第2話

 彼女達を後ろから眺める。

 男は親しげに話しかけているが、マシロの反応は鈍いように感じた。

 僕が思っているような関係では無く、ただの友人なのかも、そんな淡い期待が浮かぶ。


 しかし二人は大学に戻ること無く街中の方へ歩いて行く。


 僕も午後の仕事があったが、二人が気になってしまい後を付けてしまう。


 二人はランチを取るためかカフェに入る。

 それこそ僕なんかがチョイスしなさそうなオシャレなお店に。


 外で待ちながら嫌な予感が頭を巡る。


 確かに今のマシロにはこういったお店の方が似合っている。価値観が近かった高校時代とはもう違うのかもしれない。

 生活の為だけに必死に働く僕なんかとは違う。

 華やかな大学生活。

 それを謳歌するのは何も間違っていない。


 むしろ、僕なんかの基準に合わせていたら、これからのマシロの大学生活は……。


 そんな脈絡も無い事を考えているうちに、お店から二人が出てくる。

 相変わらず男の方は楽しそうで、マシロは良く分からない……もしかしたら僕の中で楽しそうなマシロの顔を認識したくなかっただけなのかもしれない。


 そうして二人を目で追い、少し離れた位置から後をつけるなんて女々しい行動を取る。


 希望的観測だとしても、僕が望む未来が見たくて。

 だけれど現実は無慈悲で二人はいわゆるラブホに入っていった。


 僕は目の前の現実が信じられなくて、マシロに電話を掛ける。

 繋がらない電話には「お客様のおかけになった……」とのメッセージ。

 どうやら電源を落としているらしい。


「はっはっ、きっと見間違いだ」


 自分を誤魔化すように呟く。


 でも、頭では分かっていた。

 あれがマシロだって事を、だって僕がマシロを見間違うはずがないから。



 そして思い浮かぶのは何時からという疑問。

 でも、振り返ればおかしい点は幾つもあった。


 髪型を変え、メガネからコンタクトにした事もいま思えば、さっきの相手の趣味に合わせたのかもしれない。


 平日は中々時間が合わなくて、週末しか会えない貴重な時間も、最近は大学の課題や友達付き合いを理由に減っていた。


 夜の恋人同士の時間も何かに取り憑かれたように積極的に求めてきたと思えば、触れられるのにも嫌悪感を示すくらいに拒絶する事もあった。


 思い返せば幾らでも思い当たる不安定で憂鬱な表情。

 ずっと僕との関係に悩んでいたのだろうか?




 僕はもう仕事が出来る精神状態では無かった。

 会社に連絡を入れ体調が悪くなったと言って直帰させてもらうことにした。


 帰って自分の部屋に着くと、思い返すのはマシロとの事ばかり。

 どうして裏切ったと言う気持ちが膨らむ。

 でも同時に僕を見る申し訳無さそうな表情が頭に浮かび感情を掻き乱す。


 埒のあかない俺は、既読の付かないマシロのスマホに『今から会いたい』とのメッセージだけを送っておいた。


 既読が付いて『ごめんなさい』と返事が来たのは深夜十二時を回ってから。


 どうやら、長い時間お楽しみだったらしい。


 僕はもうメッセージを返すのも億劫になって、そのまま寝入ってしまった。 



 そらからしばらくマシロから何度かメッセージが届いていたが無視した。と言うよりマシロと向き合うのが怖くなっていたのだと思う。


 そう、ただ逃げたかった。

 嫌な現実から逃避したかった。


 だからマシロからの土曜日に会いに行くからとのメッセージすらチェックしていなかった。



週末気怠さからベッドから起きれないでいると、インターホンが鳴る。

 

 寝惚け眼でモニタをのぞくと、今までなら一番逢いたかった人。でも今は一番顔を合わせたくない顔が映っている。


 僕の時間は一瞬で止まり、冬の冷水で顔を洗ったくらい一気に目が覚めた。

 

「なにしに?」


 思わずインターホン越しに尋ねてしまう。


「だってメッセージ既読にならないし、電話も……心配になって、一応メッセージは送っておいたんだよ」


 そうマシロに言われてメッセージが何件も届いていた事を思い出す。


 どうやら僕も年貢の納め時らしい。

 思ったより早く逃げ回ったツケを払う事になった。でも、これでケリをつけるにはいい機会だろう。


 僕はオートロックを解除すると、マシロを部屋に上げる。


 勝手知ったる僕の部屋に入ってくるマシロ。

 いつものように自分のポジションに座ると、少し怒った様子で話しかけてきた。


「ねぇ、一体どうつもりだったの?」


「嫌、最近体調が悪くて」


 僕は咄嗟に嘘をつく。


「えっ大丈夫なの? ちゃんと病院にはいった?」


 そう言ったマシロの声は本気で僕の事を心配しているようで、ますます僕を惑わせる。


「うん。もう大丈夫だから、その……マシロの方はあの後変わりなかった?」


「あっ、うん。私も大丈夫だよ。ごめんねあの時は本当に……一緒に誕生日祝いたかったな」


「ああ、うん、そうだね。僕も寂しかったよ」


 思わず心からの呟きをもらしてしまう。


「ねえ、どうせご飯まだ何でしょう。久しぶりに作ってあげるよ」


 マシロはそう言うと狭いワンルームのキッチンに立つとテキパキと朝食というよりは時間的にはブランチを作り始めるのだった。




――――――――――――――――――――


読んで頂きありがとうございます。

評価、コメント、誤字報告も感謝しています。



今後の執筆のモチベーションにも繋がりますので

面白いと思っていただけたら


☆☆☆評価を頂けると泣いて喜びます。

本当です。


もちろん率直な評価として☆でも☆☆でも構いませんので宜しくお願いします。

 

 


 


 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る