第参拾伍話:修羅場ー!!

「……おい貴様、それは本当か?」


 早苗さんと城兵に挟まれながら殺気を受けるが、そんなことよりと俺は横目で見る皆が怖い……真神の爪は食い込むし、朧様まで無表情、神楽に至ってはハイライトまで消えており全員の視線が俺に向いている。


「なんとか言え! 本当に、早苗様と婚姻を交わしたのか!?」

 

 この場の空気は絶対零度にまで下がり、冷や汗すら流れる地獄みたいな状況の中――その焦り顔を見た城兵は肯定として受け取ったのか怒声を浴びせてきた。


「どうなんだ!」


 まって知らないから、俺何も知らないんだよ。

 ――最早完全に語彙が消えるような思考が巡りに巡り、心の中で皆に弁解しようとするが、あまりにも虚空を見つめる神楽が怖くて余計に言葉が出てこない。

 でも、怯える早苗さんの様子を思い出し、この後の地獄を受け入れる事にした俺は……覚悟を決め、苦渋の思いで言葉を出す。


「そう、だな――あぁ、それがどうしたんだ?」

  

 なんとか意地を張ってそう言うが、何故か涙が出てきそう。

 あれなんだ――朧様の視線まで冷たくなったんだ。最後の良心はもう真神しかいないし、これ以上罪を重ねたくないけどもうここまでやった以上今更逃げられない。


「さては貴様が早苗様を誑かしたのか! 許さぬ、この色狂いが!」


 凄い罵倒されてる。

 でもそんなことより何かをブツブツ呟く真神が怖い。

 あるじ、あるじ? と小声で繰り返す家族の姿に背筋が冷える。

 三人の女性の冷たい視線、それが一身に注がれるせいで一切気づかずキレる城兵さんに尊敬すら湧いてきた。


「――はい、私はこの方と添い遂げると決めたんです。だから帰ってください!」


「ねぇ早苗ちゃんもこう言っているし僕の店で暴れるのはよしてほしいな――ねぇ、城兵の皆?」


 そして落とされた新たな爆弾に神威すら放ち始めた神と神使の二人。

 これ、もうだめだーと諦めの境地に達した途端、店の奥から白髪の男性が割って入ってきた。

 

「なっ斗真とうま様まで何故こんな所に。貴方は隠居された筈では!?」


「そりゃあ、僕の店だからかな? ――でね、ここは大事な場所なんだ。せっかくのお客さんに迷惑もかかる。だから今日は退いてくれないかい?」


「――しかし、それでは祭事が!」


「そうだね、それは大変だ。それにそれは早苗ちゃんを匿っていた僕にも非がある。でもさ彼女が決めた相手のことをちゃんと見るくらいはしないかい? それこそ、凪沙ちゃんに報告するのが優先だと思うんだ」


「ッそう、ですが――こんなどこの馬の骨かも分からぬ男に早苗様を任せるなど出来るはずがありませぬ!」


 さっきから評価酷くないか?

 初対面だし、殆ど喋ってすらないはずだよな? なのに、なんでそんなに罵倒されなければいけないんだ?


 え、泣くが? 普通に状況も相まって怖すぎるから一瞬で泣ける自信があるが? それにそもそもの連れ戻すからずれてない? 俺が気に入らないとかそんなんになってる気がする。


「じゃあ約束しようか、僕も明日城に行く。それで凪沙ちゃんと謁見させてほしい、それにこの夜見君を同行させるから、今日は退いてよ」


「――貴方がそこまで言うのならば、おい貴様命拾いしたな! 斗真様に感謝しろ、きっと貴様は凪沙様に断罪されるだろう!」


 終わっている程に情けない思考の中、事だけが進みあれよあれよの合間になんかそんなことが決まっていた。相手もなんか酷いことを言いながら渋々と帰って行ったし、本当になんだろうこの混沌……。


「さて、みんなごめんだけど今日は店じまいかな? 今日のご飯代はいいから、他言無用で頼むね?」


 そしてその斗真? という方がそういえば、いた客の皆もそれならばと帰っていき、俺達だけがこの場に残された。


「――夜見、説明出来る? あ、大丈夫。言い訳とかは聞かないから、あった事だけ話せば良いよ? ねぇ真神達も、気になるよね?」

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