義母の死:パチンコ依存症

 義母が95歳で亡くなった。人を恨むことなどないのに、この人だけは別だ。


 パチンコ依存症で長い間苦しめられてきた。妻との36年間、本当の夫婦と思えたのは、末期がんで入院して死に至るまでの、わずかに10ヶ月間だけだ。これは間違った結婚と思いながらも、離婚できなかったのは、妻への愛情なのか、それとも幼い頃からの虐待の哀れみなのか。


 妻の死後約10年間、様々な事への意欲は、あれだけ周囲への迷惑をかけながら、認知症で特養ホームに入り、ヘラヘラとのんびり楽に過ごしてることが許せなかったからだ。葬儀の日、義母の姉妹や親戚など誰も来ない。その顔を見て、あれだけの恨みが消えてしまった。まるでバケモノのような、木彫りの幽霊の面のような恐ろしい死に顔になっていた。目はくぼみ頬はこけ、とうてい人の顔とは思えないほどの恐ろしい苦悩に満ちた、地獄に落ちた取り返しの付かない愚行の面相になっていた。


 義父も10年前、妻の死後急激に認知症状が出て入院し、半年で死んだ。その顔も痩せて顔の皮膚が横にずれて、人の顔とは思えない不気味な面相になっていた。義父の葬儀にも義弟夫婦と私の三人だけだった。S学会であれほど活動をしていたが、実生活ではろくに仕事にも就かず、義母を嫌って家に戻ることがなかった。全ての元凶である義父の死に顔を見て、堕地獄の相に溜飲を下げた。最後は直接的に迷惑を掛け続けた、近所周辺の誰からも嫌われ迷惑がられ、結婚以来何度もその尻ぬぐいをさせられてきた義母が憎くてたまらない思いだった。あの死に顔は地獄で苦しむ者の相で、恐ろしく汚らしく醜い相だが、義父以上の重なる業苦の、まさにそれであった。


 あの恐ろしい形相を見たら、長い間の憎しみが消えてしまった。死してわずかな時間で、すでに地獄での責め苦に遭い、これから更に火葬場での業火に遭うのかと思えば、哀れとしか思えなかった。


 義母の死後、常に眠いのに寝付かれない怠さが続いている。妻との36年間、自営の会社の金を使い込み、家を手伝うこと無く外に働きに出て、常に実家のことばかりに腐心し、家族のことを省みなかった。虐待を受け続けた子どもは、成人してからも親から離れられないというのは事実のようだ。夫婦とは思えない家庭内別居を続けていたのに、最期の入院生活での10ヶ月間が懐かしく、あの時の時間が愛おしく感じていた。なのに義母の死後、長い間の陰の裏切りがしだいに許せなくなってきた。


 自分の生き方は、結婚は失敗したのか。友人や親戚の者達の言うことを聞くべきだったのか。れほどの多くの調査書を持ってきて心配してくれてたのに、全く聞こうともしなかった。長い間の言い争いや、様々なことが嫌な辛い思い出として蘇ってきた。最後の最期まで、義母は自分を苦しめようとしているのか。パチンコ依存症として、多くの人達に迷惑を掛け続けてきたのに。義母の死後、何をするにも気力が失せてしまった。

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