【原案】カミサマ☆プレゼンテーション ~兄は異世界にギャルゲを広めてきます~

運び屋さん*

第1話

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■0話 本当のプロローグ&1話 名もなき英雄の死

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 ――全ては、ここから始まった。

 Solo Piglet Orchestra*


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「ちっ、これなんてクソゲー!? 企画誰だよ! 止めろよディレクター!」


 あるところに、1人の〝いい鬼〟がいました。


「コンテニュー無し、セーブ不可、即バッドエンド。ノーミスでクリアとか」


 いい鬼は、〝悪い鬼〟を倒すために『鬼の呪い』を自ら取り込みました。

 自分の体を蝕むと知っていたにもかかわらず。

 世界を救うために。


「ハードモードなんて今時流行んねぇぞ。ゲームバランス考えろよ!」


 呪いの力と〝大切な仲間たち〟と共に、鬼退治に行きました。

 自分たちの命がなくなるとわかっていたにもかかわらず。

 最愛の〝妹〟を救うために。


「あぁ~、ギャルゲマジ最高~。

 イージーモードでハッピーエンド、ご都合主義バンザイ」


 片腕を失いながら、

 仲間を失いながら、

 〝命〟を失いながら。


「せめて攻略サイトかチート寄こせっつんだ。

 こっち主人公だぞ!

 主人公補正とかデフォでシステムに組み込むだろ普通っ!」


 最愛の〝従姉/あね〟の姿をした悪い鬼を。


「『最後に殺した人の姿』……ねぇ。その顔で脅えんなよ、トキメクだろ」


 ――キンッ

 それでも残された最後の力で倒しました。


「はぁ……俺もタイムリミットかぁ」


    ◇    ◇


『う、うっ~……』

 泣きじゃくる幼い女の子。

『大丈夫、柚希は死なない。だって兄ちゃんはヒーローだから!』

『ん、もっ、なか、ない』


    ◇    ◇


『くっ……』

 自信の非力さをなげく青年。

『大丈夫、あたしは死なないわ。だってあたしだもの』

『……ほんと、主人公気質だよな、姉さんって。羨ましいよ』


    ◇    ◇


「……柚希……姉さん」


 こうして『いい鬼』も『悪い鬼』も、みーんな世界から消え去り、誰もそれを知らず世界は続くのでした。


「……大丈夫……柚希は死なない……だって、兄ちゃんは……ヒーロー、だか……ら」


 めでたし、めでたし。



「バッドエンドなんてクソ食らえ」


    ◇    ◇


『――こんな終りを、私が許すと思ってるのか?』


 英雄たちの亡骸/なきがらは、光となって消えていった。


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■2話 KAMI?

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『シュバイン・ロ~ック!!』


 突然聞かされる香ばしい歌。

 見せられる香ばしい決めポーズ。

 手描きのブタ鼻を、メガネにガムテープで貼り付けてる男。


「「「……」」」

 現状を理解出来ない俺たち3人。

 演奏が終わり、放心していたところ、1人の友人が動き出した。


「エクスキューズミー?」

 普段は馬鹿な、〝日本語以外話せない〟金髪エセ外人が、珍しく活躍してくれそうだ。

「サインくだサァ~イ」

 やっぱり馬鹿だった!

「ごめんね、私は名前を残すのが禁止だから、サインは断ってるんだ」

「握手だけでもォ!」


「違うよタケル。 今話すべきことはもっと別の事だよ」

 もう1人、見た目だけはイケメンな〝ロリコン〟が、会話の軌道修正をはかる。

「おぉ? ソーリー、空気読み間違えましたァ?」

「読み間違えちゃったね」

「おぉーやっちゃったネ!」

「「あはははっ」」

 馬鹿に残念イケメンが追加されだけで、会話が進まない。

 俺が司会進行かよ。


「で、あんたは神でいいのか?」

 壁一面を白いカーテンで塞いだ空間。

 悪鬼を倒し、死んだはずの俺たち3人。

 テンプレ通りなら俺たちを招いただろう、目の前のブタ(神)に聞いてみた。


「うんうん、君たち3人ともヲタだから、詳しい説明は要らないよね。正確に言うと、私は神ではないんだ。まぁでも便宜上〝KAMI〟と読んでくれたまへ!」


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■3話 兄は異世界にギャルゲを広めてきます

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「でね世界の大半は、『戦争』か『環境汚染』で滅ぶんだ」

 俺たちは、ブタ神が用意したティーセットでお茶やお菓子を楽しみながら、愚痴をひたすら聞かされていた。ブランデー効いたブラウニーがうまい。


「もちろん何とか滅びを耐えた世界もあるにはあるが、そういう場合って『戦争をせず』『環境再生の技術』2つが必要になるんだ。だけど利を求めてしまう人が多いから、足の引っ張り合いで……」

「まぁ、人の本質的に当然だろ」

 俺たちの世界だって、裏では悪鬼に世界を滅ぼされそうになっていたが、表の世界は政戦だった。なんてお気楽なこった。


「世界全体で『生きる』のか、世界全体で『死ぬ』のか、この2択しか無いのに……ふぅ」

 物悲しさを漂わせ、疲れ果てたおっさんのようため息をつくブタ神。


「だけど、魔法世界はもっと悲惨なんだ。そもそも魔法世界に発達する確立って全体の2割くらい? まぁ、それだけで貴重。なのに『戦争』なんて当たり前、『魔物』のスタンピート、世界を破壊できる『禁忌魔法』、それを使用する『魔王』とか『邪神』とか。もう、いろいろ湧いてくる。やんなっちゃうよ」


「ファンタジー世界って意外と珍しいんだな。となると俺たちの世界って、結構貴重?」

「魔法だけでなく科学も両立した世界とか、ないない、そんなの都市伝説……のはずだったんだけど。初めての事象だよ。君たちの世界は、科学ベースに魔法が存在する。両方なんてありえない。神のいない野良世界がそんな発達するなんて、私は神の存在意義を疑うね」

 自分全否定かよ!


「ましてや仮にも『神』である『邪神』を倒す? 笑えないよ。『神』相手にやり合うって……。君たちの一族って異常だよね」

 あの悪鬼、邪神だったのかよ。神から異常と言われる一族って……。


「だからこそ君たちには……、『僕の世界』に転生して欲しい。〝科学と魔法〟の両立した世界を創りあげるために」


 滅ぶことのない魔法科学世界、それを自らの手で創りあげたいブタ神。

 世界安定のために、俺たちは呼ばれたと。

 面白い。愛すべき2次元展開のようだ。だが……。


「「「――だが断る!」」」

「ブヒッ!?」


 俺たち3人の言葉が重なる。考えることは一緒か。

「バトル主人公は、もういいわ」

「2次元に浸っていたいネ」

「世界の幼女を見護るさだめが」

 おいカズマ、なんのさだめだよ。


「ちょーっと待ったぁ! 君たち、異世界モノ知ってるなら、流れわかるよね? 俺TUEEEEだよ! 前と違って努力し過ぎなくてすむんだよ! 強くてニューゲームだよ!」

 必死に俺たちを止めようとするブタ神。

 でも、無理だな。

 だって、

「異能バトルは十分すぎるほど堪能したしな」

「ミーたち全員、死んだけどネ!」

「タケル、それは言わないお約束だよ」

「「「ハッハッハ」」」


 ――ゴンッ

 ブタ神は突然立ち上がり、テーブルに額をぶつけながら、頭を下げる。

「「「……」」」


「すまない。結局ね、〝僕〟は自分が救われたいんだ。住民たちのため世界滅亡を食い止めたいわけじゃない。神だと言わせておきながら、矛盾している偽りの存在。全てを救う気がない、できるとも思わない。もちろん、余裕があれば救いたいよ。わざわざ捨てる気もない。1人でも救われたらと本気で思う」


 全知全能の神ではない。自分自身、そう思うからこそ〝便宜上の神〟と名乗ったか。


「だが根本的には、周囲の人間さえ笑っていられたらと思ってしまう。そうすれば、生きるよりも辛い『現実』を直視することがなくなる。誰もが『あぁ楽しかった!』と、笑って死ねるだろ?」


 ものすごく、神らしくない神。人間くささがある。もしかすると、『神』と名乗るのは嫌いなのかもしれない。


「他の神々に、『〝よくある魔法世界〟だ』なんて言わせない。『どうせ滅ぶ』なんて言わせない。僕の世界に『バットエンド』なんていらない。ご都合主義でいい。

 〝絶望の世界〟に立ち向かうためには、君たちが必要なんだ」


(救われるのは世界や住民たちだけじゃない、君たち自身もだ。君たちはもう、僕の内側の人間なのだから。1人で駄目なら、みんなで変わるんだ。僕自身も)


 「この〝人生/ストーリー〟は僕が主人公だ!

 『僕』と『僕の周り』の幸せのために、君たちに依頼したい。

 ――どうか〝僕〟を助けてください」


 KAMI(ブタ)は、深く頭を下げた。


「まぁブタの本心は置いといて」

「ブヒッ!?」


「結局、俺たちが生きるには転生しかないわけだろ」

「ミーはギャルゲ主人公でハーレム転生予定だったヨ……」

「その気持ちは、みんな同じだよタケル」

「俺は純愛ストーリー派だ」

「乙女だよね、レイジ」

「うっせ」

 相手は1人で十分だろ。


「じゃ、じゃあ、みんな〝僕〟の世界に転生してくれるのかい?」

「さっきから『僕』になってるぞ、ブタ」

「ブタって言うなし! 私のことはKAMIと呼びたまえ」

「はいはい、KAMI、KAMI。でブタ。結局、転生ってなに?」

「くっ、まぁいいだろう」

 ブタは諦めて、呼称を受け入れた。


「君たち一族は、仮にも『神』と呼ばれる存在と戦い、世界を救う貢献をした。その報酬として異世界で幸せになってもらってる。あ、レイジ君のご両親も別の世界に転生してもらったよ」

「親父たちも?」

「ご両親、凄いね。転生特典は君たちより低かったのに、元々のスペックで世界最強だよ。まぁ実質、世界最強はお袋さんなんだけどね。親父さん尻に敷かれてるし。国を興して、子供は9人、野球できるよ!」

 さすがです、母様。親父、ガンバ。

「それで報酬って?」

「いや~、それが困っていてね。君たちの場合、完全に『神』を倒したから、特典をどうしたものかと。君たち神になる気ある?」

「「「ねーよ」」」

「だよね! だよね! 私もそう思う」

 テンプレ通りなら、神ってサラリーマンみたいなモノだろ? 永延の労働なんて地獄だわ。むしろ、なんでこいつ神になった? 俺たちと同類(ヲタ)だろうに。


「まぁ特典については、追々話すとして。君たちの異世界での指針だけど、普通に暮らしてもらって構わないよ」

「何かやらせる気じゃなかったのか? 科学を発展させるとか」

 だからこそ、頼んできただろうし。

「そうなんだけど、君たちの能力だと転生特典抜きにしても、世界で目立つ。どう頑張っても、世界に大きく関わることになる。だから転生さえしてくれるなら、自由にしてもらっていいよ」

「目立たないよう徹底したとしたら?」

「それはそれで構わないよ。神々が、私の世界に興味を持ってくれれば」

「興味?」

「わかりやすく例えるなら、君たちは『動画配信者』みたいなものなんだ。君たちの生きてる日常、それを物語として神たちは楽しんでる。ただし原則として、ただ見まもるのみ。手を出して良いのは、この世界を作った私だけ」

 一気にファンタジー感なくなったな。どこの動画クリエーターだよ。

「ようは世界が発展して、おまけで面白おかしくできたら、後は自由ってことか」

「その通り!」

 まぁ元々俺ら3人、異能バトルしながら、創作活動してたくらいだ。世界平和活動より、よっぽど面白そうだが。

「最近はスローライフも流行ってるしね。開拓ゲームみたく、村作りしたりとか。それこそ国を興してもいい。世界も発展するし、高視聴率も狙える!!」

「いや国なんか作ったら、全然スローライフ違うから」

 国なんか作ったら、社蓄まっしぐらじゃねぇか。

「大丈夫大丈夫、作るだけ作って後は任せればいい。君たちは『プロデュース』するだけでいいだよ」

 確かに企画のみなら楽だが、それですむわけないわな。


「ん、まてよ。世界の発展、それに神々が注目……」

 なるほど、その手があるか。

「レイジ君、何かいい案浮かんだかい?」

「世界の発展自体は、俺たちの知識や能力でどうにかなる。だが世界平和のために動かなければいけないこともあるだろ?」

「確かに、余計なことするやからが必ずいると思うよ。他の世界でも例外なくそうだったし」

「そいつらを対処してくれる、なおかつ、神々の注目を集める〝主人公/ヒーロー〟を俺たちが大量プロデュースしていけば……」

「面倒くさいこと全部押し付けられるネ!」

「タケル、ぶっちゃけ過ぎだよ。でも確かに、僕らがやりたいことってたぶん世界が発達するものだし、あとは世界平和と神々の注目って点をクリアすればいいだけになるもんね」

「いろんな主人公が世界の平和をまもる。それは登場キャラの多い作品、もしくはオムニバス形式の作品を観てる感じになる。神々は、いろんな作品の主人公を見られるってことになる」


「レイジ君、君は天才だ!! 僕は君たちだけでも、注目を集められると思っていた。でもそれだけじゃなくなる。この上さらに、注目を集められる人が増えていくなんて……、君は神か!?」

「いや、KAMIはお前だろ」


 ――シュッ。

 ブタが手を振ると、ティーセットは消えてなくなった。

「よし、お茶もなくなったことだし、そろそろ話しをまとめよう」


「さっきは話しが飛びましたが、転生特典は何が貰えるのですか?」

「そうだネ! クリエイトするなら、制作活動に役立つのがイイヨ!」

「転生前の能力って使えんのか?」

「もちろんだとも。邪神を倒したことでレベルアップしてるし、いまさら戦闘系の能力は要らないと思うよ。だからこそ、特典に困ってたし」

 異能バトルも飽きたし、そもそも要らないがな。

「タケルじゃないけど、創作系能力ってことになるのかな?」

 まぁタケルやカズマの言うとおり、能力は創作系でいいだろう。あとは、もう1つ……。

「1つ頼めるか?」

「なんだい? 大抵のことなら了承できるよ」

「妹に手紙渡したい」

 柚希のことだ、俺たちだけが死んだことを気にしてるだろう。自分が頼りないって。

「あぁー、本当なら他の世界に干渉するのは駄目だけど……、担当者のいない野良世界だし、妹ちゃんも裏の人間だからあり、かな~。何より柚希ちゃんだし……」

「俺の妹がなんだ?(ギロリ)」

「ブヒ!?」

「落ち着きなよ、シスコンお兄ちゃん」

「また出たヨ、シスコンお兄ちゃん」

「お兄ちゃん言うな!」


「え、えっとだね、元々君たちを知ったのは、柚希ちゃんがキッカケだったんだよ。私の妹と名前が似ていたからなんだ」

「お前、妹いたんだな」

「もうわかってるかもしれないが、私も元は普通の人間なんだ。君たちと近い、科学100%の世界のね」

 妙に人間くささがあったのは、そのせいか。現代に疲れ切った感があったしな。

「〝僕〟の場合、妹のために何もしてやれなかった。だから、レイジ君を見ていて、擬似的にその感情を満たしていたんだよ……。だからこそ、君の妹のために何かしたい、と本気で思ったんだ」

 また僕に戻ってる。素が出ると僕に戻るな、こいつ。

「それで、手紙の内容はどうするんだい?」

「そうだな……」

「明るい内容がイイと思うヨ!」

「そうだね。まだ向こうの世界で生きていくわけだし」

「んじゃ……」



『兄は転生して、異世界へギャルゲを広めてきます』


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■4話 初めての街、初めての友達?

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「ヒーヤッハァーッ!!」

「舗装されてない道だと揺れ酷いな。てか、少しは気にして運転しろ!」

 ドグサレ外人め。銃や車のハンドル握ると、すぐトリガーハッピー状態になりやがる。

 カズマの目が完全に死んでる。

「ごめんレイジ、……………………吐きそっ」

「待てカズマっ! 早まるな」

「ちょっ!? 大変ネ!」

「こっちも大変だわ!!」


 見えてきた街を覆う大壁。

 だが様子がおかしい。

 魔物の群れに、囲まれていた。


 そんな中、聞いたことがないであろう異音が響き渡り、人も魔物たちも動きが止まる。

 迷彩服着た俺たちが軍用車両・ジープで特効していた。


「イィーハァー! パーリーピーポ!」

ドンッ!!

「「「あっ……」」」


『……………………』


「おい! 今なんか引いたぞ!?」

「ゴブリンだと思う」

「くされ金髪っ! 何年ヲタやってんだ! いいゴブリンだったらどうする!」

「オーマイガァ、ミスっちゃったネ」

 車を降りて、引いたゴブリンに近づく。この世界のゴブリンが『人族』としての種族なら、なんとか許してもらわねば。


「ほら~、お前のせいで周りのゴブさんたちめっちゃ睨んでるよ」

「ごめんなさい、すぐに治療しますので」

「アイム・ソーリー、敵じゃないヨ! ラブ&ピースネ!」

 カズマが治療すると、ゴブさんたちは困惑。幸いゴブリンにとって、車の特効は軽傷らしく、軽い手当ですんだ。

 こちらが敵じゃないと認識してくれたのか、キャッキャキャッキャと喜ぶゴブさんたち。

 一緒に肩を組む。

 ゴブさんたちと仲良くなる。

 完璧。

 言語はよくわからんが、ファーストコンタクト成功だ!



「いやいや、そいつら敵だから!」

『(ウンウン)』

 冒険者や兵士の男たちにツッコまれた。


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■5話 倒してしまっても構わんのだろオゥ?

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「ヴァルキリーズ、ティータイムの時間だ」

 俺はスマホをとりだし、〝乙女たち〟へお茶会の誘いを入れる。


『承認デス。来賓は?』


「目標は、お菓子やサンドイッチたっぷりのケーキスタンド。マナー違反で食い散らかす『お客』が多いらしい。お前たちにはお客の掃除、もしくはお菓子がこちらの物だとわからせてやれ」


『承認デス。広範囲防衛戦で準備を』


「あっ、ミーも出るネ!」

「僕も〝ライフル〟で参加しようかな」


「あぁ~、どうやらお前たちの過保護な親父たちも参加らしい。きちんとドレスアップして、淑女としてふさわしくするように」


『承認デス。最終ラインを除く、一部限定解除を』

「うん、よろしい。タイミングは全てそっちに任そう」



「……いったい、どうなってるのですか?」

 冒険者風の青年が疑問を浮かべる。

 そりゃそうだ、いきなりスマホなんて見たこともない物をとりだし、1人ぶつぶつ話しはじめてる俺は、変な人間認定だろう。

 ゴブさんたちも、俺たちの説得で戦いを止めてくれてるしな。


「ゴブさんたちは、先行部隊らしい。本命の集団がこれからくる。悪いがそいつらは俺たちの獲物だ」

「僕たちが倒した魔物は、そちらに全部お譲りしますので」

「そうネ! ミーの娘たちも来るヨ、もっと安心ネ!」


「待て、たった3人で何ができる! 確かにゴブリンたちを止めてくれたのはありがたい。だが、ゴブリンみたいに止めれるわけじゃねぇんだろ? 自殺志願ならよそでやってくれ」

「僕たちも街を護らなければならない。不確定要素を認めるわけにはいけません。もし本気で地位や名声手に入れようと思ってるなら……、あなたたちは〝英雄〟を舐めてる」

 ツッコミ冒険者と青年に本気で止められる。

「まぁ、命かかってる状況で、初対面の人間に任せられるわけないわな。」

 信用なんてできるわけないだろうし、上手く妥協案だしてこっちに譲って貰おう。

「安心しろって言っても無理だろうが、俺たちは死ぬ気もなければ、英雄願望もない。地位も名声も金も女も」

 というより、


「――てか〝英雄〟なんて一番興味ないわ」


 そんな疲れるもの、欲しいなら誰かにあげるに限る。

「……興味がない、ッ」

「……」

 なんだ? むしろこの青年こそ、英雄願望でもあるのか? 冒険者のおっさんが青年を見守るような視線を向けてる。

「なら何故そんな断られるとわかりきったことを? あなたたちの目的はなんですか?」

 先ほどの取り乱しを抑えて、冷静に会話を戻す青年。

「僕たちが最初に乗ってきた〝乗り物〟、あのような珍しいものがたくさん有ります。今回はその中でも強力な武器を出そうと思っているのです」

「ミーたちが最初に特攻して、駄目ならユーたちが戦う。これならどうネ?」

「「……」」

 カズマとタケルの案に悩んでるようだ。

 他の冒険者や兵士たちも混ざり、視線で確認を取り合っていた。


「わかった。お前さんらに時間を稼いでもらい、こちらは撃ち漏らした少ない敵を安全に処理。万一のときは退却してもらい、全員で防衛戦。」

「それなら、こちらの当初の予定と変わらないので問題ありません。元々、応援が来る手はずになっているので。より時間が稼げそうで助かります」

「ふっ……」

「「?」」

「――笑わせてくれる」



「〝倒してしまっても構わんのだろオゥ?〟」

「あっ、ずりッ! 俺が言おうとしてたのに!」

 くされ金髪/タケルにとられた!?


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■6話 降下

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「来たぞ、戦闘態勢!」

 グギャーッ!!

