それは不思議な出会い? ⑥

「あれ、私は一体…………?」


 気が付いた時、私は駐輪場で倒れていた。


「!?」


 すぐにあの強烈な記憶を思い出し、身体を確認する。


 魔法少女ではなく、高校生の私の身体だった。


「何ともない……? あれは夢だったの? そうだ……!」


 校舎を確認するが、壊れてはいなかった。


 本当に全部が夢だった?

 だとしても、なんで駐輪場で倒れているの??


 わけが分からなかったけど、疑問は一旦、頭の隅に追いやらないといけなくなった。


「あ……」


 スマホが鳴る。


 相手はお母さん。


 すでに時刻は20時に近かった。


 電話に出るとお母さんは心配そうに「今どこなの?」と尋ねる。


 友達と話をしていたと言い訳をしてから、電話を切り、急いで帰宅する。


 帰り道、ずっとあの強烈な記憶が頭から離れなかった。


「ただいま……あっ」


 久しぶりにお父さんの顔を見て、思わず声を出してしまった。


「随分と遅く帰って来るんだな」


 お父さんは怒っているわけではなく、ただの会話として、私にしゃべりかける。


「いつもはもっと早く帰って来るよ。今日は本当に例外で……」


 お父さんが来ている日に帰りが遅くなるなんて最悪。

 遊んでいると思われたかもしれない。


「今日は生徒会選挙があって、その後、友達と話をして、それで遅くなって……あのね、お父さん、私、生徒会長になったんだよ」


 言った後に後悔した。


 これじゃ、まるで親に褒めてもらおうとする子供。


「生徒会長、凄いじゃないか」


 お父さんは「凄い」と言ってくれる。


 でも、私は別の機会にその言葉を言わせたかった。


「それにしても遅過ぎよ」


 お母さんが温め直した食事をテーブルに置きながら、指摘する。


「だから、友達の話をしていたんだって」


「本当にそうかしら? 彼氏でも出来たんじゃないの?」


「か、彼氏なんて出来ないよ!」


 お父さんの前でそんなことを言わないでほしい。


 文句を言いながら、お母さんが温めてくれたご飯を食べ始める。


 少しの間、無言の時間が流れた。


「彼氏がいるなら隠す必要は無いぞ」


 久しぶりに会ったお父さんは気を使って、私に話しかける。


 でも、今は会話をする気分じゃなかった。


 元々、生徒会の選挙で疲れていたのに変な経験をしたせいで、少し気が立っている。


「だから、彼氏なんて……」


「高校生ならのことだ」


「普通?」


 本当に気が立っていた。


 だから、私は過敏に反応してしまう。


「普通、そうだよね。私、普通のことしか出来ないよね」


 お父さんは言葉を間違えたと察し、


「いや、そんな意味で言ったわけじゃ…………」


「ごめんね、お父さんの子なのに射撃で一番になれなくて」


 私のお父さんはオリンピックの射撃競技で金メダルを取ったことがあり、今は協会の運営に関わる仕事をしている。


「お父さんはお前に射撃で一番になって欲しかったわけじゃない」


「そうだよね、期待なんかしてないよね。私、才能無かったもんね。お父さんの才能を受け継いだのは璃音りおんだもんね」


 私には一歳違いの妹がいる。


 私なんかとは比べ物にならない才能の塊、天才、ううん、化け物。


「そういう意味じゃ……すまん」


 私とお父さんの会話は終わった。


 お母さんはこういう時、会話には参加して来ない。


 ご飯を食べ終え、食器を片付けて、逃げるように自分の部屋へ行く。


「私、最低……」


 ベッドでうつ伏せになって呟く。


 お父さんは何も悪くない。


 普段だったら、普通に話が出来たはず。


 折角、お父さんが来ているのに……


「これも全部、あの夢のせいだ」


 私は独り言で文句を言った。


 誰も返事なんてしない…………はずだった。




「夢じゃない」


「!?」




 だから、返事があったことに驚く。


 振り向くと窓際にあの白猫、クラシーが座っていた。


「紫音、身体は大丈夫かい?」


「やっぱり、猫がしゃべってる!?」


「今更だ。私の名前は…………って、おい」


 私はクラシーを抱きかかえ、居間へ戻った。


 もうお父さんはいなかった。


「紫音、パパ、落ち込んでいたわよ。今度会った時、謝りなさい」


 お母さんは少し厳しい口調で言う。


「う、うん、あれは私が悪い。ちゃんと謝る。でも、今はその話を置いておいて、この猫を見て!」


 私は白猫を突き出した。


「クラシーがどうしたの?」


「ク、クラシー? お母さん、なんでこの白猫の名前を知っているの?」


 私が言った瞬間、お母さんはとても不思議そうな表情になった。


「知っているも何も、クラシーはうちで飼っているじゃない?」


「え?」


 うちで猫なんて飼っていない。


 何かがおかしい。


「じゃ、じゃあ、この猫がしゃべることも知っている?」


「何を言っているの。しゃべるはずないでしょ。どうしたの?」


 お母さんは心配そうに言う。


 え?


 どういうこと?


 何が起きているの?


 私が混乱しているとクラシーはニャーとわざとらしく鳴く。


 何か言いたげなクラシーの瞳と視線が合い、私はあの出来事がただの夢でないと確信した。

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