第壱幕:黒曜狼と月を喰らう狐
第拾話:信濃の国の回復祈祷師兼万屋
「……っと、はいこれで大丈夫だぞ次は怪我すんなよ」
「はーい! 夜見兄ちゃんも怪我気を付けてねー!」
祈祷を行い子供を治療した俺は、そんな彼を笑顔で見送って一息ついた。
神楽と共に信濃の国へやってきて約一年、十四歳になった俺は少しは得意な回復祈祷を行う万屋を営んでいた。この信濃の国では治癒祈祷を行える者は結構貴重らしく、万屋の仕事も相まって結構稼ぐことが出来ている。
まぁ……そんなに大きい戦争や妖怪との戦いもこの国ではあまりないそうなので、主な回復祈祷の客層は大工や狩人などの結構怪我しやすい仕事の人になるが……。
他に仕事の対象としては、あと遊んで怪我しちゃった子供相手になるのだが……それに関してはお金取ってないし、それに積極的に子供と関わっていたおかげか最近では怪我を治してくれるお兄さんとして覚えられてる。
「っうぅー今日怪我人多いから疲れたな、明日は休も」
借りている仕事場兼一軒家で人が来なくなった頃に伸びをして、俺はそんな事を呟いた。仕事が無いってことは怪我人がいないって事だし、これを収入にしているがそっちの方が俺は嬉しい。
万屋の仕事依頼もこの時間に来ることないし、多分今日は暇な一日になると思う。
「よし今日は閉店だ」
それが今の日常、追放され加護を居場所を手に入れた俺のかけがえのない日々の一幕だった。
――――――
――――
――
「……え、子供の調査を頼みたい?」
店を閉めて少し時間が経った午の刻。
急にやってきた雄馬さんにお茶を出し世間話をした後でそんな事を言われた。
「うん、最近街の子供達の帰りが遅くてね。ちゃんと帰ってくるんだけど、親が心配してるそうなんだ。世代の近い君なら調査しやすそうだし、頼みたいんだけど……いいかい?」
「構いませんよ、明日は店を休むつもりでしたし暇でしたから」
「助かるよ、期限とかが決まってないけど、先に依頼料渡しとくね」
そうして封筒で渡されるのは前世基準で三万円ほどの紙幣。
うちの依頼料は高くても五千銭と料金を決めており、ただの子供の調査にしては明らかに依頼料が多い。
「……多くないですか?」
「いやね、僕の妹も帰りが遅くてさ……兄としては心配だし」
「あーなるほど……家族馬鹿ですもんね、雄馬さん」
「馬鹿って酷いね……まあそういうことだから頼むよ」
「了解です、じゃあ早速調査始めますね」
「うん、じゃあ僕は帰るけど神楽ちゃんにもよろしくね」
はーいっとそうして彼を見送った俺は、受けた依頼をこなすためにも寝ているだろう神楽に書き置きを残して外に出ることにした。
とりあえずどこの子が帰り遅いかの資料は貰ったからその聞き込みをすることにして……という事を考えながら、俺は子供達がよく遊んでいる広場に足を運ぶ。
「あ、夜見兄ちゃんだ!」
「なに遊んでくれるの!」
「神楽姉ちゃんは一緒じゃないのー?」
そこにつけば遊んでいる子供達が俺を見て一斉に集まってきた。
話を聞けば鬼ごっこをして遊んでいたようで、鬼役を探して悩んでいたようだ。
「ねぇねぇ夜見、鬼やって!」
「別に良いぞ。あ、でもその前に聞きたいことあるんだけどいいか?」
「いいよー!」
「えっと最近みんな夕方ぐらいどこで遊んでるんだ? いつも遊んでる場所で見ないし心配でさ」
子供に下手に隠し事をしても意味ないので俺はそれを直球で聞いた。
するとこの中のリーダー格の子があからさまに動揺したような顔をする。
「……えっと。駄目、夜見兄ちゃんにも言えない」
「でも……夜見なら探してくれるかも」
「どうしよう」
そして子供達同士で集まって何やら作戦会議を目の前で始めた。
聞こえてるんだけどな……と思いながらも、ちょっと待ってあげれば彼らは決心したような顔でこう切り出してくる。
「大人には内緒にしてほしいんだけど、付いてきて」
そう言って手を引かれて俺は近くの森に連れてこられた。
こんな場所で何が? とも思ったが、さっきの口ぶりからして何か隠し事があることは分かった。
「まかみ、今日も来たよー!」
……まかみ?
なんか聞いたことのある名前に首をかしげて、少し待つ。
「あれ、なんで来ないんだろ」
「いつもならすぐ来るのになー」
「えっと皆、まかみ? って誰だ?」
「友達! なんか……主? って人を探してるらしいから皆で手伝ってるの! 獣人の子!」
……獣人って珍しいな。
信濃の国では殆ど見ない種族だし、基本的に山奥に住んでいる種族の彼ら。
てか、主を探してるってことは、その子は誰かの式神でもやっていたのだろうか? ……それではぐれたとなると、見つけるのは正直難しいような。
そんな事を考えながら、俺がそのまかみって子を待っていると……急に俺に何か黒い影が飛びかかってきた。
「ちょ――なんだ!?」
――そのまま俺は何者かに抱きつかれて、組み伏せられる。
何事かと思って衝撃から目を開ければ、とても綺麗な瑠璃石のような瞳と目が合った。誰? と思って離れようとも、力が強くて抜け出せない。
「わふっ、あるじ! やっと、見つけた!」
そしてあろうことか、そんな事を言い出して――俺は混乱の極みに立たされた。
「いや――誰だよ」
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