第5話 この世界の美意識がヤバイ?
俺が中学の頃には、男も美意識を持って清潔感を徹底する風潮があった。
そう言った美意識は年々レベルが上がっていたのを憶えている。
問題なのは、当時の俺が無関心だったことだ。
「嘘、だろ……?」
前の世界では追いつくのに、めっちゃ苦労したものである。
男子の中には、メイクしている者も少数ながらいたくらいだ。
男女共に、ニキビやら肌荒れやらで、少しでも怠りが見えるとダサいみたいな雰囲気があって、悩んだりもした。
俺の場合は美容皮膚科のクリニックに行き、Cセブンなんちゃら、みたいなクリームを購入したり、タンパク質とビタミンを適量接種することを徹底した。
男子の肌荒れは、大体が栄養失調だったり、自家発電のやりすぎが原因なのだとか……。
「侮っていた……。女の子ばかりの世界で、美意識が低いはずないのに」
そう――この世界はレベチなのだ。
美意識がまるで違う。日本よりも韓国とかに近いかもしれない。いや、それ以上と言っても過言ではない。
この世界に来て、女性ばかりなことに気を取られていたが、冷静に考えると美女や美少女ばかりを見ているのだ。
よく、女子校とかでは男と変わらないみたいな話があるが、それは日常生活の話であって、美意識だけは別なのである。
どんな環境にあっても、それだけは常にあるのが女子だと、俺は痛感していた。
「この世界の基準isどこ」
俺にとって、最大の問題点は、男子の基準が分からないことだ。
つまり――強制的に女子のレベルに合わせるしかないのである。前の世界なら可能だっただろう。しかし、この世界の女子はレベルが高すぎる……。
「どう話しかけるべきだ?」
俺は入学式を終えて、クラスの席に座っている。
周囲には女子しかおらず、それぞれがグループを作って話ている。同じ中学の人だったり、容姿のレベルが近い子同士で仲良く話している。
俺に同じ中学の人、なんて存在しない。同性すら存在しない。自分がこの世界の男子としてどのレベルか、不安になってきた。
「努力はした。前の世界でならイケメンなはず……」
しかし、クラスの女子達が化粧品のセットを見せあったり、美容についての会話ばかりをしていて、俺が入り込む余地がない。
前の世界の知識や、経験程度では通用しないだろう。どうしたものか。
「マリナ先輩がいればなぁ」
あの後、下駄箱の場所が違ったから別れたのだ。
もしも同学年なら、心強かったのに。
「ねぇ、唯一の男子君」
「ん?」
俺が悩んでる間に、隣の女子が話しかけてきた。
めっちゃ美少女で、めっちゃ眠そうだった。ウトウトしながらこちらを見ている。
腰まである綺麗な茶髪で、サラサラとしているストレートヘアーで色気がある。目元も綺麗で大きい。メイクとかではなく、生まれながらの美少女という印象だ。
「おやつちょうだい」
「は……?」
「おやつ。おねむ。やっぱり寝る……」
そのまま机に頭をのっけて眠り始めた。なんかこの子だけ、だらしない。
でもこのクラスで一番可愛いのも、美人なのもこの子なのである。
とりあえず、おこしてみるか……。
「お、おい。顔に跡がつくぞ、寝るな」
「抱っこして」
「は……?」
「私、眠いの」
「それは見れば分かるけど……」
心なしか、クラスの女子がゴミを見る目をしている気がする。
俺ではなく、この子にだ。
元々俺の方をチラチラ見てくる子はいたが、今は凄く注目されている。
「今日は授業無いし、もう少しだから我慢してくれ」
「えー抱っこ」
「子供か! もうちょっとしっかりしてくれよ……」
「「――っ!」」
俺達の会話を聞いて、クラスの女子がざわざわしている。
ダメだ、陰キャの俺には難易度が高すぎる。
異性に話しかけるだけでも大変だし、この子は特に対応に困る……。
「男子君」
「蓮太郎と呼んでくれ」
「私の執事になって」
「え……?」
「私、メイド雇ってないの。執事が良いなって、夢なの。旦那様でもいいよ?」
「……」
マジで、俺はどう対応すれば良いんだよ……。
というか、メイドを雇うような家庭なのか?
マリナ先輩は関わるなと言った。助言には従った方が安全だろう。やんわりお断りするか……。
*
「ねぇ、イケメン過ぎない?」
「ヤバイよね(笑)」
「彼女とか、やっぱりいるのかな?」
百里蓮太郎が葛藤していた頃、クラスの女子は小さな声で話していた。
本人にはバレないように、美容の話をしているような雰囲気を出しながら、チラチラと唯一の男子生徒を見て盛り上がる。
「好きなタイプとか、聞いてきてよ。ブスの私じゃ話しかけるの無理だもん」
「私だって無理だし。拒絶されたらトラウマになるよ……」
「眺めてるだけでも、目の保養でしょ」
「それ」
「分かる」
美容の話を装う姿を見た他の女子も真似して、化粧品とかを出し始めた。結果的にめっちゃ美意識が高いクラスみたいになってしまったのだ。
オシャレな女子だと思われたくて、みんなアピールしているのである。
「でもどうせ、お嬢様達がかっさらうじゃんね」
「ホントそれ」
「お金持ちは良いよねー」
この学校というか、この学年には三人のお嬢様がいるのだ。
地元では有名な金持ちの娘が、今年入学するのは、結構知られてる話だった。
「五番目、いや六番目くらいならワンチャン?」
「あんなイケメンじゃ、理想高いでしょ」
「アイドルでも、見たことないレベルだもんねー。マジで結婚したい」
クラスの女子は、百里蓮太郎と同じクラスで心底喜んだ。そして――
心底悲しんでいた。
たった一人の女子生徒に負けるから。奪われるから。
「はぁ……。森川さんさえいなければ」
「勝ち目ないもんね」
「あの容姿で、金持ちとか、反則でしょ」
机の上に頭をのせて、爆睡している美少女――
百里蓮太郎もきっと彼女には靡くだろう、と。
圧倒的な美少女であり、圧倒的な金持ちであり、圧倒的な頭脳、運動能力を有する完璧超人みたいな女の子なのである。朝に弱いことを除けば、ではあるが。
地元の中学では特に有名だ。ピアノのコンテストとかで、天才だと騒がれ、テレビに出てたこともある。
「森川さんがだらしなく見える今のうちに、私達がアタックする?」
「後が怖いよ……」
森川六花は、スクールカーストを飛び越えて、社会的強者なのだ。
敵になったら、洒落ではすまない女の子だった。
「あれ……?」
「なんか、百里君があしらってない?」
「森川さんが、相手にされてない!?」
クラスの女子は戦慄する。
森川六花でも足りないという安堵と、歓喜の感情に包まれた。
それと同時に、森川六花でも足りないのか、と。理想が高いことに絶望した。
「「……っ!?」」
百里蓮太郎が、席を立ち――
何を思ったのか、コソコソ話していた女子達に近づいて来る。
「みんな美人だよなぁ……。俺、美容の話とかちょっと興味あるから、良かったら話に混ぜてくれないか?」
「うふぇ!? も、もちろん!」
「私達なんかが会話しても良いの!?」
クラスの女子は全員困惑していた。どうして、という言葉が頭に浮かぶ。
どうして、森川さんじゃないのか。
どうして、自分達に話しかけるのか。
「あぁ、話相手になってくれると嬉しい。みんなと仲良くしたいんだ」
「「――っ!?」」
クラスの女子が、全員席を全力で立った――
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