第3話

「うひー。つかれまひたー。」

「おつかれさま。今日の仕事はどうだった?」

「はひ、たのひあったですー。」

「うんそれならよかった。」

 明るく酔っぱらう、エミリーにハロルドは息をついた。



王宮にクビにされてから、40日。二人はそれぞれちがう仕事をしていた。

 キルハイド王国は近年のベビーブームで仕事に必要な数より労働者が遥かに多い状態で、三十路を過ぎた仕事探しは二人にとってはかなり大変であった。

 特に王宮で研究をし続けていて筋力など毛頭ないハロルドにとって、ぴったりの仕事といえるものはなく、仕方なく子供たちに個人塾を開いて毎日の日銭を稼いでいた。

 逆にエミリーは最初はつきたい仕事がなくて困っていたが、仕事探しをして三日目くらいに急にレストランの仕事をやりたいといいだし、そのあとすぐにフェルナンドという店でアルバイトするようになった。

 フェルナンドはレストランというよりパスタ が食べれる居酒屋といった感じで、エミリーは最初はキッチンで働いてたらしいのだ が、店長はエミリーの料理の才能ついて色々と察してしまったらしく、皿洗いの後、接客の仕事をされるようになった。

 ハロルドもエミリーの仕事ぶりをみようと、フェルナンドに訪れていた時にエミリーはパスタの皿を持って楽しそうに白いフリルを回しながらハロルドのもとにやってきて、おいしくなーれ!」と軽やかに投げキッス を行ってくれた。

 パスタの味はというと、そこそこの味だがかなり安くてまたきてみる価値はあるとハロルドは思った。

 一方他の客はというとエミリーを目当て にて来ているらしい。

 ハロルドは毎日しょにいるのであまり考えたとはなかっ たが、エミリーの体は豊満な乳に日々の段錬でそぎおとされた無駄のないボディと子供みたいな無邪気さは 様々な大人を引きつけるには十分だった。

 時々お客さんがチップ代わりにワインをわけてくれたりするのだが、エミリーは酒にとても弱くて、一ロでも顔が赤くなるのでこういう日はバイト終わりに一端家のソファーに倒れこんで2時間くらいしてからハ ロルドのつくった夕飯を食べるのだった。

  「うひ~つかれまひた。」

 エミリーといっしょに晩ごはんを食べているのだが、いつもとは違って酔いがかなり残っている。一体どうしたのだろうか。

 ハンバ ーグについているゆでられたにんじんもなかなかフォークにささってくれないと、イライラしながら転がっている。

 ハロルドはエミリーに聞いた。

「今日は何があったの?」

 「あのねえ。今日はね、フェリシスさんっていう、人がやってきてね、たぁくさん お酒をのまいてくれたんだよねえ。」

 「へぇ、あのこの辺ザ一番お金持ちの貴族の」

  「そうらひいの。」

 フェリクス家は代々錬金術の一家で、例の戦争時に火薬など道具を国に提供して一財を成し、国から貴族として勲章をもらった今もっともちからのある貴族だ、一体 どうしてこんな所に来ているのだろうか。

「ほれでね。そのひとが「このあたりでいちはん美しい美女に会いに来たといってねぇ。」これをわたひにくでたの。」エミリーはポケットからちいさな紙を手渡した。

名刺は金文字で、フェルナンド=フェリシス二世と書かれており、クビが消失した豚に近い不細工な男が髪の毛にカールを巻いて歯を見せていた。

 彼の顔は王宮で見たことがある。彼はフェリシス家の長男かつ末裔で、国王の側近として働いているので、多くの人が尊敬しなければなかったのだが王さまに媚びへつらって機嫌取りを行い、性格も顔と比例して醜い男であったためハロルドも含めて多くの人が王宮ない出会わないようにしていたのだ。

「ほれでねぇ。ほのひとパスタとお酒たくはん、たくはん、たべてもっれきたのよ。」

「ほしたら、ほのひと、お嬢ちゃん一緒にたべないか?ってきひてきたから、ひっしょにたべたの。」

「それで?」

「ほしたら、そのひと、わたひに、「好きになった。結婚してくれ!」ってこんらくとろけをわたしにわたひてきたの。」

「本当かい?あの人二週間位前に王様の二人目の娘のハルラ姫と結婚したって、新聞で代々的にいってたはずだけど。」

「わたひのしってたから、きひたんだけど、銀行の金庫の鍵なんて、べつにもってるだけでいい、とか言ってきたげど。さ、わたひハロルドと結婚してるじゃん。ほのことつたえたらあっちかんかんになって、おかれも払わずそのまま帰ろうとしれたから、なぐっちゃった。」

「え?」

「わたひ、あのひとなぐっちゃった。」

「え?まじで?」

「うん、らってあのひと、ハロルドやマックのこと、おかねもちの俺たちがいなければ働くことのできない無能。とかいってたし、わたひのおしりとかむねとかべたべたさわってたから、いらっと来ちゃって。おもいっきり、なぐっちゃった。とりあえず、わたしこれから寝るからこれあれる。」

 エミリーはハロルドに書類をわたして、ダイニングのテーブルで眠り始めた。


 書類を見てみると解雇通知で、店長が殴り書きで書いたのに酔っ払っていたであろうエミリーがそこにふらふらの文字で署名しており、誰のものかわからないよだれが紙のはしについていた。

「はぁ。」

 ハロルドはため息をついた。それは、エミリーの酒癖の悪さからも来ていたが、解雇通知をあまりにもはやくだしたフェルナンドの店長からも来ており、決してエミリーがクビになったことについてではなかった。

「さて、次はなんの仕事につきますか?」寝ているエミリーにハロルドは毛布をかけながら静かに聞いた。

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