ノスタルピクチャー

天川裕司

ノスタルピクチャー

タイトル:(仮)ノスタルピクチャー



▼登場人物

●虹野元太(にじの げんた):男性。37歳。独身サラリーマン。絵が好きで得意。2次元愛好家。

●近藤百合子(こんどう ゆりこ):女性。36歳。元太と同じ部署で働く女性社員。浮気性。

●柏崎典子(かしわざき のりこ):女性。享年20歳。元太の同級生。元太が片想いしていた。本編では「典子」と記載。

●魔末佳奈世(ますえ かなよ):女性。30代。元太の理想と過去から生まれた生霊。


▼場所設定

●元太の自宅:都内にある一般的なアパートのイメージでお願いします。

●某雑誌社:元太達が働いている。一般的なイメージでOKです。

●Two-Dimensional Home:お洒落なカクテルバー。佳奈世の行きつけ。本編では主に「カクテルバー」とも記載。


▼アイテム

●Two-Dimensional Life:佳奈世が元太に勧める特製のカクテル。心にゆとりを持たせ現実に活気を持たせる。でも現実のトラブルに太刀打ちできる効果はない。

●Draw Life in Pictures:佳奈世が元太に勧める特別なペン。これで描いた絵には不思議な力が宿り、描いたその人を理想の世界(絵の中の世界)に引きずり込んでしまう。


NAは虹野元太でよろしくお願い致します。



イントロ〜


あなたは、2次元愛好家ですか?

でもなぜそんな2次元愛好家になるんでしょうか?

それは現実の男性や女性に嫌気がさしてしまい、

ある程度世の中に絶望し、そこで自分の夢や理想が叶わない…

そう諦めてしまうからで、

そして架空の世界にこそ自分の夢を見つけ、

そこに定住してしまう心境を知る…

だからじゃないでしょうかね?

でもその趣味が余り度を過ぎてしまえば、

その2次元から嫉妬され、

とんでもない目に遭う事もあるようです。



メインシナリオ〜


ト書き〈自宅〉


元太「よし出来た!うわぁ、なんて可愛い女の子だろう…」


俺の名前は虹野元太。

今年で37歳になる独身サラリーマン。

都内の会社で働いており、帰ってきたらもっぱら絵を描く毎日。


そう、俺は昔から絵を描くのが大好きで、

特に自分の理想をその絵の中に作り上げ、

そのパラダイスとも言える暖かな空間に浸るのが大好きだった。


昔は風景画なんかをよく描いていたが、

今ではすっかり自分の理想の相手…そう、女子の絵を描いている。


そして今日も又、1人の可愛い女の子の絵を描いた。

これまでの中でも傑作と言える程の出来栄えで、

俺はその子に、高校の時に片想いし続けてきたクラスメイトの女子の名前、

典子と書いてスケッチブックをデスクの上に飾り続けた。


元太「典子、じゃあ今日はお休み♪君もよく寝るんだよ。明日また会おうね」


そう言ってブックを閉じた。


ト書き〈翌日〉


そして翌日の朝。

俺はまた普段通りに会社へ向かい、いつも通りに仕事をする。


俺が働いてるのは雑誌社で、

主にコミック雑誌や週刊誌なんかの製本作業をしており、

時々自分で漫画を描いてそれを掲載する事もある。


百合子「うわぁ、虹野さん♪この女の子すごい可愛らしいわねぇ〜」


元太「え?あ、あは、そうかい?」


同じ部署で働いている近藤百合子さんという女性社員がその日、

俺のデスクまで来てそんな事を言ってくれた。

褒められると嬉しくなり、それから俺達は暫く喋った。


百合子「前から思ってたんだけどさぁ、虹野さんってどうして漫画家にならなかったの?これだけ絵が上手いんだったら、そっち方面で活躍しなきゃ勿体ないわよ」


元太「いやぁ有難う。でも僕はストーリーを作るのがちょっと苦手でねぇ」


でもそれから俺と百合子さんはなぜだか

ちょくちょく休憩時間なんかも一緒に居るようになり、

仕事の話やプライベートの話、そして将来の夢の話など、

何となくそんな話題を愉しみながら過ごす事が多くなった。


(1人で物思う)


