第弐拾伍話:稲妻の理
「いいか夜見、こいつは汚染から生まれた化け物。朧の力は全て使えると思え!」
「そう言われても、攻撃方法知らないぞ俺!」
どこからか取り出した刀を手にする月詠様はそう言ってくれたのだが……俺としてはこの黒狐の攻撃方法を殆ど知らないので困ってしまう。
ゲームでの朧様の攻撃方法は一応覚えているが……それを当てはめるのは愚策だと思うから――とそんな事を考えた瞬間にこの場所が吹雪き始める。
「さっむ!?」
「朧は妾が与えた月の権能を使う、絶対零度もその一つ。気を抜けば氷死体だぞ!」
「それ早く言って欲しかったんだが!?」
ゲームだったらただの氷属性の攻撃だった気がするだが、それが現実となるとその脅威度は跳ね上がる。吐けば出てくる白い吐息、それだけでこの場の温度が下がったのは分かるし、体感温度は氷点下――長期戦は無理だと思っていいだろう。
現時点で俺が知っている能力は目を合わせることによる視界の剥奪、今出た絶対零度への環境変換と氷気の操作――そして記憶が確かならば、一番不味いのが。
戦い始めてから数分、あの黒狐の後ろには青い月が浮かび始めた。
今は三日月のそれだが、予想が正しければ……。
「ッ月詠様、後ろの月ってなんだ!?」
「これも使えるのか!? 人間あれは月の伝承に沿った呪いを妾等に齎すぞ!」
「詳しく頼む」
「あの術、狂月が完成すれば妾達は発狂する!」
まじで一番最悪の効果がそのまま来るのかよ。
あれが満月に差し掛かると発狂状態のデバフを受けるのを覚えている。
ゲームでは主人公の操作が反転し、受けた味方が敵対状態になるというものだったが……これがリアルになるのだけは不味い。発狂の効果など何が起こるか分からないし、対処法が無い理不尽なのだ。
ゲームではアレを阻止しながら戦えたが、現状単純に仲間が足りない。
【かみかぐ】はアクション和風RPGで、基本操作が仲間含めて四人のゲームだったからまだ理不尽に抗えたが、この二人だけではそもそもの役割分担が出来ず――。
「って、やっぱ考えてる暇ないよな!」
迫る氷柱、四方から迫る槍尾。
ゲームでの理不尽がそのまま俺達に襲いかかり、確実に獲物である俺達を狩ろうとしてくる。その上あの術を考えると時間が無いし、何よりジリ貧なこの状況。
神楽の恩恵がなければただの支援特化の俺は、この戦いについて行くのが精一杯で――それにあれの反動を考えると、あの切り札を無闇に切る事は出来ず。
自分が分霊と言ってた月詠様は、俺の回復能力を信じてか勇敢に攻めてくれるが、決定打が無い。何度も彼女を治しているが、このままだと先に霊力が無くなる。
「――ッもうすぐで十三夜、急ぐぞ夜見!」
そう言われて後ろの月を見れば確かに十三夜、つまりはあと少しで満月が完成するところだった。その瞬間、俺の選択肢は一気に絞られる。
「我、禍津神楽に
「夜見……やはりその言の葉、神楽姉様の」
月詠様がナニカを言ったようだが、それを気にする余裕はない。とにかく俺は彼女に――神楽という神様に祈りを籠めながらも、俺は祝詞を唱えて恩恵を借り受ける。
冷気を操る黒狐に氷河の理は使えない、だから俺がこの場で使うのは!
