3-3.必殺技

私達に降伏の意思が無いことを感じ、

騎士団長は私達のすることを真っ向から斬り伏せて心を折るつもりのようだ。


剣を構えて待ち構えている。



私とセーナは最後の攻撃を準備する。


本当は魔王対策に用意していたものだ。

まさか人間に向かって放つことになるとは思わなかった。




光魔法の真価は共感

あらゆるものと繋がる力。


たとえそれが闇であっても。



私とセーナの魔力が混ざり合い、

私達が掲げた手のひらの上に、

光と闇がマーブル状になった球体が生み出される。


光を逃がすまいと周囲の光を吸収して大きくなっていく闇と、

あたりに光を撒き散らしながら、闇と一体になっても存在感を主張し続ける光。

周囲が暗闇と光の粒に包まれる。

真っ昼間のはずなのに、まるで星空のような光景が映し出されていく。

(やっぱりキレイだなぁ)



完成した魔法を騎士団長に向けて放つ。


斬り伏せようとする騎士団長の剣とぶつかり、今度は拮抗する。


やがて、少しずつ押し込んでいき、遂には騎士団長が魔法に飲み込まれた。



しばらくして、魔法が消え周囲の光景が元に戻ると、

大きく穴の空いた地面にボロボロの騎士団長が剣を支えに膝をついていた。



あれをくらっても原型を保っているとは・・・


「見事」


騎士団長は一言発すると、倒れ伏した。








はあ~~~


なんとかなった・・・


騎士団長が真っ向から受けてくれたから良いようなものの、

あの魔法は時間がかかりすぎる。


魔王戦に向けてもっと準備しないと。



騎士達は倒れた騎士団長を介抱しにくるが、

私達には向かってこない。

警戒しつつ遠巻きに見ている。



追ってこないのなら、好都合とセーナと共に再び王宮内に飛び込んだ。


しばらくして、地下牢に囚われた父を見つけた。


「来るなと言っただろう!この馬鹿娘が!!

セーナもお前がいながら何をやっている!」


開口一番、どやしつけられた。

セーナが怒鳴られるところとか始めてみた。

私はほら、しょっちゅうだし。



父が処刑されると聞き慌てて駆けつけた事、

騎士団と交戦し、騎士団長を撃退した事を話すと、心底安心したようだった。

父は私が騎士団に殺される事を危惧していたのかな?


牢から出そうとするが、やめろと言われ口論しているところに、

騎士団長を引き連れた王様が現れた。


え!もう動けるの!?嘘でしょ!?



騎士団長はもう戦うつもりはないようだ。

王様の指示で父は牢から出され、場所を移して話をすることになった。






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会議室の様な場所に通されると、そこにはレオン王子がいた。


王様、レオン王子、騎士団長

父様、私、セーナのメンバーで席につき、

王様から事の顛末が語られた。



まず、この国では称号と成長限界の事について大まかに把握しているようだ。

国の一部で研究が行われており、称号を手に入れて成長限界を突破した者を「覚醒者」と呼んでいるらしい。

なにそれカッコいい!


現在把握されているのは、「勇者」は成長限界が存在しないこと。

「騎士」として任命された者は大きく成長限界が解除されること。

そして、「騎士」は王様が任命することで、唯一意図的に付与できること。




騎士に任命される者は、学院に通う生徒の中から秘密裏に選ばれ、

絶対に裏切らない者だけを厳選しているらしい。




そうして、国>貴族>平民 という力関係を断固たるものとしてきた。


この国の周りには他国が存在しない。

よって、外敵に備える必要が無く、無尽蔵の戦力は必要ない。

強力な魔物が出現した場合のみ騎士団を派遣し討伐することになる。

(確かに、あの騎士団長の強さならダンジョン踏破すら可能だろう)