元太「…もしかして百合子さん、俺の事が…」


なんて事も1人で居るとき考えるようになった俺は、

この会社に入って初めて

「社内恋愛」と言うものを意識するようになっていた。


ト書き〈カクテルバー〉


そんなある日の事。

俺は会社帰りに1人で飲みに行く事にした。

まぁそんな日常の変化もあって、心に少しメリハリがつき、

ちょっと浮かれて、いつもは行かない飲屋街へ足を向けたんだろう。


そうして歩いていると…


元太「ん、あれ?新装の店かな?」


全く見慣れないバーがある。

名前は『Two-Dimensional Home』。

雰囲気が良かったので中に入り、

いつものようにカウンターについて1人飲んでいた。


すると背後から…


佳奈世「ウフフ、お1人ですか?もし良ければご一緒しませんか?」


と1人の女性が声をかけてきた。


彼女の名前は魔末佳奈世さんと言って、

都内でスピリチュアルヒーラーやメンタルコーチの仕事をしていると言う。

その変わった名前も、ペンネーム感覚でつけた名前らしい。


元太「へぇ〜、ヒーラーさんなんですねぇ」


佳奈世「フフ、今、結構人気のあるお仕事なんですよ?」


それからなんだか話が弾み、改めて軽く自己紹介し合った後、

何となくだが悩み相談のような形になっていた。

彼女の仕事がそんなだったからか、

どことなく心が開放的になり、俺は自分の事を打ち明けるついでに

今の悩みを打ち明けていたのだ。


元太「僕どうしても奥手な性格が治らなくて、会社で良い人が居るのに彼女に気持ちを打ち明けられず、その残念な気持ちを背負って、絵の世界の中へ逃げ込んじゃうんですよねぇ」


元太「これ、昔からなんですよ。絵の世界のキャラクターなら自分を裏切る事もないし、かと言って動きはしないけど、それでも僕の理想を全部受け止めてくれる。その辺に自分なりの安心感のようなものを覚えるんでしょうね」


それから延々30分程、俺は自分の事を彼女に伝え続けた。


元太「あは、なんかすいません。僕の事ばっかり話しちゃって…」


佳奈世「いいえ、かまいませんよ♪そう言うお話を聞くの、私大好きですから」


彼女は真剣に聞いてくれていた。

黙って静かに微笑みながら、

俺が話す事を丁寧に頷きながら聞いてくれる。


そのとき彼女に対しもう1つ不思議に思った事は、

なぜだか恋愛感情が全く湧かない事。

佳奈世さんはかなりの美人で、

こんなふうに自分に寄り添ってくれる人なら

男は大体心が惹かれる筈なのに、

それでも恋愛感情は全く湧かない。


それどころか「昔どこかで会った事のある人?」

と言う感情だけが先走り、そして身内のような感じもしてきて、

だからか彼女には「自分の良き理解者で居て欲しい」

と言う思いだけが湧いてくる。


そして一通り俺の悩みを聴いてくれた後、佳奈世さんは…


佳奈世「なるほど、あなたのお気持ちよく分かります。本当に好きな人の前に行くと無力になってしまう…そう言うのは男性だけじゃなく、女性にも多いと思いますよ。おそらく長年染み付いたきたその性格があなたの本心を妨げて、本来『これが幸せだ』と思う選択肢も取らせないようにしているのかもしれません」


佳奈世「分かりました。ここでこうしてお会いできたのも何かのご縁です。私があなたのそのお悩みを、少し軽くして差し上げましょうか?」


そう言って彼女は指をパチンと鳴らし、

そこのマスターに一杯のカクテルをオーダーした。

そしてそれを俺に勧めてこう言ってきた。


佳奈世「まぁ景気づけに一杯どうぞ♪それは『Two-Dimensional Life』と言う特製のカクテルでして、私がこのお店にお願いして特別に作って貰ったものです。特殊な効果として気持ちを安らげ、心を鷹揚にしてくれ、自分の思った行動をその通りに取らせてくれる…そんな秘密めいた成分が含まれてます」


元太「え…?」


佳奈世「フフ、信じるかどうかはあなた次第です。でも信じる事をお勧めします。何かを始める時はまず自分の力を信じ、自分の将来に必ず幸せがやってくると心を丈夫にした上、何事にも怯まない精神が必要になるものです」


何を言われてるのかよく分からなかったが、

やはり彼女は不思議な魅力を持った女性だ。

普通なら信じない事でも、彼女に言われると信じてしまう。


俺はそのカクテルを手に取り、一気に飲み干した。


ト書き〈数日後〉


それから数日後。

俺の生活は本当に幸せなものになっていた。


百合子「嬉しい。あなたがそう言ってくれるの待ってたのよ」


元太「あはは、ほんとに?僕も自分の中にこんな勇気があったなんてホント驚きだよ」


俺はあれからすぐ百合子さんに自分から告白し、

将来を約束する前提で付き合って欲しい…と言ったのだ。

すると百合子さんも2つ返事でOKしてくれ、俺達は付き合った。


本当に幸せな日々が訪れてくれた…筈だった。


(トラブル)