 森向こうから魔物たちの鳴き声や足音が聞こえ、姿を現しはじめる。種族はバラバラ。だがどこか、軍隊のように統率されてる。

「でお前さんら、本当に3人でやるのか? ありゃ、……キングがいるぞ」

「キング?」

 冒険者は額に汗をかき、顔色が悪くなっていた。

「何かしらの魔物が『魔王』になったんだろう。そうなると厄介だ。種族関係なく、魔物を束ねる。キングは、部隊も少ないまだ王になったばかりの奴のことを言う。普通は、戦力増強のために移動しないはずなんだがな」

 異世界最初の戦闘がいきなり『魔王戦』かよ。おい異世界、ボスの安売りしすぎじゃね?

「部隊が少ないと言っても、こっちは全員でかかってもマズい。正直、街の住人全員どこかに逃がしたいくらいだ。――まぁ俺たちには、〝行く当てがない〟がな」

「大丈夫だ。あれくらい、俺たちだけで十分だ」

「本当に大変なことなんです! いくら個人が強くても、数で来られると限界があります。全員であたり少しでも時間を稼ぐべきです」

 青年は少し取り乱しながら、でもどこか冷静に問題点を指摘してる。ホント若いのにスゲぇな。

「安心しろ、青年」

「え?」

「俺たちは――3人じゃない」


 俺は、そっと指差す。

 その先は、すんだ青空。その遙か向こうに複数の影が。

「な、なんですかアレは!?」

 青年が驚き声を上げる。いや、誰もが目を見開いてる。

 この世界にはない戦闘用ヘリコプター・人員輸送用ヘリコプターが空を覆い尽くしていた。

『降下』

 ヘリの拡声器から聞こえる少女の声。銃器を抱えた白黒ゴシックメイドたちが、ロープをつたって大勢降りてくる。

 ロングスカートが舞い上がらないのが不思議だが、まぁ淑女のたしなみってことで。

『展開しつつ、敵の殲滅デス』

 響く銃器の音。

 魔物たちの統率が乱れはじめる。


「ミーたちも行くネ! ロック、ロック、ロォークッ!」

「よいしょっと、僕もいくよ」

 異空間魔法アイテムボックスからマシンガン2丁を取りだし、敵中に特攻していくタケル。それに続くよう、大きな対物ライフルを〝片手〟で軽く抱えるカズマ。

「あいつら……、銃なんだから遠距離で戦えよ。なんで超近距離なんだよ」

 メイド部隊は、街を取り囲むよう部隊を展開。戦闘用ヘリを待ち上空に待機させてる。

「メイド部隊は、制作者たちに合わせて、陸戦展開か」

 面倒な親をもってご愁傷さま。

「んじゃ、俺も行くわ」

「おっ、おう」

「おっ、お気をつけて」

 戸惑う冒険者と青年に声をかけ、俺も後に続く。

 だたし俺は、銃は使わない。


 ――パンッ!

「来いよ『鬼殺し』」


 両手を打ち鳴らし〝魔法ではない〟異空間から呼び出す、邪神を殺した妖刀・鬼殺し。

「もう異能バトルなんて腹一杯って思ってたがな。まぁ、せっかくの俺TUEEEE機会、〝最初で最後〟の戦闘だし、楽しむか」

 テンションが上がり、体が熱くなる。まさか戦いを楽しいと思うとは。こんなこと初めてかもしれない。

 ――抜刀。


「そんじゃ、〝俺たちが主役の物語〟楽しむとするか」


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■7話 豚の王と俺TUEEEE

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『弾幕展開、脚が止まったところにグレネードを……』

「ロック! あそこ貯まってるネ! 突撃ヨ!」

「1人で行っちゃ駄目だよタケル」

『…………』

「ロック! 汚物は消毒ネ!! ヒーハーッ!!」

「子供たちの笑顔のために、僕は戦わなければ!」

『…………、グレネード発射デス』

「ノォォーーッ!!」

「あ、危なッ!」

 メイドたちの攻撃を魔法のバリア『障壁』で防ぐカズマとタケル。

 作戦邪魔されたのがイラッとくるのはわかるが、一応、お前たちメイドの制作者だぞ。

 まぁ馬鹿2人だからいいか。


「さてさて、待たせて悪ぃな。ちゃちゃっと終わらせようぜ、キングさん」

 目の前には、二足歩行の大きな〝豚〟が。ファンタジー定番の豚の魔物・オーク。

「まさかよりによって豚が相手とは……、俺ら豚と縁でもできたか?」

 オークキングは、自身の身長ほどはある大剣を振りまわしてきた。

 ――ガンッ


「豚って言われて怒ったか? 悪いキングさん、知り合いに豚がいたもんで、ついな。まぁそんな、かっかするなよ」


    ◇    ◇


「受けとめた!? 力重視のオークキングを、それも真っ向から……」

「……しかもあいつは一歩たりとも動いてねぇ。あのキングの攻撃を、それ以上の威力で弾き飛ばしてやがる。何もんだ、あいつ……」

 青年と冒険者は驚きながらも、しっかりと目に焼きつけた。今後、味方になってくれることを期待して。


「……凄ぇ」

 他の冒険者や兵士の多くも、唖然としていた。だが、魔物との戦いになれているせいか、あまりの戦いぶりのせいか、次第に落ち着いて観戦していた。

「……俺、今後メイドに逆らわねぇ」

「俺も」

「メイドさんって凄ぇんだな」

「1りでいいから家に来てくれねぇかな、可愛いし」

「お、お前、怖いもの知らずだな」

「そのメイドの攻撃の中、突っ切ってる野郎2人もとんでもねぇぞ。あの威力の攻撃を魔法障壁で防ぐとか」

「あぁ、自分の今まで学んだ魔法理論が崩壊していってる」

「リーダー? なのか? キングとやり合ってる野郎も凄ぇ」

「てか、やり合ってるっていうより、一方的に遊んでるよな」

「実はあのキングは、普通のオークだったりして……」

「じゃぁテメェはオークの攻撃、真正面から受けとめるか?」

「無理だわ、普通のオークですらありえねぇ」

「まったく、どいつもこいつも狂ってやがる」


    ◇    ◇


 ――ガンッガンッ

「俺さ、バトルシーンは、短く完結に描くべきだと思うんだ」


 何度も何度も、大剣を打ち付けてくる。

 でもこちらは、一歩たりとも動いてやらない。

「バトルは、戦いの前の葛藤こそ心に突き刺さる。戦う前に格好良さが決まっちまうんだよ。だから、戦闘描写は少量でいいだ……」

 半分の長さにされた大剣。

 それでもオークキングは残りの刃で切りつけてきた。

 ――キンッ

「あぁ~、やっぱ俺TUEEEE最高! イージーモードでハッピーエンド、ご都合主義バンザイ!」

 起き上がらないオークキング、取り乱す周囲の魔物たち。

 いや、取り乱してるのは、人も一緒か。



「強くてニューゲームも、意外に悪くないな」


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■8話 異世界ヲタク化計画

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「……ありえねぇ、まさか本当に倒しちまうとは」

「……本当に。圧倒的戦力、どこの国よりも強いかと」

「まぁ普通の国には、あんな武器や乗り物ないだろうがな」


 冒険者・ポルコと青年・キョウヤは驚いた。

 本来は、街を捨てさせ住民を避難させるべきこと。だが、行く当てのない辺境のため、戦うしかなかった。命を捨ててでも。

 そんな事態をあっという間に片付けた3人とその仲間たち。

 命の恩人だが、その戦力は少し恐ろしくもあった。

 身近に1人、大きな力を持つ者がいたため、なんとか混乱せずにすんだのだ。


「味方で本当によかった。ありゃ、1人1人が『姫巫女』レベルだ」

「〝母様〟ですか?」

「特にキングを単身倒したアイツは桁が違う。あんな集団が一気に来られたら、お前の母親もまず無理だろう」

「味方に引き込みますか?」

「街的には安全に発展させるためにもそうしたいところだが。まぁ下手に手を出さず、ほどよい距離で付き合うしかないだろう。こちらの命のためにも」

「敵になりそうですか? 少なくともそれはないと思いますが?」

「ああ、たぶんそこは大丈夫だ。興味がなくなったらそっぽ向いてどっか行くだろうよ、猫みたいに。だが、向こうの目的がわからん。力ある者で、こんな〝世界に捨てられた街〟にくるなんて、よっぽどの馬鹿だ」

「ポルコさんは馬鹿なんですね」

「言うじゃねぇかキョウヤ。だが俺は馬鹿じゃない、ただの物好きだ」

「いや、それでいいんですか?」


    ◇    ◇


「なんだ?」

 遠くに土埃をまき散らす集団。馬や馬車に相当無理をさせてるみたいだ。

「そういやあの青年、応援が来るって言ってたな」

 せっかくの初めての街。少しでも印象をよくしたい。立地がよければ拠点も作りたい。

「タケル、カズマ! 挨拶いくぞ!」

「ワッツ?」

「挨拶?」

「俺たちの目的を思い出せ、『異世界ヲタク化計画』を! ギャルゲがないなら作ればいい。そのための身代わりとなる主人公を大量生産しないと、世界の平和も俺たちがやらないといけなくなるぞ」

「そうだった、最初の街だもんね。ヲタ情報拡散のために交通網の整備もしないと」

「学園作ったり、もう街作りネ!!」

「あんまし深くは関わりたくない。だが、拠点第1号は作っとくべきだろ。そのためにも街の人と仲良くなっとくぞ」

「賛成」

「ヲタクが世界を征服するネ!」

「「そこまではしない」」


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■9話 Side:enemy

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「クソッ、なんなんだアレは」

「忌々しい『姫巫女』のいない絶好の機会だというのに」


 どこかの薄暗い大広間。明かりは、ロウソクとステンドグラスから届く月明かりのみ。神秘的なそのさまは、どこかの神殿のよう。


「やはりキングクラスでは物足りなかったか」

「魔王として安定するまで待てば良かったものを……」

「『姫巫女』が街にいないときにと話し合ったではないか!」

「結局、『巫女様』の方もいなかったのだろう? ならよいではないか」

「それは結果論だ!」

「いつもは街に置いてくくせに、よりによって今回一緒に行動するとは……」


 全員が神官のような統一した姿。ローブを深く被り、布で顔を隠している。


「いや、『巫女様』は今は仮の姿。真の姿に目覚めれば、魔の全てを統率するお方」

「ならば仮に、今のお姿が死することがあっても……」

「むしろ、そうなればすぐに目を覚ましていただけるだろう」


 神官と違うのは、その目に宿る狂気。とても聖職者に見えない。


「『帝国』への指示は?」

「奴ら、金を払ったら、むしろ喜んであの街を見捨てた。もともと開拓に赤字だったからな」

「このまま時を待っていても潰れるだろうが……」

「『姫巫女』がいる以上、念には念をだな」

「次のコマは、『魔境』の奥だ」

「おぉ、それはいい!」

「それなら標的は『獣人国』じゃ」

「ん? なるほど、じり貧になる街がより早く潰れてくれるか」

「あの街は『魔境』の素材で、輸入に頼ってるからな」

「我らは待つだけで念願が叶うだろう。だが『姫巫女』が邪魔をする。『姫巫女』を潰そうにもかなわぬ。ならば……」

「隣国を潰していけばいいわけか。ゲスの『帝国』はほっといても協力してくれる。ならばそれ以外をか」

「決まりだな」

「一刻も神が目覚めるために」


『神〝ヒキニー〟様の目覚めのために』


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■10話 姫巫女

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「……凄い住民たちだな」

「みんな鍋やお玉で武装してるね」

「子供も戦う気満々ヨ!」

 それにしても、視線がうっとうしい。武装した住民たちが、キラキラとした目を向けてくる。悪気はないんだろうが、居心地悪い。

「最初から好感度MAXネ」

「街を護ったから、こんなに受け入れて貰えたんだと思うよ」

「こりゃ、お偉いさんたちとの話しさえ上手くいけば、すんなり計画進められるかもな」


「姫巫女様だ!!」

「帰ってこられたぞ!」

「姫様!」


「姫巫女?」

 お偉いさんが戻ってきたのだろう。住民たちが嬉しそうに騒ぎ出した。

「試しに会ってみない? 人気ある人みたいだし」

「計画の交渉ネ。味方にしたら最強そうヨ」

「とりあえず行ってみるか」

 このとき、心の準備をしていなかった俺は、姫巫女の姿を見て思考停止した。


    ◇    ◇


「母様! 姉様!」

 20代前後の和風巫女と、10代後半の少女。

 見た目が20代前後の女性が、10代後半の青年に母と呼ばれるのには違和感がある。だが、街の誰もが見慣れたもので、微笑ましく見守っている。

「キョウちゃんただいま!」

「キョウヤ、状況を」

「先行のゴブリン襲撃時、街に来訪者が。その方たちがゴブリンたちと交渉、戦闘を回避。ゴブリンは森へと帰りました」

「ゴブリンを交渉? 後続はもう来たの?」

「はい。来訪者の方たちのみでオークキング率いる部隊を撃退しました」

「そう。その英雄たちはどこに?」

「すみません母様! すぐにこちらに来たため、確認してません」

「ポルコは?」

「呑みに行きました」

「あの男、どんだけ頭が悪いのかしら。普段動かないんだから、こんな時くらい動いてもいいものを」

 静かに怒る女性。その姿に脅えるキョウヤとヒソカ。

「母様、まずは来訪者の方々を」

「そうだよチハヤママ! 街の力になってもらえるかも」

「そうね、あの男の処理はまた後で」

 ご愁傷さまです、とポルコへ祈る2人の子供たち。

「…………」

「母様?」

「チハヤママ?」

 動きの止まったチハヤを、心配するキョウヤとヒソカ。

 チハヤの視線を見ると、3人の男たちがいた。見た目は20代前後で、緑色の見たことのない服を着ている。

「母様、あの方たちです。街を救ってくれたのは」

 すると突然、チハヤは歩き出し……



「……久しぶりね、レイジ」

「……姉さん」

 1人の男と抱きしめ合った。


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■11話 爆弾

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 姉さんは、体を抱きしめ、額を近づけ、視線をかわしてくる。

 俺もそれに応えるよう抱きしめた。

 でも、言葉が出ない。あんなにも話したいことがあったのに。

「髪……」

「ん、何?」

「黒に戻ってるのが新鮮だなって……」

「あんたは真っ白のままね」

「いや、こっち来て、呪いの影響もなくなって黒に戻ったんだけど、慣れなくて。染めたんだ」

 前世では鬼の呪いの影響で、髪の脱色や片腕に痣など、体に変化があった。俺に合わせて、姉さんも髪を染めていた。

「あたしも後で染めたいから用意して。あっ、化粧もある? こっちあんま無くて困ってたのよね」

「いや、姉さんも不老だよね? 年取らないのにいるの?」

「女の武器――必需品よ」

「はいはい……」



「あの~レイジさん、ここ街中」

「イチャイチャは後で見えないところでお願いしますネ」

「「あぁっ?」」

「「ひっ」」

 カズマとタケルにツッコまれ、つい睨んでしまった。どうやら、姉も睨んだらしい。

「チハヤママ?」

「母様? そちらの方は」

 ママに母様?

「あぁ、そうね、紹介するわ。キョウヤ、ヒソカ」

 姉さんは、青年キョウヤと少女ヒソカに向き合い、


「あなたたち〝2人の父親〟レイジよ」


『まっじで?』

 爆弾を落した。


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■12話 異世界キャバクラ『リライズ』

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「はっ!! ここは!?」

「おはよう。チハヤさんがお世話になってる……キャバクラ? でいいのかな?」

「まさかの異世界で初キャバクラネ」

 異世界でキャバクラ? 前世でも無縁の場所。ソファーやカウンターの席。奥には弦楽器の置かれたステージがあった。

「待て、姉さんがお世話にって?」


「あら起きたかしら、英雄さん。いえ、チハヤの旦那様」

 スーツを着た髪の長い女性が、からかうように言ってくる。スーツなんて、こっちにあるんだな。

「あんたは?」

「ここ『リライズ』の〝社長〟ミスティーよ」

「レイジだ」

「タケルネ!」

「カズマです」

「よろしくお願いね」

「姉さんが世話になったって?」


「それについてはあたしから話すわ」

 店の奥から出てきたのは、金髪ロング・キャミソール・ジャケット・ショートパンツ・ブーツと、完全に現代の服装の姉さん。

「魔法って便利ね。カズマとタケルから貰って、髪染めたのよ」

「似合ってる」

「ありがと、レイジ」

「チハヤママ、話し進まないよ」

「母様、そういうのは子供のいないところでお願いします」


「レイジが父親……」

「何かいけない感じがするネ……」

「黙れ」

 これカズマとタケルにずっとからかわれるん展開だ。


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■13話 竜殺しの妊婦と家族宣言

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「それじゃあ、あたしが死んだところから話すわね」

「まった、話していいの?」

「大丈夫よレイジ。身内だから」

「了解」

 姉さんにとって、女社長ミスティーも含め身内ということらしい。


「まず、私の転生特典は、レイジと同じ世界に転生すること。だからレイジは、この世界に来たの」

「どおりで。それで一緒になったのか」

 親父たちは別世界に転生したし、もう会えないって思ってた。特典もそんな使い方するって発想がなかった。変にヲタ知識があったのが、思考の邪魔をしたんだろう。

「そして、転生したのはあたし1人だけじゃなく、お腹の中にいたこの子たち2人も。死ぬ前に最後にって思ったのが、まさかあたしも当たるとは思わなかったわ。しかも双子とか」

「ふふふっ」

「「ぐふっ」」

「姉さん、その辺はいいから」

 目を覆う俺と、顔を赤らめる2人の子供たち。微笑ましく笑うミスティー社長と、吹き出し笑う馬鹿2人。


「こっちに転生した場所がちょうどこの街の近くの街道でね。道なりに歩いてたら、はぐれ竜が街を襲おうとしてるのが見えたのよ」

「まさか」

「叩き切ったわ」

「お腹に子供がいるのに……」

 竜を瞬殺する妊婦。頼むから安静にしてよ、もう遅いけど。

「それから、巫女装束が受けたのか『姫巫女』なんて呼ばれるようになったんだけど、あちこち勧誘がうるさくてね。そんなときミスティーに店の用心棒として雇われたの」

「チハヤが了承してくれて助かったわ。その頃、店を開いたばかりで、縄張り争いとか大変だったのよ。『姫巫女』という街の英雄が用心棒なら、そもそも手出ししてくる人も減るから」

「あたしもゆっくり子育てに専念できるし、ちょうどよかったのよ。世界の時間軸がズレてるって話しだったから、レイジが来るまで時間がかかるしね」

「なるほど、だから子供たちがここまで育ってるわけか」

 姉さんが死んでから2年、俺たちがこっちの世界に来て〝1年〟、合計3年でここまで育つわけないもんな。


「姉さん、ありがとう。1人で頑張ってくれて、ありがとう」

「どういたしまして。まぁミスティーや店の子たちもいたから、言うほど大変じゃなかったけどね」

 軽く言い放つ姉さん。でも実際は相当大変だっただろう、姉さんの感情は別として。ほんと懐の深い人だからな。


「ヒソカにキョウヤでいいのかな。俺のことはまぁレイジとでも呼んでくれ。そっちも俺を父親ってすぐに思えるわけないだろうし」

 いや、もう十分育ってるし、今さら父親って思えないか。

「すぐには無理でも、ゆっくりでいいから……」

 少なくともこちらは、自分の子供として護ってやりたい。KAMIから世界の事情を聞き、いつ危険が迫るかわからないと知った。なら親として、いつでも安全な状態にしてやりたい。


「――俺と家族になって欲しい」


「「だが断る、です」」

「何で知ってんだよ、そのネタ!」


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■14話 子供たちの願いと父親の甲斐性

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「ぁぁぁぁぁ~~~~」

「レイジが壊れたネ」

「ほら起きて」

 子供たちのハッキリとした拒否に膝をついていたが、カズマに起こされる。

「私たちが断ったのは、パパ――いや違ったレイジにお願いがあったからなの」

 ヒソカがニシシと小悪魔フェイスで笑う。畜生、パパ呼びいいじゃないか!

「パパ、レイジがパパ」

「ますます危険が危ないネ」

「黙れ」

 もうお前らうぜえ、黙ってろ。

「もう、3人とも聞いて!」

「おう」

「ウィ」

「はい」

 娘に叱られた。


「あんたたちに、街の防衛を任せたいのよ」

「あぁ、チハヤママ! 私が言おうとしてたのに」

「防衛?」

「今回魔物たちが現れた街外れ森、あれって大陸の端っこにある『魔境』って言うの。」

 出た異世界テンプレ展開、『魔境』。

「あ~、その流れなら、この街って大陸最果ての街って感じ?」

「よくわかったわね、それも物語のお約束ってやつ?」

「うん。ちなみに魔境の開拓って全然できてないってパターンじゃ?」

「そうなのよ。魔境どころか、この街自体もね。地形的に魔物が流れてきやすいの」

 人類対魔物の最前線ってことか。

「ならミッションとしては、街の防衛をして、街や魔境の開発を手伝うって流れか」

「そもそも魔境の奥には竜の巣があるから手を出したら駄目。さすがに全ての竜を駆除ってのは、あたしも自重したわ。話せる竜とかいるかもしれないと思って」

 自重してくれてよかった。確かにテンプレ的にありえる。俺でも、世界全ての竜を駆除とか、さすがに考える。人にとって友好的な竜もいるだろうし。


「あっ、1つ訂正するわ。最果ての街・エデンは、『街』ではなく『国』になったのよ」

「ん?」

「どういう事ですか、母様?」

 キョウヤも知らない?