「鳴神を轟く稲妻の理!」
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
名:夜見 存在強度――稲妻
称号:[八十禍津日の愛し子][螟ェ髯ス逾槭?闃ア蟀ソ][稲妻の理を掴みし者]
生命力:50
霊力:1200+150
筋力:24+30
器力:50
守力:10
速力:14+200
【霊術】
・身体強化
・回復祈祷
・解呪祈祷
・霊視
・結界術
【
・『災禍の恩寵』……八十禍津日――神楽の権能を借り受ける
稲妻の理――霊力に属性・雷を付与する。
肉体変質・霹靂神
存在強度の変質
鳴神之一太刀
制限時間―八分
存在強度不足
・『
・『
・『黒狼を隷属させし者』……黒曜大口真神の召喚権を得る。
・『螟ェ髯ス逾槭?蟇オ諢』……隧ウ邏ー荳肴?
繧ケ繝?う繧ソ繧ケ謌宣聞陬懈ュ
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「月詠様――ここからは俺に任せてくれ!」
恩寵により溢れる全能感と上がるステータス。
……しかし、それだけでこんも黒狐に勝てるとは思えない。
だからこそ思考を巡らせろ、最善を選べ――何が何でも朧様を助けるために、全力を果たせ。
迫るのは先程以上の質量の氷の塊、対峙する狐の本能そのもののような相手を殺すその力。俺の変化を脅威として悟ったのか、俺を殺すために相手は術を使う。
「それは――当たらねぇ!」
だが、今の速度に特化した俺にその巨大な氷塊は当たらない。
それどころか、それを両断する余裕すら俺にはある。続いて放たれたそれに対して刀に雷を纏わせて、そのまま縦に一閃。
「――このままいくぞ!」
この稲妻の理を使っている最中、俺は空に浮くことが出来る。
故に動きは自在、それに想像通りに使える術の数々が、俺の事を助けてくれる。それに一瞬だけ見えたステータスには新しい御業が追加されていた。
自然と……頭に祝詞が流れてくる。
ならばそれを使うだけ、だから俺は――その言葉を唱え始める。
「――我、雷害を齎す者。神鳴を轟かせ、大地に威光を知らしめん」
だけどこれは大ぶりの攻撃、素早いこいつに当てるのは至難の業であり――とそう考えた瞬間の事。月詠様がなにやら術を練り黒狐の動きを止める。
心の中で感謝し、俺は最後の詞を唱えた。
「――【
それは超圧縮した稲妻を刀に纏わせて放つ一撃。
俺が放った必殺。それは、相手の体そのものを両断し、背後の狂月すらも両断した――のだが、その反動は大きかった。
手に入れたばかりのその必殺技は俺の大半の霊力どころか体力すら持って行き、過剰な力の反動で俺まで雷に打たれたような衝撃が襲った。
「ッ――でも倒した」
「よくやった夜見、そのまま朧の魂を浄化するのだ!」
すぐに――俺は雷のまま満月に近づき、そのまま全力で霊力を籠めて朧様の魂である満月を浄化した。
浄化し始めると今まで溜まっていた瘴気が溢れ、それが俺に襲いかかる。
毒……いや、最早そんな言葉すら生温い、魂を蝕むそれが襲いかかってくる――意識が保てない。呼吸が、苦しい。
「ごふっ――」
あまりの瘴気の渦に血を吐きながらも、俺は浄化を続けていく……だけど、霊力が足りないのか浄化の速度が落ちてきた。
万全だったら……とそんな後悔は遅く、アレを倒すにはこれしかなかった。
「いや、諦めるな! 助けるって決めただろ!」
そう言って自分を鼓舞して、生命力を霊力に変換する禁術を使う事を選ぶ。これは不知火家の書物で覚えた技、神楽に話していたが――使うなと言われたそれ。
だけど、それしかないと。そう思ったから。
足り無いのなら足せば良い、そんな考えで俺は術を使おうと、
「――夜見、妾の霊力を預ける。だから任せたぞ?」
その言葉と共に俺の背に手が添えられて、一気に霊力が回復した。
神の霊力が足されたその浄化の術は、この場に溢れる全ての瘴気を祓う。
この魂の空間全体に俺と月詠様の霊力が満ちて、視界が光に包まれ――次の瞬間ははじき出されて、気づけば外に……。
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