第3話 状況を把握したっ!

 この世界において、男性はマイノリティである。

 圧倒的な少数派なのだ。

 俺のいた世界とは違う。この数日間で、分かったことはそれくらいだった。


「少子化してないの、皮肉すぎんだろ……」


 そう――驚くべきことに、この世界は子供が多い。一夫多妻が普通らしい。

 男の方が性欲が強いのは、前の世界と同じだと聞いた。ただし、女性は選ばれないのが基本で、自分からアプローチしなければ一生独身という、世界観らしかった。


「前の世界と違う部分が微妙なせいで、混乱するんだよなぁ」


 基本的には前の世界と同じだ。

 しかし、男女比が違うことで、小さな常識だったりが異なる。夜中に出歩いて危険なのは男という認識なのが、最近体験したことだ。

 肉体的に力が強いのが男なのは変わらない。性欲が強いのも男だ。ただ数が違う。異性と一生巡り合えない女性が多い世界では、危険という意味らしい。


「男子トイレないの、不便過ぎないか?」


 駅だったり、飲食店でも、男子トイレは存在しない。共用トイレを使う他ない。

 少数派すぎて、考慮されない社会設計なのだ。

 男が特別とか、優遇されるとかじゃない。むしろ少数派で生きにくいというのがこの数日の感想だった。


「もう、帰りたい……。民主主義なんて滅べばいいのに」


 俺は、少し心が折れかけていた。

 だけど、戻る方法が分からない。自分の状況はなんとなく分かったけど。


「政治家も女性のみ。どんなルールも女性が基準!」


 選挙も男性票は同じ一票とカウントされるそうだ。女性の意見には勝てない社会だと言えるだろう。改善は絶対にされない。

 男からすれば、絶望的な世界観だ。唯一のメリットは――”ハーレム”を作れることくらいだろう。


「ディストピアすぎんだろ……!」


 まぁ一言でこの世界をまとめるなら、、だ。

 この世界の俺は、さぞや絶望したことだろう。

 もし入れ替わったなら、向こう側の俺は大喜びだろうなぁ。


「もうこうなったら、謳歌するしかない。高校デビューしてハーレムを作ることくらいしかメリットなさすぎるもん、この世界!」


 陰キャの俺でも、異性が多いこの世界でならモテる可能性は高い。

 そもそも、元の世界ですらモテるために努力していたわけで、この世界でならもっと有利なのは確かだ。だってライバルの男が少ないから……。


「……同性の友人も作れないかもなぁ」


 父さんの話では、共学の高校はそこそこあるのだとか。ただ、実際に男子が通うことは少ないし、いるとしても二人か三人くらいだと言っていた。

 クラスに、ではない。

 学校全体で、二人か、三人くらい。


「はぁ……」


 ため息しかでない。

 異性と話すのは得意ではない。俺は中身は陰キャのままなのだ。

 この世界で生きるなら、改善するしかいないけど……。


「もう明日なんだよなぁ。憂鬱だぁ」


 そう俺の高校入学は、明日に迫っていた――



「お嬢様、明日がいよいよ入学ですね」

「……そうね。このわたくしに相応しい男子がいるのか、楽しみですわ」

「あー。お嬢様、やっぱり独身ルートを直行してますねー」


 道路を走る高級車の中で、二人の女性が会話していた。運転手も女性だが、会話には参加する気配はない。

 メイド服を着た少女が、もう一人の少女に向かって毒を吐いていた。


「選ぶのはわたくし、ですわ。男性ではなく」

「はぁ……。男子なんて、多くても三人ですよ? それも学校全体で」

「もちろん知ってますわ。わたくし、賢いから」

「同学年にいないパターンもあり得ます。その場合は三年間、男子と話すことすら難しいでしょう。アプローチするのは女からが基本ですよ」


 メイド服を着た少女は、ため息交じりに現実を伝えていた。この少女もまた、使用人という形ではあるが、明日から同じ高校に通うのだ。


「お嬢様が独身では、一族が困ります」

「わたくしも困るわ!」

「ならアプローチしてください。自分から」

「……貴方が堕としなさい! そしてわたくしにも、その男子をあてがってちょうだい。これは命令よっ!」

「えー」


 メイド服を着た少女は、めんどくせーみたいな顔である。


「そのまま私がゴールイン」

「なんですって!? わたくしのために、男子を堕としなさいな!」

「冗談ですよ。私、男性を好きになったこと、無いのでご安心を」


 使用人として、幼いころから鍛えられたメイド服の少女は、男に惑わされたりはしないのだ。演技で誘惑は可能だが、本気で惚れることはない。

 少なくとも、これまでの人生ではないことだった。


「私は、男性に負けたりしませんので」


 もし仮に、男子生徒に誘惑されても、この少女は耐えられる自信があるのだ。

 理性で対応できる、と。

 だから主人のためだけに、明日から少ない男子生徒を狙うのである。


「一部のアイドルを除けば、イケメンな男性なんていません。ただ男というだけでモテるでしょうし、努力しないのは当然です。でも、私はめんくいなので、イケメンでもない限り、絶対に負けたりしません。ご安心を」


 メイドの言葉に、お嬢様は頷く。


「そうね。イケメンなんて、一生出合えないものですわ……」


 二人の少女は、入学への期待が消えた。

 冷静になった。

 妄想も大概にして、現実を見ようと。フツメンの男子を一族のために堕とす。ただそれだけを考えていた――

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