第2話 貞操逆転世界

「俺の……部屋……?」


 瞬きしている刹那に、部屋が変化していた。

 しかし、妙なのだ。

 間違いなく俺の部屋だ。正確には、努力する前の俺と同じ部屋だ。


「俺自身は変わってない」


 鏡を見ると、しっかり今の俺だった。うん、イケメンな気がする。

 部屋だけが過去にでも戻ったようだ。

 怪奇現象すぎて、めっちゃ怖いんだが!


「おーい、蓮太郎」


 父親の声だ。

 俺には他の家族はいない。父親一人で俺を育ててくれている。

 二階にある自分の部屋から、一階に降りることにした。


「父さん、今日って何月何日だっけ?」

「3月の18日だが?」

「え……?」


 入学の日じゃない……?

 半月くらい時間が戻っているのか?

 それに、父さんの顔がとても疲れていて、昨日までとは別人みたいだ。


「というか蓮太郎。お前、そんなかっこよかったか?」

「自分の息子に失礼すぎる」

「男の子ってだけでも心配なのに、そんなイケメンになると危ないなぁ」

「は?」


 男の子のどこに心配な要素が?

 あれか、俺がヤリチンにならないか心配的な?

 女遊びなんてできないし、そんな心配必要ないのにな……。


「もう夜遅いし、襲われたりするかもしれん。今日はもう家出るなよ?」

「いやいや」


 俺のこと女の子扱いしてくるの、気持ち悪いんですけど……。

 実の父親にこの扱いされるのキツイ。


「大丈夫でしょ。ちょっとコンビニ行って来る」

「おい、バカ!」


 俺は父親の制止を無視して、家を飛び出した。

 一応ポケットには財布が入ってるし、買い物はできるだろう。

 それ以上に、自分の身に何がおきているのか、確かめておきたい。


「……なんか、違和感が」


 コンビニに向かう道すがら、周囲を見る。すれ違う相手が女性しかいない。

 偶然だとは思うのだが、男とすれ違わないのだ。

 それに心なしか、注目されているような気がする……。


「道とか店はいつもと同じなんだよなぁ」


 本当にいつもと変わらない。

 違うのは入学前に戻っていることくらいだ。


「あれ、この時間って男の店員が多かったような……?」


 コンビニに入ると女性の店員しかいなかった。深夜は男性店員ばかりの店だった気がするのだが、珍しい日もあるもんだ。

 しかも、品揃えが微妙に違う。


「……アレがない」


 いつも生理用品とかのあたりにコンドームが売ってるのに、見当たらない。

 童貞卒業を夢見ていたから、たまに見ていたのだが……。

 ピルだっけ? 女性が飲む薬とかは売っている。こんなの扱っていたか?


「なんだこの違和感は」


 何か、根本的に違う気がしてならない。常識がズレているような……。

 俺は家で出てから、男を一度も見ていない。

 まるで女性を中心とした品揃えのコンビニ、俺に対する視線の多さ。


「男が、少なすぎる」


 ほとんど変わらないのに、男女比だけおかしい。

 微妙に違う世界に来てしまったような、これではまるで――パラレルワールドじゃないか?

 まさか、自分と入れ替わったのか?


「いや、そんなまさか……」


 ありえない妄想だろう。でも、どうしてか確信がある。

 常識的に考えるなら、偶然が重なっただけ。

 だけど――


「な、何かお探しですか? わ、私でよければお品物探しますっ!」

「え……?」


 コンビニの店員に話しかけられた。

 接客が不得意な子なんだろうか? 声が震えている気がする。

 名札を見ると、バイトリーダーみたいだった。それにしては動揺しすぎだろ。


「コンドームとかって、どこですかね?」


 女性店員に聞くのはセクハラだったかもしれない。

 しかし、確かめたいのだ。


「……なんですかソレ? こ、こんどむ? お菓子とかですか?」

「いや、大丈夫です。すみません」


 あれか、店員さんは純粋な人だったのだろう。

 それとも――コンドームなんて避妊具が存在しない世界だとでも言うのか?


「……どうなってんだよ」


 俺は、そう言わずにはいられなかった――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る