第三話 魔法少女に憧憬して①

「眠い……」


 今日の朝活(コミュクスとの戦い)は無かったけど、昨日は深夜に学校へ戻って、グラウンドの穴の埋め立て作業をしたせいでまとまった睡眠が取れなかった。


「おはよう! 内田さん!」


「!?」


 駐輪場に自転車を置いた直後、元気に声を掛けられた。


「松谷さん、おはよう」


「ねぇ、ホームルーム前、ちょっとだけ時間あるかな? 昨日の話の続きを……」


「ごめん! 朝から生徒会の仕事があるの。じゃあね!」


 私は松谷さんから逃げた。


 昨日の夜、もう遅いことを理由にして、魔法少女についての追及を逃れた。


 しかし、松谷さんは諦めてくれない。


「内田さん!」

「ごめん!」


 授業の合間に。



「内田さん!!」

「ごめん!!」


 松谷さんのクラス一組との合同体育の時に。


「内田さん! 一緒にご飯を……」

「ごめん、生徒会の仕事があるから!」


 昼休みに。


「内田さん」

「ごめん……って、ここ、トイレなんだけど!?」


 挙句、トイレの上から覗き込まれたりもした。



「……………………今日が終わった」


 帰りのホームルーム後、私は机に突っ伏していた。


「お疲れ様、紫音。さすがに気になったから、聞くけど、なんで松谷さんに好かれているの? もう噂になっているよ? 野球部のエースが生徒会長のストーカーになっているって」


「それって、松谷さんの株が落ちているんじゃない?」


「というよりは男女から人気のある松谷さんが紫音にぞっこんになっちゃったせいで、紫音に嫉妬が集まり始めているよ?」


「完全にもらい事故じゃないかな!?」


「あと、紫音が慌てる姿を目撃した人たちが、紫音の意外な一面を知って、驚いていた」


 私の平穏な高校生活がどんどん破壊されていく……。


 でも、放課後は大丈夫なはず。


 松谷さんは部活だ。


 今日の放課後に生徒会の仕事はない。


 一昨日、昨日と色々なことがあって、疲れた。


 今日は帰って、一旦、寝よう。


 でも、またコミュクスが現われたら、クラシーに起こされるだろうなぁ。


 クラシーをどこかに閉じ込めておけないかな。


 などと少し物騒なことを考えていたら、


「内田さん!」

「!?」


 放課後も松谷さんは現れた。


「どうして!? 部活は!?」


「今日は一週間に一度の自主練の日なんだ」


 なんてタイミングが悪いの!?




「えっ、あの松谷さんが野球よりも内田さんを優先してる?」

「内田さんと松谷さん、って仲が良かったっけ?」

「朝からあの二人どうしたの?」


 そんな声が聞こえて来た。


 駄目だ。


 多分、今日を振り切っても明日、また同じことが起きる。


「もう分ったから。…………付いて来て」


 松谷さんの腕を引っ張った。


 そして、職員室へ向かう。


「も、もしかして、僕、先生に突き出される?」


 松谷さんは不安そうに言う。


 その危険性を感じるなら、私のストーカーなんてして欲しくなかった。


「そんなことをしないよ。ちょっと待ってて」


 職員室へ入ると森山先生のところへ向かった。


「内田さん。どうしたのですか?」


「森山先生、ちょっと松谷さんと話がしたいので、生徒会室の鍵を貸して頂けませんか?」


 誰も入って来ない場所が欲しかった。


 でも、目的外利用は咎められるかもしれない。


「良いですよ」


「えっ、本当ですか?」


 森山先生はすんなりと鍵を渡してくれた。


「内田さんのことは信頼しています。何か理由があるのでしょう?」


「はい。ありがとうございます」


 森山先生から鍵を受け取って、職員室を出る。


「鍵を貰ったから、生徒会室で話をしよう」


 松谷さんにそう告げて、私たちは生徒会室へ向かった。




「ここが生徒会室…………」


 松谷さんは生徒会室の中を見渡す。


「とりあえず座って」


 松谷さんにソファーへ腰掛けるように言い、私は対面に座る。


「それで早速、本題に入るけど、松谷さんを魔法少女の協力者にすることは出来ないの」


「どうして!?」


 私が魔法少女ってバレるからだよ! とは言えない。


「昨日、あの後、魔法少女のあの子(私だけど)に話をしてみたけれど、危険なことには巻き込めないって」


「そんな……だって、内田さんは協力者なんでしょ?」


「…………」


 松谷さんの言うことは予想していた。


 だから、多少強引だけど言い訳を考えておいた。


「松谷さんのことを巻き込んでしまったから、話をするけど、私が魔法少女の協力者をしているのは生徒会長だからなんだよ」


「え?」


「実は昔からこの街は闇の脅威にされされているの。ここはそう言う場所なの。それでね、富田西高校の生徒会長になった者は魔法少女の存在を知らされて、協力するように言われるの。私も一昨日、知ったのだけれどね」


 私は自分自身が協力者になった設定を作り出した。


「内田さん……」


「!?」


 松谷さんは私に迫る。


 嘘がバレた?


 さすがに苦し過ぎる?


「そうだったんだね」


 心配していたけど、松谷さんは信じてくれたらしい。


「それなら協力者になるのは諦める」


 松谷さんの興奮は醒め、凄く込んでしまった。



  

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