第16話 ガダルカナル島地獄の始まり
日米両軍の誰かが言った。
「ソロモンは地獄すら生ぬるかったよ。一切思い出したくない」
1942年8月から日本はMI作戦の大成功からFS作戦を始動する。
米海軍の正規空母2隻を撃沈と旧式戦艦を一掃という大戦果を収めた。ミッドウェー島に強襲上陸を敢行して同日中に占領すると、水雷戦隊の護衛の上で高速輸送艦によるピストン輸送を行い、ハワイに対する前線基地と機能させて掣肘を加えている。米海軍の主力級艦艇は一気に落ち込んだと雖も正規空母は複数隻が健在で条約型戦艦も控えた。MI作戦大勝利の立役者たる50万トン戦艦が移動を許さない。敵軍を釘付けにした虚を突いてソロモン諸島に進出した。
「中迫および軽迫が砲撃を開始!」
「擲弾筒中隊も砲撃を開始しました!」
「こちらには迫撃砲の支援がある! 今こそ突撃の好機ぃ!」
「バンザーイ!」
日本軍はソロモン諸島に奇襲上陸を仕掛けた。ブーゲンビル島やガダルカナル島などに上陸したが、大半の島は無人で無血占領が相次いでおり、一部は簡易的な監視所が設けられたものに、監視所に重火器は一つもない。日本軍の奇襲の前にバタバタと斃れている。
日本軍上陸部隊も重火器を持たないと思われた。いいや、一号型と百号型という戦時量産型揚陸艦が歩兵砲、山砲、迫撃砲などの重火器を迅速に揚陸する。陸軍と海軍の共同研究の末に生まれた各種揚陸艦の母艦を務める『あきつ丸』と『にぎつ丸』まで投入された。
いかに米豪遮断作戦に本腰を入れているか理解できる。
ソロモン諸島は1週間で日本軍の手中に収まった。特にガダルカナル島は重要度最高と見積もる。ここに海軍航空隊を進出させる予定を組んだ。戦闘機隊と陸上攻撃機隊を置くことで米豪軍の連絡を遮断できる。ガダルカナル島なんて未開の大地を切り開いて飛行場を建設しなければならず、米軍の妨害に備えながら早期の完成が望まれ、戦闘機だけでも運用できればソロモン諸島の制空権を握り込んだ。
それを米軍が許すだろうか?
米軍の妨害を日本軍が許すか?
お互いに許せないか?
「こんな夜中まで揚陸作業ってのもお気の毒だな。明日の朝から焼き払われるのに」
「敵軍の揚陸を未然に防止しないと聞いて仰天しました。ただでさえ、夜間の揚陸作業で疲れたところを夜襲して疲弊を一層も強いる。我々が撃ち漏らした時は…」
「海軍さんの大艦隊が控えている。明朝から空襲と砲撃を行うらしい」
「こりゃ言っちゃ悪いんですが、あの超巨大戦艦を拝みたい」
「それは無理ってもんだな。こんな南には来ないよ」
米軍はガダルカナル島飛行場の建設阻止を兼ねる上陸作戦を計画した。ソロモン諸島を奪われては米豪連絡が覚束なくなる。豪州が太平洋戦線こと対日戦から手を退く王手のチェックメイトに等しいため、ヴァンデグリフト少将の海兵隊師団を豪軍の支援の下で夜間上陸させ、一気に日本軍の飛行場を制圧する目論見だった。
「俺たちはかき回すだけで良いんだ。爆弾を投下して機銃を掃射しても欲張りはいけない」
「60番が4発じゃ大した被害を与えられんでしょうに」
「ないものをねだっても、どうにもならない。襲撃機にできない芸当こそ面白い」
「その襲撃機も旧式で海軍さんから爆撃機を貰いますがね」
「無駄口を叩いている暇はないぞ。敵が見えた!」
ヴァンデグリフト海兵隊師団は物資の揚陸中に空から破滅が与えられる。人間の活動が鈍る深夜の時間帯に空襲は堪らなかった。敵機は単発の固定脚と見えてドイツ空軍のJu-87ことスツーカを思わせる。あいにく、ジェリコのラッパが鳴り響かなった。小型爆弾が断続的に爆発する音と小口径機銃の連続的に着弾する音が支配する。
「九八式直協を舐めるなよ」
「飛行場が完成してないとでも思ったか」
「俺たちは飛行場が無くても飛び立てるんでね」
