第弐拾漆話:やっぱり逃れぬ女難の相


「それで久しぶりだね、月詠」


「本当に姉様の覡だったとは。というかなんなのだ? 姉様の力を宿せる人間って」


「それは夜見が凄いから……それより、聞きたいんだけどなんで貴方から夜見の霊力を感じるの?」


「あ、えっと――それは、深いわけが――あるのだ」


「へぇ……ねぇ夜見、あとでお話」


 あれ? どうしよう神楽が怖い。

 何が怖いかは具体的には言えないけど、俺の本能がやばいって告げている。逃げたらやばいし下手に言い訳をするつもりはないけれど、なんか選択をミスったらやばい気がする。


「……それで聞きたいんだけどさ、これから朧様どうするんだ?」


「私ですか? そうですね、隠居しようかと思っております。もう神としてこの場にとどまる必要がありませぬから」


「それ大丈夫なのか朧様? 加護の関係とか……」


「あ、それなら大丈夫にございます――この地で加護を与えていたのは、私が選んだ神使である結月様なので。穢れていた私の加護など常人には耐えられぬでしょうし」


 結月という名前で思い浮かぶ心当たり、それは月蝕村の村長なのだが……今の話を聞く限り人間ではないのだろう……。


「なんなら今もこの場にいますよ?」


「え……?」


 朧様がそういえば、野狐達の中の一匹の狐が人の姿をとって、あのとき会った村長へと姿を変えた。


「一週間ぶりですね夜見さん、朧様を助けていただきありがとうございます。改めて夢狐ゆめきつねの結月、この周辺の狐たちを代表して感謝を」


「なああんたは色々知ってて、俺にあんな風に依頼したのか?」


「龍水様に貴方の治癒能力と人柄は聞いていましたので、それに私は手助けはちゃんとしましたよ? ここに来るまでいろんな夢を見たでしょう?」


「あれ、あんたの仕業だったのかよ」


「えぇ、まあ……私はそういう化生ですので」


 助かったから文句は言わないが、朧様のプライバシーがあんまり無かったので、そこに関してを考えてジト目で睨む。


「おや、お気に召しませんでしたか? やはり、朧様の私生活も見せておいた方がよかったですかね?」


「それは止めろ、流石に不憫だ」


「ふふ、貴重ですよなんなら今日の夢で見ますか?」


「だからいらないって」


 そんなやりとりを交わしながらも俺は改めて朝日が差し込む社を見る。

 そこには俺を含めいろんな人がいて、皆が笑っていた。誰も失わず、誰も欠けず得られたハッピーエンド。

 初めて自分で成したそんな結末になんといか心が軽くなった。


「話は戻すが、朧よ隠居するなら夜見に着いていけば良いのではないか?」


「夜見様……にですか?」


「あぁ一人でいるより、そっちの方が良いだろうし、それに汝自身も嫌ではなかろう?」


「ですが……私のような者がいても迷惑になるだけでは?」


「この馬鹿はそれを気にするような奴ではない、それは朧も分かっているはずだ」


 あれ、この流れ朧様が万屋に来る感じなのか?

 ……でも、今の万屋の借家の状況を考えるに部屋が足りないし、そもそも神楽が許してくれるかどうかが問題になる。

 俺としては住む場所が無いのなら構わないが、決定権は神楽にあるし……。


「……夜見、そんな小動物みたいな顔でこっち見ない――襲いたくなるから」


「え、神楽?」


「何でも無い。それより朧を住まわせるのは構わない、境遇も聞いたし、ちょっと親近感があるから――でも朧、これだけは肝に銘じて? 夜見は私の」


 なんか当たり前の事を朧様に言っている様だが、なんでそんな釘を刺す必要があるのだろうか? それを少し不思議に思い、俺は彼女達のやりとりを見守っていたのだが……そのタイミングで月詠様が割って入ってくる。


「……神楽姉様、もしかして姉様は――夜見に惚れているのか」


「そうだよ、夜見は私の覡……私だけの覡だし、ちゃんとそういう契約した」


「――ねぇあるじ、依頼が終わったしでぇとしよ!」


「あーそういえば、そんなこと約束したな」


「うん、だからいこ!」


 確かに俺は馬車でここに来るとき、真神とそんな約束をしたことを覚えている。約束したわけだし、断る理由はないが……。


「へぇ夜見はそんな約束してたんだ……ふぅん」


「神楽……ちょっと怖いぞ」


「大丈夫、その代わり次は私ね」


「別に良いけど、皆で行けば……あ、なんでもない」


「成長したね、じゃあ約束」


 そうして、流れるように数日の予定が埋まる。

 でも多分大丈夫だろう、だって帰るまでは平和だろうし、何より朧様を助けることが出来たのだから。


「……何があったのだ? あの姉様が人間に、惚れる? 天地がひっくり返ったりでもしたのか? もしかしてこの幸福は夢なのか?」


「ねぇなんで会う神の皆は信じないの?」

 

 神楽のその反応を見て、頭に疑問符を浮かべながらも混乱し始める月詠様。

 そんな彼女に対して、頬を膨らませながらも文句を言う神楽は可愛らしく、いつも通りの俺の神様に見える。


 だからか、出会う神々の神楽への反応が不思議だし……昔の神楽がどんなだったのかも余計に気になった。

 龍水様も初めて会ったときなんか目を丸くしてたし、真神も来た当初はびくついてたし……。


「まあいいや、それより朧その条件さえのんでくれれば好きに過ごしていいよ」


「……すみませぬ神楽様、その条件は少し飲めそうにないかと」


「――なんで?」


「……私まだこの感情は言葉に出来ませぬが、夜見様ともっと居たいと思うのです――初めてのこの感情を知りたいと、彼がくれた暖かさを離したくないので、私の中で感じたあの温もりを二度と」


「……じゃあ同盟結ぶと同時に戦争だね、私は手強いからかかってくると良いよ」


「……負けませぬ」


 あれ、なんだこの空気……圧が増したというか、湿度が増したというか。

 部屋全体がジメジメしたように感じるし、なんか真神までもがこっちを睨んでる……それどころか、何かを確かめるようにこくこくと頷いている。


「それでは……不束者ですが、よろしくお願いしますね――ふふ、貴方様?」




[あとがき] 

 というわけで壱幕終わりです! 今回の章は、万屋夜見のメンバーが増えるって感じの話でしたが如何でしたでしょうか? よければ応援コメントをお書きください。

 そしてこれを書いている間にカクヨム執筆歴三周年を迎えたり、異世界ファンタジーランキング20位以内に入ったりしましたが、これも読者の皆様のおかげです。

 そしてこれはお願いになってしまうのですが、この作品が面白いもしくは楽しかったと思えましたらどうかフォローや☆をお願いします。

 時間は不定期になりますが、出来るだけ毎日更新を頑張るのでどうかこれからも応援をよろしくお願いします。

 

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