第陸話:旅立ち

「荷物は、殆ど無いか」


「果物ぐらいだね」


 風呂敷にいつも食べている葡萄と桃を包んで鳥居の前に二人で立つ。

 かなり身軽な格好で、それ以外に持っているものとしたら神社の奥に祀られていた一本の刀ぐらい。

 明らかな御神体だったけど、この神社の神様である神楽から許可は貰ったので、多分罰は当たらないだろう。そもそも罰する神と契約したわけだし……。


「じゃあ出発……でいいか神楽?」 


「うん、いこうね夜見」


 そして鳥居を潜って神社から出れば、最初来たときのように神社が見れなくなる。

 相変わらず不気味な気配が充満するその森を抜けるためにも俺達は二人で森を歩き始めた。


「楽しみだね」


「そうだな……改めて、よろしく神楽」


 二人っきりのこの旅路、どこに着くかは分からないがとりあえず森を抜けなきゃいけないし……生きるために色々考えることはあるのだが、神楽と旅をするためにも頑張らないと――それに、俺は神楽に笑ってほしいし、多分これは前世で言うところの推しへの感情に近いだろう。


「そういえば神楽……加護ってどんなものなんだ?」


 森の途中、歩きながらふと疑問に思ったそんなこと。

 この【大神争乱神楽】の世界で初めて加護を受けた俺だが、その使い方をいまいち理解してなかった。神様である神楽なら知ってるだろうと聞いてみれば、彼女はゆっくりとその疑問に答えてくれる。


「すていたすって言えば分かるよ」


「えっと詳しく頼む」


 それで聞いて分かったのは、神様や精霊の加護を受けた人間は存在強度というのを見えるようになるらしい。 

 そういえば、俺が転生してきた【大神争乱神楽】にはレベルの概念があったのを思いだし、多分それのことなんだろうと納得する。


「ねえ試しに唱えてみて」

 

 目をキラキラさせながら、彼女はそう言った。

 なんかいつになく興奮しているように見えるし、初めて見るくらいには目を輝かせている神楽、可愛いと思いながらも期待に応えるためにすていたすと唱えれば……。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

名:夜見 存在強度――零


称号:[八十禍津日の愛し子][螟ェ髯ス逾槭?闃ア蟀ソ]


生命力:30

霊力:800

筋力:13

器力:50

守力:10

速力:11


【霊術】

 ・身体強化

 ・回復祈祷

 ・解呪祈祷

 ・霊視

 ・結界術


御業みわざ

 ・『災禍の恩寵』……八十禍津日――神楽の権能を借り受ける

           存在強度不足

 ・『意富加牟豆美オオカムヅミ神饌しんせん』……魔障への耐性

 ・『黄泉戸喫よもつへぐい』……呪詛、瘴気、妖気への耐性 

 ・『螟ェ髯ス逾槭?蟇オ諢』……隧ウ邏ー荳肴?

繧ケ繝?う繧ソ繧ケ謌宣聞陬懈ュ

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


 ……唱えれば、頭に浮かぶそんな文字達。

 なんか色々ツッコミどころがありすぎるし、曲がりなりにもこの世界に元となったかみかぐをプレイした俺からすると余計に分からないそのステータス。

 存在強度が零なのは未だ経験を得てないからなのは分かるが、なんか霊力めっちゃ多い。それどころか、スキルに該当する御業がなんかめっちゃあるし文字化けすらしてる。

 

 語彙が完全になくなってる気がするが……色々意味不明で割となんだこれって言いたくなってしまう。俺がそのステータスにドン引きし、しばらく無言でいると神楽もなんか黙ってしまった。


「……私も見れるんだけど、夜見って何者?」


「まじで分からない、え……マジでなんだこれ」


「私の加護は分かるけど……なんか色々付いてるよ? 普通は受けた精霊か神の加護しか最初はないはずなのに」


「……どこで付いたんだろう?」


 二人してそれを見て頭を悩ませる。

 ……だけど結局考えても仕方ないということになり、俺達は再び森を進む。

 

「気配は感じるんだけど、なんで何とも出会わないんだ?」


「……多分、私のせい。私の神威は妖怪にとって毒だから」


「凄いんだな神楽、流石は神様」


「……えへへ、ありがとう」


 やっぱり可愛い。

 というか、それを聞いて思ったが妖怪に対して効果がある気配を放つ神楽がなんで禍津神として祀られているのだろうか。それを聞くだけでも、かなり人類の味方になるはずなのに――ってなんだこの気配?


「止まれ神楽、なんかいる」


「……人が襲われてる」


 今どこら辺にいるのか分からないけど、少し進んだ先に妖怪とは違う気配を持った集団とかなり大きい気配を持つ妖怪がいることに気がついた。


「神楽……手伝ってくれないか?」


「助けるの?」


「見過ごせないしな」


「夜見がそう望むなら手伝う――でも無理しないで私の加護は危険だから」


「――了解」


 そうして俺は、御神体であった刀を構え――襲われている人達を助けに行った。

 

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