第3話 守るも攻めるも黑鐵の

「金田中将の遺志は果たされた」


 とある何でもない日に大日本帝国海軍の超戦艦が産声をあげた。本来は盛大な式典を開くところ、徹底的な機密保持から祝いは皆無であり、ヒッソリと戦列に参加している。しかし、その異様な姿は式典なくとも、ありとあらゆる者を驚嘆させ、直後には喝采を叫ばせた。


 その超戦艦は排水量50万トンという規格外を誇る。これを分かり易く数値に出してみよう。まず全長は端から端まで1017mと五輪競技を行え、全幅は最大で150mだが全長のおかげで凄みが分かり辛いが、後述の主砲と副砲、高角砲の搭載に貢献したことは明記しておきたい。


 この全長と全幅に関しては太平洋の波浪を考慮して緻密な計算に基づいた。太平洋の荒波を被ってもビクともせず、正確無比な砲撃を可能とし、弾着観測機と電探を活用した際は初弾命中を期待できる。実際に荒れ狂う日本海で訓練を行った際の命中率は80%を超えた。


 これだけの巨体に超武装を浮かべる都合で浮力の確保が課題である。同時に敵潜水艦や駆逐艦、魚雷艇の魚雷が脅威と浮上した。両方を解決するため両舷に巨大なバルジを装備する。バルジは緩衝材の役割から低品質の鋼材を使用した。これで被雷時のダメージコントロールを得たが、40ノット超えの高速航行は不可能と代償を支払うが、この巨体で高速航行しては人工の波で友軍艦が転覆しかねない。


「46cm三連装砲も世界最大の戦艦に相応しい。敵戦艦の16インチ砲を凌駕する破壊力と射程距離に恐れ戦け」


「46cm砲は速射が利かない。したがって、一撃必殺の無慈悲を叩き込む。次弾までは41cm砲と36cm砲が埋めた。敵水雷戦隊が来ようものなら、15.5cm副砲が出迎える」


「魚雷を捨てたことは賢明じゃないか。あれは誘爆するだけだ」


 三者三様で異なることを述べた。彼らの主張に共通する点は超武装の一点に集中する。主砲は統一感の欠片も無いことが最たる特徴だ。艦前部と艦後部に46cm三連装砲を5基ずつの計10基で計30門搭載する。16インチ級が標準の世の中に18インチを放り込んだ。本砲は日本の技術の粋をかき集めている。46cmという規格外に難航も難航したが、50万トン戦艦の圧倒的な余裕が受け止め切り、世界最大にして世界最強の艦砲が載せられる。46cm砲の破壊力と射程距離は16インチ砲を圧倒した。それを三連装砲で5基ずつ10基も搭載する。もはや、驚きを超えて畏怖を覚えた。ただし、重量は1基で駆逐艦数隻分に迫る。10基で数個の駆逐隊を構成できる程に重かった。圧倒的な火力を得ても使い勝手は必ずしも良好と限らない。


 46cm砲の射撃は約40秒の間隔を要した。それ故に次弾装填と照準付けを埋める準主砲を求めた。新たに16インチ砲や14インチ砲を製造することは時間が足りない。ちょうど、海軍軍縮条約から空母改造と廃艦処分の天城型と加賀型、扶桑型と伊勢型から頂戴できた。41cm連装砲5基ずつの計20門を艦の前部と後部の左右に備える。36cm連装砲24基は艦中央部や両舷部に点在させた。全方位に何らかの主砲級の一撃を叩き込めるように配置している。敵艦が正面の場合は縦方向の理想的な姿勢を維持して46cm砲15門と41cm10門を指向した。敵艦が左右に展開した場合は36cm砲48門も加わる。仮に46cm砲を外しても41cm砲と36cm砲の弾幕が襲い掛かるわけだ。


「15.5cmではなく14cm砲じゃダメだったのか?」


「あれは使い勝手が良すぎる。他の艦も使用するから余剰を確保できなかった。それに高角砲と改造するに足りない。新たに高角砲を兼ねた15.5cm砲を開発するが色々と手っ取り早い」


「10cm高角砲と合わせて鉄壁の防空だ」


 副砲には新開発の60口径15.5cm三連装砲を採用している。これは従来の14cm砲や15cm砲が欧米の巡洋艦に対抗できないと新開発した。本来は予備案の6万トン級戦艦に採用予定を流用したが、昨今の発展が著しい航空機の対策として、高角砲を兼ねた傑作である。複雑な機構から重量は大幅に増加したが、先述の通り、巨体が全てを受け止めた。これが両舷上段部の36cm連装砲の間に10基ずつの計20基の60門を備える。主に肉迫を試みる敵艦に対して投射するが、零式通常弾と三式弾を装填して対空戦闘も可能であり、10cm高角砲と合わせて隙を生じなかった。