「あたしやヒソカが街を離れてたのは、王都に行ってたの。このままじゃこの街、じり貧で潰れそうだったから。直接、国に交渉しに」

「やはり駄目でしたか」

「そういうこと。魔境の素材は欲しいけど、支援や街開発で赤字。国はこの街を捨てたのよ」

 なるほど、そういう展開か。


「だからどうせならと、この街を独立させて、『帝国』とは別の国として扱わせたの。そうすれば他の国に、支援までいかなくても交流を許してもらえるかもって」

「姉さん、『帝国』って隣国と上手くいってないの?」

「好き勝手やってたのよ、日本の戦国時代みたいに。大国だから人材が足りなくて、その人材を他国から奴隷として仕入れてたの。まぁ、そのせいで他国は国交断絶。もし帝国が隣国の1つに手を出したら、その隙に他の国が帝国を襲うくらい恨まれてるわよ」

「よく帝国もってるね」

「資源とか生産とか豊富だから、他国を頼る必要がないのよ」


「いやぁ、まさかの国を興す前にできてた展開ネ!」

「この街、じゃなかった国? を発展させればいいんだね」

「んじゃやるか。まっさらな状態なら好き勝手しやすい」

 軽く言う俺たち3人に、姉さん以外が目を見開いていた。


「レイジさん、やってくれるの!」

「おう、パパに任せろ!」

「レイジ、キモいネ……」

「その顔、なんとかしなよレイジ……」

 タケルとカズマが何か言ってる。俺のどこがキモいんだよ。


「レイジは子煩悩になりそうね」

「ふふふ、そうね。いいパパになると思うわ」

 姉さんとミスティーが微笑ましく見ていた。解せぬ。


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■15話 本物の執事

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「失礼します。ロミオナルド様が姫巫女様をお呼びです。表に馬車を用意いたしました」


 異世界キャバクラ・リライズの扉が開くと、初老で白髪執事のおっさんがやってきた。

「すぐ行くわ。ついでに家の旦那もつれてくわ」

「姫巫女様の旦那様ですか。今街で噂になっていたのは本当だったのですね」

「セバスにも紹介しておくわ。あたしの旦那・レイジよ」

「はじめまして、レイジだ」

 俺は言葉遣いとは裏腹に、所作は綺麗に深くお辞儀をした。

 感動させてくれたお礼だ。

 本物の執事、しかもセバスとは。キタこれ。


「これはご丁寧に。わたくし、ロミオナルド・プリンエデン陛下にお遣いします執事セバスと申します。今後ともよろしくお願いいたします」

「ミーはタケルネ! 本物の執事に会えて嬉しいヨ!」

「カズマです。お会いできて光栄ですセバスさん」

 タケルもカズマも、本物の執事に興奮状態だ。

「すまない。俺たちの国では執事と言えばセバスという名前が定番の1つなんだ。しかも実力も申し分ない完璧執事」

「それは光栄です。ですがまだわたくしは未熟者。名に恥じぬよう精進いたします」

 完璧な所作でお辞儀をするセバス。その姿に感動する俺たちヲタ3人。まるでヒーローに会う子供たちだ。正直、家の人材に欲しい。

 不思議がる他のメンバー。


「お呼ばれしてるのでしょ? そろそろ向かわないと。お待たせしたら失礼よ」

 ミスティーのツッコミで我に返る。

「ついでだ、例の交渉いくぞ」

「さっき街の資料〝メール〟できたよ」

「プレゼンテーションネ!」



「「「目指せ『異世界ヲタク化計画』!」」」

「あんたたち、何とんでもないこと考えてんのよ……」

 姉さんに呆れられた。


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■16話 初・プレゼンテーション

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「呼びつけてしまいすまない」

 そう謝罪するのは、この国の国王ロミオナルド・プリンエデンだった。

 ヲタ的に反応しそうだったが、なんとか抑え込む。ここから計画を進めるための許可を貰わなくてはならない。俺たちにとって〝本当の戦い〟だ。

「セバスから話しは聞いてる。3人の英雄たちよ、先ずは街を、いや、国を救ってくれて感謝させてほしい」

「レイジでいい」

「ミーはタケルネ」

「カズマでどうぞ」

「わかった。私のことはロミオと呼んでくれ。レイジ、タケル、カズマ」

 そう言って微笑むロミオ。俺たちと同じ20代前半くらいで超絶イケメン。まぁ名前からして色男の予感はあった。『ロミオ』だし。


「では、まずどこから話したものか……」

「あぁ、あたしがだいたいの説明したわ。むしろ話しを聞くのはロミオよ。レイジたちが案を持ってきたみたいよ……不安だけど」

 姉さんがジト目で俺ら3人を見てくるが、俺たちは笑顔で返す。

「ふふ、これを見てくれ」

「っ、これは……」

 俺は『VRスクリーン』を表示する。VRとついているが、魔法で作り出した近未来的モニターだ。そこに映し出したのは俺とタケルで作った、リアルCGの街映像。そこに住む人も映し出されている。ナレーションはカズマにやらせた。

 やっぱ人にわかりやすく説明するには、視覚化するに限る。映像なら聴覚も使えるし。


『ようこそエデンの国へ』

『ここは大陸の最果て、『魔境』前の、最後の国』

『魔境の魔物たちが流れてきやすい危険な街』

 おどろおどろしくナレーションが始まる。


『過去、多くの人が命がけで護ってきました』

 過激な戦闘シーン。冒険者や兵士たちが汗を流しながら魔物を討伐している。


『そんな危険な街が生まれ変わる!!』


『危険な魔物たちから身を護ってくれるのは、大きな城壁。結界も張られてるため、魔物よけだけでなく、魔法攻撃などからも身を護ってくれる頼れる存在』


『冒険者や騎士たちは、新たに作られた武器や防具を装備。これにかなう者なし』

 アニメやマンガで出てくるようなビジュアル重視の装備。だが、安全性はかなり上がってる。


『新たに作られた自然豊かな湖。そこからは大量の資源が。魚もいっぱい!』


『湖の周りには小さな森もあり、お休みのピクニックに最適。観光目的に遊覧船もある。みんなぜひ乗ってみよう!』

 城壁を出て、山が見えた。


『次に紹介するのは、長い間私たちエデンの街を支えてくれた裏山。なんとここも新たな山に大変身!』


『岩塩や鉱石など大変貴重な資源の眠る山に!』


『多くの動植物もあり実りの多い山に』

 うさぎや鹿などが花畑で戯れている。


『でもやはり怖いのは魔物の存在。ですがご安心。この裏山には、専属の護衛が!』

『その名はゴブリンソルジャーズ!』

 迷彩服を着たゴブリンたち。このゴブリンは、俺たちと仲良くなったゴブリンたちだ。彼らをスカウトして、訓練させた。


『魔物退治はお手の物。彼らの連携にかなわない』

 ゴブリンたちの訓練映像が映し出された。これはCGではなく、実際の訓練映像。


『人と言葉を交わせるので山道に迷ったときなども道を教えてくれます。困ったときはゴブリン隊!』

 まさか言葉を話せるようになるとは、これは俺たちも予想外だった。もう完全に普通のゴブリンではなく、人族のゴブリン族って感じだ。


『次に紹介するのは、私たちの住む新たな〝国〟エデン・王都。帝国から独立し、新たな資源や技術を得て生まれ変わる!』

 現代ヨーロッパ風の街並み。大きな道路に馬車が通る。車にせず、馬車だけはそのまま残した。イメージとしては、日本だと大正時代が近いかも。


『注目は道路中央の線路。この専用の道を通るのは、街の端から端まで走る〝路面電車〟。大きくなった街の行き来もこれに乗れば楽ちん楽ちん』


『歩道という歩き専用の道もあり、万が一の対策もあるので、これで事故も減らせそう』

 ガードレール代わりに、万が一の時は物理障壁が張られる。


『次に紹介するのは私たちの住む家。透明な窓ガラス、火加減の調整しやすいコンロというカマド、ひねれば水の出る水道、家の中を明るくしてくれる照明、ゆったり入れるお風呂場』


『そしてとても綺麗なトイレ! お尻を洗浄してくれるウォシュレット付きの優れもの!』


『貴族や王族でも味わえない暮らしを体験できます』


『さぁみんなで豊かな暮らしをしましょう』


 勝った。完璧な終りだ。

『……』

 ロミオもセバスも警備の兵士たちも誰もが言葉が出ない。

 姉さんは目を覆い、呆れていた。何故だ?


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■17話 街の魔改造

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 俺たちのプレゼンテーションは無事成功した。

 あのあと、街の住民たちにおふれを出し、同じ映像を観て貰った。当然の大歓声。

 一部から本当にできるのかと疑問が出たが、姫巫女の旦那が作ると言ったらなっとくしたらしい。魔王戦でヘリコプター飛ばしたし、そのへんで納得したんだろう。


「索敵終了。住民はみんな建物内に入ってるよ」

 俺たちはロミオ邸の庭で作業をはじめていた。カズマが最終安全確認を行う。

「レッツスタートネ!」

「やるか」

 多くの魔方陣が展開された。作業の中心は俺とタケルで、サポートがカズマ。

「先ずは大まかな街の位置に建物を移動させるぞ」

「オーケーネ!」

「建物が揺れないように慎重にね」

 今頃、建物内の人たちは、窓の外の光景に驚いてるだろう。

「次に道路と路線、あと城壁か」

「ミーが城壁やるネ!」

「それじゃ僕がサポートするよ」

 それじゃ城壁はタケルとカズマに任し、道を作るか。

 大小様々な魔方陣が飛び交う。

「うし、んじゃ湖作るから、裏山任した」

「了解ネ」

「任された」

 指定されてた空間に大きな穴を掘る。そこに川の水に性質を合わせた水を張る。近くの川に繋げ、後は湖内を微調整。水草、コケなどを生やす。

「メイド部隊、湖に解き放て」

『了解デス』

 生き物に関しては養殖していたものをメイド部隊に放させる。餌も豊富だし、これで繁殖するだろう。

 後は、周りの森や、船場を整える。遊覧船も転送。最初はメイド部隊が派遣され、徐々に地元の仕事にまわす計画だ。

「次は発電機設置っと」

「1機はミーがやるネ」

「それじゃ、僕は蓄電器設置ね」

「任せたカズマ」

 発電機は、電気ではなく魔力を発電している。家電や街灯など、今後も使用したい物は増えていく。それら街全ての魔力をまかなえるほどの大型発電機を1機だけでなく、2機設置することに。蓄電器もあるので、余剰魔力の保存もいける。

「最後に建物の位置を微調整して……と」

「完成だね」

「完璧ヨ!」

「あとはメイド部隊、任せた」

『任されましたデス』

 個々の家までは手が回らないので、メイド部隊に任せる。技術指導などもメイドたちに任せた。ほんと、メイド様々だな。


「あっ、そうだ」

 上空にVRスクリーンを表示する。

『住民のみんな、作業完了した。もう外に出ていいぞ。個々の家の改造はメイド部隊に任せてるので声かければいい』

 あちこちから歓声が聞こえる。

「おつかれ」

「お疲れ様」

「オツオツネ!」


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■18話 リライズの魔改造

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「ミスティー、ちょっといいか」

 街の魔改造がおわり、俺たちはリライズに帰ってきていた。

「あら、みんなお帰り。外凄いことになってるわね。あれもあなたたち?」

「ああ、俺らがやった」

「ちょっと気になったのだけど、家の店の周りだけ大きな敷地になってるの、どうして?」

「そのことで話しがある。新しいリライズを俺たちに作らせてもらえないか?」

「新しいリライズ?」

 ぽかんとした表情のミスティー。

「そうだ。隣に俺たちの拠点を作るついでに、リライズも改装したい。任せてもらえないか?」

「ミスティー、あたしも今さらここを離れる気ないから。レイジたちも増えるし、場所を広くしたいの。駄目?」

「ミスティーママ、駄目?」

「僕からもお願いします、ミスティーさん」

 姉さんと2人の子供たちの追撃。

「ふふっ、もう、わかったわ。全てレイジに任せるわ」

「ありがとう、ミスティー。では早速はじめっぞ。夜まで時間がない」 

「今から始める気!?」

 驚くミスティーをよそに、ニヤついた俺とタケルとカズマは魔方陣を展開した。



「結局、店舗の名前何にするの?」

「ファミーユ1択だろ」

「異論ないネ」

 改装するリライズは、住居付きの大きな建物になる。

 ただし、全てをリライズの店舗にするのではなく、隣に喫茶店を作ることにした。

 名前はギャルゲ定番の『ファミーユ』。

 すぐにオープンするわけではないが、その想定でゲームを再現するよう内装も一緒にする。

「先ずは店を移動させて……」

 広い敷地の奥へと建物を移動。大通り側に新たに立てなおす。

「従業員の住居スペースは僕がやるよ」

「ミーたちの住居スペースはミーがやるネ」

「ならリライズは俺がやる」

 新・リライズは、高級感をテーマに作る。

 少し高めの天井にシャンデリアを。仕切りを作り、革張りのソファを設置。テーブルはガラステーブルにした。

 ただ仕切りを作るだけだと息苦しいので、観葉植物を設置。

 以前もあった音楽ステージは、ピアノや複数の楽器をやって大丈夫なよう広めのステージに。ライトアップ用の照明も完備。ピアノもグランドピアノだ。

 音楽をやる以上、他の部屋に音が漏れないよう、壁は防音構造+魔術で完全防音に。これで非番の従業員も安心だろう。

 カウンターの席も、オシャレなバーのように、ライティングなどもこだわった。

 作業する人の動線を考え、棚やガス・水道を設置。冷蔵・冷凍庫も完備。

「こんなもんか」

「僕の方も終ったよ」

「こっちも完璧ネ!」

「んじゃ最後に……」

 スマホを取りだし、メイド部隊に連絡をする。

「メイド部隊、リライズの引っ越しを大至急頼む。今夜の営業にひびかないように」

『至急そちらへ向かいますデス』

「わかった」


 何が何だかわからずほおけてるミスティー、ヒソカ、キョウヤ。

 まぁ何せ、旧・リアライズの建物はまだそのままだからな。変化がなくて実感がない。

 ただ、魔方陣が飛び交う姿は、とんでもないことが起きていると理解しただろう。

 そんな中、姉さんはソファでくつろいで、家のメイドにお茶を入れさせていた。

 いや、どっからメイド呼んだんだよ。さすがだわ。


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■19話 新『リライズ』オープン

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「あらいらっしゃい、ポルコさん。今日も一番乗りね」

「……ママがいるってことは、ここはリライズでいいんだよな?」

「チハヤの旦那さんに改装してもらったの」

「例のチハヤ嬢の旦那か。街で噂になってるが、いまだに信じられねぇよ」

「大丈夫。それはみんな同じだから」


 初めて来たときから街の英雄だった『姫巫女』。長い歳月もあり、大人から子供まで幅広い世代に愛されていた。

 本人は特別いばることもなく、普通に接してくれる。

 それもあって、長くこの街のアイドルとされ続けた。


「それで、旦那はどんな感じだ? あぁ、すまん。ん、やっぱママに入れてもらった酒が一番だ!」

「ふふっ、ありがとう。旦那さんとそのお友達3人ともいい子よ。ただちょっと規格外だけど。チハヤとは違った意味で」

「怖えな。あのチハヤ嬢だしな。貴族なんて関係ないとぶん殴ったときはさすがに国出るよう進めたが」

「あの時は私も焦ったわ。でも気にせずその後も王の使者も殴られてたわね」

 ポルコとミスティーは遠い目をしていた。


「……事後処理もせずお酒とかいいご身分ね、ポルコ」

「げっ! チハヤ嬢!」

 その鋭い目に、脅えるポルコ。

「結局、キョウヤがある程度まとめてきたみたいだけど。家の子に働かせて自分は休むとか、どういうこと、ん?」

「いや、それわだな、キョウヤの独り立ちのために仕方なく…………、すみませんでした」

「まあまあ、チハヤもそのくらいにして」

 ポルコは、女神ミスティーの救済に感謝した。

「レイジたちは?」

「あっち」

 チハヤの視線の先は、新しくなった大きなステージだった。

 そこにはスーツをビシッと着こなす3人の姿が。


    ◇    ◇


「さてどっちにする?」

「ドラムは渡さないネ!」

「わかってんよ、お前じゃなくてカズマに聞いてる」

「んー、今日はピアノかな」

「そんじゃ今日は俺がアコギで」

 せっかくこんなステージあるんだ。楽器弾かないでどうする。

「曲調はゆったりめがいいかな」

「アコースティックテイストでいくぞ。イントロピアノで」

「オーケー。ドラムは主張し過ぎないネ」


    ◇    ◇


 店内のざわつきがやむ。

 見たことの楽器で目を引き、注目が集まる。

 聞いたことのないキャッチーな曲調。誰もが耳を傾けさせられた。


「……いい曲だわ。あの子たちほんと多彩ね」

「……凄ぇ、聞いたことねえよ、こんなの」

「レイジは昔からいろいろ手を出してから。たぶんあの2人と仲がいいのも、物作りが好きな者同士だからなのかも。あたしたちの故郷では『ヲタク』って言うの」

「ヲタク……、凄ぇやつを旦那にしたんだな、チハヤ嬢」

「凄いのは当然よ。だってレイジはあたしの旦那なんだから」

 何を当たり前のことをと言い放つチハヤ。

「ごちそうさん……」

「ふふっ」

 胸焼けしたポルコと微笑むミスティーだった。


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■20話 たった1人のための英雄

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「フッ! ハッ!」

 新リライズの裏庭で、キョウヤは日課の素振りをしていた。

(母様の言うとおり、〝あの人〟も英雄だった。僕は2人の英雄の子供)

 考えながらも、動きは止めない。

 無意識でも反応できるよう、体に染みこませる。

(僕がキングとやり合うなら、力は無理だ。動きで翻弄/ほんろうし、一撃たりとも受けないように……)

 スピードをどんどん上げていく。

(もっと早く、もっと鋭く……)

 息が上がるが、それでも止めない。キングの死という目標到達前に止まるのは自分の死を意味する。



「お、やってんねぇ」

「レイジさん……」

 素振りを止め、呼吸を整えていく。

「邪魔したか?」

「いえ」

「そうか」

 会話が続かない。

 自分の父といっても、この年になるまであったことのない他人。

(母様に事情を聞いていましたが。どうやら僕はそれでも、今まで会えなかったことに何も思わないわけではない、みたいですね)


「1つ気になったことがある」

「え?」

 レイジの突然の質問に戸惑う。

「そんなに〝英雄〟になりたいのか?」

「……」

(母様や父様みたいに英雄になります、か)

「僕は子供の時、英雄になると言っていました。ですが、今はよくわからなくなってきています」

「わからなく?」

「何が英雄なのか、自分がどうなりたかったのか。両親2人とも英雄というのは、自分で思ってるよりも重荷になっているのかもしれません」

 そんなつもりはなかったが、どうしても英雄という物に意識してしまってる自覚がある。


「自分でもよくわかってないから、とりとめない話しになるが、いいか?」

「構いません」

「英雄……ってのは、なろうと思ってなるもんじゃない。勝手になってる物だ」

「勝手に?」

「英雄本人に、英雄になったって気はないだよ。俺や姉さんもな」

 英雄になった自覚がない。なら英雄とは?

「例えばさ、世界に英雄って何人いると思う?」

「わ、わかりません」

「正解」

「え?」

「世界に何人いるかわからない、それくらい英雄は――いる」

 どういうことだろう? そんなに英雄はいるものなのか?