機影の正体はガダルカナル島に派遣された日本陸軍航空隊の九八式直接協同偵察機だ。ガダルカナル島に海軍航空隊が進出予定と言うが、飛行場が仮でも完成するまで展開できないため、陸軍航空隊が急場しのぎの援軍と島伝いにやって来る。貴重な航空戦力も非力で固定脚な九八式直協と聞いてガッカリした者は素人を極めた。
本機こそ最良の縁の下の力持ちだろう。
ガダルカナル島はジャングルを切り分けなくても自然の平らな草原が存在した。その面積は狭くても飛行場の役割を十分に果たせる。九八式直接協同偵察機は堅実で頑丈な設計が組まれた。この固定脚はガタガタした大地でも離着陸でき、スプリットフラップは短距離離陸性能(高いSTOL性)を確保し、低速域の安定性と良好な操縦性は抜群を誇る。近接航空支援(地上部隊支援)に襲撃機の代替まで担当した。ユーラシア大陸からソロモン諸島に移行しても便利屋は変わらない。エンジンの信頼性から来る稼働率の高さは傑作の評価を与えられた。ガダルカナル島は輸送の滞りがちな過酷な環境である。海軍航空隊の零戦や一式陸攻が不調を訴えるのを尻目に九八式直協は悠々と飛んでいた。
「そんなバンバン撃っても当たらないのになぁ」
「敵兵は新兵の集まりでしょうか? 自ら灯りを提供してくれるなんて愚の骨頂です」
「ありがたく便乗させてもらおう。敵機が来る前にずらかるがな」
「勿体ない気がしてなりません」
「口惜しいのは同じだ。それでも貴重な直協を失うわけにもいかない」
米軍の主力戦闘機と真正面から戦える力は無い。護衛戦闘機無しに出撃しては一方的に嬲られるだけと判断し、夜間に低空を忍び寄って襲撃することに活路を見出した。本機の最たる特徴の良好な低空の安定性と操縦性は最適以外に何があろう。
彼らは米軍偵察機が発見できなかった仮設飛行場から発進した。米海兵隊師団の闇夜に紛れた揚陸作業中を急襲する。敵輸送船に60kg爆弾を投下し終えると機銃掃射に入った。輸送船を沈めることは困難だが、そもそも揚陸作業の中止は狙っておらず、本命は明朝の大空襲に始まり明晩の夜戦と艦砲射撃に終わる。九八式直協による夜間襲撃は敵兵の精神を削って疲弊を強いる前段階の準備に過ぎない。
この夜間襲撃の戦果は輸送船1隻の撃沈が最大に止まった。砂浜の物資を多く焼き払って敵兵数十名を支障させたが揚陸の断念には至らないが、海兵隊師団を率いるヴァンデグリフト少将は艦隊指揮官のターナー少将に不信感を抱かざるを得ず、米軍も一枚岩でないことを証明すると一部の不和は忽ち全体に広がる。
とにかく、本日中の飛行場奪取は叶わなかった。
~翌日~
日本海軍の空母機動部隊の姿をソロモン諸島北方に確認できる。
「敵艦隊は巡洋艦8と駆逐艦8です。空母は見られませんでした」
「水偵が見つけていない可能性は十分にあり得ますが」
「敵空母の数は多く見積もっても4隻の互角です。それもハワイの守りに忙殺されていた。ソロモンには来れるわけがありません」
MI作戦において艦艇こそ無傷だが、航空隊を多く失ってしまい、一定期間の休養兼補充にあった。50万トン戦艦と連合艦隊がミッドウェーを守り、アリューシャン列島から撤退し、時間稼ぎが成功したおかげで万全を期して出撃する。艦載機も新型を優先的に供給されて航空兵は猛訓練から練度を積み上げた。
太平洋に再び大機動部隊の旗が翻る。
「敵輸送船団を優先的に撃滅する。敵艦隊は三川さんの第八艦隊に任せた」
「敵空母が現れた場合は?」
「攻撃隊は速やかに対艦装備へ切り替える。ミッドウェーの二の舞を演じる真似は厳に慎め」
「水偵は出せるだけ出すんだ! ツラギの横浜航空隊に任せ切りは恥と思え!」
50万トン戦艦は戦わずして戦局を変えてしまった。
「山口機動部隊の初戦は大賞で飾るべし」
続く
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます