1218 悩み処なのだが、それじゃあ余りにも……

 極自然に会話の内容を変えてくる嶋田さん。

そんな中にあって、今現在の倉津君のバンド探しの事情を考慮し『無名』に誘って来てくれるのだが……


***


「あぁ、いや、非常に有り難いお誘いではあるんッスけど。俺、実は、ちょっと奈緒さんと約束をしてるもんで、今、既成のバンドに入る訳にはいかないんッスよ」

「そうなんだ。けど、向井さんと、どんな約束をしたんだい?」

「あぁ、はい、それはッスね。『誰にも負けない様な最強のバンドを自分で作って、奈緒さんを迎え入れる』なんて調子の良い事を言っちまったもんで、その約束は絶対に守らないといけないと思うんですね」

「なるほどねぇ。だったら尚更、問題が無いんじゃないかい」


えっ?えっ?

なんで、そうなるんッスかね?


今のままだと問題だらけの様な気がするんッスけど?



「へっ?なんでッスか?」

「いやね。元々ウチのバンドが出来た切欠って、倉津君と、向井さんじゃない。だったら、なにも問題なくないかい?倉津君達2人が作った訳だし」

「あぁ、まぁ、確かに、そう言われれば、そうなのかも知れませんけど。今や【無名】は、俺や、奈緒さんから離れて、完全に一人歩きしてるじゃないッスか。それを今更、入れて貰うってのも、どうかと思いますけどね」


いやな、これはさっきも言ったんだけど。

本心で言えば、一番思い入れの有るバンドなだけに滅茶苦茶戻りたい気持ちでいっぱいなんだぞ。


それに、そこら辺を君した上で『最強のバンド』って意味でも、確かに俺の思い描く最強のバンドでもある訳だから、本来なら断る理由なんてものはない。


けど、現状で『俺と奈緒さんが切っ掛けに成って作られたバンド』っと言う嶋田さんの言葉に甘えて、このお誘いを受けたんじゃあ、あまりにも無様な結果にしかならねぇじゃん。


これって、自分の無能さを、ひけらがしてるのと同じじゃね?



「まぁ、そう言う見解もあるね。ただね。俺個人としては、また倉津君と一緒にライブをしたい訳なんだよ。なんて言ったって、君とやったライブは最高に楽しかったからね」

「そうなんっすか?」

「そうだよ。……勿論、その中には、仲居間さんによる嫌な思い出なんかも含まれてるけど。それを含めても、全部が全部、楽しかったと思っているよ」

「うん。そうだよね。浩ちゃん、後輩さんと一緒にやってた時が、一番楽しそうだったもんね」


そう……なんッスか?


俺は、ただ単に、自分勝手に場を荒らして。

スッチャカメッチャカやってただけの様な気がするんッスけどね。


そんなんでも、楽しいと思って貰えてたんッスね。


なんか照れ臭いッスな。



「あぁ、いや、あぁ、そうッスか」

「まぁまぁ、今直ぐに結論を出す必要はないよ。『やる』か『やらない』かは、倉津君が、ゆっくりと自分で判断すると良い。返事は慌てないから、ジックリ1度考慮してみてよ。俺としては、その回答には期待してるけどね」

「あぁ、はいッス」


なんか、またまた、スゲェお誘いを頂いたもんだな。


それに、この間のカラオケ大会の時も、何件かオファー貰ってたしなぁ。


ホント、マジで頑張ってみっかなぁ。



「まぁ、それにしてもあれだね。そのトイレに行った知り合いの警備員の人って帰って来ないね」


あっ……そう言やぁ、嶋田さんとの話に夢中になってて忘れてたけど。

あの腐れ警備員共、あれから1時間近くもサボりをぶちかましやがって全然帰って来る気配すらねぇじゃねぇかよ!!


なにやっとんじゃ!!



「あぁ、それなら、多分、あれッスわ。滅茶苦茶、腹の調子が悪いとか言ってたんで、トイレに篭城してるんじゃないッスかね」

「ははっ、そうなんだ」

「まぁ、此処かなり冷えますからね。警備してりゃあ、そうなっても仕方ないッスよ」


こんな事がバレたら、アイツ等、確実にクビに成っちまうからな。

なので今回に限っては+貸し1つで手を打っておいてやる。


なんて思う俺は……中々の神じゃね?


だから、鮫も、国見のオッサンの甥っ子も存外に感謝しろ。



「なるほどねぇ。理には適ってるね」

「まぁ、そんな訳ッスから、此処でいつまでもダラダラ喋ってるのもなんですから。嶋田さん達は、先に奈緒さんの所に行って置いて下さい。俺も、あの馬鹿共が帰って来次第、控え室の方に向かいますんで」

「そうかい?なんなら、一緒に待ってるけど」

「あぁ良いッスよ、良いッスよ。こんな寒い所で待ってたら、椿さんが可哀想だし。椿さん自身も、眞子と話したがってるみたいじゃないッスか。だから、先に行って貰っても構わないッスよ」

「えっ?あぁ、椿なら大丈夫だよ。椿は馬鹿だから、風邪なんか引かないよ」


引きますよ。

確実に引きますよ。


椿さん……天然ではあるけど、全然馬鹿じゃねぇし。


此処に突っ立ってて風邪を引かないのは、俺と、山中の馬鹿代表の両名ぐらいのもんッスからね。


椿さんは、簡単に風邪を引いちゃいますよ。



「そうッスか?けど、後で、暖かい所で、ゆっくり話した方が良いんじゃないッスかね?先に行ってて貰った方が、かなり良いと思うんッスけど」

「でも、後輩さんだけを此処に残して行くのも……」


相変わらず椿さんは、お優しいですな。



「あぁ、いや、けどッスな。此処の警備をしてた奴等が帰って来たら、ちょっと説教をかまさないといけないんで。この後も、結構、時間が掛かるんッスよ。だから、また後でつぅ事で」

「う~~~ん」

「椿。折角、倉津君が、そう言ってくれてるんだから、先に行かせて貰おう。じゃなきゃ、邪魔しちゃう事に成るよ」


むむっ!!流石は嶋田さん、ナイスですな。


その選択は、間違いなく賢明な選択ですぞ。



「えっ?椿は、後輩さんのお邪魔さんに成っちゃうの?」

「いいや、そういう意味じゃなくてね。倉津君は、お仕事を頼まれてるんだよ。だから、そう言う意味で邪魔しちゃいけないって話だよ」

「あぁ、そうかぁ。そう言う事なんだね」

「そうだね。まぁ、そう言う事だから、此処は、倉津君のお言葉に甘えて、俺達は先に行かせて貰おう」

「あっ、じゃあ、うん♪」


納得しましたな。


流石、付き合いが長いだけに、椿さんの扱いには、誰よりも長けておりますな。

彼氏なだけにパーフェクトですよ。



「じゃあ、倉津君。悪いけど、先に行かせて貰うよ」

「あぁ、ウッス。先に行って、ゆっくり楽しんで来て下さい」

「じゃあ、ご好意に甘えさせて貰うね。椿、行くよ」

「うん。行こっか、浩ちゃん。……じゃあ、また後でね。後輩さんバイバ~イ♪」

「はいッス」


こうして嶋田さんと、椿さんは、東京ドームの中に入って行くんだけどな。


……これでまた、1人で退屈な警備作業に戻らなきゃならない訳だな。


……にしても、あの馬鹿共、一体、なにやってやがるんだよ?


俺が代理で居てやってる事を勘違いして、呑気に飯とか食ってんじゃねぇだろうな!!


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【後書き】

最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございますです♪<(_ _)>


無名への参入の件は、一旦、保留に成りましたね。


まぁ倉津君にしたら、一番戻りたいバンドな訳ですから葛藤はあったでしょうが。

この嶋田さんのスカウト以外にも、ステラさんやミラーさんの誘いも受けてますし。

fishの美樹さんなんかも、倉津君をメンバー(バックバンド)として狙ってる節がありますので、そう簡単には決められない所。


そして何より、これは他のバンドからのお誘いであって。

自身が必死にかき集めたメンバーでない以上、奈緒さんとの約束を果たす事が出来ないので、このスカウティングが成立する事はないのかもしれませんね。


さてさて、そんな中。

嶋田さんと椿さんが、この場から去って行った訳なのですが。

いつまで経っても帰って来ない鮫ちゃんと桜井さんは、一体、なにをしてるんでしょうね?


そして彼等が帰ってくるまでに、また知り合いは訪れるのか?


次回は、その辺を書いて行こうと思いますので。

良かったら、また遊びに来て下さいねぇ~~~(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾

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