「自分を救ってくれた。救われた者にとっては、そいつは英雄なんだ。たった1人にとっての英雄」

 たった1人以外にとっては普通の人物。

「姉さんから家の事情、どこまで聞いた?」

「代々一族で、悪鬼という邪神と戦い、封じていたと」

「十分だ。俺たち家族はな、別に世界のために戦ってきたわけじゃない。俺の場合、たった1人の妹のために命を賭けた」

「たった1人のため……」

「封じるだけだと、復活する。だから代々少しずつ邪神の力を削ってきた。命がけでな」

「なんとか、妹の代では倒しきれるよう、俺の両親や姉さんが邪神を弱らせ、俺は仲間と邪神を倒しきった。まぁ死んだんだけどな」

 死んだと軽く口にするが、想像以上の試練だったはず。 

「でも世界はそれを知らない。俺たちは裏の世界の人間だったから。表の世界の住民は、世界滅亡の危機なんてみじんも思っちゃいないよ」

「それでは!」

 代々命を賭けて頑張ってきたのに、誰もそれを知らないとは、どんなに残酷なことか。

「でも俺たちは満足なんだよ。〝たった1人〟、妹のために俺は英雄になれたからな。俺は世界最強の兄だって胸張れんだぜ」

 たった1人のための英雄……。

 認めてもらいたいんじゃない、自分の守りたいものを守り抜く。

 それが英雄。



「そんな英雄に、僕はなれますかね?」

「なれんじゃね? 意外と簡単だぞ、英雄なんて」

「「ふふっ」」


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■21話 街改装の進展

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「はうぅ、楽しかったヨ!! 熱いビートで異世界も虜ネ!」

「そうだね。音楽は異世界でも、世界共通なのかも」

 新リライズでの初セッションを終えたタケルとカズマは、自分たちの住居スペースのリビングに戻ってきていた。

「あ、暖炉設置したんだ。見た目だけで熱くないけど」

「魔術でガス暖炉を再現したネ! ミーたちの住居スペースは、セレブの豪邸がテーマで設計したヨ!」

 タケルは自分がコーディネートを担当した部屋を説明する。

 金髪の外見も相まって、ほんとにセレブっぽい。エセ英語訛りを除けば。


「タケル様、カズマ様、お帰りなさいませデス」

 タケルとカズマがくつろいでいると、メイド姿をした小さな少女がリビング入ってきた。

 カズマの希望100%投入してタケルに作らせた、唯一幼女な初号機メイド『レイナ』。

 メイド服は、カズマの作品だ。

 このためメイドたちは、制作者であるタケルとカズマを親とし、3人の中で一番まともなレイジをマスターと認識している。

 普段は〝本拠点〟より、他のメイドたちに指示を出してる。

「ただいまヨ、レイナ」

「ただいま。レイナも作業ご苦労様。街の人たちへの説明、終わった?」

「はい。順調に話しが進んだため、既に改装済みデス。こちらで用意した少人数向け賃貸も、明日には引っ越しまで完了するデス」

「随分、とんとん拍子にいってるね。やっぱ具体案を映像で見せるって強いな~」

「視覚でうったえるのが一番ヨ」

 最低1週間の予定が2日ですんでしまった。さすがに予想外の進展。


 レイナはキョロキョロと部屋を見渡す。

「レイジ様はどちらデスか?」

「レイジは今、親子の会話中ネ」

「キョウヤ君のこと、気にしてたからね」

「英雄の子供ってのも大変そうネ……」

「タケル様もカズマ様も人ごとではないデス。今回の事で大々的に英雄になりました」

「まさか僕たちも英雄になっちゃうとはね~」

「ミーも〝勇者の仲間その1〟くらいの気持ちだったヨ」

 2人とも、まさか自分までも英雄になるとは思ってもいなかった。


「まぁ、一番驚いたのはレイジにお嫁さんや子供がいたことだよね」

「両親の後に、お姉さんが邪神と戦ったのは聞いてた通りだったけど……まさかの嫁枠とはびっくりネ」

「しかも子供ごと転生とは。やっぱりスケールが違うよね、主人公は」

「世界の時間差で、2人ともまさかの成長。レイジは、こっちの世界でも2次元的展開ネ」


「レイジのそばって飽きないな~。まず最初に、まさかの異世界転生だし」

「ミーもさすがに思考がパニックだったネ」

「やっぱり僕にとってレイジは、〝青鬼〟だね」

「いや、レイジの髪は白ネ! 白鬼ネ! 2人ともこっちでは鬼化がないから、地毛は黒髪のままヨ!」

「『泣いた赤鬼』ごっこができなくなっちゃったね!」

「一度もしたことないネ! くっ、ミーがツッコミとか合わないネ」


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■22話 ゴブリンソルジャーズ

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 ――カーンカーンカーン

 太陽が昇るのに合わせ、鐘の音が響く。

 エデンの裏山、そこにある多数のプレハブからゴブリンたちが現れる。

 ゴブさんこと、『ゴブリンソルジャーズ』の村だ。


 目覚めてすぐ彼らは〝身だしなみ〟を整える。

 以前とは違い、レイジたちと出会った彼らは文明的な生活をしている。

 顔を洗い、歯を磨き、自分の迷彩服を着込む。


「おはようございます、シスター」

「おはよう、ゴブさん」

 メイド部隊・シスターズから派遣されたメイドと、当番のゴブさんが朝ご飯を用意する。

 お盆を持ち、順番に並び、受け取った者から食べ始める。


「いただきます」

 きちんと手を合わせ、食事の挨拶をする。

 今日のメニューは和食。

 器用にハシを使いこなし、魚をほぐす。

 日本人と比べても引けを取らない鮮麗さ。

「ごちそうさまでした」


 食事をすませたら各自移動する。

 夜勤をおえ、入浴後、食事をするもの。

 武装し、警備の仕事に移るもの。

 様々な訓練に移るもの。


 座学の訓練では、武器の扱い方など専門的なことだけではなく、一般常識なども学ぶ。

 もともとゴブさんたちは、人の言語を話せなかった。

 それをシスターズの指導のもと習得を果たした。

 今では大人のゴブリンが、生まれてきた小さなゴブリンたちに教育している。

「あめんぼ あかいな あ・い・う・え・お」

『あめんぼ あかいな あ・い・う・え・お』

「うきもに こえびも およいでる」

『うきもに こえびも およいでる』


 道徳を学ぶため、昔話を導入している。

「そうして赤いゴブリンは、青いゴブリンのおかげで、人間の友達を作れました」


 グラウンドでは、ランニングをしながら『ミリタリーケイデンス』という替え歌を歌うゴブさんたちが。


「我らはゴブリンソルジャーズ」

『我らはゴブリンソルジャーズ』

「エデンの平和を護りぬく」

『エデンの平和を護りぬく』

「ワン・ツー」

『ワン・ツー』

「スリー・フォー」

『スリー・フォー』

「ワン・ツー」

『ワン・ツー』

「スリー・フォー」

『スリー・フォー』


 警備の任務は主に、裏山に『魔境』の魔物が入り込まないようにする。

 危険な仕事だが、与えられた装備と仲間との連係でで対処する。


「来た、散開。撃て!」

――タタンッ、タタンッ

 銃声が鳴り響くとともに、バタリと倒れ込む音。

 倒した魔物は、綺麗に解体し素材を回収する。


 その他にも、裏山内の巡回任務もある。

 これは万が一魔物が入り込んだときの保険だけでなく、人間を助ける仕事でもある。


「ぐす、ぐす、ぐす」

「おや、迷子かい?」

「うん、ぐすっ」

 森の中で少女がすすり泣いていた。


「ほら、泣かないで、もう大丈夫だ。私が門まで送ろう」

 少女を抱き上げ、エデンの城門まで歩き出す。


「お、ゴブさん、お疲れ。いつも悪い。子供たちには裏山入るなって言ってるんだが……」

「気にするな。これも仕事さ」

 城門の警備兵に少女を預ける。


「お嬢ちゃん、ゴブさんに挨拶は?」

「ごぶさん、ありがとう」

「ふふ、もう1人で森に入っては駄目だよ。今度は大人と一緒にね」

「うん!」

 ゴブさんは少女の頭を撫で、村へと帰還する。


「さて、今日の晩ご飯はなにかな」


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■23話 ロミオとジュリエット

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「ふぅ、これで最後か。頼んだセバス」

「お疲れ様でした、ロミオ様」


 街の大幅改変後、多くの書類が届き、疲労がたまる。

 だがその負担も、もうすぐ起きる〝目的〟のためなら、心地よいくらいだった。


「エデンの抱える問題も一気に片づきましたね。これなら……」

「……うむ、何のうれいもなく動けそうだ」


    ◇    ◇


 当時ロミオは、次期領主のため、領主の代理として交渉におもむくことがよくあった。

 主にエデンの街の食料問題解決のためだ。

 行商人に定期で食料を輸送してもらうため、年に数回打ち合わせをする。そのため、帝国の敵国・『アラモード王国』に、身分を隠して紛れ込んだ。

 わざわざ敵対国に行くのは、帝国の他の街とは距離がありすぎるからだ。

 実際『アラモード』側は、エデンの街に対して通行止めをしていない。『魔境』の素材を手に入れるためにも、盛んに行商人や冒険者が行き来していた。


「仕事も終わったことだし、皆も帰りまでゆっくりせよ。私は市に行ってくる」

「ロミオ様、護衛を……」

「要らぬ。『魔境』の魔物を相手しているのだ。そこいらの者には負けぬ」


 ロミオにとって、この時間は楽しみの1つだった。

 領内だと顔が知れ渡ってるため、楽しめない。

 ここなら気を使う者が誰一人いない。


「旨い! もう1本くれ!」

「いい食いっぷりだね。おまけだ、もう1本やるよ」

「ありがとう!」

 こうして気ままな屋台めぐりも最高だった。



 ――ゴトンッ!

「クソガキ! 何しやがる!!」


「ん?」

 視線の先には1人の〝少年〟が、複数の酔っ払いどもに絡まれていた。

「酒を呑むなとは言わないけど、店の女の子に絡むのは御法度だよ」

 どうやら少年は、女の子が絡まれたのを助けたらしい。


「おやっさん、ごちそうさま」

「お、おう、まいど!」

 少年の元へと脚を進める。


「……テメェ、もう容赦しねぇ。俺たちゃ『魔境』の魔物を相手してんだ。ただですむと思うなよ」

 男たちは剣を抜いた。あれは駄目だ。

「あんたたち、それを抜いたってことは、覚悟があるんだろうね?」

「余裕ぶりやがって、ぶっ殺してやる!」


 ――バシッ

「え?」

 少年は驚いた。

 ロミオが男の剣を持つ手を押えたからだ。

「……1つ言っておこう。『魔境』を相手にする冒険者は、喧嘩はしても剣は抜かない。それは同じ冒険者で争わず、1匹でも多く魔物を倒すためだ。貴様らのようなまがい物が、『魔境』の冒険者を語る資格はない」

 男たちは、よりによって『魔境』について語った。ロミオにとっては自身の誇りを汚された気分だった。

「何なんだテメェ、関係ねぇ奴は引っ込んでろ!!」

 男たちを無視し、ロミオは少年を見る。

「少年、何人相手できる?」

「……ふっ、別に何人でもかまやしないよ」

「ならどちらが多く処理できるか競争だ」

「ナメてんじゃねぇ!!」

 男たちが一斉に向かってくる。

 ロミオも少年も剣を抜き、あっという間に男たちをのした。

 酔っぱらってるのを差し引いても、やはり『魔境』の冒険者は嘘だったのだろう。


「なかなかやるな少年。いい剣すじだ」

「……その少年って止めろ。ガキじゃないし、女だ」

「き、君、女の子だったのか!?」

「くっ、女の子も止めろ、子供じゃない! もう14だ!」

「私の2つ下、まだ成人前じゃないか」

「とにかく、私のことは『ジュリエット』と呼びな!」


    ◇    ◇


「ふふっ」

「ロミオ様?」

 突然笑みを浮かべるロミオに声をかけるセバス。


「いやなに、思いだし笑いだよ」


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■24話 外交開始

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「挨拶が遅れてすまない。改めて、3人とも本当にご苦労だった」

 頭を下げるロミオ。トップの国王が頭下げたらマズいだろ。

「ロミオ様」

「非公式の場だ、問題ない」


 街改造から1ヶ月、やっと生活も落ちつきはじめた頃。姉と俺たち3人は、ロミオにお呼ばれしていた。

 ちなみにロミオの家は、城ではなく洋館になった。たんに俺が好みだった方を推薦した。選んだのはロミオだ。ロミオも城は不便だからと止めた。


「王国ができてすぐだが、外交に向かいたい。一緒についてきてもらえないか?」

「早いな。もっと落ち着いてからでもいいんじゃね? しかも王自らとか」

「帝国がいつ動くかわからぬからな。それに隣国の1つでも同名を組めれば、自然と帝国周辺国に伝わる。そうなれば、帝国が我が国に手を出そうとしたら周辺国が襲う」

「なるほど、早いに越したことはないか」

 まぁ帝国が来ても、今のエデン王国を潰せるわけないんだが。

「行くのは、獣人国『アラモード』よね」

「う、うむ」

 姉さんのツッコミに、少し詰まるロミオ。

「非公式の場だけど、アラモードの王女とロミオは恋仲なのよ」

「「「はぁ~ん」」」

 ニタニタと笑う俺たち3人。

 セバスや姉さんも、どこか微笑ましくロミオを見ている。


「すまない、本命はそこなんだ。彼女『ジュリエット・アラモード』とは、獣人国の街で遊んでいる時に知り合ったんだ。私は帝国の人間だったから、家名を名乗ることはできなかったが、まぁ、察してはいただろう」

「まさかのロミジュリかよ」 

「しかも敵国同士とか」

「完璧な設定ヨ」

「これにはあたしも驚いたわ。完全に物語の主人公よね」

 俺たち3人ばかりか、姉さんさえも納得の展開。

「でもよく敵国に侵入できたな」

「もともと、エデン側の警戒はないに等しいんだ。帝国の街と言っても、他の街とは距離がある。この国からだと『アラモード王国』の方が近いくらいだ。たぶん王国も、『魔境』の魔物を食い止める街だから、見て見ぬ振りをしてくれたのだろう」

「でも帝国から独立したわけだし、公式の場でやっと会えるってわけか」

「王になった以上、子を残さぬわけにはいかない。だが、できることなら好いた女性と共にいたい……。頼む、力を貸して欲しい」


「「「頼まれた」」」

 次の計画先は獣人国か。

「またデモ映像作らなきゃね」

「もうネタが降ってきたネ」

「計画を1段先進めるか」


「あんたたち、まだ何か企んでるの?」

「「「当然」」」

 また姉さんは目を覆い、呆れていた。何故だ?


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■25話 獣人国へ出発

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「レイジ、あんたせっかく馬車改良したのに、車で行く気?」

「ほんとはヘリで行きたいんだけど」

「自重してこれねぇ」

「大丈夫、安全運転でいくから」

「そこじゃないわよ」

 獣人国出発の日、エデンの城壁前で準備。今回俺たちは、技術力の高さを見せつけるために、車での移動にした。本当はヘリで行こうと思ったが、さすがに自重した。


「これがクルマか。凄いな……」

 城壁前に数台並ぶ人員輸送用車両『高機動車』に、ロミオは驚いていた。キョウヤとヒソカは、あちこち見て回っている。

「運転は家のメイドがするから、兵士たちも乗せてくれ。獣人国側に、車で行くこと伝えたんだろ?」

「うむ。使者に特殊な魔導馬車で行くと伝えさせた。了承も貰っている」

「なら攻撃されることもないだろ」

 正直、そこが心配だったから馬車で行くことも考えた。だが、今回の外交は失敗する確率の方が高い。なんせ独立したとはいえ、元帝国の人間。だから意表ついて、混乱させる必要がある。

「ミーが運転するね!」

「止めて!」

 珍しくカズマの鋭いツッコミ。前に酔ったのがよっぽどトラウマなのだろう。

「あたしが運転するわ」

「姉さんが? 俺が運転するつもりだったんだけど……」

「レイジは隣でフォローして。あたしも覚えておきたいから」

「了解」

「いいなぁ、私も運転したい!」

「ヒソカとキョウヤは、あと2年我慢な。18歳未満は禁止だ」

「むぅ」

 ムスっとむつけるヒソカ。キョウヤもどこか残念そうだ。

「あとでバイクなら教えてやるよ。1人か2人乗りの小回りきく乗り物だ」

「ホント! 絶対だよ!」

「よろしくお願いします」

 子供たちのご機嫌も戻ったことだし、そろそろ行くか。

「んじゃ、出発すっぞー。全員乗れー」


「しょうがないネ。ミーの美声を聞かせて上げるヨ」

「タケル、歌う気? お約束なら魔法少女系かな。『GATE』みたいに」

「それじゃ1曲目は『桃井さん』の『めい☆コン』ネ!」

「俺は魔法少女派生で『さくらちゃん』『プラチナ』1択」

「レイジがそっちなら、僕は定番で『なのは』にしよ」

「それじゃ私は『まどマギ』にするわ」

「「「まっじで!?」」」

 珍しく姉さんが俺たちのノリに乗った。姉さん『まどマギ』知ってたんだ……。


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■26話 極道?

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「姉御、完全にミーの負けネ……」

「確かにチハヤさん凄い美声だったね」

「ありがとう、カズマもなかなかだったわよ」

「僕たちの場合、曲作ったりしてるから全員歌う機会あったからね」

「実際俺、姉さんボーカルで曲作りたかったくらいだしな。素人とは思えん」

 やっぱ姉さんには、俺たちのバンドで歌ってもらおう。

「あんたたち、そんなことまでしてたのね」

「久しぶりだね、チハヤママの歌!」

「小さい時はねだって、いろいろ歌ってもらいましたが、最近はごぶさたでしたからね」

「今後は機会が増えるわよ、この3人に付き合わされてね」

「楽しみ!」

「僕も楽しみです」



「ん、見えてきたわよ」

 獣人国の城壁が見えてきた。

『全車両、スピード落せ。城壁が見えてきた、徐行運転に切り替えろ』

『了解デス』

 車についてる無線で指示を出す。姉さんもゆっくりしたスピードに落した。

「挨拶は俺がするか」

『獣人国の皆さん、驚かせてすまない。こちらは新たにできた国『エデン王国』の者だ』

 すると獣人国の兵士が近づいてきたので、窓を開けた。

「報告は聞いています。兵士が馬で誘導しますので、それに続き城までお向かいください」

「ご苦労」

 そのままゆっくりと城へ向かう。街の人たちは歓迎ムードで、手を振ってる人も。

 獣人の国といっても、人間もかなりの数がいるんだな。少なくとも人間を差別する国じゃなさそうでよかった。

 城の前まで行くと、綺麗に整列した兵士たち。その間に、文官らしき男と騎士の2人が立っていた。

「ようこそ獣人国『アラモード王国』へ。わたくしこの国の大臣バナジアと申します。長旅でお疲れでしょう。先ずは部屋へご案内いたします」

 大臣の指示に従い、俺たちは城に入った。車はメイドたちに管理させるので問題ないだろう。

「謁見は2刻後の予定となっております。問題ありませんでしょうか?」

「うむ。私もできれば早めに獣王に会いたい。それで頼む」

「畏まりました」

 それから風呂に入ったりとしていたら、あっという間に時が来た。



「ロミオ、段取りはいいか」

「うむ、大丈夫だ。途中でレイジに話しを持っていく」

 謁見の間へ向かう途中、ロミオと小声で確認する。いきなり俺が話すわけにはいかないので、途中で俺にバトンタッチ。そこから俺たちのプレゼンが始まる。



「よくきたな。会いたかったぜ、エデン国王」

「私もお会いしたかった、獣王」

 出てきたのは眼光の鋭い極道組長だった。


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■27話 キズナネットワーク

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「それで、何しに来た。家の娘をもらいに来たのか、あぁ?」

 獣王の雰囲気に呑まれ、獣王の家臣とロミオの従者たちは緊張していた。

 こういう人間は、感情で動く。プレゼンの進め方も少し変更だな。

 力には力を、で。

「それもある」

「ふざけんじゃねぇ!!」

 獣王の怒声に従者たちはビビる。

 だがロミオは、なんてことなく会話を進めた。


「もちろんそれが私の〝本命〟だ。だが、それだけではない。今日はアラモードにとって有益な話をもってきた」

「有益?」

「レイジ」

「あいよ」

 バトンタッチ。ここからが俺たちの戦いだ!

