それは不思議な出会い? ⑤

「懐かしいなぁ……もう手にすることはないと思ってた……」


 二年ぶりに握ったビームライフルを見つめながら、呟く。


「紫音、何をしているんだ!?」


 クラシーが叫んだ。


 直後、コミュクスに思いっきり頭部を殴られた。


「痛いなぁ……! 少しくらい感傷に浸らせてよ!」


 ビームライフルを構えた。


 でも、これって武器になるの?


 当たり前だけど、射撃競技用光線銃ビームライフルに殺傷能力は無い。


 不安に思いながら、引き金を引いた。


「え?」

 

 すると目に見える光の弾丸が放たれ、コミュクスを直撃し、風穴を開けた。


 普通のビームライフルとは違うし、実弾でもない。


 これが魔法の力なの?


 倒したかと思ったけど、甘くは無かった。


 コミュクスに空いた穴は塞がり、再び動き出す。


「まだ終わりじゃないの!?」


「負のエネルギーの根源を撃ち抜かないといけない」


「根源ってどこなの!?」


「頭部だ」とクラシーに言われ、再びビームライフルを放つ。


 狙いは的確だった、と思う。

 しかし、コミュクスは両腕を使って防ぐ。


 何発放っても防がれてしまう。


 多分、この距離からやっていたら、いつまで経っても倒せない。


「だったら…………!」


 殴られても死なない、と自分に言い聞かせ、コミュクスと距離を詰める。


 コミュクスは殴りかかってきた。


 普段なら絶対に反応できないはず。


 でも、今の私なら反応できる。


 魔法少女になって強化されたのは身体能力だけなく、五感もだった。


 コミュクスの攻撃が見える。

 躱せるし、受け止めることも出来る。


 それにさっきから変な感覚があった。


 コミュクスが攻撃する前に光のようなものを感じる。


 これが魔力の流れなのか、と少しずつ理解し始めた。


「これで良いんでしょ!?」


 私は飛んで、コミュクスの肩に乗った。


 そして、頭部に銃口を当て、引き金を引く。


 頭を撃ち抜かれたコミュクスの動きが停止した。


「うわっ!?」


 コミュクスが消滅していく。


 私は何とか地面に着地する。


「やったんだよね…………?」


「ああ、初めてにしては上出来だ。おめでとう」


 クラシーが言う。


「何が、おめでとう、だよ! あなたは一体何者なの!? 勝手に私を魔法少女? にして、戦わせてさ! 大体さ…………」


 言いたいことも、聞きたいことも山ほどあった。


 しかし、中断することになる。




「クラシー、その魔法少女があなたの駒、ということですか?」




「!?」


 聞こえた声に反応し、空を見上げたと少女が浮いていた。


「魔法少女?」


「はい。フォレストと言います」


「フォレスト……? えーっと、もしかして、クラシーの知り合いだったりする」


「知り合い、には間違いないですね」


 魔法少女……フォレストはニヒルに笑う。


 その笑みからは友好的な感情が感じられない。


 クラシーが〝コミュクスを作り出している奴ら〟みたいなことを言っていたのを思い出す。


「その白猫は私たちにとって敵です。つまり…………」


 フォレストは一気に距離を詰めてきた。


「ちょっと!?」


「あなたにとっても、私は敵ということですよ」


 私は蹴り飛ばされた。


「勝手に私を敵認定しないでくれるかな!?」


 すぐに立ち上がり、ビームライフルを放つ。


 しかし、私の攻撃は相殺されてしまう。


 フォレストはいつの間に武器を持っていた。


「矢? それに弓……?」


「これが私の武器です。あなたの玩具とは違いますよ」


 フォレストはさらに矢を放った。


 早すぎて反応できない。


 私の腹部と右肩に矢が突き刺さった。


「…………!」


 あまりの痛さで言葉が出なかった。


 殴られたり、蹴られたりしても平気だったこの身体で激痛を感じる。


「コミュクスとは比べ物にならないでしょう?」


 痛みで意識が飛びそうだったけど、フォレストの言葉は辛うじて聞き取れた。


 このまま死ぬ、と思ったけど、やがて矢は消滅し、痛みも消えていく。


 どういうこと?


 ううん、考えるのは後回しにしないと!


「待って! 私は別にあなたと戦う気はない!」


 ビームライフルを捨て、宣言する。


 するとフォレストは構えていた矢を降ろした。


「それではその白猫を捕まえて、私たちの仲間になりますか?」


「え? いや、そんなつもりは無いけど……」


「味方になる気はない、と。では、敵になる可能性があるということですね。あなた、才能があるのに残念ですが、敵になった時のことを考えて、始末するとしましょう」


 フォレストは一度降ろした弓を再び構えて、矢を放つ。


「ちょっと待ってよ!」


 今度は避けることが出来た。


 でも、立て続けに矢を放たれて、全てを避けることは出来なかった。


 また矢で貫かれる。


 そう思った時、身体が勝手に反応した。


 その結果、矢を私の身体を貫くことが出来ずに地面に落ち、消滅する。


「今、私、何をしたの?」


 身構えた時、体の中を何かが流れ、そのおかげで体が硬化して、矢を止められた。


「これも魔法? だったら…………!」


 魔力を足に集中させて、地面を蹴る。


 私の身体は驚くほど速かった。


 でも、その速度に感覚がついて来れている。

 制御が出来る。


「くっ……!」


 フォレストが防御に回った。


 魔法少女としての経験値は明らかにあっちの方が上。

 だったら、長期戦は不利。


 もう一度、ビームライフルを作り出して、構える。


 イメージが大切、というなら、私がビームライフルから放つ魔法は〝魔弾〟。


 そう強く念じると攻撃は威力を増し、フォレストは避けることが出来ず、直撃する。


「やってくれましたね……


「あれでも駄目なの?」


 フォレストにダメージは与えたけど、倒れなかった。


 それにかなり怒っている。


 再び交戦になると思った。


 しかし、フォレストが突然、動きを止める。


「どうしてですか? 私はまだやれます。この魔法少女は危険です。今ここで……」


 フォレストは独り言を喋り始めた。


「いきなりどうしたの?」


「あれは念話だ」


「念話? 何それ?」


『こんな感じで直接、語りかけることが出来る』


「うわっ!?」


 クラシーの声が頭に直接入ってきた。


「あいつはどうやら仲間と念話をしている」


「はぁ!? これ以上、敵が増えるってこと?」


「いや、その心配はなさそうだ」


 クラシーの言う通りだった。


 フォレストは不満そうな表情で「今日は退きます」と言う。


 空間が裂けて、その中へフォレストが入って行く。


「次に戦う時は覚悟してください」


 フォレストは最後にそう吐き捨てる。


 完全に敵と認定されてしまった。


「でも、何とか生き延びた……」


 戦いが終わった、と思ったら、疲労感が凄い。

 変身が解けて、その場に倒れ込む。


「紫音……しっかりするんだ……」


 クラシーの声がしたけど、返事をする余力は無かった。


 私の意識はそこで完全に途絶える。

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