そうして平和を維持してきたのだという。







しかし、当然ながら国の意図していない覚醒者も存在する。

地竜の件で、私は覚醒者として認識されたそうだ。



現在、在野の覚醒者に対しては

可能であれば国の戦力とすべきと考える者と、

絶対に認めるべきではないので排除すると考える者の二通りだ。

いわゆる、穏健派と強硬派というやつだ。




私が幼少期に覚醒者に関すると思われる情報を屋敷中に聞いて回ったことで、

父はなにかあると思い、密かに王様に相談していた。


王子の婚約者として王妃としての立場が私を守るだろうと、

レオン王子との婚約も結ばれたのだった。



父が殆ど私を屋敷から出してくれなかったのは守るためだったそうだ。

だというのに、何度言っても私は屋敷を抜け出す始末。

本当にごめんなさいでした!



しかし、地竜討伐で私の存在が知れ渡る事も時間の問題となってしまった。

そこで、天使として祭り上げる事で国に有益な存在であると喧伝し、強硬派から守ろうとした。


実際、その後の私は学院でも討伐指示を積極的にこなしていたため、

この時点では強硬派も落ち着いていたのだ。



まあ、天使として喧伝するために開いた表彰式で仕組まれた、

「快癒の指輪」に危うく殺されかけたけど。



快癒の指輪の件は謝罪された。

代わりと言ってはなんだが、この後宝物庫からなにか一つ選んではどうか

とのことだったので、遠慮なくもらうことにした。





次に事態が動いたのは、私の引き籠もり事件が原因だった。

魔物討伐もこなさず、表に出てこない覚醒者を危惧した強硬派はまず王子との婚約破棄に動いた。


強硬派の動きを抑えきれなくなった王様と父はやむなく、私と王子の婚約関係を解消した。

それでも、必死に私を守り続ける父の頑張りと、

そもそも、強硬派自体も二つの意見に分かれていた事から、私が殺される事は無かった。



強硬派は、勇者と天使が共依存関係にあることを把握しており、

天使に危害を加えれば勇者の魔王討伐に影響が出るかもしれないから、魔王討伐後まで待つべきという意見と

今すぐに殺すべきという意見に分かれていた。



この時点では、魔王討伐後まで待つべきという意見の方が強かったのだが、

更に事件が起きてしまう。



私とセーナの決闘騒ぎだ。


勇者と天使の仲違い。私の強力な闇魔法。

この二つが知れ渡った事で、魔王と同じ闇の力を持っているのだからすぐにでも殺すべきという意見が強くなってしまう。



それでも、この時点では勇者と天使がよりを戻した事もあり、強硬派もすぐには動かなかった。



そこに追い打ちとして私とセーナの別行動が始まった。


今なら勇者に気付かれずに天使を始末できると判断した強硬派は、

私を罠にかけた。これが今回の顛末である。



騎士団長は王様の味方とはいえ、王宮に侵入した私を捕らえないわけにもいかず、

騎士団を引き連れて捕縛に動いた。


あの遅延戦術は確実な勝利だけでなく、私を可能な限り傷つけずに保護するのが目的だったようだ。

どおりで殺しにこないわけだ。



強硬派としては、

この事件で、私が騎士団に殺されれば万々歳。

殺されず捕らえられても魔王と内通した公爵の娘が王宮に攻め込んだとなれば、

国としても処分せざるをえないと踏んでいたようだ。



しかし、私達は騎士団すら撃退してしまった。

こうなってしまっては、強硬派も打てる手立ては無いだろう。



焦った強硬派はどうやらかなり強引な方法で父を陥れたそうだ。

これから、王様達は父の件で強硬派を逆に抑えていくつもりだ。


つまり、私が動かなくても父が処刑される事などなかったのだ。

だというのに、私が突っ走ってしまったせいで・・・

ごめんって本当にごめんって、そんな目で見ないでお父様~



まあ、結果的に私達に手を出してもどうにもならない事は強硬派にも知れ渡る事だろう。

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