それから間もなくしてトラブルがやってきたのだ。


元太「う、嘘だ…。あの人に限ってそんな事するなんて…」


付き合い始めて僅か数週間後。

百合子は別の男と浮気していた。

何度も確認して分かった事だ。


しかもその事を百合子は認めてしまい、

「ごめんなさい…」と謝ってきた。


元太「ご、ごめんなさいって…お前…一体どう言うつもりなんだよ!」


もう訳が分からなかった。

人間の女って、あれだけ愛を誓いあった仲なのに、

こんな簡単に裏切るものなのか。

僅か数週間で…。


理由は俺との関係に退屈を覚えたからで、

彼女は生来、アッチ方面に盛んなタイプだったらしい。


俺は女とまともに付き合うのは、

もしかするとこれが初めてだったかもしれない。

それまではずっと絵に描いてきた、

その絵の中の女子に恋をしてきた。


これが今の俺の生活に

多少なりとも影響していたのかもしれないが、

それにしてもあんまりじゃないか。


元太「…これだから人間の女は…」


もう俺は極端な挫折を覚えてしまい、

会社に居ても仕事が手につかず、その日の帰り、

またあの店へ飲みに行く事にした。


もちろん俺と百合子はその日に別れた。

俺から一方的に別れ話を切り出し、彼女は何にも言わなかった。


(カクテルバー)


元太「ヒック!ったく何なんだよあの女は!ふざけんじゃねぇよ!」


カウンターで1人愚痴っていた俺。

するとそこへ又…


佳奈世「あら?あなたは…」


あの日バーで会った佳奈世さんがやってきて、

少し大きめの声で愚痴っていた俺に気づき、

顔を見てそう言ってきた。


元太「ヒック!…あ、あんたは、佳奈世さん…?」


ここでも少し不思議だった。

世の中の女にはもう絶望しかけていた俺なのに、

彼女に対してだけはなんだかそんな気持ちが湧いてこない。

それはまるで恋愛感情が湧かないのと似ていた。

彼女に対してだけは、何となく不思議な気持ちを覚えていたのだ。


元太「ハハwなんだかアンタって不思議な人だね。世の中の女全部が嫌になってる俺なのにさ、アンタだけは何か特別なんだよ」


でもやっぱり嬉しいものだ。

こんな落ち込んだ時に話を聴いてくれ、

そっと横に寄り添ってくれると言うのは有難い事。


佳奈世「そう言って頂けて嬉しいです。…でも、そうですか。そんな事が…」


元太「ええ!でも、もうイイんですよ!あんなあばずれな女、こっちから願い下げだ。俺に声をかけたのも近寄ったのもほんの興味本意w軽い気持ちで近づいてきて…だからまた軽い気持ちで俺の元から去って別の男ん所に行ったんでしょうよ!」


俺はとにかく荒れていた。


でもそんな時でも佳奈世さんはずっと俺のそばに寄り添ってくれ、

静かにただ話を聴いて、励ましてくれたりもした。


そして励ますついでに、1つだけアドバイスもしてきた。


佳奈世「元太さん。こんな時にこんな事を言うのもなんですが、もう1度だけ彼女と寄りを戻してみようって、そんな気持ちにはなれませんか?」


元太「はぁ?寄りを戻す?」


佳奈世「ええ。お話を聞いていると、まだ彼女さんの気持ちはあなたのほうにあるように思うんです。あなたが別れ話を切り出した時、彼女、何も言わなかったんですよね?おそらく自分のした事を反省して、その罪を悔い改めようって、そう思うところもあったんじゃないでしょうか」


元太「はっw冗談言わないで下さいよ!あんな簡単に僅かな時間で裏切る奴が、自分のした事を反省するなんて!そんな事ある訳ないじゃないですか。きっと図星を突かれて、何も言えなくなってただけですよきっと!」


佳奈世「…ええ。そうかもしれませんけど、でも魔が差すと言うのはやっぱり誰にでもあるものですよ。あなただってこれまで沢山絵を描いてきて、描く度に、その目の前に居る女性のキャラクターに心を奪われたりした事もあったでしょう?」


元太「は?何言って…」(遮るように佳奈世が喋る)


