第壱拾玖話:遭遇
不味い、不味い――まじで不味い。
やられた。こいつに遭遇する上で何よりもやっていけないことをやってしまった。この獣は理不尽は、遭遇し目を合わせた対象の視界を奪う。
「ッ最悪だ!」
それだけだったらデバフを解除する解呪でなんとかなるが、こいつのこれは強制的な祝福に分類され解呪が出来ない。
何も見えない暗闇の中、音と気配察知を頼りにするが――夜の闇の中でそれを支配する朧狐の気配は探れなかった。
まるで水面に映る月のように、虚像のような気配だけが周りに満ち、その存在は感知できず、理不尽な攻撃で俺は殺される。ゲームだったら視界が制限されるだけだったが、現実となるとあまりにもきつすぎる。
戦闘の才があったのならばきっと、音を頼りに戦うことが出来るだろうが、俺にそんなものはない。
「――あるじ!」
真神の声が聞こえて、何かに腕をつかまれその瞬間に投げられて艶やかな毛並みの上に俺は乗った。
「――あるじ、なんで避けないの!?」
「視界をやられた。真神、絶対に目を合わせるな!」
「ッ――分かった、なら真神があるじを助ける。あるじ、隷属させて真神を受け入れて、真神をあるじのものにして――そしたらきっと」
そこまで真神が言った瞬間、びゅんと何かが過ぎさる音がした。
真神がかなり速く動いたことで避けれはしたものの、多分今のは奴の尻尾だ。あの狐の武器であろう槍尾、それは通常攻撃であるものの今の俺の耐久じゃ即死だ。
「真神、隷属ってなにすればいいんだ!?」
「真神の血を飲んで、飲めば存在強度が上がってあるじ強くなる。強度が上がれば、存在が昇華してきっと解除される……でも少し人から外れる――それに失敗したら、あるじは戻れなくなる」
……人ではなくなる。
それは、考えるだけで恐ろしいことだ。
代償としては完全に理解できないが、真神が嘘をつくわけがなく、その契約を受け入れたら確実に俺は人を。
――でもこの理不尽と戦うには、そんな思考すらしている暇が無い。しかもそれは成功する保証がなく、真神の口振りからして失敗すれば何かが起こるだろうが。
「了解だ。俺は真神を信じるよ」
そんなもの生き残り、真神と共に神楽の元に帰るためなら些細な問題だった。
――俺の命は神楽のもの、こういう判断を自己でするのは躊躇うが……真神が俺なら耐えられると思って言ってくれたのだろうから、それを信じないのは駄目だ。
「ッ分かった――横を触って、あるじ」
言われたとおりに手探りで彼女の体を撫でれば、ぬめっとしたものが手に着いた。
触れて分かる血の感触、それに何があったかを想像するも――今それを考えている暇はないので、彼女を信じてそれを口に含んだ。
『螟ェ髯ス逾槭?蟇オ諢より通達、
その時、機械的なそんな声を聞いた。
事務的に淡々とそれを告げられた俺は、どこか少し意識が遠のきながらも躯の中に流れた真神の血を強く感じた。
飲んだその血が、体に馴染む。
明確に宿るそれに体が熱くなり、喉が焼けるような痛みを覚えた。その瞬間に、俺の視界が晴れて――生まれ変わったかのように疲労や道中に使った霊力が回復した。
『存在強度の上昇により条件達成、災禍の恩寵の項目、稲妻の理の解放』
最後にその機械音声のような無感情な声がそう伝えた瞬間に俺の頭に祝詞が浮かぶ。それは唄と鳴って自然と口から出ていき、
「我、禍津神楽に
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
名:夜見 存在強度――稲妻
称号:[八十禍津日の愛し子][螟ェ髯ス逾槭?闃ア蟀ソ][稲妻の理を掴みし者]
生命力:50
霊力:1200+150
筋力:24+30
器力:50
守力:10
速力:14+200
【霊術】
・身体強化
・回復祈祷
・解呪祈祷
・霊視
・結界術
【
・『災禍の恩寵』……八十禍津日――神楽の権能を借り受ける
稲妻の理――霊力に属性・雷を付与する。
肉体変質・霹靂神
存在強度の変質
制限時間――四分
存在強度不足
・『
・『
・『黒狼を隷属させし者』……黒曜大口真神の召喚権を得る。
・『螟ェ髯ス逾槭?蟇オ諢』……隧ウ邏ー荳肴?
繧ケ繝?う繧ソ繧ケ謌宣聞陬懈ュ
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
そして変わったステータス。
初めて使ったときと同じで異常な力が記されたそれ。
やはり俺の存在強度がまだ足りてないのか、制限時間は短い――だけど新たに手にいれたこの力は速度を高める者であり、阿呆みたいな速さを持つ朧狐にはもってこいだった。
「っし――やるぞ、真神」
「うん、戦うよ……あるじ」
狼と化した真神と並んで俺はそう言った。
対する相手は理不尽であり、このゲームのエンドコンテンツの一柱。
だけど、今の俺と真神ならきっと――戦えるはずだ。
対峙する狐は急に気配の変わった俺を不審に思いながらも喉を鳴らしている。怯える野狐達を守るように……俺達へと立ち向かい、そして戦いが始まった。
「――
最初に仕掛けるのは俺だった。
雷を刃に纏わせて――存在そのものを雷に変質させて迅雷の速度で狐に迫る。そしてそのまま一閃、刀を振り下ろしたその一撃が相手にダメージを与えた。
「ッ――――」
声にならないその悲鳴、だけど相手は怯まず炎の杭を発射してきた。
青白いそれは雷と化した俺へと迫るが、今の俺にはあたらない。上がった敏捷を存分に使って、その悉くを回避する。
そして攻撃するのは俺だけではない。
「――ッ」
万全の真神が狐に向かって爪を突き立てる。
真神の敏捷を生かした爪による攻撃が相手に直撃し確かな傷を体に刻む。
そしてまた俺が近づこうとしたんだが、朧狐が尾を振って風を起こして俺から距離を取った。
「――逃がすか!」
俺はそのまま追撃しようと雷を槍へと変えて投げようとしたのだがその際に見てしまった。先程までいた野狐を尻尾の中に隠して離れたことを。
それにいつの間にか、最初いた狐が全ていなくて全員が尻尾の中にいたのだ。
「おぼろさまやめて!」
「そのにんげん、てきじゃない!」
「まかみも助けてくれるって!」
「――――」
――声にもならない悲鳴を上げて、苦しむようにしながら野狐を守りながら戦う朧狐。そいつからは今まで何故感じなかったのか疑問に思うほどの瘴気が溢れて、そんなそいつに違和感を覚えた俺は、決死の覚悟で近づくことにした。
迫る槍尾、俺はそれを避けながらも朧狐に近づいて、迫る直前に一本の尾が俺の体を削ったが、それでも前へと進み。
「――――――――」
祝詞を唱えて祈祷を使い、彼女の瘴気を祓った。
そして、俺はそれを最後に受けたダメージと制限時間からか気を失ってしまったのだ。
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