魔法少女に憧憬して②

「松谷さんって魔法少女が好きなの?」


「え?」


 松谷さんを落ち込んだままで帰すのは申し訳ない、と思い、話を続ける。


「なんだか、情熱が凄いなぁ、って思って」


「うん、好きだよ。ただの女の子が変身して悪と戦う、ってすっごく格好良いじゃん!」


 松谷さんは目をキラキラさせる。


 ごめんなさい、全然、同意できない。


「昨日の魔法少女の子って小学生くらいでしょ。それなのに平和の為に戦うとか凄いぁ」


 ごめんなさい、昨日の魔法少女は高校生わたしです。


「もちろん、現実にいるとは思っていなかったさ。でも昨日、出会った。高校生が魔法少女になれるわけないけど……」


 ごめんなさい、なれました。

 なりたくなかったけどね!


「あの子は無償でやっているのかな? それとも、実は政府から要請があったとか?」


「どうなんだろうね。私もその辺りは聞いてないよ」


 妖精に「殺す」と脅されて、魔法少女になりました、って言ったら、松谷さんはどんな顔をするかな?


「魔法少女じゃないと敵とは戦えないかもしれないけど……でも、サポートは出来ると思ったんだ! けど、そうだよね。一般人が出しゃばっても足手纏いだよね」


「気持ちはあの子(私だけど)に伝えておくね」


「ありがとう。あと、昨日はバットで打ったり、弾丸を打ち返したりしてすいませんでした、って伝えておいてくれる?」


 私はトラウマ場外ホームランを思い出して、体を震わせる。


「内田さん、どうしたの?」


「ううん、何でもない。伝えておくね」


「あんなことしたくなかった。でも、体の自由が利かなくて、精一杯、抵抗したから、フルスイングじゃなかったけど……」


 え?

 あれでフルスイングじゃないの!?


 じゃあ、もしフルスイングをされていたら、私は校外ホームランになっていたのかな……?


「内田さん、また震えてどうしたの?」


「ううん、何でもないよ!」


「それなら良いけど……あっ、そうだ! 最後にあの子の名前を教えてもらえたりしない?」


「な、名前?」


「そう、名前! もちろん、本名じゃなく、魔法少女の名前の方ね。魔法少女の正体を暴こうなんて、無粋なことはしないよ」


 その魔法少女、あなたの正面にいるけど……


 それにしても、名前かぁ……。


「名前は私も聞いてない。無いんじゃないかな」


「え!?」


 松谷さんは驚きの声をあげる。


「そんなはずないよ!」


 そんなはずがあるんだよ!


「ねぇ、名前も聞いちゃ駄目なのかい!?」


 松谷さんはソファーから立ち上がり、身を乗り出して、私に迫る。


「だから本当に無いというか、分からないというか……そうだ、今度会った時に聞いておくよ」


「お願いね! じゃあ、そろそろ今日は帰るよ」


 松谷さんはそう言い残して、生徒会室から出て行く。

 納得してくれたけど、宿題が出来てしまった。


 私(魔法少女)の名前かぁ……。


 ソファーに深く座り込んで考えていたら、

「内田さん! 大変!!」

と松谷さんが叫びながら、戻ってきた。


「ど、どうしたの?」


「外の様子がおかしいんだ!」


「え?」


 松谷さんに言われて、私も異変に気付く。


 魔力反応!?

 まさか…………!


 私は松谷さんと一緒に廊下へ飛び出した。


「…………!?」


 廊下には多数の生徒が倒れていた。


 寝ているだけのようだけど、こんな集団睡眠、絶対におかしい。


 それに魔力反応がこっちに向かってきている。


 この魔力はコミュクス。

 フォレストの魔力反応はないみたい。


 騒ぎが広がる前に変身して、コミュクスを……


「内田さん、逃げよう!」


「え?」


 松谷さんは私をお姫様抱っこして、開いていた窓から飛び降りた。


 って、ここ、二階なんですけど!?


 でも、そんな心配は要らなかった。


 松谷さんは私を抱えた状態で地面に問題無く、着地する。


「松谷さん、って本当に人間?」


「どうしたの、いきなり? 人間に決まっているじゃん」


 松谷さんは涼しい表情で言う。

 

 人間、って二階から人を抱えて、簡単に飛び降りられたっけ?


「でも、これで少しは時間を稼げるじゃないの?」と松谷さんは言う。


「それはどうかな」と私は返答して、空を見上げた。


 するとコミュクスは飛び降りて、私たちの目前に着地する。


「そんな二階から飛び降りるなんて……」


 松谷さんは驚いているが、自分自身の行動を思い出して欲しい。


 それにしても困った。


 松谷さんの前で変身したら、正体がバレる。


「内田さん、あの化け物は僕が引き付けているから、その隙にあの子を呼んで来て!」


「あの子?」


「この状況でボケないでよ。魔法少女のあの子のことだよ」


 あっ、そういうことね。


 私は松谷さんの提案を採用することにした。


 どこかで変身して、すぐに松谷さんを助けに行こう。


「分かった。でも、無理はしないでね」


「もちろんさ。化け物、こっちだよ!」


 松谷さんは走り出す。


 コミュクスは松谷さんの動きに反応し、追いかけていった。


「早くどこかで変身しないと……!」


 私は松谷さんとは逆の方向へ走り出す。


 そして、ペンダントを取り出し、「レイズ・ザ・フラッグ!」と唱えた。


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