1229 いつだって真上さんは

 会場内にて今現在の奈緒さんとの立場の違いに、悩み始める倉津君。

そんな彼を放って置く事の出来ない真上さんは、必死に倉津君の悩みを聞こうとするのだが、話が話なだけに、倉津君も打ち明けられずにいた。


そんな中『俺の心が弱いだけですから』っとポロっと本音がこぼれてしまい……


***


「・・・・・・」


あぁダメだ。


この様子じゃあ真上さんは、完全にライブの事を、そっちのけにして、俺の事に集中し始めてる。


これは、本当にマズイ展開だ。



「あっ、あの、真上さん」

「……倉津さん」

「あぁ、はい!!なっ、なっ、なんッスか?」

「あの、もし宜しかったらですが。コンサートの開演までには、まだ少し時間が有りますので、少しだけ会場の外に出られませんか?」

「いや、けど……」

「こういう言い方は、チケットを下さった向井さんには大変失礼なのかも知れませんが。コンサートは、また次の機会にでも楽しむ事は可能だと思います。ですが、倉津さんが、今、抱えていらっしゃる蟠りを解決出来るのは、今しかないのではないかとも同時に思うのですが。……お節介かも知れませんが、ご考慮頂けませんでしょうか?」


あぁ……



「・・・・・・」

「……矢張り、私なんかでは、ご迷惑なだけでしょうか?」

「いや、それだけは、絶対にないッス。ホント、滅相もないッス。……けど、なんで俺なんかの為に、そこまで」

「あぁ、それはですね。私なんかでは、ご迷惑かも知れませんが。私にとって倉津さんは、数少ない大切な友人なんです。その方が悩まれてるのが解っていて、コンサートを楽しむ気持ちには、どうしても成れませんので。失礼かと存じますが、優先順位を付けさせて頂きました」

「……真上さん」


なんて俺は浅墓なんだ。


俺が、つい『心が弱い』なんて余計な事を口走っちまったもんだから。

真上さんに、必要以上の心配を掛けちまってるじゃねぇかよ。


本当に俺は救いがない。


それなのに真上さんは、奈緒さんのライブより、俺を選んでくれるって言うのか?


なんてこった。



「ですから、ご迷惑かと存じますが。お互いの気分を切り替える為にも、一旦、外に出ては、如何なものでしょうか?今の私には、これぐらいしか思い付きませんので」


そう言って真上さんは、その場から直ぐに立ち上がり。

少しだけ微笑みながら、俺に向って手を差し伸べてくれる。


この真上さんの親切極まりない行為に、ダメだと解りながらも、俺は……


***


 ……開演10分前。

あれから5分程経過している。


もぉ直ぐ、奈緒さんの凱旋ライブが開演すると言うのに。

俺は、真上さんに付き添って貰い、ほぼ俺達2人以外は誰も居ない無人の廊下に居た。


此処は既に、開演間際だから、人っ子一人いない状態だ。


まぁ観客は、奈緒グリのライブを見に来てるんだから、この状況は当然だろう。


だが俺は、会場が、そんな状態なのにも関わらず。

まだ真上さんに悩みを打ち明けて良いものか、どうかを葛藤しながら、黙りこくっている。


そんな俺に対して真上さんは、心配そうな表情を浮かべてはくれてはいるものの、何も言わず、ただ横に立ってくれていた。


本当に申し訳が立たない。


……かと言って、俺が口を開く訳でもない。

どうしても、これだけは、他人に相談するべき話じゃない様な気がしてならないからだ。



「あの……真上さん」

「はい、なにか?」


こうやって即座に反応してくれる真上さんは、矢張り、もぉ奈緒グリのライブの事は、なにも気にはしていない様だ。


俺の方だけに集中してくれているらしい。


だったら……



「いや、あの、時間も時間ですから。真上さんは、もぉそろそろ会場に戻って貰った方が良いんじゃないッスかね?後、数分でライブが始まっちゃいますし」

「ご心配なく。向井さんのコンサートでしたら、此処でも十分に聞かせて頂けますから。ご迷惑じゃなければ、もぉ少しだけでも、此処に居させて下さい」

「真上さん。そんなに気遣って頂かなくても良いッスよ。俺なら、本当に大丈夫ッスから」

「そうですね。解っていますよ。ですが、一緒に廊下に出て来たのですから、せめて、会場に戻る時も、倉津さんと一緒に戻りたいと思います。ですので、もぉ少しだけ、私に我儘をさせて下さい」


そっか……確かに、言われて見れば、そうだよな。

悩んでいる相手を放って置いて、ライブを心から楽しむ事は出来無いかぁ。


こうなった以上『悩みを聞かずに戻る』と言う選択肢は、真上さんの中には存在しないんだな。


これが四面楚歌って奴か。


なら、真上さんに手間を取らせない為にも。

早急に、俺の卑屈な悩みを打ち明けた方が良いのかも知れないなぁ。



「あの、真上さん」

「はい、なんでしょうか?」

「真上さんって、彼氏が居た事って有りますか?」

「あぁ、参考に成るのかまでは解りませんが。何人かの方とは、お付き合いをした事はありますよ」


だよな。


真上さんクラスの人が。

今までに、誰とも付き合った事が無いなんて奇跡が有り得る訳ないよな。


前例として、岡田って言うロクでもないストーカー男の話も有ったし。

その前のちょっと馬鹿っぽい彼氏が、この岡田ってロクデナシとの『刃傷事件』を引き起こした事もあったもんな。



「そうッスよね。……あぁ、だったら、その男達に対して、自分に劣等感を感じた事は有りますか?」


言ってはみたものの……そんなもんある訳ないだろうけどな。


真上さんの様な慈悲深くも、完璧な人が。

そんな無様なものを感じる必要性なんて、元より何所にもないもんな。


基本的に、俺なんかとは出来が違うもんな。


これはあまりにも愚問だったか。



「あぁ、はい。それに似た様なケースならありますよ」


意外にも有るんだ。

絶対に、真上さんには劣等感を感じる所なんてないから、完全に無いものだと踏んでいたのだが、そう言う経験があるんだな。


だったら……


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【後書き】

最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございますです♪<(_ _)>


倉津君、真上さんに根負けしてしまい。

結局は、相談に乗って貰う羽目になってますね。


まぁ、こんな風にライブが始まる直前の時間に成ってますから、打ち明けざるを得ない場面でもあったのかもしれませんがね(笑)


さてさて、そんな中。

なにやら劣等感とは違うケースではあるみたいなのですが。

真上さんも、相手に対して劣等感らしきものを感じた事がある様子。


果たして彼女が感じた劣等感に似たものとは、なんだったのか?


次回はその辺を書いて行こうと思いますので。

良かったら、また遊びに来て下さいねぇ~~~(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾

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