1230 的確なアドバイスの筈なのに届かない言葉

 奈緒さんに対する強烈な劣等感で押し潰されそうになる倉津君。

そんな彼の感情の読み取り、横に座る真上さんは、相談に乗ってくれるのだが。

まだハッキリとは相談出来ない倉津君は、真上さんに「彼氏に対して劣等感を感じた事が有るか?」っと言う質問をしたら「ある」と答えられ……


***


「本当ッスか?」

「あぁ、はい。ですがそれは、劣等感とは、少し異なる感情なのかも知れませんが。岡田君と、お付き合いをさせて頂いている時は、お互いの家柄の差から生じる問題には、色々な意味で考えさせられた面はありましたね」


家柄の差か。


確かにこれは、俺は奈緒さんに感じている劣等感とは似て非なるものだな。

だけど、ある意味、似た感情ではあるのかもしれないから、もう少し真上さんの話を聞いてみよう。



「そうッスか。あの、因みになんッスけど、その時は、どうしたんッスか?」

「そうですね。結論から言えば、家柄の件に関しましては、なにもしませんでしたよ」

なんでッスか?」

「あぁ、はい、それはですね。幾ら考えても、その溝は埋まる筈が無いからです。どうやっても、私は、私でしかありませんからね。ですから、せめて、相手の方の家柄に恥をかかせない様に、出来る限り、私自身が努力させて戴きました」


カテゴリーが少し違う話だったとは言え、矢張り、真上さんは強いなぁ。

それに今現在も、これを継続し、見事なまでに、それを有言実行してるからこそ言えるセリフだな。


故に説得力もある。


……って事はだ。

結論的に言えば、ただ単に俺が甘いだけの話か。


ヤッパ俺って、何所まで行っても雑魚なんだな。



「ヤッパリ、そうッスよね。それしかないッスよね」

「倉津さん……もしかしてなのですが、向井さんとの関係で、なにかを悩まれているのではないですか?」

「そうッスね。そうなんッスよ。正直言っちまえば、俺なんかが、奈緒さんと付き合ってて良いものなのか、非常に悩んでますね」

「そうだったんですね。そんな事とは露知らず、私の勝手な振る舞い。どうぞ、ご容赦下さい」

「許すだなんて、とんでもないッス。真上さんは親切なだけッス」


なんて事を言うんですか。


人に心配を掛けて、勝手な振る舞いをしてるのは、寧ろ俺の方ッスよ。



「ありがとうございます。ですが、お悩みの件は、そんなに難しい事では無いと思いますよ」

「そうッスかね?」

「えぇ。恐らく向井さんは、どんな事が有っても、倉津さんと一緒に過ごされる時間を望まれてると思いますので。そこは、倉津さんが悩まれなくても大丈夫だと思えますよ」


そうッスね。


確かに奈緒さんは、あぁ言う人だから。

今現在でも、俺なんかが相手なのに、一緒に居たいと想ってくれているとは思われる。


そこは重々に承知してるんッスよ。


……けど、そうは言ってもッスね。

方や、世界を股に掛けて活躍するミュージシャンで。

方や、ヤクザの成り損ないの、ただのポンコツ・ボンクラ。


此処まで彼氏彼女で差があると、流石に無痛症の俺でも辛いと感じてしまうんッスよ。


なにも出来てない自分が、あまりにも居た堪れないんッス。



「そうなんッスけどね。流石に、あの奈緒さんを求める観客の数を目の当たりにしたら、悩まなくて良いのが解っていても、ついつい悩んじまうんッスよ。……もぉ、奈緒さんから逃げ出したい気分なんッスよ」

「そんなのダメですよ。倉津さんが、必至に頑張られてる向井さんから逃げ出すなんて持っての他ですよ。そんな風に眼を逸らしたらダメです。そんな事を、向井さんは望んで居ませんよ」

