高校デビューを目指した陰キャの俺、貞操逆転世界にて無双する

森 アーティ

序章

入学編

第1話 高校デビューを目指す!

 俺には後悔がある。

 中学の三年間で、恋愛に無関心だったことだ。

 より正確に表現するなら、自分に対して無関心だったこと、とも言える。


「もう、あんな思いは嫌だ……」


 人生で初めて好きな子ができた。けど、その子には今彼氏がいる。

 三年生で同じクラスになって、一目惚れだった。

 一週間もすると、クラスのイケメン陽キャの彼女になっていた。


「惨めだった……」


 今でも忘れられない。今でも夢に見る。

 体育の着替えでクラスが男子だけの時、そのイケメンが言った。


『アイツ可愛いのに処女だった(笑)フェラ下手だったけど、気持ち良かったわぁ』


 何気ない言葉。

 中学生男子らしい、ありきたりな会話だろう。陽キャ達にとっては普通のこと。

 俺達陰キャに聞かせてるとか、自慢してるとかですらない。陽キャ同士のグループで、雑談程度の軽い言葉だったのを憶えている。


 俺はその夜泣いた。絶望して後悔した。


 どうして、あの子にアプローチしなかったんだろう。

 どうして、自分に自信がなかったんだろう。

 どうして、恋愛ができるくらいの準備をしてなかったのだろう……。


「せめて、ちゃんとフラれたかった」


 告白して、断られる。

 それだったらどんなに幸福だっただろう。きっと納得できた。

 諦めることすらできない。惨めさしか残らない敗北。こんな思いは二度とごめんだと思った。嫌だった。


「高校デビューするんだ……!」


 運命の相手なんて、もう出合えないかもしれない。

 これから先、一目惚れするような子はいないのかもしれない。

 けれどもし――遭遇したら?

 また負けるのか? また惨めな思いをするのか?


「イケメンに、良い男になってやるっ!」


 そこから高校に入学するまでの時間――受験勉強と並行して、俺はひたすら自分を磨いた。血の滲むような努力を積み上げた。


 肌が荒れていたから皮膚科に行き。

 眉毛が濃かったから、眉毛サロンに行き。

 髪がボサボサだったから、美容室に行き。

 ファッション雑誌を読み漁りながら、お店の店員にオススメを聞いたり……。背を少しでも高く見せるために、シークレットシューズを履いたり。

 滑舌を良くするために、毎週カラオケに一人で行って発声練習をした。

 適度な筋トレも欠かさなかった。不味いプロテインだって飲んだ。ヨーグルトも毎日食べて腸内環境を整えたし、胃を刺激する食べ物は控えた。


 毎日、毎日のように鏡の前で泣いていた。

 苦しかったからじゃない。

 この程度の努力をしていれば可能性があったのに、そんな後悔が消えない……。


 あれから半年間――


「なんだよ……。俺、カッコイイじゃん」


 鏡の中の俺は、あのイケメンよりも魅力的な男だった。少なくともルックスは。

 いや、きっと勉強も俺の方ができる。

 俺の方が、あの子に優しく接することもできたはずなんだ。


「なぁ、なんであんな程度の男に負けたんだ?」


 鏡の中の自分に問いかける。

 俺にまだ何が足りない? リーダーシップか? ユーモアか?

 そんなモノは、後から手に入るモノじゃないか……。本当に何で負けた?


「高校では、女子には全力でアピールしよう。可愛い子だけじゃない。ブサイクな子でも関係ない。コミュニケーションを大事にしよう」


 きっと、そういうカリスマ性が足りないのだ。だから負けた。

 そうでなきゃおかしい。納得できない。

 この後悔を消し去るには、俺はイケメンになるだけじゃ足りない。


「学校で一番の男子になる!」


 ルックスも、勉強も、コミュ力も、リーダーシップも。

 女子が『好きな人』を聞かれたら、真っ先に頭に浮かぶくらいの男に!


「絶対なるんだっ!」


 今日がいよいよ入学の日だ。高校デビュー初日。

 勝負の日であり、俺の新しいスタート。


「ふぇ……?」


 の、はずだった――


「俺の部屋、急に景色が変わったんですけど……?」

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