 VRスクリーンを表示し、映像を流す。


『〝キズナネットワーク〟。それはエデン王国と友好国の固い友情のあかし』


『今エデン王国は、急速発展をしています』

『大きな資源、高い技術。これらを友好国にもおすそ分け。みんなで豊かになろうという計画です』

 エデンだけでなく、他の関わる国も『魔改造』する。これも異世界にヲタ文化を普及するためだ。


『先ずは安全面。エデンでは、新たな魔法城壁が作られ、どんな魔法攻撃・物理攻撃でもかなりの時間を稼げるように。』


『そして、冒険者や兵士の装備を一新。従来の装備より、より強力でより安全な装備に。見た目の良さからも、オシャレとして装備を購入する人も』


『次に生産面。エデン王国の目玉・エデン湖。綺麗な湖からは豊富な食料が。休みの日は遊覧船にのって観光もいいですね』


『裏山からは、岩塩や動植物がたっぷり。魔物を退治する部隊・ゴブリンソルジャーズがいるので、安心して動物たちは繁殖できます』


『畑は、新たな技法・新たな魔導具により生産量を大幅に増加。生産される種類も豊富になりました』

 前世の現代農法+魔法の新たな方法に、トラクターなどを生産した。これによって、農業の作業効率を上げた。


『住民たちの生活水準も上昇。各家庭には、魔導具を徹底完備。衛生的でゆったりとした生活が送れることに』


『ですがこれでは、満喫できるのはエデン王国だけ。凶悪な者は、それを狙い襲って来るかも』


『そうだ! それなら、欲しい人に広めればいいじゃない! 世界を発展させよう!』

 そう。俺たちはこの程度の技術を隠蔽する気はない。普及しまくり、前世の現代水準まで世界を発展させる気だ。



『そこで登場するのが〝キズナネットワーク〟。友好国との絆のあかし』


『まず、エデン王国と友好国に〝転移装置〟を『ステーション』という建物に設置。『ステーション』には各地の転移装置が集まっています。いつでもどこでも気軽に行き来ができるようになりますね』

 謁見の間に衝撃が走った。〝転移魔法〟というとんでもない爆弾を投入されたからだ。それも隠蔽するどころか半分譲渡されるという、とんでもないもの。


『次に技術交流。エデンの新たな技術を職人により実演で披露。友好国への普及をお助け!』

 まさかと驚く獣人国サイド。こちらの隠す気ないノーガード戦法に次々とやられていく。


『次に魔力発電所の設置。これは魔導具を動かす燃料を作り出す機械。街に街灯を設置し、夜でも明るくするのもいいかも!』


『次が最後の目玉〝エデン王立学園〟。ここは未来の世界を作り出る子供たちを育成する全寮制学園』


『身分差もなく、やる気があれば大丈夫。衣食住も学園側が支給』


『最新機材・最新技術を使用し、最前線で活躍できる人材を育成します』



『これが〝キズナネットワーク〟。世界が繋がる絆』

『さぁ、みんな仲良くなろう!』


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■28話 世界一の色男

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「やってくれるじゃねぇか……」

 やっぱこの映像だけでは、感情的な獣王を黙らせることはできないか。でも、エデン王国を舐められないところまでもってこれた。

「親父、これはエデン王国と友好を結ぶべきだ。見たことない幻術での説明。それだけでも技術の高さを証明してる」

「お前は黙ってろ!」

「親父!」

 王座横に立つ獣王の息子らしき男が意見を述べるが、獣王の感情によって黙らされた。

 今、獣王は苛立っている。完全に手玉を取られたからだ。俺たちと交流したいと全員を思わせた。それは獣王自身も含む。


「獣王、頼みがある」

「頼み?」

「ジュリエット王女を私の妃にください」

「ロミオ……」

 獣王の横にいる若い方の女性がロミオの名を呼んだ。あれがジュリエット嬢か。


「……いくら独立したつっても、テメェは元帝国の人間、信用できっか。それに俺はお前が大嫌いだ」

「それでも私はジュリエットと……」

「まだ言うか!!」

「親父、私もロミオと結婚したい」

「チッ、ジュリエット、お前が長いこと、誰とも結婚を受け入れなかったのは知ってる。こいつを思ってだとな。俺としても女として幸せになって欲しい。だが、こいつだけは駄目だ!」

「なら私は家でるよ。兄貴も結婚して後継ぎの子供もいる。王国も安泰だしね」

「「ジュリエット!?」」

「ジュリエット様!?」

「許可します」

「お前!?」

「お袋!?」

「王妃様!?」

 獣王も家臣たちも驚いてる。

 やるなぁ、ジュリエット嬢と王妃様。男連中、完全に振りまわされてる。やっぱ異世界でも女が強い。



「で、伝令です!」

「何だ、取り込み中だ!」

「お、王都に〝竜の群れ〟が向かっていますッ!!」

「なんだと!?」

 え、何この展開。魔王の次はドラゴンかよ。

 獣王は、姉さんとヒソカを見た。

「……エデンの姫巫女はどっちだ」

「あたしよ」

「頼む、竜の討伐を――」

「断る」

「チハヤママ!?」

「母様!?」

 獣王の言葉を遮り、即答で断る。さすが姉さん。

「何が欲しい? 一通りの物は用意できる」

「要らない。大抵のものは手に入るもの」

 取り付く島もない。さすがの獣王も焦りを感じる。


「――私が出よう」

「ロミオ!?」

「陛下!?」

 いきなり言い出すロミオに驚くジュリエットとセバスや兵士たち。

「これでも『魔境』の魔物相手にやり合ってきたのだ。そう簡単にやられぬよ」

「私もいくわロミオ」

「駄目だジュリエット。君には帰ってきたら私の妃になってもらう。傷をつけるわけにはいかない」

「ロミオ……」



「くくっ、やっぱ『ロミオ』は世界一の色男の名だな。名前負けしてない、さすがだ」

「家のロリコンイケメンとは大違いネ」

「ロリコンじゃなく父性愛なんだよ、イエスロリータ・ノータッチだよ!」

 家の残念ロリコンがなんか言ってる。

「父様」

「ん?」

 あれ、キョウヤに父と言われるの初めてじゃね?

「どうか獣人国に手を貸してあげてください」

「レイジパパ、お願い。その代わり私たち、パパのことパパって呼ぶから」

「僕も父様とお呼びします」

 パパに父様か、悪くない。

「少しだけだぞ」

 俺は対策を練っている獣王に声をかけた。

「獣王」

「なんだてめぇは! このクソ忙しい時に」

「『姫巫女』の旦那だ」

「はっ!?」

 何故かドヤ顔する姉さん。

「ロミオと王女の結婚を認め、エデンとの交流しろ。それが条件だ」

「レイジが行くなら私も行く」

 姉さんも乗ってきた。

「だぁあああ、わぁったよ! 認めるよ、畜生!」


 俺たちの勝ちだ。


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■29話 竜退治

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「えーと、翼竜が殆どだから翼さえ壊せば、あとは陸戦でいけるだろ。さすがに火吹くような上位竜は俺がやるか」

 アラモード王国の城壁。そこから見えるのは、ハッキリとした竜の輪郭。実物はとんでもない大きさなのだろう。

「お、早速ブレスかよ。障壁障壁っと」

 遠距離から上位竜のブレスが飛んでくるが、魔法障壁で無効化する。

「レイジ、あたしもやるわ。合わせなさい」

「了解」


 ――パンッ!!

「お呼びだ『鬼殺し』」

「来なさい『鬼桜』」

 俺と姉さんは、両手を鳴らす。

 鬼殺し同様、姉さんが悪鬼との戦いで使用していた妖刀・鬼桜。


「いくわよ」

「はいよ」

 ――キンッ!

 居合抜き。たった一振りで、全ての上位竜の首をはね、翼竜は翼をなくした。


「こんなもんだろ。あとは主人公にお任せだ」


 この『物語』は、俺たちが『主役』じゃない。


「チートがないなら、俺たちが作ればいい。最強主人公を作り出してやる」


 俺たちが望んでるのは『裏方』。


「俺たちは前に出なくていい」


 今回の主人公は〝ロミオ〟だ!


「んじゃ、いってらっしゃい、主人公」

「行ってくる、レイジ」

 俺とロミオは、拳をぶつけ合う。


    ◇    ◇


「エデンの戦士たちよ、私に続けぇッ!!」

『おおぉぉ!!!!』

 ロミオが先頭にエデンの兵士たちが続く。それに遅れてアラモードの兵士や冒険者が突撃した。


「隊列を見出すな! 障壁を張りつつ注意を引き、隙を突け!!」

 エデン王国の装備は、全てレイジたちが発案した物。

 障壁を張れる籠手は、一番大きく張れば、竜に飲み込まれることもない。

 剣の方も、翼竜程度の鱗なら軽く切れるほど。


(凄いな、レイジたちは。私たちが竜と戦えるようになるとは、思いもしなかった)

 兵士が障壁で頭をいなし、首が下がってるところに、ロミオは走り出す。


(これなら大切な人を守れる!!)


「はああああぁぁッ!!」

 ――ガアァアアァァ!!!!

 ロミオの一撃が翼竜の首を切りつけ、悲鳴があがる。


    ◇    ◇


「僕も行きます!」

 キョウヤは、装備をエデン王国兵士装備と同じタイプにしていた。

 攻防バランスがいいので、今後どう成長しても対応できるように。 


(もう以前の考え方にこだわらない。目指すべきは〝たった1人のための英雄〟!)


「父様たちのようには、いかないが!」

 キョウヤも、ロミオに続くよう翼竜を切りつけた。


「僕にもやれる!」


    ◇    ◇


「オラオラオラ! エデンの連中に負けてらんねえぞ! シバキ倒せ!!」

 獣王も自ら特攻する。やっぱ組長だわあれ。


 翼をなくしても、脚力で飛んだ翼竜が姉さんに向かってくる。

 ――キンッ!

「ありがと、レイジ」

「……姉さん、今わざとかわさなかったでしょ?」

「あらあら、なんのことかしら」


「こんな時でもイチャイチャとはさすがネ」

「ごちそうさま」

「もう私お腹いっぱいだよ」

 観戦組のタケル、カズマ、ヒソカに呆れられた。


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■30話 Side:enemy

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「なんでアラモードにエデンの連中がいる! しかも強くなってるではないか!!」

「あれだけの竜が一方的にやられるとは……」

「完全に想定外だ、クソッ」


 誰もが完璧にいくと思っていた作戦。それを奇跡のような展開で回避された。


「奴らには何か憑いてるのか?」

「悪魔か何かと契約したか」

「それとも我らが神に見放されたか……」

「ありえぬ! ヒキニー様にこんなにも尽くしておるのだぞ!!」


 神に見放される。それだけはないと全力で否定する。だがそれでも、もしやと思ってしまい、焦りが出る。


「ヒキニー様も我らの働きを見守っておろう。じゃが、まだ力の目覚めが足りぬのだろう」

「やはり『巫女様』を先に目覚めさせるのが先だろうか?」

「今の仮の姿を始末するのか?」

「だが『姫巫女』たちが邪魔だ」

「無駄にこちらの人を亡くすだけだ」

「根本的に策を考え直さねばならぬか」


「なに、我らはここまで時間をかけて、力を蓄えた。今さら、焦ることもなかろう」

「そうだな、待っているだけで、もうじき時が来る」

「残された時間はあとわずかだ。そうすれば真の姿に目覚めてくださろう」

「まずは『巫女様』の目覚めを待とう」

「うむ」


『神〝ヒキニー〟様の目覚めのために』


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■31話 宴会しようぜ

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「「「宴会しようぜ!」」」

「何だいきなり……」

「「「宴会しようぜ!」」」

「いや、だから何だってんだよ」

 ノリのわからない獣王め。


 竜の群れを討伐後、俺たち3人は獣王のところへダッシュした。

 たぶん今夜、祝勝の宴会を開くと思ったので、何とか1日ずらしたかったからだ。

「竜退治の祝勝会とかやるんじゃねぇの?」

「ああ、お前たちの願い通り今夜は宴会だ」

「それ延期」

「は?」

「明日、祝勝会兼ロミオとジュリエットの婚約パーティー開くぞ」

 全く話しに付いていけない獣王。

 しかも、ここは自分の国のはずだが、当たり前のように口を出されてる。

「い、いや、さすがに国の連中を呼ばないといけないから無理だぞ」


「安心してください! 今日中に転移装置で招待状を配りますので。あ、こちらが招待状になります。あとは獣王様のサインだけです。送り迎えも転移装置で行いますのでご心配なく。パーティー出席のためのドレスなど家の店でも取り扱ってますので、問題ありません」


「え? あ? わかった、お前たちに任せる」

 カズマの勢いに押される獣王。


「まぁこれにサインして、ミーたちに王宮の厨房を、ほ~んの少し貸してくれればそれで問題ないネ! あとは全部こっちに任せるヨ!」

「ん? 厨房も?」

「俺たちの故郷の料理を何品か出す。俺たちにとって、料理も広めたいものの1つなんだ」

「わ、わかった、話しは通しておく」


「おし、これで決まり! 早速動くぞ」

「時間がないネ!」

「メイド部隊も総出だね!」


 残されたのは、招待状の束を受け取った獣王だった。

「何の勢いだ、あいつら」


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■32話 料理回

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 竜退治の翌日、祝勝会兼ロミオとジュリエットの婚約披露パーティーをすることになった。

 遠方でこられない貴族達も、簡易設置した転移システムで招けくことに。


「俺は認めねぇ……」


「さて、メニュー何する?」

「定番料理回だと、揚げ物とスイーツかな?」

「マヨネーズ必須ネ!」

「お前の希望じゃねぇか」


「無視すんな!!」


 俺たち3人は宮廷の厨房に〝無理矢理〟混ぜてもらい、異世界料理無双を計画していた。


「揚げ物はカラアゲと魚のフライか」

「タルタル作るネ」

「問題はスイーツだね。サラッと食べられるプリンかな」

「この場所なら、焼きか蒸すになるか?」

「なら蒸そうか。ついでに茶碗蒸しもやろうよ」

「それでいこう」


「いくらなぁ獣王様の言いつけでも、素人に神聖な厨房を使わせられるか」

 王が極道なら、料理長も極道だな。大丈夫かこの国。

「別に全ての料理を作るわけじゃない。4品だけ俺たちの故郷の料理を出したいんだ。メニューは渡すからそっちも手伝ってくれ」

「故郷の料理?」

「調べたかぎりじゃ、こっちにはない調理法を使う予定だ。アンタも気になるんじゃないか、料理長さん?」

「くっ」

「マズかったら出さない。だから取りあえず作らせてくれ」

「チッ、おい、お前ら! 俺はお客人と料理する。そっちは進めとけ」

『ウッス』

 いや、下っ端料理人もみんな極道だな。人相悪すぎるわ。



「そんじゃ、カラアゲからいくか」

「「ほいキタ」」

「からあげ……」

「カラアゲのメニューを覚えるには、とある呪文を覚えるに限る」

「呪文?」

 いい問い返しをありがとう料理長。

 俺たち3人はノリノリで答える。

『醤油、みりん、ニンニク、しょうが一欠片、一晩熟成』

 あの作品、じわじわ面白かったな。さすが大手アニメ会社、キャラ立て上手し。

「まぁ、今日は熟成は抜きだがな。時間がない」

「冷やす場所がないと、衛生面で心配だからね」

「みりんは正義ネ! プロと素人の味の差は、みりんの使い方の上手さヨ!」

 あとで業務用冷蔵庫の宣伝するか。

「ちなみに醤油ってのは、これだ。少し舐めてみ」

「うまい!? 何だこの調味料は!」

「豆を発行させて作った調味料だ。炒め物だろうが煮物だろうが何にでも合う」

「あとで譲ってくれ、頼む!」

「終わったら家の店の商品リスト渡しとくよ。お気軽にご相談ください」

 カズマもぬかりない。しっかり宣伝して儲ける気だ。

「混ぜたヨ! みりんマシマシで完璧ネ!」

「あとは小麦粉をまぶして……、油で揚げる、と」

 油に鳥肉を投入。

「こんなに油を使うのか……。油で煮るって感じか」

「一応言っとくが、家事に水は厳禁だ。水かけると爆発して家事になる」

「爆発!?」

「少しならはねる程度だから大丈夫だ」

「さっきからたまにバチッとなってるのがはねるって現象です」

 カズマの解説に安心する料理長。爆発は怖いもんな。

「なるほど、って、もう油から出すのか? 火が通ってないんじゃねぇか?」

「表面が固まったら、一度取り出す。余熱で火を通すんだ。その後また2度揚げする。その待ってる間に同じ肯定。だいたい3皿をローテーションするのが俺的にはベストな時間だ。1皿目のがいい感じになる」

 どんどん2度揚げも終わらせる。広い厨房だから作業が進み安い。

「料理長、食ってみ」

「……ん!? うまい!! カリッとした中から肉汁と旨味が溢れ出る! これは止まらん。エールが欲しくなる」

「これ呑んでみ」

「酒か? 一応勤務中なんだが」

「試飲だ。必要な事だろ?」

「う、うん。これ、カラアゲに合う酒か!?」

「ビールっていう、まぁ、エールの親戚だ」

「カラアゲとビールの組みあわせは究極ネ!」

「いや、食ってんじゃねぇよ!! 終わったらフライ作ってろ! 俺はプリン作る」

「なら僕は茶碗蒸し作っとくよ」

「任せた、カズマ」


 料理長には、まず基礎としてプリンを教えるべきだろう。

 作り方的にはプリンも茶碗蒸しも同じ原理だが、材料が増えると記憶しにくいしな。

「まぁ教えると言っても、プリンは簡単だ。卵、牛乳、砂糖、バニラエッセンスの順番で混ぜるだけだからな」

「ばにらえっせんす?」

「くくっ、舐めてみろ」

「「ぷっ」」

「ん? ふんふん、香りは凄くいいな……」

 俺たち3人が笑ってるのを不思議に思ったが、それでも気にせず舐めた料理長。

「まっず!? にが!? なんだこれ、大丈夫なのか」

「「「だぁははははっ!!」」」

 爆笑する俺たち。

「そうなんだよな。バニラエッセンスて香りがいい感じだから騙されるが、とんでもなく苦いんだよ」

「知ってて舐めさせたのかよ……」

「それも経験だ。もう一生忘れねぇだろ?」

「ああ、この苦さは忘れられんよ」

 ザルを用意し、混ぜ合わせたものを、こしていく。

「これが注意点その1だ。ザルでこさないと、完成した時にすが入る。〝す〟とは、空気が入り、できあがりがボコボコして舌触りが悪くなることを言うんだ」

 カップに注ぎ、あとは蒸すだけだ。

 茶碗蒸しのついでに、カズマが用意してくれてた蒸し器を使う。

「鍋に水を張り、それにカップを置くんだが、ここで注意点その2だ。お湯はグツグツ沸騰させてはいけない。これもさっきの〝す〟が入る原因になる」

「作りとしては簡単だが、作業が凄く繊細なものなんだな……」

 うんうんと、感心してる料理長。

 俺は蒸してる間に、カラメルソースを作ることに。

 砂糖と少量の水で、焦がさないようにし、いい色合いになったら水をたし完成。

「シンプルなソースだな」

「だが奥が深く難しい。甘さや苦みがガラリと変わる。こればかりは経験だから説明しづらい」

「お菓子の基本となるソースか……」

 一番最初に蒸したプリンを魔法で冷やす。

「本来は冷蔵庫って魔導具で冷やすんだが、今日は魔法でやる。冷蔵庫も家の店で販売してるから買ってくれ。ほい、味見」

「わかった。 うまい!? なんだこれ! 味もそうだが、こんな食感の食べ物、食べたことねぇ!!」

「プリンは神ネ! 究極ネ」

「いや、だから、食べちゃ駄目だよ、タケル!」

 また食いやがって。まぁ、自分で追加分作ってるみたいだからいいが。


「ん? ちょっと待て、俺はなんていうミスを犯した!?」

「どうしたのレイジ?」

「レイジも食べるネ?」

「カズマ、タケル、急ぎプリンに合うフルーツカットしろ! 俺は料理長と生クリーム量産する」

「「そういうことか!?」」

「どうしたお前たち、何か失敗したのか」

 心配そうに3人を見る料理長。

 いや違うんだ。

 俺たちは、今回出すべきもっと最適なスイーツを忘れていたのだ。

「急ぎ仕込むぞ!」

「ウィ!」

「了解」

「何だかわからんが任せろ」


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■33話 友好のスイーツ

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「お前ら、急な集まりになって悪ぃな。もう話しは聞いてると思うが、家のジュリエットが隣のエデン王国の国王と婚約が決まった」

 王宮の大広間がざわめいた。

 元帝国というのがやはり引っかかるんだろう。

「心配すんのはわかるが、大丈夫だ。こいつらは竜の群れが襲ってきたとき、王自ら先陣切って突っ込んでった。いわば俺たちの戦友だ」

 ざわめきが止み、空気が変わる。

「命を賭けた友なんだ、こいつらはもう身内だ。仲良くする理由なんてそれで十分だろ」

『おおぉぉ』

 歓声が上がる。

 いや、だから、どいつもこいつも何でこの国は極道チックなんだ?