「それも解ってるんッスけど。……現実的に見ても、世間的に見ても、どうなんだって話ですよ」


こんなもの。

ミットモナイだけで、ただの妬みを含んだだけの愚痴だって事ぐらいは、自分でも解ってるんッスけどね。


今日この日に見せ付けられた、この現実は厳しい過ぎるッスよ。


あまりにも衝撃的過ぎますよ。


俺……正直、堪えられないッスよ。



「でしたら、このままコンサートを見ずに帰られるのですか?向井さんの気持ちは無視しちゃうんですか?それじゃあ、あまりにも……」

「あぁ、いや、そうじゃなくってですね。心では、ちゃんと解ってるんッスよ。ただ、まだ現実を直視出来無いだけなんッスよ」


自分で言ってて、これも微妙だな。


正直言えば。

奈緒さんは自分の大切な彼女なのに。

もぉ奈緒さんを普通に見る事が出来ずに『特別視』してる、自分もいるからなぁ。


もっと、ぶっちゃけて言えば、これだけの観衆に求められてる彼女は、もぉ既に、俺だけの奈緒さんじゃない様な気がしてならない。

だから『俺自身の心の整理すら付いてない』と言った方が、より正確で、正しい意見なのかも知れないな。



「そうですか。ですが、それならば尚更、今の向井さんに、ちゃんと向き合ってあげるべきなのではないでしょうか。……倉津さんが受けられてる苦痛なお気持ちも、多少なりとも解りますが。眼を逸らしても、なにも変わらないと思いますよ」

「そうッスね。……けど、そんな簡単に割り切れ無いッスよ」

「そうですか。……なにも助言にならないのに、出過ぎた真似をして、すみません」


……真上さん。



「あぁ、とんでもないッス。それに俺の方こそ、こんなに心配して貰ってるのに、変にネガティブな反論ばっかりして、すんません。悪いのは俺なんッス」


こうやって、気持ち自体は、結構、冷静では有るんだよな。

ただ踏ん切りが付かなくて、僻んで、駄々を捏ねて、拗ねてるだけなんッスよ。


なにもかも、全部解ってるんッスけどね。


そんな折……



「「「「「「わあぁあぁぁあぁぁぁあぁぁ~~~~~!!」」」」」」


東京ドームの屋根が吹き飛ぶほどの大歓声が沸き起こり。

イキナリ、ボルテージがMAXな奈緒グリの日本凱旋ライブが開催された。


でも、俺は、そんな声にさえ耳を塞いでしまう。


そこに……



「あれ?真琴ちゃんに、真上さん、こんな所でなにやってるの?」


会場の声に耳を塞いだ俺には、微かにしか聞こえなかったが。

どうやらベースを2本抱えた眞子が、この無人だった筈の廊下を渡り歩いてきたらしい。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【後書き】

最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございますです♪<(_ _)>


真上さんの言葉は、本当に的確だとは思うのですが、今の倉津君には、やや届ききっていない感じですね。


では、何故そうなってしまっているのか?

実は理由は簡単な事なんですが『今までに実績があり、説得力のある言葉』だからこそ、倉津君には届ききっていないんですよ。


もっと解かり易く言えば、真上さんの言葉は『強者の言葉』なんですよ。


皆さんもご存じの通り、真上さんは強い子です。

それに比べて倉津君は、そう言った「人に強いと思わせる様な実績」が少ないだけに、まだまだ弱い部分が存在してしまう子。


それ故に「真上さんは強いから」っと言う意識が先行して、彼女の意見が飲み込めないで居るんですね。


まぁ早い話『俺は真上さんの様に強くないからなぁ』っと自分に言い訳して、拗ねとる訳ですわ(笑)


さてさて、そんな中。

この光景を、そう言った面では途轍もなく厄介な存在である眞子に見つかってしまいましたね。


果たして、どうなるのか?


次回は、その辺を書いて行こうと思いますので。

良かったら、また遊びに来て下さいねぇ~~~(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾

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