 ここで便宜的に副砲に含まないは60口径の10cm連装高角砲だろう。米海軍が5インチ砲を備えることから12.7cm高角砲を予定した。12.7cmは当時の日本人の体格から重労働が否めない。自動装填機構を採用するにも無茶があると言われた。一回り小さな10cmの小口径を採用する。小口径は威力が半減することを鑑みて長砲身による高初速を施した。10cm連装高角砲は両舷下段部に所狭しと並べたが、余裕を見つけ次第に増設を重ねた結果として、100基の200門なんて馬鹿げた数値を見せつける。


「本艦は原則として全体防御方式を採用した。応急修理要員を設けることで、工作艦の支援なく、その場で応急修理が可能となっている」


「敵戦艦が16インチどころか18インチを持ち出した場合はどうする?」


「なに、こちらには艦爆と水爆があるぞ。単艦決戦思想から航空決戦思想に」


「敵戦艦は事前の空襲で痛めつけてから止めを刺しては?」


「それが良い」


 50万トン戦艦は全体防御方式を採用した上に工作艦の到着を待たず自己修復が可能である。それでも主砲に限らない重要区画は分厚い装甲に纏われ、主砲は最低でも14インチ砲を通さない厚さを確保し、46cm砲と41cm砲は己の徹甲弾の貫徹を許さず、副砲と高角砲の弾薬庫も誘爆対策を念入りに施していた。これに応急修理要員という専門の人員を設置する。深刻な被害が発生した場合は速やかに応急修理を行った。敵艦から滅多打ちにされてもしぶとく生き残って各個撃破する。


「最後に二式艦爆と二式水爆が60機もある」


「水爆は艦隊の目となり、艦隊の対潜の盾となり、艦隊の対空の槍となる。水上機は何かと使える」


「二式艦爆の名前は決まったのか?」


「我々の液冷発動機仕様を『彗星』とし、空母の空冷発動機仕様を『明星』とし、どちらも甲乙つけがたい」


「陸軍の襲撃機みたいだ」


 これだけの武装を詰め込んだにもかかわらず余裕はまだある。この余裕に大砲を積んでも構わないが、山本五十六を首領に据えた航空主兵が口を挟み、航空機の運用を頑なに譲らなかった。彼らは両舷に飛行甲板を拵えて戦闘空母に変えることを主張する。木製の飛行甲板は明確なウィークポイントで戦艦同士の砲撃戦に絶対不利を呈した。大艦巨砲と航空主兵が調整を重ねた末にカタパルトを多数装備して水上機と特殊な艦上爆撃機の運用に妥結する。


 最新式のカタパルトを備えて水上機と特殊な艦上爆撃機の運用能力を得た。日本海軍は伝統的に水上機を重視して世界最高の高性能機を送り出す。水上機は偵察任務だけでなく、対潜哨戒任務、連絡任務、迎撃任務など多用途を誇る。本艦は偵察機兼爆撃機の二式水爆を抱えた。特殊な艦上爆撃機に関しては特異で複雑な事情がある。50万トン戦艦専属の航空部隊の際に回させていただきたい。


 本格的な飛行甲板は持たないため、水上機はともかく、艦上爆撃機が帰投する先は友軍の空母か地上基地だ。操縦手は脱出して機体を捨てる手もあれど最終手段に過ぎない。もちろん、本艦は航空艦隊と協調することを前提に置いた。艦爆隊が帰投する先は空母で特段の問題は生じないだろう。


「あとは高角機銃だけだが」


「あいにく、あいにく、あいにく」


「これが間に合わない。戦艦、重巡、軽巡、駆逐艦、空母に限らない。ありとあらゆる軍艦に装備する物を50万トン戦艦に集中せよと言うのは酷だ」


「近距離防空は護衛艦に任せざるを得ない。新式機銃は要らぬのだが」


「オチキスの25mmも13mmもダメだ。やはり40mmの多連装機銃を並べるべき」


「毘式か? あれこそ失敗作だ」


「まぁまぁ、ある物を使いましょうや。40mm、37mm、25mm、20mm、13mm、12.7mm、7.7mmの全てを積んで構わない。50万トン戦艦の巨体が受容してくれる」


 生産性のない激論が始まりそうである。


 50万トン戦艦の全容の残りは明日にしようか。


続く


〇50万トン戦艦

排水量:50万トン以上

全長:1017m ※最大値

全幅:150m  ※最大値

主砲:46cm三連装10基30門

   41cm連装砲10基20門

   36cm連装砲24基48門

副砲:15.5cm三連装砲20基60門

高角砲:10cm連装高角砲100基200門


その他は次回に

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