。東地域2番支部から来ました。月出コウって言います。」

「ひたちこう…。」

「はい。まあ呼び捨てでも何でも読んでください。」


 東地域2番支部。かなりの実力派な支部だ。数人しかいないのに、仕事の成果は他以上。まさに少数精鋭と言った支部だった。

 こいつ…実力あるんだろうな。


「ま、とりあえずよろしくー。コウくーん。」


 馴れ馴れしく呼んで、肩に腕をまわす。そのときだ。一気に雰囲気がビリビリとする。まるで電気でも流れているように。


「…お前がこの支部に入り浸ってるっていう『なにか』か…。」


 黒い瞳が、しっかりと俺を捉えていた。肩にまわした腕を軽く握られる。もういつでも宝石を潰せるとでも言わんばかりに。


 さっきの言葉、訂正しよう。

 こいつ、かなりヤバそうだ。


「…あ、あはは…。」


 この空気に耐えきれなかったケイトが困ったように笑って頭をかく。

 またいつもの、下手な作り笑いだ。


「僕は高梨ケイト。よろしく〜…。」


 ケイトの自己紹介を聞いて、ペコリと頭を下げるコウ。なんかこいつの頭の中は、もう見ない方がいい気がしてきた。危なそうだ。

 まあでも確かに、東地域2番支部は、ここ・中央地域3番支部と違って『なにか』の枠はない。きっちりと線引きされているのだ。まあ最初は慣れないよなぁと受け流す。

 3人で並んで歩くも、自然とまんなかにいたのはケイトだった。


「…ひ、東2番って…強いところだよね…。」

「…らしいですね。気にしたことなかったです。」

「コウ…も、相当強いんじゃないの?」

「…分かりません。」

「今までで1番の大物は?」

「…竜です。超大型の。まあ俺の他にも1人いましたけど…。」


 空気が凍りつく。

 は?竜って言った?しかも超大型?やべーな。さすが東2番。来る仕事のスケールも違うんだなぁ。きっと、今ケイトと俺で竜に挑んだら間違いなく負けるのはこちら側だ。

 ケイトと目が合う。そんな目、すんなって。お前も十分活躍してるぞ。


「…中央3番の仕事は聞いた?」

「はい。とにかくなんでも引き受ける支部だとか。」

「あー…間違ってねぇな。」

「確かに選ばないね。…な、なにか質問ある?」


 おいおい。もう会話が途切れたぞ。いつまでも治らない猫背をポンと押して教えてやった。

 コウはゆっくり考えて、言い放った。


「特にないですね。」


 ないのかよ!

 …この2人、大丈夫かぁ…?


「…ここが裏口。入って。ただいま…。」

「そこに靴揃えとけよー。」


 狭い玄関に、靴が3足。なんだか不思議な気分だった。ちなみにコウの靴、なんだかやたらとすり減っていてボロボロだ。…この赤いのって模様じゃなくて血じゃね…?とにかく靴でさえもが、そいつの過去を物語っていた。

 玄関から階段に向かい、まずは2階へ。見慣れたリビングとキッチンが出迎えた。あ。椅子の数増やしとかないとな…。


「あっちが洗面所とか風呂で、こっちがトイレね。」

「はい。…このダンボールは?」

「あ…それは武器とか危ない系…。」


 ぎこちない会話にこっちまでギクシャクしながら3階へ。3階は部屋が3つに別れており、奥から、俺、ケイトの順番で使っていた。


「ここがコウの部屋…。隣の部屋、僕だからなんかあったら言って…。」

「はい。」

「それじゃあ、もう時間だし仕事始めよっか…。」


 そう言って1階へ。こいつら慣れるまで時間かかりそうだなぁとか、あとで食器洗わないとなぁとか考えながら俺もついていく。

 1階にはローテーブルやソファなどがあり、パーテーションを挟んで向こう側には俺たちの会議ブースがあった。


「…じゃあまずは表口をパパッと掃除して…。」


 ここで音が途切れる。どうした?そう思って見ると、表口のドアの隣には誰かも知らない少女が寝ていた。

 透き通るような白く長い髪は地面に垂れて、濁った黄色のツノがちょこんと生えている。明らかに、俺と同じ『なにか』。


「…こいつもパパッと掃除しますか?」

「いやダメだろ。」

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