第壱拾壱話:黒狼の恩返し?
「主って夜見兄ちゃんだったの!?」
「よかったねまかみ、見つかったよ!」
「……女誑し」
無邪気に喜ぶ子供達の中に何か混じっていたような気がするが、そんな事を気にしている余裕はない。
現在進行形で俺は彼女に押し倒されていて、正確な姿も確認できてないし……何より状況が一切分からない。それに顔を舐められたし、もうどうしたら良いんだろうか?
「とりあえず、舐めないでどいてくれ……何も分からないから」
「あるじ、それは……命令?」
「お願い、かなぁ?」
「分かった……あるじの言うこと、聞く」
人違いかもしれないのに完全に言うことを聞く彼女を見て余計に頬が引き攣ってくる。何なんだ? 何を試されているんだ? ……と心底思いながらも獣人だという彼女を見る。
目の前にいるのは十五歳ほどの少女。
艶めいた純黒の髪は地面に付くほどに長く……その瑠璃石のような瞳は輝いていて明らかな歓喜の感情を浮かべている。
獣人の証だろう黒い狼の耳はピコピコと動いていて、同じ黒い尻尾なんてこれでもかと揺れていた……衣服に関してはぼろ布で、色々見えそうなくらいにはやばい。
あまりの際どい格好にこっちが気まずくなってきたが、彼女は気にしていないようで……風が吹かないでくれと心底思いながらも恥ずかしくなって顔を逸らせば。
「わふどした、あるじ?」
ホントに誰だよ……。
主とか覚えないぞ俺……そもそも、ちゃんと服着ろよ。
「えっと人違いでは?」
「匂いが同じ気配がそう、何より味がそう」
俺の味ってなんだよぉ。
こんな子に今まで会った事なんてないし、言ってる事が結構やばくて俺は限界。
でも、とりあえず話を聞かないことにはどうにもならないし……。
「えっとそれで君は?」
「真神は真神、敬語は嫌」
名前はやっぱり真神、なんか聞いたことはあるんだよなと思いながらも名前を言って聞き返す。
「それで真神さんは……」
「さんもいらない、呼び捨てがいい。それに真神って呼んで、距離感じたくない」
「で、でも初対面だし」
「……あんなに私をむちゃくちゃにしたのに?」
せめてもの抵抗にそういえば途端にこの場にいた子供からの視線が冷たいものに変わる。え、なにこの拷問。俺悪くなくない? 獣人なんて今世で初めて会うし、何も悪くないはずだぞ俺?
「あの真神様、誤解を招く発言はやめていただきたく」
「そのしゃべり方止めたら良いよ」
表情が変わらないまま、抑揚のない声と断固とした意思でため口を強要してくる黒髪獣人美少女。でも初対面相手に急にため口は悪い。
何より主と勘違いしている以上はなんとかしないと不味い。この絵面と先程からの発言のせいで俺の評判が落ちまくってる。
でも、このままじゃ話が進まないので……。
「真神はなんで皆といたんだ?」
「ん――主の気配だけは感じたからこの町で探して貰ってた!」
「それが俺?」
「うん、匂いも気配も絶対に間違えてない、だから会うの初めてじゃない」
さっき以上にはっきりした意思で俺と瞳を合わせて言う彼女。
絶対と豪語するだけはあるのか、無表情ながらに圧を感じて……嘘じゃないと思わせてくる。
「どこで会ったんだ?」
「森……ずっと苦しかったのをつらかったのを治してくれた。ずっと一人だったのに、あるじが救ってくれた――だから恩返しに来た」
「……その森って、社のあった?」
冷や汗が流れる。
俺が心当たりのある森などそこしかないし、狼で覚えがあるのはそこだけだから。
「――うん」
待て、待て……まじで待ってくれ?
めっちゃ身に覚えあるんだけど……いやでも……馬鹿でかいし、神威放って普通じゃ無いと思ってたけど――人になるとは思わない。
「……あの時、助けた狼か?」
「うん!
そっかぁ、神使かぁ。
人になれるんだぁと……俺は異世界すげぇという感傷に襲われ、後の地獄に心が折れた。
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