佳奈世「絵や人間に対して気持ちが惹かれると言うのは、人の心に注目した時、同じ事なんですよ。前に描いた絵に心が惹かれて、そして次に描いた絵にまた心が惹かれたら、その前に描いた絵はあなたに嫉妬を覚えるかもしれませんよね…」


元太「…何を言ってんのか全然判りませんね。あのねぇ、人間と絵を一緒にしないで貰えませんか?確かにそう言う事もあるでしょうけど、相手は人間ですよ?絵じゃないんです!ったく、アンタのほうこそどうかしてるんじゃないですか?」


絵が俺に対して嫉妬するなんて架空の物事をでっち上げ、

それを俺と百合子の関係に持ってきて

同じ土俵で比べようなんてしてやがる。

全くおかしいにも程がある。


俺は怒りついでに席を立ちかけた。

すると佳奈世は改めて俺を引き止め、

こう言ってきた。


佳奈世「すみません。あなたを怒らせる気は無かったんですよ。分かりました。私も少し軽率でしたね。お詫びのしるしと言ってはなんですが、こちらをどうぞ。私からあなたへのプレゼントです」


と、佳奈世は青い柄のペンを俺にくれた。

絵が描き易そうなペンだ。


佳奈世「そのペンにも一応名前がついてまして、『Draw Life in Pictures』と言う特殊メーカーのペンなんです。おそらくそれで描いた絵はあなたの心に平安をもたらし、2度と裏切らない、あなただけのパラダイスを見せてくれます。どうかまた私の言う事を信じて、そのペンで絵を描いてみて下さい。きっと私が言った事が本当だと、その時に分かるでしょうから…」


この時も最後に俺は彼女に魅力を感じた。

もう本当に怒って店を出て行きそうな俺だったのに、

そんな俺を彼女は引き止めて、

そして今言った事も俺に信じさせてきた。


俺はそのペンを受け取り、店を出て行った。


ト書き〈その夜〉


そしてその夜。

俺は自宅で机に向かっていた。

佳奈世に貰ったペンで、絵を描こうとしていたのだ。


このペンは本当に俺の手によく馴染み、

描こうと思っていた理想の絵をすらすら描き上げた。

驚く程の速さだ。


元太「よし…出来た」


俺は少し生唾を飲みながらその絵を見ている。

本当によく描けた絵。


やっぱり描いたのは、昔から俺が心の中にずっと想い続けた理想の女で、

やっぱりあのクラスメイトの典子に近いデッサン風の絵になっている。


思い出も、理想を留(とど)めて動かない。

だから思い出だけはこんな時でも俺の中で特別な存在なのか。


そんな事を思っていた時…


元太「…え!?」


一瞬、今描いたその女の目が動いたように見えた。

そして次に口が動き、俺が見たのは幻覚じゃないと知らされた。


元太「うおわ!?」


俺は恐怖を覚え、机から一瞬飛びのいた。

でもその直後、その絵はまばゆい程の光を放ち、

「うわぁあぁあ!」と俺を吸い込んでしまった。


その吸い込まれる瞬間…


典子「私をモデルに描き続けてくれて有難う…私は今、本当にあなたの思い出として存在してるの。だからあなたもあんな現実の女はもう忘れて、この思い出の中に一緒に住んで。その思い出はもう解るわよね?そう、この絵の中の世界の事よ…」


典子の声が聞こえ、俺にそう言ったようだった。


ト書き〈元太の自宅で絵を見ながら〉


佳奈世「私があげたペンは、絵の世界に引きずり込む力を持っていた。その世界は元太、あなたの理想の世界そのままよ。あなたのクラスメイトだった典子は、高校を卒業して事故に遭い亡くなっていた。奥手なあなたはその事も知らなかったわよね」


佳奈世「これであなたも典子も、思い出のページに包まれる絵の中の住人。思い出に固定された世界の中で、その理想は動く事なく崩されず、ずっと変わらず夢のまま。その世界でしか、あなたは理想を見つけられなかった。でもそれで良かったと思う。現実の誰かを相手にしてれば、またいつ裏切られるか分からないもんね。できれば現実で幸せを見つけて欲しかったけど…」


佳奈世「私は元太の夢と過去から生まれた生霊。元太が求めてやまない理想の世界を叶える為だけに現れた。思い出と一緒にその絵の中で、ずっと2人お幸せにね…」


動画はこちら(^^♪

https://www.youtube.com/watch?v=bXusLYVj3is&t=149s

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ノスタルピクチャー 天川裕司 @tenkawayuji

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