最近、彼女の様子が何だかおかしい 〜真相を知った僕の決断は……【完結済】

コアラvsラッコ

第1話

「シンタロー、おっ、お待たせ」


 僕の彼女天羽純白アモウマシロが額に汗をにじませ戻って来る。気のせいか少し顔も赤みがかっていて、どうも今日は調子が悪そうだ。


「大丈夫マシロ? 体調悪いなら……」


「だっ大丈夫だから、ごめんね心配かけて、折角久しぶりに会えたのに」


 そう言ってマシロが苦笑いを見せる。

 彼女のその表情さえ愛おしくて、本当綺麗になったとしみじみ思う。

 高校時代は長かった黒髪をセミロングにし、ゆるふわな茶髪のセミロング。眼鏡もコンタクトに変えて垢抜けた感じに変わった事も大きいのかも。


『もう少し大学生らしくしようと思って』


 去年の始めくらいにそう言ってイメチェンした時には驚いたけど。


 一方の僕と言えば、既に両親が他界している事もあり、高校を卒業を機に就職した。

 そして忙しい事を理由に服装などは無頓着になっていた。

 今では冴えない僕とすっかり綺麗になったマシロ。外から見れば釣り合わないとか言われそうだけど、僕達は好き合ってお互いを大切に思っている…………はずだ。


「マシロ……僕の前で無理しなくていいから。僕の誕生日を祝ってくれる気持ちだってちゃんと届いているからさ」

 

 僕の誕生日祝も兼ねての久しぶりのデート。

 でも、少し上気し熱ぽい表情のマシロは本当に調子が悪そうで、何度も長々とお手洗いに行っては戻って来てを繰り返している。


「でも、まだちゃんとシンタローのこと祝えてないよ。このままだと私……」


 何か言いたそうに俯くマシロ。

 最近、合う度にこういった憂いを帯びた表情を見せることが多くなった。


 もしかして大学で何かあったのかと気になり尋ねはしたものの、マシロはその度に笑って『何でもないから』と返してくる。


「いいよ、僕の誕生日なんかよりもマシロの方が大事だからさ、デートだっていつでもやり直せば良いよ」


 僕はそう言って、慰めるために俯くマシロを抱きしめる。

 すると一変して体を強張らせ、緊張した様子のマシロが軽く身動ぐ。


「ぃゃ、だっ、大丈夫だから、ごめんねシンタロー。汗かいて熱っぽいからさ」


 そう言って、やんわりと僕から離れるマシロ。

 するとタイミングを合わせたかのようにスマホが震て着信を知らせる。


 慌てるように画面を確認するマシロ。真っ赤に上気していた顔が今度は真っ青になっていく。


「マシロ、本当に大丈夫なの?」


「えっと、ごめんねシンタロー。やっぱり調子悪いみたい。本当にごめんね今日はこれで帰るね」


「じゃあ、送ってくよ」


「あっ、ありがとう。でも風邪っぽいしうつすと悪いから……大丈夫、タクシーで帰るから心配しないで」


「……分かった。ふぅ、マシロはいつも無理しすぎなんだよ。いまさら僕に遠慮なんかしなくてもさ、ありがとう僕の誕生日だからって、ずっと無理してたんでしょう」

 

 タクシー乗り場に向う途中、そう言ってマじロに声をかけたらボロボロと泣き出した。

 そしてずっと「ごめんね、ごめんね」を繰り返す。よほど僕の誕生日を祝えなかったのが悔しかったのだろう。


 僕は心配しながらタクシーに乗り込むマシロを見届けると、その日は予定していたディナーと、抑えていたホテルもキャンセルした。


 仕方ないとは思いつつ、すぐに家に帰る気にはならず、ブラブラと街中を散策する。


 するとさっき気分が悪くなって帰ったはずのマシロに良く似た女性を乗せた車とすれ違う。


 見間違いだと思うが心配になって、マシロにメッセージを送る。


『大丈夫? 無事についたか心配だから家についたら連絡して』と。


 しかしそのメッセージは既読になること無く、ようやく返ってきたのは夜中になってから。


『ごめんね寝ちゃってた。それから誕生日一緒に祝ってあげられなくて本当にごめんなさい』


 遅い返信。少しだけほっとするが同時に膨らむ疑惑。

 さすがの僕もここ最近のマシロがおかしい事には気づいていた。


 一番最初に考えたのは、他に好きな人が出来たのではないかという事。

 大学なら新しい出会いも多い、他の男子からもアプローチされたりしている可能性だってある。


 ただマシロが二股したりするような軽薄な人間だとは思えない。

 それは中学生時代からの付き合いで分かる。何か特別な事情がない限り性格なんて大きく変わったりしないはずだ。


 でも、今のマシロは明らかにおかしい。

 それだけは、間違いなく感じている事実で。


 モヤモヤと出口の無い感情が僕の中でとぐろを巻く。

 言いようのない気持ち悪さがずっと心の奥底へと、ヘドロの様に溜まり続ける。


 発散しきらない負の感情を抱えたまま、僕はまた日常へと戻る。



 そして誕生日から数日たったある日。

 仕事上の外回りから、マシロの大学がある近くまで行く機会が出来た。


 ちょうど昼時だったこともあり、一緒にランチでもと思い電話をしたが不通で連絡が取れなかった。


 仕方なく帰ろうとした矢先。見慣れた後ろ姿、間違いようのない僕の大切な存在であるマシロ。その彼女が僕の知らない男と、親しげな距離感で歩いているのを見てしまった。



――――――――――――――――――――


読んで頂きありがとうございます。

今後の執筆のモチベーションにも繋がりますので

面白いと思っていただけたら


☆☆☆評価を頂けると泣いて喜びます。

本当です。


もちろん率直な評価として☆でも☆☆でも構いませんので宜しくお願いします。

 

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