 高貴な連中のパーティーって気がしない。極道の集会だわこれ。

「友と娘の婚約を祝し、乾杯!」

『乾杯!』

 宴の始りとともに、俺たちの演出も始まる。



「くださいな」

「姉さん」

「あたしの後なら、他の人も来るでしょ」

「ありがと。で、何からいく?」

「カラアゲ」

「あいよ! キョウヤとヒソカは?」

「私は魚フライのタルタル」

「僕は茶碗蒸しで」

「2人とも完全に向こうの料理にもなれたな。まぁ、姉さんが作ってたから、食べ慣れてるのもあるが」

「あたし、いうほど作ってないわよ。店の子たち、みんな基本作れるし」

「年に数回くらい? チハヤママは、そのくらいしか作ってくれない!」

「主に僕たちの誕生日だけですね」

「だからレイジパパたちが来てから毎日ごちそうになったよ。店のみんなもパパのレシピで作ってるし」 

 そうこう話してる内に、徐々にこちらにも人が集まってきた。


「姫巫女様、そちらの料理はもしや……」

「家の旦那が作った、あたしたちの故郷の料理よ」

『おお』

 いや、タケルとカズマも作ったから、姉さん。何故に姉さんが自慢げ。


「何だこれは!? サクッとした外側に、中の魚がふんわり。このソースが実によくあう!」

「こちらのカリッとしたものも、初めて食べる味だ」

「ぷるぷるした触感、中に入ってる具もよくあう。サッパリしていていくらでも入る!」

 うん、他の連中の反応も良さそうだ。

 腹にたまる前に、〝今回の主役〟を出そう。

 料理長に、視線で合図を送る。

 すると料理人たちがワゴンでプリンを運んでくる。


「なんだ、これは?」

 獣王も戸惑う。

「カズマ、頼む」

 カズマは大広間の前と向かう。

「皆さん、ご歓談中に失礼します。この度、『ロミオナルド・プリンエデン』陛下と『ジュリエット・アラモード』王女の婚約を祝し、記念のスイーツをご用意しました」

 これが〝今回の主役〟、

「その名も『プリンアラモード』です!」

 急遽、専用のガラスの器を用意させ、カットフルーツやホイップクリームが乗ってる完璧なものを作り出した。

 このネタ浮かんだ時は、時間ギリギリで結構焦った。

「両国の名前が入ったこの料理は、我々の友好の証となってくれるでしょう! どうぞご賞味ください」


「上手い! 特にこの白い泡が一番いい!」

 獣王にも気に入ってもらえたようだ。

「甘さをフルーツのサッパリさが口を整えてくれて、いくらでも食べられそう」

「見た目もオシャレで可愛いい」

 他のメンツ、特に女性陣に反応がいい。

「おいしいわね、ロミオ!」

「ジュリエット、口に付いてる」

「え?」

 ロミオは、ジュリエットの口に付いたホイップを指でぬぐい、自分の口に入れた。

「ん、やっぱりこの白い泡が一番おいしいね」

 ポッと瞬間沸騰するジュリエット。


「チッ、あぁ~、俺やっぱこっちのぷるぷるした方が一番好きだわ~」

「あなた……」

 子供じみた獣王の反応に、呆れた王妃様だった。

 娘をもつ父親とは、どこの世界でもこんなものか。


「レイジ、はい」

「ん、うまい。お返し」

「ありがと、ん」

 姉さんがプリンを食べさせてくれたので、俺もお返しする。

「あっちもこっちもアッチッチネ!」

「ふふっ、いつものことだよ」

「父様、母様、せめて僕らがいないところでやってください……」

「ほんとだよ~」


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■34話 音楽普及

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 宴もいい感じに進んだし、そろそろ予定通り動くか。

 『異世界ヲタク化計画』のために。


「獣王、ちょっと場所借りるぞ」

「ん、何する気だ?」

「まぁちょっとした余興だよ」


 アイテムボックスから楽器を出す。

 今日の俺はベース担当。姉さん用のマイクとスタンドも用意。

 電気がないので魔法で動くようにしている。

 アンプはなく、専用魔方陣がスピーカー代わりになる。

 音に合わせ光るLEDランプみたいで、見た目も綺麗だ。

「僕がキーボードやるよ」

「レイナ、ギター任せるネ」

「かしこまりましたデス」

 人数が足りないので幼女メイド・レイナにも参戦してもらう。


「姉さん、一応VRスクリーンで歌詞表示しとくから。姉さん以外には認識できないから安心して」

「助かるわ、さすがに歌詞暗記までは間に合わないから」

「なんせ昨日いきなり頼んだのだしね。聞き込み大丈夫」

「大丈夫よ、普通に歌える」

「んじゃ、はじめますか」

「ええ」


    ◇    ◇


「あいつら、サラッとアイテムボックス使いやがってる……」

 アイテムボックスという貴重なものを人前で使う神経に驚く獣王。

「驚くのはまだ早いかと。彼らは何かやる見たいですから」

 ロミオが獣王をなだめる。

「いつも、ああなのか?」

「正直言うと、いつもはもっと酷いです。なんせ文字通り、エデンの街をたった数日で国として作り替えましたから」

「たった数日で、だと?」

「はい。その力に比べたら、アイテムボックスの貴重性はかすみます」

「変な幻術で見たエデンの街は?」

「全て本物のエデンの街ですよ。転移装置が設置されるのです。気軽に遊びに来てください。例えば、〝結婚式〟など……」

「チッ。まったく、とんでもねぇ連中だ……」

「私もそう思います……お、始まるみたいです」


    ◇    ◇


 俺たちの後ろに、大きな魔方陣が展開される。

『あ、あ、音量いい? そう、大丈夫みたいね』

 姉さんがマイク音量確認をする。

『それじゃ、あたしたちから、ちょっとしたプレゼントあげるわ。ロミオとジュリエットの愛を祝して……』


 俺たちの計画が始まる。

 今回俺たちが演奏するのは、ストリングスバンドのオリジナルラブソング。

 キャッチーなメロディーに、姉さんの美声を交えて、先ずは社交界に、新たな音楽を広める。

 この曲は、後々何度も商売で使うつもりだ。くくっ。


    ◇    ◇


 耳馴染みのない音、目にしたことのない演出に驚いた。

 特に若い世代には完全にハマっていった。

 それは2人の子供たちも同様だった。


「チハヤママ、凄く綺麗……私もああなりたいな~」

「姉様も歌うのですか?」

「歌う、か。それもいいかも」

「ん、僕はもしや、余計なことを言ってしまったのでは?」

「ママみたいに綺麗になれればそれいいと思ってたんだけど、歌うのもいいかも」

「しまった、完全にやる気になってしまった……」


 何気ない言葉を紡いだラブソング。

 でもそんなチープ曲も、特別な曲になる。


「素敵な曲ね……」

「ああ本当に……」

 ロミオとジュリエットは、手を繋いで聞き入っていた。

 歌詞に自分たちの想いを乗せて。

「ねぇ、ロミオ……」

 視線はステージのまま、ジュリエットに声をかけられた。

「ん?」

「…………、愛してる」

 繋いだ手の力が、強くなった気がした。

 それを握り返し〝世界一の色男〟は……、

「――愛してるよ、ジュリエット」


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■35話 Side:KAMI

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「ふぅ、焦ったよ、3人とも引きこもらなくてよかった。本拠点作って満足して終りじゃ、誰とも接触せず終わるところだった」

 3人とも力があるからと、容赦なくやり過ぎた。


「とくに調子に乗って開拓編だと、魔物のいない孤島に飛ばしたのが駄目だったかな」

 レイジたちは、孤島を開拓し、現代技術+魔法満載の島を作り出した。


「島の開拓で満足しちゃうかと思ったよ。でも、」

 転移魔法や飛行魔法を使って、孤島から大陸へと来た。


「大陸中に移動可能になったし、順調に世界の中心になりつつあるし」

 メイド部隊には、大陸中へ転移先を設置させた。

 例え大陸の端から端だろうと、気軽に移動できる。


「レイジ君も家族と無事会えたみたいだし、大丈夫か」

 最初は距離を置いて接しようとしてたみたいだが、何だかんだ子供たちとも打ち解けていた。

 家族のためならと、問題が起きても解決してくれるだろう。


「なにやら奥さんに内緒で計画してるみたいだし……ニシシ」

 レイジはチハヤに最高のプレゼントを贈ろうと計画していた。


「予定通り、完全完璧なハッピーエンドに向かってる……」

 この物語の完結まで、大きなな一歩を踏み出せた。


「レイジ君じゃないけど、バッドエンドなんかいらない。ご都合主義でいい」

 泣き要素なんていらない。

 全員で幸せになるんだ!


「頼んだよ、主人公/レイジ君」


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■36話 プロポーズ計画

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 獣人国『アラモード』から戻り数日。

 俺たちはリビングで、ロミオとジュリエット結婚式の計画を練るところだった。

 だったのだが……。


「俺、プロポーズするわ。姉さんに」

「「は? 子持ちの既婚者が何か言ってる」」

 と、意味がわからないタケルとカズマ。


「いや俺、こっちの世界に来てからプロポーズしてねぇし。実質前世は死んで一回リセットされただろ。ぶっちゃけ、人のことの前に自分のことを何とかしねぇと」

「確かに理屈的にはわかるけど……」

「子供いるし、超今さらネ!」

 確かに今さらだ。だが、


「姉さんにウエディングドレス着せたいんだ」

「「あ」」

 そうだ。二人が気づいたよう、俺と姉さんは正式に結婚すらしていない。


「なんせプロポーズした翌日に目が覚めたら、段取りと違って、俺に内緒で邪神に挑んで、勝手に死にやがってたからな、姉さん」

「「おぅ」」

 正直、夢かと本気で思った。

 未だにそこだけは本気で怒ってる。


「『柚希を救う』っていう人生目標があったから、なんとかなったが……。まぁ、トラウマもんだわな」

「何度聞いても、エグいなぁ」

「さすが姉御、容赦ないネ」

 姉さんの死を無駄にしないためにも、俺の手で邪神を完璧に倒しきるって、逆にスイッチが入ったのも事実。

 まぁ、姉さんもそこを見越してたのと、あと邪神をもう少し弱体化させたいのと、2つが一致したからの決行だったのだろう。


「んで、まぁ、ロミオたち見てて、俺としても気持ちの整理というか、キチンと向き合いたいって影響された」

「理由はわかったけど、実際どうプロポーズするか考えてるの?」

「というよりまず、1回目のプロポーズってどうしたネ?」


「1度目は普通に、夜空見ながらってな感じで……」

「「純情だね~」」

「うるせっ!」

 くっそハズい。


「それで旦那、2度目はどうするネ?」

「それって僕ら聞いていいもの?」

「ああ、というより少し協力してほしい」

「「?」」


 こうして俺と姉さんが〝主役〟の物語が動き出した。


    ◇    ◇


「店を貸し切りたい? 別にいいけど、でもどうして?」

 俺は異世界キャバクラ・リライズで、ミスティーに場所を借りようとしていた。

「あー、これ姉さんには当日まで内緒で頼む。姉さんへのサプライズイベントだから」

「また何かやるのね、それもチハヤに」

「そういうこと」

「内容は?」

「……言わないと誓えるか?」

「誓うわ」

 胸に手を当て、うんうんと頷くミスティー。

「実は……」

「えっ、ほんとに!? おめでとー!」

 ミスティーは、自分のことのように喜んだ。


「あー、もしかしなくても、姉さんからこの辺の事情も聞いてたか?」

「チハヤとレイジの事情は、全部初めから聞いたわ。お家の事情とかも」

「そうか。だから姉さんは、ミスティーを家族だって言ってたわけか」

「今はレイジたちも家族だと思ってるわよ」

「ありがとよ」

 ふっと笑う俺とミスティー。


「あぁ、あと、もう一つ頼む。姉さんの親しい人たちも誘っておいてくれ。準備の方は、あいつらが動いてくれてるから」

「わかったわ。何かあったら、タケルとカズマに話しとくから、レイジは自分のことに集中しなさい」

「ありがとう、ミスティー」


 これで場所は確保は完璧だ。


    ◇    ◇


「すまない、座って待っていてくれ。この書類だけ終わらせておきたい」

「悪るいな、ロミオ。急に来ちまって」

「気にするな」

 俺はロミオの屋敷に尋ねてきていた。


「セバス、これを。それでレイジ、話しとは?」

「ああ、ちょっと大々的にやりたいことがあってだな。ほら、街改造の時みたく」

「ふむ、何をするのだ?」

「プロポーズ」

「ふむ、誰のだ? タケルやカズマか?」

「……俺だ」

「「は?」」

 ロミオとセバスは声を上げた。

 いや、うん、そういう反応だよな。

「と、失礼しました。レイジ様は、姫巫女様とご結婚なさっていますが、新たに第2夫人を迎えるのですか?」

「いや違う。プロポーズの相手は姉さんだ」

「すまない、ますます意味がわからぬ」

「まず、ロミオたちって、俺と姉さんの事情、どこまで聞いてる?」


「こことは異なる世界で命を賭けて悪しき神を倒したと。それを創造神『ユッキー』様がいたく悲しみ、死後こちらの世界に迎え入れたとまでは聞いておる。この話しは有名な話しで、教会などでは神からのお告げがあったらしい。だから政治者は特に『姫巫女』関連の扱いは注意するよう気をつけていた」

「へぇ、そんなことになってたんだな」

 ブタ神のアフターケアか。

「もっとも、それ以上のことは何も聞いてないがな」

「子供が生まれるとなった時は、大騒動でしたね」

「相手は誰だと騒いだり、『姫巫女』と縁を作ろうと、子供たちの婚約話を持ちかけたり」

「子供たちまで巻き込まれたのかよ……」

「安心しろ。『姫巫女』が全部〝壊した〟からな。『姫巫女』と交渉できると思う奴はいないだろう、はははっ」

 いったい姉さん、何したんだよ……。


「まぁ、そこまで事情広まってるなら、あとは簡単だ。俺は姉さんと結婚式を挙げてないんだ。プロポーズした次の日、姉さんは邪神に挑んで死んだ」

「それは……」

「なんとも、お労しや……」

 ロミオもセバスも、顔をしかめる。


「それは今一緒にいられてるからいいが、俺としては、生まれ変わった今、もう一度プロポーズして、姉さんにウエディングドレスを着てもらいたいんだ」

「それは大変よろしいことかと」

「うむ、姫巫女はもう我が国の身内。おそらく街の連中に話しが伝わったらお祭り騒ぎになる。それくらい多くの者に喜ばれるだろう」


「すまん、お祭り騒ぎになる」

 今回のことは街の人にも関係ある。

「全開のトラウマってのもあるんだが、今回は俺たちの結婚の生き証人を多く作りたいんだ」

「生き証人ですか?」

「あぁ。俺という人間は確かにここに存在した。そして姉さんと結婚し、子供を授かった。それを〝世界〟に刻みつけたい」

「なんとも壮大だな」

「それに2度目のプロポーズだからな。1度目とは違う形にしたかったんだよ」


「ちなみに、1度目のプロポーズはどんなだったか聞いてもよいか?」

 ロミオの質問に、なんだか照れくさくなってきた。

「流星群っていう流れ星がたくさん見られる夜があるんだが、2人で夜空をみながらな……」

「「おぉ」」

 ロミオとセバスは関心する。

「特別な夜に、特別な言葉を、か……」

「さすがです、レイジ様!」

 は、ハズい、めっちゃハズい。


「まぁ、だからこそ、1回目を超えるプロポーズをしたい」

「それは難題だ……」

「レイジ様、もう案が浮かばれてらっしゃるのですよね?」

「そうだった、それで最初の頼みか。大々的にとは、私は何をすればよい?」


「街改造の時みたく、街におふれを出して欲しいんだ。姉さんにプロポーズのことがバレないように」

「そのくらい任せろ」

「すぐに手配します」

「何かあったらカズマとタケルがメインで準備してるからそっちか、それかリライズのミスティーに話しといてくれ。3人とも協力者だから」

「委細承知した」

「かしこまりました」


 これで俺と姉さん主役の〝物語の舞台〟は、完全にととのった。


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■37話 プロポーズ

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「まだ、起きてたのね」

「姉さん」

 縁側にすわりこみ夜空を見ていたところ、姉さんが来た。


「柚希は?」

「もう寝てるわよ」

 深夜と呼ばれる時刻。

 山奥にある自宅。

 あたりは星明かりで満ちていた。


「今日、ちょうど流星群なんだ。見られるかなって」

「ずいぶんと珍しいことするわね。レイジが星を見るなんて」

 普段の俺は、夜空を見たりしたことはない。

 ただ今回は、


「ちょっとお願い事しようかなって思ったんだよ。流星群なら1つくらい叶えてくれるのがあるんじゃね? って思って」

「ほんと、変なとこ純情よね、レイジって」

「からかわんでよ」

 ちょっと照れくさくなってきた。


「あ、流れ星」

「え、うそ!」

 姉さんの声にひかれるよう夜空を見上げるが、流れ星は見れなかった。


「流星群なら、また次の星が見れるわよ」

「うん……」


「結局、レイジって、何をお願いしたかったの?」

「いや、やっぱお願いしなくてもいいかなって」


「いいの?」

「ああ、姉さんと星見られたらいいかなって」

「ふふっ、なにそれ」

 そう言って姉さんは、俺の肩にもたれかかる。

 俺は姉さんの手を握った。


「あ、また」

「今度は俺も見れた」

 夜空に星が流れる。


「姉さん」

「なに?」

 俺は静かに息を吸い込み、


「――俺と結婚してください」

「…………」

「…………」

「――はい」


 翌日、姉さんはこの世を去っていた。


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■38話 前世からのプロポーズ

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「姉さん、ここ座って」

「どうしたの、急に?」

 リライズのステージ前に椅子を置き、姉さんに座らせる。

 ステージには、大きなグランドピアノとマイクをセット済み。


「ちょっと姉さん相手に弾き語りたくなってね」

「ん? いいわよ。あたしもレイジの曲好きだし」


 俺はBGMになる曲を弾き始めた。

『覚えていますか? あの日、最後に二人で眺めた夜空』

 

『虫の音が響き渡る山の中、あたりの明かりは星明かりのみ』


『空には満点の星空』


『綺麗な線を描く流れる星』


『僕の隣には、あなたがいた』


『手を繋ぎ、鼓動が聞こえるほど近くに寄りそう』


『僕はそこで、あなたに愛を伝えました』


『あなたに想いが伝わったとき、夢のように嬉しかった』


『でもそれは、とても儚く』


『――幻のように消え去った』


『誰も知らない』


『世界には、僕とあなたが、ほんの一時でも結ばれたことを知る人は、誰一人いなない』


『本当は現実ではなく、本当に僕の幻だったのでは、と』


『そんな時、奇跡が起こった』


『死んだ僕たちを受け入れてくれた世界』


『またあなたと出会わせてくれた世界』


『僕は世界に感謝します。あなたが生きていてくれて、ありがとう』


『そして世界に誓います。二度とあなたを離さないと』


 特別なことなんて要らない。

 ただそばにいられたら、それでいい。

 ありふれた幸せが、僕にとって何よりも幸せなんだ。

 どうか、この幸せが続きますよう。

 どうか、私を隣にいさせてください。

 俺は、想いを乗せ歌った。

 俺は、願いを乗せ歌った。


「……」

「……」

 沈黙が広がる。


「ごめんね、レイジ。勝手に離れてしまって」

 姉さんのこの世を去ってしまった謝罪。


「ありがとう、レイジ。私を愛してくれて」

 姉さんが俺の想いを受けとめてくれた感謝。


「俺は……」

 俺は、

「――あなたを愛しています。前世から、あなたのそばにいたいと思っていました」

 ずっとそばにいたい、それで幸せなんだ。


「どうか私と、結婚してくれますか?」

「――はい、よろこんで」


 頭が真っ白だ。

 嬉しすぎて思考ができない。


『二人ともおめでとう!!』


 店の奥にスタンバってた、カズマ、タケル、ヒソカ、キョウヤ、ミスティー、リライズの店の子たちが現れた。

「ささ、チハヤ奥行くわよ」

「チハヤママ、早く早く」

「え? なに?」

 女性陣に連行されていく。


「期待してていいよ。最高傑作だから」

「ミーも渾身のできだったネ! 最高のデザインヨ!」

「ありがとさん」

 俺たちの中で唯一前世で服飾をやっていたカズマ。

 そのカズマに、タケルにデザインしてもらったウエディングドレスを作ってもらった。


「おっす、外凄いことになってるぞ」

「うむ、お祭り騒ぎになっておる」

「屋台なども出始めております」

 冒険者・ポルコのおっさん、ロミオ、セバスが、外の様子を語る。

 今回のプロポーズは、VRスクリーンで街に上映したのだった。

 誰も知らない、夢幻ではなく、現実のものへとしたかった。

 そこで、姉さんを受け入れてくれたこの街の人々に、生き証人になってもらうことにした。


「どお、レイジ、感想は?」

「姉さん……」

 純白のウエディングドレスを身にまとう姉さんがいた。

「……本当に綺麗だ」

「ありがと、ふふっ」


「さ、父様、母様、行きますよ」

 突然、キョウヤに声をかけられる

「ほら、チハヤママ、レイジパパ、早く早く!」

 ヒソカに背中を押され、歩き出す俺と姉さん。


「ちょ、待て、行くってどこにだ?」

「「教会」」

 キョウヤとレイジにつれられ、街の教会へ向かうことに。

 移動はロミオのとこで馬車を用意されていた。


「姫巫女様、旦那様、おめでとう!」

「姫巫女様おめでとう!」

「旦那様おめでとう!」

「二人仲良くするんだよ!」

 街の人たちが手を振り、言葉をくれる。

「ほんと姉さん人気者だね」

「あんたも人ごとじゃないわよ、旦那様」

「おぅ」

 すっかり俺たち3人も、この街で有名になりつつあった。

 とくに俺は、姉さんの旦那ってことで一番目立つ。


「つきました、足下にお気をつけください」

「ありがとう、セバス」

 俺はセバスにお礼を言い、馬車を降り、姉さんの手を引いた。


「ほんと、とんでもない教会作ったわね。どこの大聖堂よ」

「いやぁ、どうせ作るなら、この国の中心となる教会だしって、悪のりした」

 まさか自分で作った教会で、結婚式をあげるとは思ってもなかった。


「私が進行を務めよう」 

 ロミオが祭壇へと上がる。


「皆、今日は本当にめでたい日になった。我が国の英雄『チハヤ』と『レイジ』が結婚することになった。恩人である二人が結ばれることを祝福できることになった」

『おぉ!!』

 教会の外から歓声が聞こえる。

 あいつら、VRスクリーンで上映しやがってる。


「どうか二人には、誰もがうらやむ夫婦になってほしい。では、神への誓いをはじめる」


 ――幸せな時も、困難な時も、富める時も、貧しき時も、病める時も、健やかなる時も、愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?


