2-9.撤退

それからしばらく進むと開けた空間に出た。

大きな水場が存在し、その脇を通って先に進めるはずだ。


ゲームでは魔物が存在せず、

休憩イベントが発生する場所だった。

スチルで見覚えがある光景だ。



少し休憩しようと提案しようとしたところで、

真っ青な顔をしたセーナが私の口を塞ぐ。



何事かと視線の先を追うと、見たものを一瞬理解できなかった。



私達など丸呑み出来そうな巨大なヘビが鎌首をもたげる。





同じ様に真っ青になった私はセーナと共に、

ヘビを刺激しないよう少しずつ後ろに下がっていく。


ヘビは震えながら後ずさる私達に興味など無いのか、

上げた首を降ろし、追ってくることは無かった。



十分に距離を取りヘビの入ってこれない狭い場所まで戻ってきたところで呼吸を落ち着ける。



「視認するまで全く魔力を感じなかった。」


まだ青い顔をしているセーナが呟く。


ヘビは何らかの手段で探知を妨害できるようだ。

もしかしたら意図的に魔力を発して威嚇したのかもしれない。

もろに見たセーナはまだ震えている。



セーナも相当強くなったはずなのに、あのヘビはそれ以上だ。

今の状態でこの先に進むことは不可能だろう。


広い場所とはいえ、一か八か飛行魔法で突っ込む気にもならない。

地竜にすら補足されたのだから、あっさり叩き落されるだろう。


そしてここを通れなければ目的地にはたどり着けない。

魔力増幅の指輪は惜しいが、言っても仕方がない。



ゲームではあの場所に魔物はいなかったが、

これも現実になった影響だろう。

あんな良い場所、魔物だって来ないほうがおかしい。


水場に気を取られたとはいえ、油断し過ぎだった。

セーナが気付いてなかったらと思うとまた震えが湧いてくる。



あのヘビは水場に陣取っているようだった。

もう少し近づいていたら問答無用で排除されていただろう。




もう二人共先に進もうなんて気にはならず、

逃げるようにして洞窟を抜け出すのだった。







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洞窟の一件以来、セーナは鬼気迫る勢いでレベル上げに励んだ。



あのヘビは地竜と比べても別格だ。


強い魔物はボスの近くにいるはずとは何だったのか。

現実になった影響で魔物にも個性が生まれているのだろうか。


少なくとも、この夏の内に再挑戦するのは不可能だ。

地竜とは違い、どう見ても洞窟を出てこれるサイズでは無かったのが救いかもしれない。


仮に掘り進めてくるにしても、今日明日に出てくることもないだろう。



いずれリベンジするにしても、今は一旦忘れよう。






最近のセーナはたまに追い詰められたような表情をする。

何を気にしているのだろう?



レベルが上がるにつれ、上がりづらくなっていくのは当然だ。

焦らずとも少しずつ前に進んでいるし、魔王復活までに十分強くなれるはずだ。


そんな話をしても変な笑顔を浮かべるだけだった。

私にもセーナの様に感情を読める力があればいいのに。




少しだけ私達はぎこちなくなりながら、夏季休暇は終わっていくのだった。

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