かんべんして! 闇に狙われた学校⑥

「行ったみたい……」


 松谷さんの魔力反応が遠くになったことを確認し、掃除用具ロッカーから出る。


「体が小さくなったおかげで上手く隠れることが出来たね」


「あれは何なの!?」


 私は小声で文句を言う。


「あの子は君の学校のスターじゃないのかい?」


「そういうことじゃなくて、普通に会話が出来てたじゃん。なのにいきなりバットで頭をフルスイングされて……」


「操られているみたいだね。やったのは恐らく、フォレストだ」


「昨日のあの魔法少女が松谷さんを……。元に戻すにはどうすればいいの?」


「コミュクスの時と変わらない。君ならあの子の魔力の核を感じ取れたはずだ。そこへ魔弾を撃ち込めば、洗脳は解除されるだろう」


「分かった。でも、どうやって魔弾を撃ち込もうかな…………」


 接近すれば、またホームランにされるだろうし、中距離から銃を撃てば、打ち返される。


 だったら、やるべきことは遠距離からの狙撃。

 イメージで武器が生成するなら、こういうことだって出来るはずだよね。


 私は遠距離から撃てる銃をイメージした。

 すると銃は光り、形を変えていく。


「で、出来た……」


「やっぱり君には才能があるね」


 スナイパーライフルの生成に成功する。


「君の意図は分かった。でも、紫音、その銃を一方的に撃つ隙とポイントがあるかい?」


「考えがある。囮を使って、私が待ち構える射撃ポイントまで松谷さんを誘き寄せるの」


「囮? 方針は悪くないが、囮なんて、どうやって用意するんだい?」


「…………」


 私はクラシーをジッと見た。


「あっ…………」


 クラシーは私の言う囮が何かを察し、焦り始める。


「わざわざ、用意しなくても、ここにいるじゃん」


 クラシーの首根っこを掴み、私は笑顔で言う。


「待て待て待て。私、魔法少女の妖精。妖精を囮にする魔法少女なんて、聞いたことが無い」


「魔法少女を脅す妖精もいるんだから、お互い様でしょ。それとも他にアイディアがある?」


「ちょっと考える時間を……」


「そんな時間はない。やれ。じゃないと撃つよ?」


 笑顔で妖精を脅す魔法少女がいた。

 まぁ、私なんだけど。


「私、間違った子を魔法少女にしてしまったかもしれない」


「私は最初から魔法少女なんて、やりたくなかったよ。で、どうする?」


「銃を構えながら、どうする? って言うな。…………分かったよ」


 クラシーはとても嫌そうに承諾した。


「でも、その前に一つだけ魔法を教えるよ」


「こんな時に?」


「昨日やってみせた念話さ。難しい魔法じゃない。私の魔力を感じ取り、心の中で話しければいい」


『えーっと、こんな感じ』


 試しにやってみたら、

『ああ、問題無い』

とクラシーは念話で返した。


『よし、じゃあ、作戦開始だね。囮役、しっかりやってよ。あっ、最終的には中庭へ誘き出してね。私は屋上から狙撃するから』


『私がここまで協力するんだ。失敗したら、許さない』


 クラシーは私を睨みながら、校舎の中へ向かった。




「うん、ここが良い」


 私は中庭への狙撃を想定し、屋上へ陣取る。


『紫音、良いかい?』


『うん、準備は出来た』


『分かった。始める』とクラシーから念話があった直後、校舎内が慌ただしくなった。


 上手く行っているらしい。


 そして、すぐにクラシーと松谷さんが中庭へ現れる。


 問題はそこからだった。


『どうしたんだい!? 早く撃ってくれ!』


 クラシーから催促の念話が来る。


『撃ちたくても狙いが定められない』


 止まっている的を撃ったことはある。


 でも、動く的は難しい。


 かといって、一発外せば、私の居場所がバレてしまう。


「まぁ、そうだよね。でも、大丈夫。簡単に松谷さんの足が止まりそうな方法があるから」


 私は呟く。

 多分、ニヒルな笑みを浮かべていたと思う。


『紫音、何をしている!? 早く!!』


 クラシーの動きを見る限り、そろそろ限界だ。


『もう捕まっちゃっていいよ』


『は?』


『クラシーを捕まえた瞬間、松谷さんは動きを止めると思うから、さっさと捕まっちゃって。あっ、出来るだけ狙いやすい中庭の真ん中でお願いね』


『この鬼畜魔法少女!』


 クラシーは悪態をつくが、私の指示通り中庭の真ん中あたりで捕まった。


 松谷さんはクラシーを取り押さえて、動きを止める。


「ナイス」


 スコープを覗き込んで、松谷さんの左胸、魔力の核へ狙いを定め、そして、引き金を引く。


「当たった、よね?」


 距離が遠いので自信が持てなかった。


 でも、直後に松谷さんは倒れたので作戦の成功を確信する。


 


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