3-10.リリィとセーナ

私は再度、風闇の繭を展開し、


今度は真っ黒な竜巻を生み出していく。



「次から次へと二属性の魔法を!もうわたしはいらないとでも言いたいの?」


「そうだよ!私は一人で行くの!セーナはもういらない!」



大きくなった竜巻をセーナに向かって放つ。


「わたしに嘘は付けないってば!」


セーナが上空に手をかざすと、

上から光の柱が降り注ぎ、竜巻を丸ごと消し去った。


この脳筋!なにそれ!




「いい加減諦めなさい!」


今度は大量に分身したセーナがそれぞれ巨大な光球を生み出していく。


幻影?同時発動?



自分を中心に守る様に闇を広げる。


セーナの放った光に包まれて闇は一瞬で消し飛んだ。











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「それで?敗者の申開きを聞きましょうか」


気が付くと私はセーナに膝枕されていた。


「なにそれ?仕返しのつもり?」


悪態をつきながら、セーナを見上げる。



「仕返ししたくなる気持ちも分かってほしいわね。

側を離れるなって言ってくれたのになんで私を置いて逃げ出すの?」


ついさっきまで笑みすら浮かべていたセーナだったが、

その顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。






「セーナはね、本当はセーナ・アージェントって名前だったはずなんだ。

勇者として選ばれたセーナはアージェント伯爵家の養子になるはずだった。

でも今のセーナはただのセーナ。私が横取りしたから」


「本当のリリィはもっと大人っぽかったんだよ。頭も良くて、綺麗で私は大好きだった。

でも、今のリリィはこのとおり。お馬鹿で子供みたい」


「お父様が怒ってばかりなのも私のせい。私が一杯迷惑をかけたからずっと忙しくしてる。

本当のリリィだったらもっと幸せに生きられたのに」


「魔王がいなくなったのに、私みたいな無駄に力を持ってる人間がいたら皆も困ると思う。

制御できない力なんて怖いでしょ?」


「セーナはあの国で幸せになれるはずなんだ。勇者は国の希望だから。

きっと皆が良くしてくれるよ」


「レオン達だって良い人達だよ?一緒にいれば好きになれると思う。」


「それに、故郷の村はどうするの?私に付いてきたら二度と戻れないかもしれないよ?」







黙って聴いていたセーナが私を抱きしめる。



「わたしのリリィは、いっぱい考えるくせに、何も考えずに行動するし、

すぐに元気になるくせに、いつまでも昔の事をうじうじ悩み続けてるし、

とっても面倒くさい子なの。」


「でも、わたしはそんなリリィが大好き。

わたしが好きなリリィは賢くないし、大人っぽくなんてない。」


「公爵様だって、他の皆だってそんなリリィが大好きなの。」


「いつまでもゲーム、ゲームって、私はゲームの主人公なんかじゃないし、

セーナ・アージェントでもないの。ただのセーナ。それのなにがいけないの?」


「この世界はゲームなんかじゃないのよ?

ゲームの記憶に振り回されて何度も失敗してきたくせにいつまでこだわっているの?」


「わたしはもう聞き分けのない子供じゃない。故郷の皆の気持ちも今ならわかる。

だからもう、私は旅立てる。あなたは変われないの?」


「わたしの幸せはリリィの側にしか無いのに。勝手にわたしの幸せを決めつけないでよ。」





そのまま泣き続けるセーナに抱きしめられながら、

私はなんて馬鹿だったのだろうと思う。


セーナを信じると決めたのに、またセーナの気持ちを信じなかった。

セーナを裏切った。


私の罪悪感をセーナに押し付けて、尻拭いさせようとして。



「ごめんね。セーナ。好きになってくれてありがとう。私も大好きだよ」




しばらく二人で泣き続けた。

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