第参拾漆話:謁見信濃国の姫
「ほう……貴様がそれの相手か」
天守閣に正座させられながらも対面するのはこの国を治める姫。
斗真さんに早苗さんそして俺と目の前の暴君しかいないこの場所。そこにいる俺は極限の緊張状態で臨んでいた。
性格は知っている。
それに、原作のシナリオでしか語られてなかった内面すら俺は覚えている。だからこそ取ってはいけない選択肢や行動に気をつけて――何より、嘘をつき通すため、
「そうだ。それで、あんたがこの国の姫で良いんだよな?」
俺は強気な態度で彼女に挑む。
交渉や騙し合い――それは彼女が何枚を上手であり、下手に騙そうとしても首を刎ねられるだけ、それならば真っ正面から嘘をつく。
「万屋夜見の店主、店員は三人――その誰もが女性であり爛れた関係ではないものの、女誑しという評判を持つ。これは一日で調べた内容だが、こんな貴様があれと契りを結んだと? そもそもどうやって出会ったのだ? そこを答えよ」
なんか想像していた詰問と違う。
でもとりあえずここでバレるわけにはいかないので、なんとか答えようとする。
「城下町で偶然出会ったんだよ。それで俺が――早苗さんに、一目惚れして……どんどん好きになって――それでだ」
「ならきっかけはどうなんだ? それだけでは貴様の一方的な想いであろう? 婚約を結とならばそのきっかけぐらいは答えられるはずだ」
どうしよう……やばい、きっかけって何だ?
生半可のな理由じゃ納得はされない――それに、下手な嘘じゃ一瞬でバレる。でも、きっかけって何だ?
「それは私から言い出しました――四日前に町の子供達と野槌に襲われた時に夜見さんが助けてくれて、それからです」
「四日前――あぁ、消息が消えた人飲みか。そうなると貴様がアレを倒したと……なら力はあると思っていいのか?」
「あぁトドメも刺したし、氷像のままだろうな」
「そうか。でだ本題に入るが、祭事はどうするつもりだ? このままでは豊穣祭は行われず、この国の雨量に関わり、そうなれば作物は育たず、国が終わるのだぞ? 一度逃げた
横目で見る早苗さんはその言葉で体を震わせた。
何を思っているかなんて想像出来ないが……前の話を聞くにその時の恐怖を思い返してだろう。
「割って入って悪いけどね――祭事は倒すだけなら、代役を立てていいはずだろう」
「しかしだ斗真、それこそ龍水の力に勝てるものなど早苗しかいないだろう? 代役も入れて二人まで、受け入れる事を考えれば一人しか入れない――そもそも、早苗級の加護持ちなどいない」
……そこで湧く疑問。
龍水様の力を受け入れる器は、彼女……凪沙でも大丈夫なはずなのだ。それなのに早苗さんにこだわる理由が分からない。
……もしかして俺は何かを忘れているのか? でも、いまは悩んでいる暇はない――この険悪な空間では話が平行線、凪沙からすれば祭事は行わないといけないもので、こっち側としては早苗さんの心が折れているから出来はしない。
今からの言葉を自分から言うのは怖い。
だけど……それしか道はないだろうから。
「凪沙様、試練には二人で挑めるんだよな?」
「そうだが――もしや、貴様が代わりに挑むとでもいうのか?」
「あぁ……出来るんだろ? ならやってやるよ」
「――蛮勇だな。それも早苗のためか?」
「そうだ。それなら文句ないよな」
今の言葉に嘘は一切無く、本心のみだ。
子供を助けようと自分を犠牲にして野槌と戦った彼女、付き合いが彼女は優しい人で、誰かのために傷つくことができる人なのだ。そんな彼女を死地に送るのは嫌だ。
だから俺は戦うことを決める。関わった人の顔が曇るのは嫌だから、そのためならと頑張ることが出来る。
「そうか、なら手配しようではないか。そっちにも準備が必要だろうが、祭りまでは短い。だから明後日、明後日の正午に貴様達には挑んで貰おう」
「上等だよ、俺一人のみで勝ってやる」
「それが虚勢でないことを祈ろうか」
そんなやりとりを終え、俺達はこの天守閣から去ることになり……またも火之巫女亭に泊まることになったんだが、その夜俺は眠ることが出来なかった。
その理由は単純で、俺が戦う存在のことを今でも覚えているから。
「……アレと戦うのか」
明後日戦うそれは九頭竜大神の権能そのもの。
【かみかぐ】のストーリー三章のボスを務める存在であり、序盤最強のボスなのだ。そこまでの経緯はうっすらと覚えているが、雨が止まなくなった信濃国で再び豊穣祭を行うためにと――あれ、そういえば何故雨が止まなくなったんだ?
待て……思い出せ、多分それは大事なことで今回の事件に関わっているはずだ。俺は何を忘れている? そもそも、早苗さんは本当に原作にいない人物なのか?
確か原作では【かみかぐ】では、凪沙は誰かを失ったという記述が――と、そこまで俺が考えたときだった。部屋の戸が叩かれて、誰かが声をかけてくる。
「夜見さん、早苗です――あの、起きてますか?」
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