「「誓います」」


 ――では誓いの口づけを


 俺は姉さんのベールを上げ、唇を重ねた。

『うおぉ!!』

 教会の外だけでなく、仲間内からも歓声が上がる。


「愛してる、姉さん」

「レイジ……」


 姉さんは俺に近づき、


「レイジが嫌って言っても……」

 耳元へ口を寄せ、


「――離してあげないんだから」

 囁いた。


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★【未完】02巻

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■01話 帝国への視察

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 『さてさて今回は、いったいどんな話しになるのかな?』

 KAMIや天上の神々は、各々/おのおの 世界を覗くのだった。


    ◇    ◇


「ロミジュリの結婚式、帝国どうする? 呼ばなきゃマズいか?」

「「あぁ~」」


 リライズ住居スペース・リビング。

 そこで、この国の国王・ロミオと隣国アラモードの王女・ジュリエットの結婚式について、ネタだしをしていた。

 そんなときふと浮かんだ俺の問いに、金髪エセ外人・タケルと残念イケメン(ロリコン)・カズマから、面倒くさそうな声が上がった。


「でもレイジ、正直この流れ、帝国とはぶつかるよね。帝国の性格的に」

「ミーもそう思うネ、テンプレ回避は想像以上に大変ヨ」

「姉さんやロミオたちの話聞いてるかぎり、連中、頭のネジが足りないみたいだしな」

 俺の従姉で嫁のチハヤやロミオの話しを聞くかぎり、距離を置きたい国だ。

 それに今回の結婚式の新婦側アラモードと帝国は敵対国だ。

 他に呼ぶ予定の周辺国にとっても、帝国は敵対国。

 もうこれは、

「積んだな。帝国を呼ぶのは無理だ」

「僕もそう思うよ。エデンが、帝国から独立した国で縁があるといっても……」

「わざわざ起爆剤を抱え込む必要ないネ」

 カズマの言うとおり、本来なら礼儀としては呼んだ方がいい。

 だがタケルの起爆剤発言のとおり、帝国は爆弾でしかない。

 他の国と即戦闘開始になりかねん。


「それにせっかくの結婚式、2人が可哀想か」

「そうだね。ロミオたちのためにも、今回は知らないふりでいくべきかも」

「戦争になったらなったでそのときネ。でも1回くらい直接見に行きたいネ」

 タケルの言うとおり戦争になったとしても、今のエデンなら、真っ正面から当たっても問題ない。

 だが、できることならそんな面倒なことになってほしくない。

「僕もそれは必要だと思う。今の段階で帝国と戦争になったら、街の人も戦うことになるよ。できれば、僕らだけで秒速で戦争を終わらせられるように仕込みしときたい」

 カズマの言うとおりか。


「行くかぁ、帝国~」

 俺は重い腰を上げ、帝国へと向かうのだった。


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■02話 ふはははっ! 効かん、効かんぞヨ!

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「おっとソーリーネ」

 転移魔法で帝国へ向かい、早速問題発生。

 タケルとぶつかった子供は走り去った。

「タケル、財布は?」

「ない、ない、どこにもネ!?」

「普通の異世界チートなら、すぐに現金たんまりだけど、僕らは自給自足派だからね」

「まったく、こっちは現金少ねぇつうのに。俺も現金ほしいわ」

「2人ともゆっくりし過ぎネ! スリネ!早く追わないとネ!」

「カズマ、ロリコンレーダー発動!」

「だから僕はロリコンではなく父性愛で……」

「オォ! そうだったネ! ロリコンのカズマなら見つけられるネ!」

「だから僕は……」

「いいから行くぞ! テンプレ的にあの子が危ないパターンの可能性もあんじゃん」

「そうだった。――世界の子供たちのために」

 その瞬間、カズマは迷うことなく歩き出す。

 俺とタケルは、カズマの後ろをついていった。

 路地裏へと向かうと、たどり着いたのは崩れかけの廃墟だった。


「チッ、つけられたか」

「悪ぃ、ドジ踏んだ」

 そこには貧相な服装の子供たちが。

「どうやら盗んだ子が最悪な状態になるパターンは回避できたみたいだな」

「本当によかった~」

「安心、安心ネ」

「「「ははははっ」」」

 最悪なパターンは、大人のスリに儲けをとられ殴られるなど、子供に被害がいく場合が。

 今回はどうやら、子供たちはチームとして一緒に生きてるっぽい。

 さっきから、全員に睨まれてるからな。

「こいつら何笑ってるの? 馬鹿か?」

「箱入りの貴族かな」

「綺麗な服だし、貴族じゃないの」

「油断すんな、他に護衛がいるかもしれない」

 子供たちは全員、木の棒を手にしていた。


「ふふふっ、そんな棒っきれで何をする気ネ! さぁ、大人しくしろなのネ!」

「いやタケル、それだと悪の台詞だよ」

「さもなければ、このロリコンの餌食にしてくれるわ!」

「レイジまで何言ってるの! 僕はロリコンじゃないよ!」

 子供たちは目で合図し、連携しながら襲いかかってきた。 


「ふはははっ! 効かん、効かんぞヨ!」

 タケルは一撃一撃を小さな障壁で防いでいた。

「ちょ、待って、話し合おうよ! てかタケル大人げないよ!!」

 危なげなく、余裕を持って回避するカズマ。

「ほいっ、ほらよっと、綺麗に着地100点満点!」

 俺は向かってきた奴を、次々にクルッと一回転させ綺麗に着地させていた。


「こいつらヤバすぎる……」

「逃げるぞ!」

「お前らは先に行け!」

 年長の子供たちは、おチビや女の子を優先させ逃げさせた。


「ふふっ、にがさんぞヨ!!」

 タケルは浮遊魔法で子供たち全員、中に浮かせた。

「クククッ、手も足もでんだろう」

 俺は手足をばたつかせてる子供たちに、からかいの言葉をかける。

「もう、タケルもレイジもからかいすぎ!」

「「へ~ぃ」」

 うん、からかうのも満足したし、話し進めるか。



「で、お前ら、行く場所とか頼る場所とかあんのか?」

 俺は年長の子供にわかりきった質問した。


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■03話 とりあえず拉致る

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「誰が答えるかロリコン!」

「失礼な奴め。ロリコンは俺じゃねぇ、こいつだ!」

「レイジ! 僕はあれほどロリコンじゃなく父性愛だと……」

 家のロリコンが何か言ってる。


「それで、カズマがロリコンなのは置いといて、これからどうするネ?」

 タケルは、中に浮いた年長の子供の脇を突いて、笑わせていた。

「まずお前はその拷問を止めてやれ、そいつ泣くぞ」

「泣かないもん!」

 半ベソじゃねぇか、可哀想に……。

 俺はタケルに蹴りを入れ、もう一度質問した。


「悪かったよ、俺たちもからかいすぎた。でだ、もう一度聞くがお前ら、今の生活で満足してるか?」

 服装を見ただけでも、こいつらが相当大変な思いをしてきただろうことは想像がつく。

「まぁ、してたらスリなんかしねぇわな」

 子供たちは悔しそうに俺を睨む。

「今から言う条件は、施しでも何でもない。お前らに働いてもらい、その代価として住む場所や食べ物を支払う、対等の話しだ」

「対等の話し?」

 初めて子供がこちらに耳を傾けた。

「そうだ。お前らがやるべきことをやれば、報酬として住む場所と食べ物を与える。あっ、そうだ、お前ら、病気で動けない家族とかいるか? 何か理由があって頼れない親とか」

「いない。みんな気がついたらスラムにいた」

 スラムあんのか、やっぱ。

 てか、ここもスラムか?

「他に仲間とかいるか? お前らで全員か?」

「こいつらだけが家族だ」

「全部で7人、大家族だな。で、どうする? ついてくる気あるか?」

 子供たちは視線を交わし、うんとうなずき合う。

「信用……するぞ?」


「少なくとも、喰いもんや住む場所で悩む必要がなくなることは保証しよう」

 こうして帝国の子供たちを拉致ってきたのだった。


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■04話 調教済み?

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「拾った」

「返してきなさい」

 即答で呆れ顔の姉さんに突っ込まれる。いや、犬猫じゃねぇんだから、って俺もか。


「で、どこで拾ってきたの?」

「帝国」

「あんたたち、帝国行ってきたの!? よく行く気になれたわね」

「いや俺たちも行きたくなかったよ。だけど、1度は見ておかんと駄目だったから、仕方な~く?」

「もう、しょうがないわね……」

「ありがと」

 何だかんだ了承してくれる姉さん。


「それであの子たちの住む場所、どうするの?」

「旧・リアライズの置いてた場所、更地にしたじゃん? あそこに寮を作ろうかなって、今タケルが作ってる」

 子供たちはカズマに料理を作ってもらい、絶賛フードファイト中。よっぽど食べてなかったのだろう。胃が痙攣/けいれんしないよう注意しなくては。

 7人のうち1人、おチビがいたが、それもキョウヤとヒソカが面倒みてる。


「とりあえず当面はメイド部隊に教育させて、あとは学校作るから、そこに入れて独り立ちさせるよ」

「そう。ちゃんと考えてるならいいわ」


「デケたネ!!」

 タケルが寮制作から戻ってきた。

 全員で庭先出て、寮を見に行ったのだが、

「でけぇよ!!」

「大きすぎるね」

「おりょ? やり過ぎたネ?」

 俺とカズマのツッコミで、やっと気づくタケル。

 旧・リアライズより一回りデカい。


「注目!」

 姉さんはパンパンと手を叩き、子供たちの注意をひいた。

「ここが今日から、あなたたちが住む場所よ。自分たちで掃除したりと、しっかり綺麗にすること。ごはんの準備もお手伝いさせるわ。いいわね?」

『はい、チハヤさん!』

「よろしい」

 え? もう調教済みですか、姉さん?

 何か子供たちの反応が、俺たちと違うですけど。


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■05話 視察再開?

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「テメェら、さっさと出ていかねぇか! ここは家の敷地だぞ!!」

「そんな!? 建物は私たちが建てたのだし、土地代も払っています!」

 男たちの争う声が聞こえた。


「え、何? 俺ら帝国に呪われてんの?」

「まさか帝国についてすぐとか……」

「探偵いるところ事件起きるなみに凄いネ」

 帝国視察再開、と思いきや、犬も歩けば棒に当たる。

 またも問題発生の予感。


「どうする? スルーするか? 別にこんどは大人同士だし」

「自己責任ってことで」

「なかったこと1択ネ!」

「「「しーらんぺ」」」

 俺たちは、なかったことにした。


「ここは私たち〝劇団員〟の住む家です。おいそれと渡せません」

 男の言葉が、耳に引っかかった。


「「「……」」」

「今、『劇団』って言った? 言ったよな?」

「言ったね」

「言ったヨ」

「「「……」」」

 俺たち3人は、1回思考しなおし、


「「「人材確保!!」」」


「なんなら、そっちの姉ちゃんが一晩遊んでくれれば考えてやってもいいが」

「駄目です! 彼女は家の女優です! 誰が渡すものですか!!」


「お困りのようですね、ちょいと話しを聞かせてもらおうか」

「何だテメェ、引っ込んでろ!」

 からかうように言うと、取り立て屋の男は、いきなり拳を振るってきた。

 俺は拳を受けとめ、砕かぬよう注意しながら、力を込めた。

「暴力はいけないよ、暴力は、な?」

「痛たたっ、悪かった、離してくれ」


「悪いが今日一日、この人たち貸してくれよ。あんたは明日以降、また取り立てに来るってことで」

「……わ、わかった」

 取り立て屋の男は少し不満そうだったが、素直にひいて立ち去った。


「それで、さっき話し聞いてたが、お兄さんらは劇団員ってことで間違いないか?」

「あ、ああ」

「家の国の劇場に出演してみないか? なんなら無料で引っ越しも手伝うぜ」

「家の国? 劇場?」

「正式名称『プリンエデン王国』っていう出来たばっかの国なんだが、今度国王が隣国『アラモード王国』の王女と結婚することになったんだ。でだ、2人のなれそめで演劇の脚本作ったのはいいが、演者がいない。できれば結婚式のときに、上映してたいんだ」

「そこで私たちが必要ってことか、とりあえずその脚本をよみたい。中に入ってくれ」

「ありがとう」

 俺たちは中に案内され、脚本を読み終わるまで待っていた。


「面白い!!」

 男は興奮しながら賞賛した。

「よかった。舞台の脚本を書くのは初めてだったから、いろいろと粗があるだろ?」

「確かに、どこか小説みたいな書き方のところもあったが、問題なのはストーリーだ。これは面白い! これって、実在の話しなのかい?」

「ああ、俺たちは一部だけだが間近で二人のことを見ていた。それに本人からも話しを聞けたしな。あとは、物語として面白く〝ちょこっと〟調整するだけだ」

「なるほど、これなら問題ないよ。むしろぜひ演じさせてほしい。だけど、別の国に行くんだよね? 大丈夫なのかい?」

「安心しろ。引っ越しは転移魔法ですぐすむ」

「転移魔法!?」

「帝国にはないが、最近、各国で普及してるから、そう珍しいものじゃない。気軽に行けるぞ」

「そうかぁ、帝国の外はそんなことに……」

「もし来てくれるなら、この建物ごと引っ越すことも可能だ。増築して部屋増やしたり、なんなら新築をこっちで無料提供してもいい」

「いやいや、条件が良すぎて逆に怖いよ」

 確かにここまでくると不審になるわな。

「でも、俺たちはそれくらい今、演劇ができる人間が必要なんだ。これは国同士の友好にも繋がってる」

「……」

「だから頼む、お前さんたちの劇団、全員で家の国に来て欲しい!」

 俺たちは頭を下げた。

 団員たちは視線を交わす。

「こちらこそ、ぜひ演じさせてほしい」

 よっしゃー! 劇団員ゲットだぜ!


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■06話 また拾った?

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「返してきなさい」

「いや今回は、拾ってないから」

 劇団員たちの家を地面ごとアイテムボックスに収納し、全員つれて、リライズの庭先に転移した。

 すると、おチビをだっこしながら子供たちと遊ぶ姉さんがいて、突っ込まれた。


「ん~、空きスペースで足りるか」

 街改造のとき、リライズの周りには、大きく土地を残していたが、寮を建てた。

 残りスペースに今回の劇団員たちの家を設置することにした。

 将来的に、こいつらが有名になれば、警備をしっかりした家に住まないといけない。

 ここなら他のついでで警護してやれる。


「どっこいせ」

 アイテムボックスから家を取りだし、地面とならす。

「これでいいだろ?」

『…………』

 劇団員たちは口を開けながら放心していた。

 子供たちはキャッキャと興奮していた。


「次は劇場見に行くぞ」

「いやレイジ、放心して動けないみたいだよ」

「ミーに任せるね」 

 タケルは劇団員たちを浮遊魔法で浮かせた。

 俺たちはそのまま劇場へと移動、中へと入って行った。


「ここがお前さんらに演技してもらう会場だ!」

「2階席や、来賓席もあるネ」

「将来的にはオーケストラの演奏もやりたいね」

 俺たち3人で会話していると、

「す……」

「「「す?」」」

「素晴らしい!!」

「「「おぉ」」」

 劇団員たちは復活した。


「凄い広い!」

「席いっぱいあるね」

「ステージも大きい!」

「声もよく響いてる」


「さぁ、みんな、早速稽古はじめるぞ!」

『おお!!』

 今度は俺たち3人が、劇団員たちの勢いに置いてかれる番だった。


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■07話 そうは問屋が卸さない

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「結局、帝国視察は何も進まなかったね」

「はいカズマさん、そこ言わない」

「もうミーは行きたくないネ」


 もともとやる気がなかったのに、2度も面倒に巻き込まれ、完全にやる気がそがれた。

 俺はスマホを出し、メイド部隊・初号機『レイナ』に連絡した。

「もしもし、レイナ」

『レイジ様、どうかなさいましたか?』

「メイド部隊を帝国にも送り込みたい。〝いつも通り〟、店開いて魔導具普及してくれ。魔力発電機の設置とかも頼む」

『帝国にも開かれる気デスか?』

「うん、結局そうなったわ。手間かけさせて悪いな」

『いえ、構いません。周辺国には既に普及済みなので、放っておけば技術を求め、帝国の方から接触して来たかと。そうなれば更に面倒なことに』

「たしかに。基本的には、他の国と同様の処置で行く。ただ転移装置だけは、帝国国内だけに止めてくれ。帝国から他国には行けないように」

『了解デス』

「あとは頼んだレイナ」

『かしこまりましたデス』


「うし、これで帝国も問題なしってことで」


    ◇    ◇


「レイジ、帝国から呼び出されたわ」

 そうは問屋が卸さない、ってことか。

 姉さんからのひと言で、帝国へと向かうことになった。


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■08話 クズ

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「転移魔法って最高。愛してるわ。王都までの長旅が一瞬で住むんだもの」

「そこまでか」

 帝国からの呼び出しが来てから、ずっと不機嫌だった姉さん。

 それが転移魔法で一瞬で帝国王都内へ。

 これには姉さんもご機嫌だった。

「大丈夫、一番愛してるのはレイジだから」

「ふふっ、ありがと」

 組んでいた腕をぎゅっと抱きしめる姉さん。


 今回帝都へ来たのは、俺と姉さんの2人きり。

 向こうさんのご氏名だった、何故か俺も。


「貴様ら、私を無視するな!!」

「「あぁ?」」

 俺と姉さんが声の方へ睨みつけると、周囲を兵士たちに囲まれていることに気がついた。

 兵士たちは、俺と姉さんに脅えていた。

「で、俺たちに何かようか?」

「それは私の台詞だ! いきなり城門の前に現れたかと思えば、2人でイチャイチャと。貴様らこそ、何用でここへ来た?」

「ああ、悪い。つい2人の世界に入ってた。俺たちは、ここの王様にようがあってきた」

「姫巫女が来たと伝えなさい」

『姫巫女様!?』

 兵士は慌てて走り出した。すると、中から文官らしき男が。

「姫巫女様、ようこそいらっしゃいました。英雄様、初めまして。私は……」

「挨拶はいらないわ。さっさと用件を言いなさい」

「それは王よりお話になられます。どうぞ、こちらへ」

 長い廊下を歩かされて案内されたのは、謁見の間ではなく、テーブル並んだの大広間だった。


「おぅ、よく来たチハヤ。それと英雄よ。そこに座れ、お茶にする」

 そこで待っていたのは、両脇に首輪をつけた女を侍らせ、ぶくぶくに肥え太った男だった。

 こいつが王様かよ……。

「来やすく名前で呼ばないで。それと私たち、長居する気ないんだけど……」

「そう急かさんでも、今回はそちの勧誘ではない。ようがあるのは英雄の方よ」

 姉さんではなく、俺によう?

「そち、名前は?」

「私の旦那のレイジよ!」

「そちには聞いておらん」

 ドヤる姉さんは、王の睨みをスルーしていた。

「それでレイジよ。我の家臣となれ。金も女も全て用意しよう」

「いや要らねぇけど」

「ふぅ、そちもチハヤと同じか……。金も名誉も異性もいらない。人として狂っておる。何が望みか、言え。大抵のことは何とかしてやる」

「これおいしいわよ、はい」

「ん、うまいな。姉さん、お返し」

「ん、おいし」

「貴様ら話を聞かんか! 我は王だぞ! 人前でイチャつくでない!!」

 俺は姉さんと、お菓子を食べさせあっていた。


「用件はそれだけか? 帰るぞ?」

「待て。もともとこちらの件は本題ではない。そちの持ってる技術をよこせ」

「技術?」

「エデンで広めている技術全てだ。もちろん転移装置もな」

「別に構わんぞ」

「へ?」

 王は気の抜けた声を上げた。

「レイジ、いいの?」

「もともと、その予定だったから」

 これからメイド部隊に普及させるってところでの呼び出しだったからな。

「あぁ、ただし、設置場所とかいろいいろ条件とかあるから、全面的にこっちの指示に従ってもらうがな」

「その程度のこと構わん。して、代金は?」

 王は俺を睨んでくる。

「いらない。無料だ、無料」

「ただほど怖いものはない、何か言え」

「強いて言うなら……、もう、エデンに近づくな」

「は?」

「帝国からの密偵がうっとうしい。いったい何人よこすつもりだ。エデンでは戸籍、1人1人を管理している。管理外の人間でも魔力を登録して、身分を作ってる。同じ魔力の人間が身分を偽造とか出来ないんだよ。まぁ、あえてこっちは泳がせといたが」

「何のことか知らんが……、仮にそうだとして、何故泳がせた?」

「簡単なことだ、あんたに1度会っておきたかった。1度顔拝んで、どんな人物か知って起きたかった」

「で、感想は?」

「どうしようもないほど…………クズだ」

「ふふっ」

 俺はこいつのような奴の目を知ってる。

 俺の家の、〝姉さんの実の両親〟を含む分家の連中だ。

 金や自分の命しか興味がなく、他人をおとしいれ喜ぶ、常に自分が一番でないと許せない人間。

 姉さんは退魔の力があったため、本家に引き取られた。なので俺の両親を実の両親のように慕っていた。

 だからこそ、この王とは根本から合わない。

 俺たちは、何があってもぶつかるしかない。


「んじゃ、帰るわ。お茶ごちそうさん、王様」

「〝またな〟、英雄殿」

 俺は姉さんを抱き寄せ、エデンに転移した。


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■09話 帝国問題解決

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「姉さん、大丈夫?」

「大丈夫、もう慣れたから」

 帝国からリビングに転移し戻ってきた。

 あの王は、姉さんにとってトラウマなのではと思い、心配した。


「あたしの親は、レイジの両親だけ。何も心配することないわ」

 俺はそっと姉さんを抱きしめた。

「俺、アレ見て、久しぶりに思い出したよ。人間の腐った部分」

「退魔の一族は儲かるから。表の世界との架け橋になるのが分家の仕事なのに……」

「まさかこっちでも、そういう人間と関わることになるとは」

「どこの世界でも一緒よ。ああいう人間は一定数必ずいるわ。でも、いい人間も必ずいる」

「そうだね、だからこそ」

「もし手を出してきたら」

「「必ず潰す」」


「イチャイチャしながら何怖いこと言ってるネ……」

「さすがに僕もちょっとひいてる」

 俺と姉さんにひいてるタケルとカズマ。


「ただいま」

「おかえり。で、帝国はどうだった?」

 カズマの質問にどう答えたものかと悩む。

「俺んちの分家の話し、知ってるよな?」

「金の亡者ネ」

「自分たちさえよければいい、世界すら興味ないって人たちだっけ」

「帝国の王は、まさにそのものだった」

「それじゃ、いずれ帝国とは戦争かな」

「避けられない定めネ」

 簡単に戦争と言いきるカズマとタケル。

「だが、魔導具普及できることになったから、最悪の中の最悪は回避できた」

「それなら二重の意味で安心ネ」

「帝国と戦争になっても、帝国も戦力として何かと戦うときがきても、どっちでもだね」

「これで本当に、帝国の問題は解決だ」



「ところで……、何時までイチャついてるの?」

「甘すぎて砂糖吐くネ」

「悪い、反省」

 といいつつ姉さんを離さない俺だった。


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■10話 帝国貴族とAランク冒険者

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 それは、リライズで帝国でのストレス解消に演奏していたときだった。


