1228 こんな時でさえ俺は
逆輸入にて、今回が日本初ライブの奈緒グリ。
その人気は恐ろしいもので、72000人収容の通強ドームを満員御礼に(祝!!)
去れど、その人気を目の当たりにした倉津君は……
***
そんな無様な気分に成ってしまっている俺は。
奈緒さんの記念すべき凱旋ライブだと言うのに、完全に意気消沈してしまい。
指定席に着いた後も、ただ只管に下を向いて俯いたまま、まだ誰も居ない筈の無人のステージですら見れなくなっていた。
……そんな折。
「…津さん……倉津さん、大丈夫ですか?」
先程のチビ太との席替えで、俺の横の席に据わってくれる事に成った真上さんが優しく声を掛けてくれる。
この真上さんの言葉から察するに。
恐らくは俺が、こんな酷い状態に陥る事など想定しておらず、目一杯、はしゃぐものと思っていたのだろう。
まぁ……普通なら、誰でも、そう思うわな。
けど……またやっちまったな。
俺の、この場に有らざる、おかしな態度のせいで。
折角、ライブを楽しみにしてくれてる真上さんにまで無駄な心配を掛けちまった。
自分のみならず、人の楽しみまで奪おうとしてるなんて……俺は本当に最低だ。
だから此処での返答は、せめて出来る限り平静を装い。
無理にでも作った笑顔で答えを返すのが礼儀ってもんだと思う。
「へっ?あぁ、なに言ってんッスか?俺なら、全然大丈夫ッスよ。それとも、なんか変ッスかね?」
「あぁ、いえ、直接、そう言う訳では無いのですが。先程から、お顔色が、あまり優れない御様子でしたので、なにかあるのではないかと思いまして」
「あぁ、そうッスかね?そんなに顔色悪いッスか?……だったら多分、あれッスな。久しぶりのライブに来たから、変に緊張してるんじゃないッスかね?なんせ、人のライブを見に来るのなんて1年ぶりの話ッスからね」
「そう……なのですか?」
あぁ……俺は言い訳が下手糞だから、どうにも上手く伝わってないみたいだな。
その証拠に、真上さんの眉毛が八の字になっちまってる。
これは明らかに、なに1つ納得してない顔だなぁ。
なんか俺が勝手に凹んでるだけなのに、こうも心配して貰ったら、本当に申し訳が立たないな。
だったら!!
嘘でも、もっともっ~~~と、いつもより馬鹿をした方が良さそうだな。
「そうッスよ、そうッスよ。大体、その1年ぶりのライブ観戦が、奈緒さんの記念すべき凱旋ライブだなんて、気分が上がっても、悪く成る訳ないじゃないッスか。……これ、俺の中では常識中の常識ッスよ」
「はぁ、そうですか」
「そうッスよ。だからッスね。真上さんは、俺の事なんか気にせずにジャンジャン盛り上がちゃって下さい。俺も勝手にガンガン盛り上がっちゃいますから」
「解りました。……ですが倉津さん。もし、少しでも気分が優れない時は遠慮せずに言って下さいね。コンサートを楽しむより、倉津さんの体の方が大事ですから」
・・・・・・
はぁ……どうやら、この様子じゃあ、まだ真上さんは、なにも納得出来無いみたいだな。
けど、こんな時って、どうやったらテンションが上がってくれるんだろうな?
心配してくれる真上さんに、どうやったら、この情けないテンションの低さを隠せるんだろうな?
ホント、どうしたら良いんだ?
「あぁ、いやいや。そんなご心配には及びませんよ。ライブは常に、ぶっ倒れるぐらいまで全力で楽しむ性質なもんで。だから例え、俺がぶっ倒れても、その場に放って置いて貰っても構わないッスよ」
「馬鹿な事を言わないで下さい。そんな状態の方を放って置く訳にはいきませんよ」
「……真上さん」
真顔で、やんわり怒られちまったなぁ。
矢張り、どうやっても上手くは行かないもんだな。
「それに、今現在でも体調が優れないご様子。私では頼りないかも知れませんが、正直に仰って頂いても結構なんですよ。本当は、なにか有るのではないですか?」
ヤッパ俺じゃあ、どうやっても隠せないかぁ。
特に真上さんは、他人の、こう言う仕草や変化を見逃さない人だからなぁ。
それだけでも隠し難いのに、顔色が優れない状態が顕著に出てしまったら、尚更隠せないか。
ホントどうしたもんだ?
「まいったなぁ」
「矢張り、なにか有るのですね。一体、どうなされたんですか?差し障りが無ければ、お教え頂けると有り難いのですが」
「あぁ……こんな時にまで心配して貰って、すんません。けど、これは、俺自信の問題なんで、真上さんにアドバイスをして貰う訳にはイカないんッスよ」
「……そうですか」
真上さんが、酷く残念そうな表情を浮かべてる。
けど、こりゃあ、なにか勘違いしてるのかも知れない表情でもあるな。
「あぁ、いや、真上さん」
「あぁ、はい、なにか?」
「あの、一応、誤解なき様に言って置きますけど。これは、真上さんを信用してないとか、そう言うんじゃないんッスよ。これに関してだけは、誰であっても相談しちゃいけない事なんで」
「そうでしたか。なら、出過ぎた真似をして申し訳ありません。それに無用なご心配をお掛けして、申し訳ありませんでした」
自分が悪いだけに、此処で謝られると余計に心苦しいな。
それにこれは、いつもの罪悪感じゃなく。
本当の意味で、真上さんに対して罪悪感を感じる。
こんな良い人に此処まで心配を掛けるなんて、どこまでも俺は傍迷惑な人間なんだな。
「あぁ、いやいや、真上さんが謝る様な事じゃないんッスよ。これは、俺の心が弱いだけの事ッスから」
しまった!!
此処で『心が弱い』とか言っちまったら……真上さんが、更に詮索して、また無駄なまでに余計な心配を掛けちまうじゃないかよ。
気分が落ち込んでいるとは言え……マジで、なにやってんだよ俺は。
こんな事を自分で言うのも何なんだが、馬鹿じゃねぇのか?
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【後書き】
最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございますです♪<(_ _)>
これは、天の采配なのか?それとも悪魔の采配なのか?
飯綱ちゃんがステラさんと仲良くなった事によって起こった。
お節介で、人一倍優しい真上さんが、奈緒さんの人気に凹んでいる倉津君の横に座ってくれた事が……
まぁ普通に考えれば。
この真上さんの存在と言うのは、ある意味「究極の癒し」であるだけに、この席替え自体は、本来なら有難い事の筈なのですが。
それに甘んじてしまうからこそ、自身の成長が阻害されてしまっている事に、倉津君も多少は気付いてるだけに、中々本音を言いだせない状況でもありますので、この状況が本当に良いのか、悪いのかは難しい所ですね。
さてさて、そんな中。
そうやって必死に抵抗していたにもかかわらず。
矢張り、真上さんの優しさにはキッチリとは抵抗出来ず。
『自身の心が弱いだけ』っと、つい本音を漏らしてしまった倉津君なのですが。
この言葉、真上さんは、一体、どの様に捉えるのか?
次回は、その辺を書いて行こうと思いますので。
良かったら、また遊びに来て下さいねぇ~~~(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾
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