魔法少女に憧憬して③

「掲げるは〝不屈〟の戦旗! …………って、これ、毎回、やらないといけないのかな?」


「レイズ・ザ・フラッグ」と唱えてから、数秒の間、誰かに操られたように台詞を言ってしまう。


『紫音』


「うわ!?」


 いきなり脳内でクラシーの声がした。


『ビックリするから、いきなり念話を使わないでよ』


 文句を言うが、クラシーは気にしていない様子で、


『コミュクスの反応があったから、駆けつけた。今は学校周辺に人払いの結界を張ったよ。状況を説明してもらえるかい?』


 クラシーに今は松谷さんがコミュクスを引き付けていることを説明する。


『君は一体、何を考えているんだい?』


 するとクラシーは私の判断を非難した。


『だって、ノリノリだったし、松谷さんの身体能力なら大丈夫かなって……』


『君はコミュクスを舐め過ぎだ。とにかく、あの子のところへ急げ』


『言われなくたって、そうするよ』


 私は浮遊魔法で校舎よりも高く飛翔する。


 そして、辺りは見渡した。


「松谷さんは……いた! …………って、もうあんなところに…………!」


 松谷さんはテニスコート付近まで逃げていた。




※ここから三人称視点。


「振り切れないなぁ……!」


 一巴(松谷の下の名前)はコミュクスから逃げ続けていた。


「さすがにまずそう。…………テニス部の人、ごめんなさい!」


 一巴は近くに転がっていたテニスボールを拾い、男子生徒に投げつけた。

 狙い通り、コミュクスの足にテニスボールが直撃する。


「これで動きを……駄目っぽい!」


 コミュクスは何事も無かったように追いかけて来る。


「じゃあ、今度は……テニス部の人、本当にごめんなさい!」


 一巴はまたテニスボールを投げる。


 次が眉間に直撃する。


「これでも駄目!?」


 しかし、コミュクスはまったく怯まなかった。


「じゃあ、今度は……!?」


 一巴が次のことを考えているとコミュクスが一気に距離を詰め、殴りかかってきた。

 避けることが出来ず、コミュクスの攻撃が一巴を直撃する。


「痛い……」


 一巴の身体は数メートル吹き飛ばされ、やっと停止する。

 その際に全身を強く打ち、左足からは出血し、利き手には激痛が走った。


「まいったなぁ、今週末、大事な試合なのに……!?」


 何とか立ち上がろうとする一巴をコミュクスが踏み付けた。


「なんて力……!」


 一巴は力の限り抵抗するが、まったく動けなかった。


「その人から離れろ!」


「え?」


 一巴が声を聞いた次の瞬間、コミュクスは蹴り飛ばされ、解放される。




※一人称に戻ります。


 今回のコミュクスとの戦闘はすぐに終わった。


 松谷さんに気を取られていたコミュクスを蹴り飛ばして、態勢を立て直す前に魔弾を撃ち込み、消滅させる。


「終わり……と」


 松谷さんに向き直る。


「大丈夫……ですか?」


「う、うん」という松谷さんは魔法少女に対し、憧れの視線を向ける。


 それにしても、松谷さんの怪我は酷い。


 体のあっちこっちを擦りむいているし、足からは出血もしている。


 それに右の手首は腫れていた。

 もしかして、折れているかも……。


「ごめんなさい……」


 心の底からそう言った。


 私のせいだ。


 クラシーの言う通り、松谷さんにコミュクスのことを任せるべきじゃなかった。


「き、君のせいじゃないよ」


 松谷さんが言う。


「君が来てくれなかったら、僕はもっと酷い目に遭っていた。助けてくれて、ありがとう。あっ、そうだ! 内田さんは大丈夫なの?」


 松谷さんは自分自身が酷い状態なのに、私の心配をしてくれる。


「…………」


「どうして、黙るの? もしかして……!」


 松谷さんは私に迫った。


「大丈夫、です。あの人は安全な場所にいます」


「そっか、良かった。いてて、ホッとしたら、体中が痛くなってきた。それに右の手首は折れちゃったみたい」


「えっと、その……今度、試合があるんですよね?」


「どうして、それを?」


「……内田さんから聞きました」


「そうなんだ。大丈夫。僕、左でも投げられるよ」


「ちょっと待ってください。試合に出る気ですか!?」


 試合は確か今週末。


 申し訳ないけど、試合に出られる状態には見えない。


「僕がいないと多分、勝てない。相手、強いんだ。僕たちが夏大会で負けた相手でさ、リベンジしないとね」


「無茶ですよ。その怪我で試合に出たら、今後に影響があるかもしれません」


「ううん、出るよ。僕は全力で生きたい。やりたいことは全部やりたい」


 松谷さんは頑固だった。


 これで松谷さんの野球人生に悪い影響があったら、怪我をさせた私のせいだ。


「怪我のことなら心配しなくていい」


「「え?」」


 私と松谷さんの声が被った。


 声のした方向へ視線を向けるとクラシーがいた。


「猫がしゃべった!?」


 松谷さんはお手本通りのリアクションをする。


 

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