「きゃっ!」

「テメェ、俺様にはむかうんじゃねぇ!!」

 演奏が中断し、問題のテーブルに視線が集まる。

 冒険者風の男が、店の女の子に怒鳴りつけていた。


「いかがいたしました?」

 ミスティーが客の男たちに近づいた。

「いやなに、女の躾がなっていなくてな。ワガハイの部下が代わりにしつけてやっていたところ~だ」

 貴族風の男が偉そうに口にする。

「何があったの?」

「この人たちが触ろうとしてきて……」

 ミスティーが店の女の子に聞くと、脅えて泣きそうになりながら答えた。

「お客様、家の店はそのようなお店ではありません。お引き取りください」

「ワガハイ、ちょう~不機嫌。どうやらこの店は、どの女も躾がなっとらんらしいな。質がいいだけにもったいない。どれ、お前さんを含め、店の女全員、私のものにな~れ」

 その瞬間、冒険者風の男と連れの兵士2人が立ちあがった。


「困るじゃねぇかぁ、お客さん、彼女たちはこの街の癒やしの花なんだから」

「ポルコさんっ」

 間に入ったのは、この街の冒険者・ポルコだった。

「ここはお触り禁止。それにこの街じゃ、奴隷販売もしてねぇんだから」

「テメェ、誰に向かって言ってるかわかってんのか?」

 冒険者風の男はポルコに近づき睨みつける。

「俺様はAランク冒険者、そしてこの方は帝国貴族。テメェみたいな三下が、出しゃばるんじゃねぇ!」

「おっと」

 男は周囲にグラスの酒を巻こうとした。

 だがそこに酔って頬の赤いポルコが倒れ込み、顔面で酒を受けとめた。

「ポルコさん!?」

「大丈夫だよ、ミスティーママ。ちょいと濡れただけ」

「ふ~む、興がそがれた。おい、店主の女よ、今回は許すが次回はキチンと躾けておけ。もちろん、店主自身も~な」

 貴族の男たちは、そう言い残し店から去った。


「ミーたち超空気だったネ!」

「そんなときもあるよ」

「今回の主役は〝ポルコ〟だったわけだ」

 俺たちが出る前に終わってしまった。


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■11話 勧誘

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「さっきはありがとうポルコさん。今チハヤ、子供たちのところに行ってたから対処出来なくて……」

「あぁ、キョウヤから聞いてるよ、孤児たち拾ったって。あ、ママ、お酌頼んでいいかい?」

「もう、今日は特別ね」

「やった」

 ミスティーは店のオーナーになってから、誰かにお酌することはない。話し相手になるだけの存在。

 なので、彼女の気まぐれや何か特別なとき、お酌をされた者は幸運だと、常連の客の間で思われていた。

「やっぱママに入れてもらってた酒は最高だねぇ」

「ポルコさんくらいよ。私がお酌するなんて」

「俺自身、運はいい方だと思ってるよ」


「悪い、話し途中に」

「ほんとに悪いな」

「だからゴメンて」

 ミスティーとの楽しい時間を邪魔されて、ポルコは邪魔者のレイジを睨む。

「ミスティー、さっきは悪かったな。対応できなくて」

「しょうがないわよ、レイジたちはステージにいたんだから。チハヤがちょうど居なかったのも運が悪かったわ」

「ポルコも、さっきはありがとう。助かった」

「お礼はママからお酌してもらってるからいいよ、それより、シッシッ」

「そう邪険にすんなよ」

 レイジを野良犬かなんかを追い払うようにシッシと手を払う。


「いきなりだがポルコ、教師になってみないか?」

「ほんとにいきなりだな……」

 俺はポルコを勧誘した。

「教師って、あの子たちの?」

「半分はそうだが、半分は違う」

 ミスティーの問いに、あいまいに答える。

「今度この街に、寮も付いてる学園を開くことにしてさ。そこに家の子供たちも入れる。で、ポルコには、冒険者科の教師になってほしいんだ」

「何でまた俺にって、キョウヤか?」

「あぁ。キョウヤに指導してるの聞いてたから、ちょうどいいと思って」

「アイツに教えてんのは、ただの気まぐれだったんだが……」

 ポルコは苦い表情をした。

「あらもったいない。街の依頼より安定した収入も得られるでしょ? ポルコさん、街の外の依頼受けないし。家のツケも、貯まってますよ~」

「うぐっ」

 ミスティーの容赦のないツッコミで、より苦い表情になるポルコ。

「何か理由でもあるのか? 冒険者で街から出ないって、ルーキーでも珍しいだろ」

 お遣いクエストとか裏山で採取依頼とか、何かしらあるだろうし。

「……」

 ミスティーは黙ってポルコを見つめていた。

 空気的に何かあるんだろうな。まぁ、無理に聞くのは止めるか。

「無理に言わんでもいいぞ」

「いや、構わんぞ。もう、ずいぶん昔のことだ」

 ポルコはそう言い、グラスを傾けた。

「俺はこの街に来る前は、帝国中を旅してた。でだ、同じように旅をしていたルーキーたちと知り合った」

「ルーキー?」

「相当な馬鹿どもでな。冒険者の基礎すらあやしいのに、無理して旅をしていた。だが仲間どうし、仲がいい連中でな。貧乏なのも楽しんでた」

 ポルコは微笑ましい表情で語っていた。

「そんなアイツらの気に当てられてか、いつしか俺は奴らの兄貴分になっていた。」

「ポルコの教え子第1号か」

「ああ、自慢の教え子だよ。なんせBランクにまで上り詰めた。将来全員Aランク間違いないと言われてたパーティーだ」

「想像以上に凄ぇな……」

「だがあるとき、俺が依頼でいない間にアイツらは死んだ」

「……」

 俺は言葉が出なかった。

「帝国貴族のワガママでな、無茶な依頼を引き受けた。『魔境』での素材入手。あそこは特別な場所だ。特別な技術がいる。いくらBランクでも、『魔境』ではルーキーだ」

「ポルコがこっち来たのって……」

「ああ。どんな場所なのか気になってな、俺も入ってみた」

「よくは入れたな。普通トラウマもんじゃね」

「まぁ冒険者はここでなくても、油断をすれば死に至る。いずれ仲間を失う経験をすることもあると思ってたからな」

 魔物や盗賊とやり合うこともあるだろうしな。

「『魔境』入ってみて思ったよ、俺にはあわない場所だって。相手の縄張りで戦うなんざゴメンだって。だから、俺は緊急招集のような、向こうが俺の縄張りに来たときのみ戦うことにした」

「ポルコさん、緊急招集のとき冒険者の指揮をとってるのよ」

「だから俺たちが初めて街に来たとき、対応してくれたわけか」

 ミスティーの言葉で思い出した。あの時はポルコとキョウヤが一緒だったな。

「俺自身、アイツらのことがあるから、誰かに物を教えるってのが引っかかってた。だが、何の気まぐれか、キョウヤに教えることになった」

「どんな気まぐれだよ」

「いやなに、アイツが『英雄』になるんだってこだわってたのが気になってな。こりゃほっといたら、いずれ死ぬと思ったんだよ。今は大丈夫になったみたいだがな」

「ありがとうポルコ、俺の家族を護ってくれて」

「気にすんな、俺も救われた」

「それでもだ、ありがとう」

「いいってことよ」

 俺とポルコは、ミスティーに入れてもらったグラスをぶつけ合った。


「あ、お前そのグラス、ママに入れてもらいやがったな!」

「いいだろ別に、それくらい。もう家族なんだし」

「ミスティーママは、今日俺のためにお酌してくれてんだぞ」

「けぽっ」

「ふふっ」

 俺はポルコを気にせず呑んでいたのだった。


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■12話 気まぐれの弟子たち

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「お前最近、動き変わったな」

「自分の戦闘スタイルが見えてきたので」

 キョウヤはリライズの庭で、ポルコからいつもの訓練を受けていた。

「まぁこの街の武器性能も上がったことだし、構わんが。その方向性なら、もっとコンパクトな動きを心掛けろ。まだ武器にあった動きではない。体の回転を上手く利用し、最小限の労力で最大限の力を出せ」

「はい!」

『キョウヤ兄ちゃん、ポルコおじちゃん』

 ついこの間、帝国より連れ帰ってきた子供たちがやってきた。


「おじちゃん止めろ! 俺はまだお兄さんだ!」

「まだ?」

「うっせいぞ、キョウヤ!」

『あはははっ』

 ポルコは本気で気にしていったのだが、子供たちには盛大にウケてしまった。

「ポルコさん、俺たちにも剣を教えてください」

「僕も!」

「私も!」

「お前たちに、剣だぁ?」

 年齢バラバラの子供たち。上の子だと10歳~12歳程度。

 年長組だけやらせたらチビたちは不満になる、か。

「ん~、なら、ちょっと本気で剣の修行やるか」

「いいの!?」

「あぁ、キョウヤはその間休憩しながら、チビ助の相手してろ」

「はい」

 キョウヤは、一番下の子を抱き上げ、観戦することに。

「それじゃ今から、お前たちを剣士として指導する。返事」

『はい、ポルコお兄さん』

「都合よすぎだろ、お前ら」

 子供たちのたくましさに苦笑するポルコ。

「今から俺はいろんな速さで逃げる。お前たち全員で俺を捕まえろ」

「え~、剣は~」

「お馬鹿。相手が見えなくちゃ剣を振っても当たらない。支援魔法で自分が早く走れるようになっても、目で見えてなくちゃ、本気で走れなくなる。お前たちの目を、将来の鍛える。これは究極奥義だ」

『きゅ、究極奥義っ……』

「んじゃ、やるか」

 そう言い残しポルコは庭を走り回る。

「え?」

「どうした~、こないのか? まさか、始りの合図を待ってたんじゃないよな? 敵と戦うとき、合図なんかくれないぞ~」

「みんな行くぞ!」

『うん!』

「ちょ、こいつら、連携とるの慣れてる? 妙に様になってるんだが。こりゃ、もう少し厳しくてもいいな」

 ポルコはもう一段階スピードを上げた。

「速い!」

「凄ぇ……」

「目の前を通り過ぎてるはずなのに……」

「手が届かない~!」

 子供たちの手をすり抜けるポルコ

「見えた!」

「残念。それにしてもお前たちセンスいいな。将来、いい剣士になれるぞ」

「ほんと!?」

「僕も?」

「あぁ、お前ら全員合格だ。いい目してるし、仲間との連携も上手い。今後もそれは大事にしろ」

『はい、ポルコ先生!』

「俺が、先生ね……」


    ◇    ◇


「兄貴、俺、上手くなったんだ! 見てくれよ」

「お腹すいた~兄貴」

「おごってくれるの!? さすが兄貴ふとっぱら!」

「ねぇ兄貴、ここどうすればいい?」

「あ、俺も教えてくれ、兄貴」

「俺ら、絶対、兄貴みたいになってみせる! そしたら兄貴の仲間にしてくれ」


    ◇    ◇


(いい加減、吹っ切るべきなんだろうな……アイツらのこと)


「今だ!」

『すきやり!!』

「にょわ!?」

 ポルコは6人全員に捕まった。

「かぁ~、負けた。完全に負けだ。お前たち、よく隙を狙えたな。終りの合図を出してなかったし、お前たちの勝ちだ」

「よっしゃー!」

「うし!」

『やったー!』

 子供たちの喜んでる姿を、どこか懐かしく微笑むポルコだった。


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■13話 まさかの正体

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「きっさっま-、誰にものを言ってるのか、わかっておるのか? ワガハイ、前回躾けておけと言っておいたはずだ~が?」

「はい、帝国貴族様。前回問題を起こされたので、家のお店には、出入禁止とさせていただきます」

 ミスティーは、以前やってきた帝国貴族とAランク冒険者に2人の兵士たちに、出禁と言いきった。


「テメェ、俺様に舐めた真似を。いいっすか、やっちまっても?」

「ワガハイ、ちょう~不機嫌。やれ」

「よしテメェ半殺し決定。犯したあと、頭下げて詫び入れたら殺さないでやる」

「あいにく、家のお店に落ち度はありませんので。お引き取りを」

 ミスティーの言葉にキレ、冒険者の男は剣を抜いた。


 ――キンッ

「困るじゃねぇかぁ、お客さん、彼女は俺の大事な人なんだよ」

「ポルコさん」

「テメェ、また邪魔しやがって……」

「ここだと、お店の迷惑になる。表に出ようか」

「上等だコラァ!!」

 貴族の男たちは表にでていった。


「今、チハヤたち呼びに行かせてます」

「大丈夫だ、ミスティーママ。すぐ終わらせるから」

 そう言ってポルコは表にでていった。

 ミスティーも心配そうに後に続く。


「ワガハイ、ちょう~心配。言うだけ言って逃げたのかと思った~よ」

「悪い、待たせたか」

 貴族の男はあおるように言い放つ。

「俺様からに逃げなかったのは褒めてやる。だが、お前……死ぬぞ? Aランクの冒険者に勝てると思ってんのか?」


「Aランク!?」

「ポルコ止めな」

「死ぬ気か」

「ポルコさん逃げて!」

 野次馬になっていた街の人々がポルコを止める。

 街の依頼ばかり受けていたので、ポルコはすっかり街の有名人だった。


「おぅおぅ、ギャラリーもいい感じに増えたし最高だねぇ! んじゃ……死ね」

 突然の抜刀。

 だがポルコも剣を抜き、防ぎきった。

「今のを防いだのは褒めてやる。だが、次で終りだ!!」

 またもポルコは防ぎきった。

 次も、その次も、と。

「いい加減遊ぶのは止めにせよ。お前たちも行け」

「「はっ!」」

 2人の護衛兵士も冒険者に加勢し、ポルコを襲う。


「もう終りだ」

 ポルコは3人を危なげなく気絶させた。

「ワガハイ、ちょう~激怒! 誰に手を上げたかわかっているの~か? ワガハイ、帝国貴族だ~ぞ」

「あんまり、これ使いたくなかったんだけどね」

 そういってポルコは、懐から冒険者カードを出した。

「え……、Sランク!?」

 貴族の男は驚きのあまり言葉を失った。

「Sランクは、どこの国でも貴族待遇を受けられる。そして貴族は爵位関係なく、手を出されたらやり返してもいい。先に手を出したのはアンタだ。負けたアンタは法で裁かれる、それで終りだ」

「…………」

「衛兵さん、こいつら連れてってよ」

 エデンの兵士は、気絶した3人と、放心状態の貴族の男を連行した。


『おぉ!!』

「ポルコ凄ぇ!」

「街の英雄だ!」

「Aランクをぶっ潰したぞ!?」

「Sランクとかありえねぇ」

「ただの飲兵衛じゃなかった」

「ただのミスティーさんのストーカーじゃなかった」


「おい、最後の2つ言ったの誰だこらぁ!!」

『あはははっ』


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■14話 スカウト成功

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「よう、Sランク冒険者」

「腐れじじぃ~」

「いらっしゃい、ギルドマスターさん」

 ミスティーにご褒美のお酌をしてもらってるとき、またしても邪魔が入り睨みつけるポルコ。


「そう年寄りを邪険にするもんじゃない」

「俺がママにお酌されてるときに邪魔すんのは、最近の流行か?」

「なんじゃお前、いつもママにお酌してもらっておるのか?」

「爺さんも?」

「ふふふふっ」

 素敵な笑顔のミスティー。

 どうやら常連の間での、ミスティーママのお酌は珍しいは、当てにならなかったと知った、残念な男2人。

「ふぅ、で、お前さん、いい加減ギルマスになってくれんかの。ワシの素敵な老後のために……」

「何が素敵な老後だ。女追っかけるのに忙しいだけだろ!」

「お前だってママを追っかけてるじゃろ!」

「テメェと一緒にすんな、俺は一途なんだよ!」

「お二人とも、お静かに」

「「はい」」

 ほら見ろ、ママに怒られたと、2人でなすりつけ合う。


「爺さんには悪いが、俺は教師になることにした」

「教師?」

「今度エデンに学園が開かれるんだとよ」

「あぁ、そういえば姫巫女の旦那から、使いのメイドが来たな。学園と開くと。臨時講師を依頼するかもと話しが来ておった」

「俺にその学園で教師やれだとよ」

「お前が教師ね……、やっと吹っ切れたか?」

「まあな、ずいぶん時間かかっち待ったが……」

「なに。お前さんがこの街に来たときを考えればいい方じゃろ。ソロで『魔境』を相手にする無謀なことを、ずっとやってきたんじゃからな」

「ずいぶん無謀なことしてたな」

「それもこれもミスティーママのおかげじゃわい。ママに会えてなかったら、お前は死んでおったよ」

「ふふっ、私は何もしてませんよ」

「男にとって、女はいてくれるだけで幸せなもんじゃよ」

「あぁ」


 こうして、学園教師スカウトに成功するのだった。


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■15話 またまた?

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「あぁ、やっばい……お腹すいたぁ…………」

「姉ちゃん、腹へってんの?」

「ふへ」

 エデンの街・歩道に、魔術師のローブを羽織った1人の女が倒れていた。

 そこへお使いに出ていた子供たちが通り過ぎた。


「食うか?」

「いいのかい、少年!」

「いいよ」

「いただきます!」

 子供から恵まれてる大の大人。もらった果実を両手で持って貪っている。

「大丈夫かよ、食わせて。チハヤさんに頼まれたんだぞ」

「でもお腹すかせて可哀想だよ」

「ん~、こづかいで出すか」

「私も出すよ」

「それよりも、これからどうする? このままほっといても、のたれ死ぬぞ」

「連れて帰ろう」

「しょうがない、チハヤさんに相談するか」


    ◇    ◇


「……返してきなさい」


 リライズ・寮の前、姉さんにそう言われしゅんとする子供たちがいた。

「チハヤ様、仕込み終わりましたデス」

「あーレイナ、ご苦労様」

 チハヤの指示でおやつの仕込みをしていたレイナ。


「おりょっ! こ~れわこれわこれわ! ん~?」

「いかがなさいました?」

 レインの瞳を覗き込むかのように顔を近づけ、手をわきわきさせる女。


「ゴーレムのような魔術因子、だけど人としての魔力波動、見た目も人そのもの。だけど人とは違う何かが確かにそこに存在する。そう! まさにこれは人間とゴーレムのハーフ!! いったいどんな魔術形成すれば、こんな形になるのでしょう! 全くわ・か・ら・ん!!

何よりも超絶かわいい~!! 一家に1台ならぬ、一家に1人ほしい! 体温も感じるし、質感も人間そのもの!」

 暴走して、レイナを抱き寄せ、ほっぺをプニプニしたり、口に指を突っ込んだり、髪に指を通す女。

 その態度にどんどん覚めた目付きになるレイナ。

「体の中身も気になる~。食事は必要なのか、それとも魔力だけで生きていけるのか、分解したい~、分解したい~」

「……」

「グフフッ、レイナちゃんと言いましたね? レイナちゃんのパパとママはどこかな~?」

「……」

「あれぇ、レイナちゃんは恥ずかしがりさんなのかな~」


「――デス、燃やすぞ」


「は、はひ!? 調子に乗りました、反省してます」

 レイナの殺気に驚き、正座をする女。

「で、でもレイナちゃん? もっすこ~し私と仲良くしましょう? 分解しませんから」


「チハヤ様、これは?」

「これ!?」

 自分これ呼びするレイナに驚く女。

「ごめんなさいレイナ、なんか変なの子供たちが拾ってきたみたいで。すぐに返しに行かせるわ」

『変なの拾ってきてごめんなさいチハヤさん、レイナちゃん』

「ごほっ!? へ、変なの……」

 女もさすがに精神にダメージが。

「すみません、お願いします、無一文なんです、ここにいさせてください。私、魔法使えます。超広範囲殲滅魔法とか大の得意なんです!」

「そんなものどこで使うのよ……」

 呆れるチハヤ。

「あー! あー! 私、カテゴリー5、魔術師ランク・カテゴリー5なんです。世界に数人しかいない1人なんです」


「「「カテゴリー5だと!?」」」

「あんたたち、どっからわいたのよ……」

 現場視察から帰った俺とタケルとカズマは、〝伝説のワード〟を耳にした。


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■【未完】16話 カテゴリー5の魔術師

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「まさかの『D.C.3』か」

「マジパナいヨ、本物だネ」

「僕らも『カテゴリー5』なれないかな?」


「いやー、歓迎してもらえてありがたい。あ、メイドさん、このお菓子おかわり」

 リビングにて大量のお菓子で接待される女。

 世界に数人しかいない魔術師ランク最上位『カテゴリー5』。

「それにしても、ここは凄い! メイドさんもレインちゃんと同じゴーレムなんて」


…………。

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作者:

 ここまでで【未完】です。

 最後までお読みいただきありがとうございました。


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【原案】カミサマ☆プレゼンテーション ~兄は異世界にギャルゲを広めてきます~ 運び屋さん* @hakobiya_san

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